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「性病になったかも…」相手にどう伝える?もし打ち明けられたら?

1月25日(水)のクローズアップ現代は、「性感染症」を特集。番組の独自調査で性感染症に関する意識を聞いたところ、“もし感染しても性行為の相手には伝えないと思う”という回答が10~20代の男性で約3割、女性で約2割に上りました。

SNSやアプリなどオンラインでの出会いが当たり前になっているという、いまの若者たち。「性感染症」というセンシティブな問題に直面したら、相手とどうコミュニケーションを取るのでしょうか?

世代間ギャップを痛感しているアラフォー男性ディレクターが、若者たちの本音トークを取材させてもらいました。

(#自分のカラダだから 取材班 北條 泰成)

クローズアップ現代「急増なぜ?梅毒“過去最多”の衝撃 感染から身を守るには」

総合 1月25日夜7時30分~
放送から1週間NHKプラスで見逃し配信

若者が“恋愛や性の本音”を語る アプリ会社主催のワークショップ

番組ディレクターの私は現在38歳、3人の子どもがいる父親です。今回、クローズアップ現代「性感染症」を担当していて最も驚いたのは、いまの若い世代の出会いのあり方や恋愛に対する価値観が、私たち 世代とは全く異なり多様化していることでした。

「SNSで声をかけられた人と付き合ったら、性病をうつされた」
「(セックスは)経験で。バイブス(雰囲気)」

バ、バイブス!?若い人たちの言葉にさえ、全く付いていけない自分。取材者としても、3人の子どもの父親としても、マズいのではないか…。そんな焦りを覚えたときにたどり着いたのが、マッチングアプリ会社と“カラダと性にまつわる課題解決”に取り組むプロジェクト 「#しかたなくない」が主催する、大学生のためのワークショップでした。

ワークショップの様子
マッチングアプリTinder Japan広報 永野久美さん

「出会いの4割が今やマッチングアプリから始まるという調査があるくらい、アプリを使った出会いは日常の中にあります。人と人との関係がオンラインに移行して、情報もオンラインにたくさんあるので、若い人たちは情報や知識はたくさん持っていると思います。でも一方で、実際にリアルで話し合う場ってすごく少ないんじゃないか。私たちの会員の半分くらいが18歳から25歳くらいなので、彼らが人と出会って関係性を築いていく上で必要な、相手への気遣いや自分自身を理解すること、それからもちろん体のこと、そうしたことを考えるきっかけを提供したいと考えました」

ワークショップは、交際の中で実際に起こりうるシチュエーションが書かれたカードを使い、学生が3~4名のグループに分かれて議論する形で進められました。

そのカードの1つが、性感染症にまつわるもの。
「今のパートナーと付き合う前、一度関係をもった人から『性感染症にかかった』と連絡がきた」ときどうする?
というお題でした。

性感染症は性的な行為でうつる感染症だからこそ、人に伝えることが難しい。加えて潜伏期間が長く無症状の人もいるなどやっかいな性質もあって、知らぬ間に感染を広げてしまう実態があります。だからこそ相手とのコミュニケーションが大切なのですが、大学生たちは一体どう向き合うのでしょうか?

「浮気した」「ふしだらだ」と思われたくない 壁になる誤解や偏見

お題が出された直後、学生たちからは一様に戸惑いの声があがりました。

「うわ、むず」 

「これどっちからうつったの?え、どういうこと?」

「今のパートナーと付き合う前の話なのに、浮気していると思われたら、嫌じゃない?」

「性行為した前提だよね」

「そのバイアスがさ、嫌じゃん。ちょっとふしだら?とか思われるんだよ」

「(性感染症は)恥ずかしい、みたいな風潮の中で、真剣に聞くとか無理じゃない?」

「無理、無理、無理」

そりゃそうだ。相手との関係が壊れるかも知れないから伝えにくいという気持ちは、アラフォー の僕にもよく分かります。
番組の取材では、実際に「性感染症」をめぐって交際相手との関係に苦しんだという男性からも話を聞くことができました。

「感染」でパートナーとの関係が…

ナガセさん(仮名・20代男性)

20代のナガセさん(仮名)は去年の秋、およそ8か月交際したパートナーから突然「クラミジアに感染した」と告白されたそうです。無縁だと思っていた性感染症が突然自分の問題として降りかかり、ナガセさんは頭が真っ白になったと言います。

ナガセさん

「(性感染症というと)不特定多数の人と遊んでチャラチャラしたやつ、みたいな印象があるんで、僕はそうじゃない。じゃあ、どっちが原因なんだ?みたいな混乱した気持ちになりました」

気持ちの整理が付かないまま、病院を受診。検査の結果は陰性でした。ナガセさんはすぐにメッセージで、陰性だったことを彼女に伝えました。ところが、返事は「よかった~」のひと言。軽く受け流すような態度に不信感が募り、結局しっかりと話さないまま交際は終わったと言います。

ナガセさん

「僕が陰性で相手が陽性だったら、(おそらく) 浮気になるじゃないですか。すぐに返信して話すのが筋じゃないのかなって。その辺の話をしたかったけど、突っ込めなかった。どっちかが陽性になった時点で、もういいことはないんですよ、絶対。明るい未来が見えなくなった時点で関係を再構築するのは僕の中では無理だと思ったので、別れるという選択をしました」

2023年1月に発表された厚生労働省の最新データによると、性感染症の1つである梅毒の感染者は2022年の1年間でおよそ1万3000人にのぼり、現在の方法で統計を取り始めた1999年以降で過去最多となっています。クラミジアや淋病などの性感染症も、近年若い世代を中心に増加傾向にあります。今や、誰もが性感染症にかかる可能性のある状況です。

しかし、NHKが専門家ともに全国の18歳~59歳の男女4650人を対象に行った調査では、若い世代ほど性感染症は「特定の性的指向や職業の人だけがかかるものだ」という意識の人が多く、10代・20代では4人に1人ほどにのぼりました。

こうした性感染症に対する誤解や偏見が、いざ自分が感染した可能性があるときに相手へ伝えることや、互いにしっかり話し合うことを妨げていることがうかがえます。

調査からはもう1つ、性感染症の治療に関する意識についても気になる結果が出ました。「感染してもある程度自力で対処できる」と考えている人が、10代・20代で2割を超えました。

「ピンポン感染」を防げ  相手へのリスペクトが伝える力に

「性感染症」に対する偏見や「自分で対処できる」という誤った意識が根底にあり、“相手に伝えるのは難しい”という状況。

そうした中、ワークショップでの議論の流れが変わったのは、お題カードの裏側にあるキーワード「ピンポン感染」が紹介されたときでした。「性感染症」は一方が治療して完治しても、もう一方が治療をしなければピンポン球のやり取り のようにうつし合ってしまう、という情報です。

「まずは検査してほしいな、みたいな感じで言うしかないよね」

「それで関係うまくいくのかな。イメージ落ちるのは間違いないよね」

「あなたと付き合う前に関係もった人が性病なだけで、別にやましいことをしているわけでないっていうことと、あなたのことが大事だと思っているという誠意をちゃんと伝える」

「嫌われることが分かっていても、打ち明けなきゃいけないことって人生あるよね」

「そうそう。言わないのが一番ひどい」

「今のパートナーが大事だったらやっぱり言うべきだし、『性感染症にかかるような人』ってレッテルを貼られたとしたら、長期的に付き合ってもちょっと厳しいかな、ってふん切りがついちゃう」

「ピンポン感染があるなら、結局2人で治さないと長期的には難しいよね。だから伝えるのは、大前提の話になると思う」

「伝える方もたぶん工夫した方がよくて、ちゃんとまず報告する、その上で謝る。相手にもうつってるかもしれないから、いったんごめんねって謝る。その上で検査結果が出るまでいったん待ってくれない?みたいに伝えれば、ある程度受け入れてくれそう」

「別れたくない相手との未来が大事、という前提で、じゃあどうするかっていう考え方かも」

相手の健康を害してしまうかもしれないという思いやり、そして2人一緒に検査や治療をしなければ感染が繰り返されるという正しい知識を得たときに、議論は「どう伝えるか」という方向へとまとまっていったのです。

ワークショップでの「性感染症」に関する議論は30分間という短い時間でしたが、学生たちは自分のこととして真剣に話し合い、最後のまとめではきれい事では済ませない現実的な言葉がとても印象的でした。

「自分が以前関係をもった人から性感染症にかかったという連絡がきて、相手から『いや、無理』って言われたら、僕は『ああ、誰も悪くないのに受け入れてくれないんや』って悲しくなっちゃうから、別れてもいい派なんですけど。他の方はそもそも別れたくないので、そこの寛容性は相手に求めない、という話になって。性の寛容性をどこまで相手に求めるのか、最後まで1つの意見にまとまりませんでした」

「今のパートナーとどれだけ関係性が深いかによって結構変わってくるかなというのはあって、元々めちゃくちゃ深い信頼関係が築けているのであれば、別にお互いの良さ悪さも知っているだろうし、ある程度ちゃんと正直に言っても関係性は崩れないかな」

「相手を傷つけてから気づくよりは、きっと(性感染症を話題にして)ムードが壊れた方がまだいいかなと思って。やっぱりそれ(性感染症)が何か恥ずかしい、という風潮自体がなくなればもっといいんだろうなと」

ワークショップを主催した団体やマッチングアプリ運営会社の担当者も、学生たちの議論の内容に手応えを感じていました。

「#しかたなくない」プロジェクト事務局 落葉えりかさん

「性感染症の話ってなかなか周りに言う機会がないからこそ、自分がかからないと危機感もないし、調べもしない、遠い世界の話になってしまっています。一度当事者になりきって疑似体験みたいなことをやることで、具体的にどう対策すればいいか考えられるし、似たようなシチュエーションに直面したとき自分を責めずに、自分と相手を大切にする選択肢をとる手助けになると思います。
性のことを話せない風潮をちょっとずつ変えていきたいですし、 まずは身近な人から話してみて、自分の心地いい関係性を作っていってほしいなと思います」

Tinder Japan広報 永野久美さん

「『意見がまとまりませんでした』というグループもありましたが、それはすごく正しいことだと思うんですね。やはり相手も自分も違う人間であること、嫌なことや感じ方は人それぞれ違うってことを、今日皆さん気づいてくれたんじゃないかなと思います。言葉にしないと分からなかったり、言葉じゃなくても何らかの方法で伝えたりすることが大事で、自分の意見を言っていいんだという気づきを持ち帰ってほしいです」

アラフォーディレクターが若い世代の議論を聞いて

議論の最初のころに聞かれた、「性感染症=悪」という潜在意識。思えば、新型コロナウイルスの感染が急拡大した当初も感染した人への偏見やタブー視するような空気が漂っていましたが、まさにそれと状況がよく似ていると思います。性感染症は誰でもかかりうるものだと認識し、誤解や偏見をなくすこと。そしてセンシティブな問題だからこそ、腹を割って話し合うためには互いの信頼関係が何より重要なのだと感じました。

最後に学生のみなさんが書いたあるメモに、ハッとさせられました。

“知識の差が、お互いの関係性にも影響する”

若い世代が“知識を正しく得られるどうか”は、僕たちオトナ世代が性にまつわる情報をどれだけ誠実に伝えられるか、という問題なのではないでしょうか。
私には小学5年生を筆頭に子どもが3人いて、妻と協力しながら性教育の絵本を一緒に読むことから始めています。大きくなるにつれてハードルは上がるでしょうが、成長段階に合わせて正しい性の情報を伝え、子どもたちが自分で考える力を付けて欲しいと思っています。学生のみなさんのメモを見て、その思いを新たにしました。

みんなのコメント(1件)

感想
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2023年1月25日
記事の「「感染」でパートナーとの関係が…」で、「誤解や偏見が」との記述がありましたが、2つのグラフで年齢層が若くなるにつれてパーセントが多くなっているのを見ると、「誤解や偏見」ではなく、「そもそも正しい知識を持ちあわせていない」のでは? と思いました。
特に、「感染してもある程度自力で対処できる」と考えている人は、「誤った意識」ではなく「知識がない」のでは、と思います。