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管理職だった私が更年期の症状が原因で退職した話

気分の落ち込みや体の痛みといった更年期の症状。

それが原因で仕事を失ったり、休職や降格を余儀なくされたりする「更年期ロス」は、働く女性たちにとって深刻な問題となっています。

更年期についてご意見を募集したところ、250件以上の声が寄せられました。

中でも深刻なのが、更年期症状のために退職に追い込まれる「更年期離職」のケースです。

(#みんなの更年期 取材班)

寄せられた声① 転職でのキャリアアップが一転…

アキコさん(仮名)

「仕事をこなす上で自分が自分ではなくなっていくようだった」。

私たちに声を寄せてくれた1人、長年ホテルで働いてきたアキコさん(仮名・48歳)です。キャリアアップのために転職した先で激務が続き、更年期の症状が悪化。休職しました。

復職後、管理職だった彼女を待ち受けていたのは、大幅な降格。新卒の社員と同じ待遇にされたのです。待遇改善のために交渉を希望すると、望まない異動を言い渡され退職を余儀なくされたと言います。

キャリアアップを阻んだ更年期の症状。アキコさんが詳しく話を聞かせてくれました。

40代半ばで突然出た更年期の症状

立てないほどの激しいめまいに襲われたのは、3年前の夏のことです。

病院に行ったところ、医師に耳鼻科の受診を勧められましたが、耳鼻科では「大したことない」と言われ、原因は分かりませんでした。

もともと、更年期は50代というイメージがあったため、当初は更年期による症状だと疑うこともありませんでした。

しかしその後、後頭部が熱くなって目が覚めるなど体調の異変を自覚します。

内科で、プラセンタ注射をしたり、漢方を飲んだりしたあと、友人に紹介されたクリニックで更年期による症状と診断されました。

(不足した女性ホルモンを貼り薬などで補う)ホルモン補充療法を始め、体調はいったんはよくなりました。

処方された薬

転職がきっかけで症状が悪化

体調が良くなった時期、キャリアアップのために転職しました。

勤務先は、ミドルクラスのホテルからラグジュアリーホテルへ。目指していた管理職として採用されたのです。

ところが、転職先で更年期の症状が悪化しました。

転職前は女性の上司が相談に乗ってくれていましたが、転職先は上司がみんな男性で相談ができず、激務で1日14時間以上働くことも。

ストレスもあって症状が悪化。頭痛やめまいなどがひどくなりました。

毎日疲れが取れず、翌朝も身体が重い状態で仕事に向かう日が続きます。

最も大変だったのが感情のコントロールができなくなることでした。

イライラから部下に対して「なぜそんなことができないのか」などストレートにものを言ってしまうことが多くなりました。

頭がさえず判断が鈍り、自分が自分じゃなくなるような感覚に陥っていきました。

不本意な異動を命じられ退職

そして、ある休日。


自宅にいるときに上司からきた「きょう中に仕事を仕上げろ」という指示のメールを見てパニック発作を起こしました。


心療内科を受診したところ、「適応障害」と診断されます。


2か月半休職しましたが診断に納得がいかず、別の女性医師にみてもらったところ「適応障害ではなく、働き過ぎと更年期による影響だ」と言われました。


ホルモン値がほぼないような状態で、「ホルモン補充療法をやっても、ストレスがあると治療の意味が無い」とも言われました。復職すると降格され、新卒と同じ待遇を言い渡されました。


精神的に不安定だということと、職場の雰囲気を悪くするという上司からの説明でした。


納得がいかず交渉したところ不本意な異動を言い渡されました。今まで積み上げてきたキャリアがすべて崩れ去ったという思いになりました。


産業医を通じて更年期の症状があることや、仕事と治療の両立が必要なことも上司に伝えましたが理解されず、体力勝負で新卒と変わらない待遇の仕事にまわされたことに不信感を抱き、去年10月に退職しました。


現在は治療の効果で落ち着いてきて、再就職を検討しているところです。

アキコさんから寄せられた投稿

更年期で苦しむ女性への支援を

私のように更年期に苦しむ女性がキャリアを諦める、退職するということは少なくないかと思います。

現在、ホルモン治療を継続中で症状は安定していますが、仕事をしていない私には検査や診察にかかる費用負担は安くはありません。

医療費の負担軽減などがあればより多くの方が「治療」という選択ができるようになるかもしれません。

パワハラ、差別、ジェンダー等の問題に取り組む企業が多くなっていますが、更年期の症状で苦しむ女性たちへの取り組みを行うよう国が働きかけてほしいと思います。

そうしなければ、まだまだ男性社会であると感じておりますし、50歳前後の女性の活躍は難しいままではないかと残念に思います。

寄せられた声② 上り詰めたキャリアを手放す

退職せざるをえなかった体験談を寄せてくれたのはアキコさんだけではありません。

「職位は上がる一方、更年期の症状の影響でアウトプットが出せず苦しんだ」という声を寄せてくれたマイさん(仮名・56歳)は、大手メーカーに30年以上務めてきました。男女雇用機会均等法が施行された直後に総合職として企業に就職した、いわゆる均等法第一世代です。

全女性社員の中で最も高い役職についていたというマイさん。大きなプレッシャーを抱えて仕事をする中で更年期の症状が現れましたが、役職を降りることはかないませんでした。

自ら早期退職を選んだといいます。

女性社員の中で最も役職が高いプレッシャーの中で

はっきりと症状を自覚し始めたのは53歳のときでした。

それまでは本社の管理職でしたが、部長級への昇格と同時に、子会社に出向になりました。

出向先では全国規模で各エリアに支店があるため、年に数回、全国の支店「行脚」をすることになったのですが、これがしんどかった。

疲れやすさや強いストレスを感じるようになりました。

それなりの処遇はされていたので当たり前なのですが、プレッシャーはかなりあったと思います。

出張時の不調だけでなく、不眠(早朝覚醒)や動悸、脈が速くなるといった症状を日常的に感じるようになったのもこの頃でした。

職場で発生する難しい課題にチャレンジする意欲もわかなくなり、体力気力の限界を感じるようになりました。

早期退職を決めた決定的な出来事とは

症状が出始めてすぐ、婦人科へ行き、ホルモン値を測定してもらいました。


診断結果は「いつ閉経してもおかしくない。あなたの女性ホルモンは枯渇寸前です」とのこと。


「ああ、やっぱり」と思い、ホルモン剤を処方してもらいました。

ホルモン値の検査結果と処方された薬

それから約2年、ホルモン補充療法を受けましたが、いまひとつスッキリせず効いているのかどうかよくわかりませんでした。

上司には「更年期による体調不良のため、部長職からはずしてほしい」と申し出ましたが、聞き入れられませんでした。

上司は男性で更年期の症状を理解してもらうのは難しかったのだと理解しています。

早期退職を決めた決定的な出来事がありました。ある日、職場の自席で居眠りをしてしまったことです。不眠の影響だと思いましたが、大ショックでした。

成果を発揮できないどころか緊張感を保てないなんて、33年働いてきましたが社会人として失格。この時に「もう辞めよう!」と思いました。

まだ閉経しておらず現在も更年期「真っ只中」ですが、基本的にステイホームのため症状は軽くなりました。

結果的に、ストレスの少ない生活が一番よいのかもしれないと思います。

女性活躍の取り組みが各企業とも進んできた中、役職につく女性も増えてきていると思います。

しかし、ちょうど管理職として活躍が期待されている時期が更年期と重なり、辛い思いをする人が今後ますます増えてくるのではと懸念します。

退職の日に受け取った花束

更年期離職は男女で約57万人「企業は支援策を」

昨年11月、NHKと専門機関が共同で行ったアンケートでは、更年期症状を経験した人のうち、症状のせいで仕事を辞めざるをえなかった人は男女ともに1割近くに上ることがわかりました。

今回の調査結果をもとに労働経済学が専門の日本女子大学の周燕飛教授が推計した結果、更年期障害が原因で仕事を辞めた経験がある人、いわゆる「更年期離職」の数は、女性でおよそ46万人、男性でおよそ11万人に上るとみられるといいます。

日本女子大学 周燕飛教授

周教授は「更年期症状は一時的なもので、治療や職場の配慮などで働き続けることができるので、ひとりで抱え込まずに医療機関や職場に相談してほしい。一方、企業は生産性の高い年代の人材を失わないためにも、休みを取りやすくするなど支援策に取り組んでほしい」と指摘しています。

私たちは昨年から、更年期に対する社会の理解が深まってほしいという思いを込め「#みんなの更年期」としてご意見を募集してきました。

寄せられた250件以上の中には、「ほかの人たちがどんな症状に悩み、どんな経験をしてきたのかもっと知りたい」という当事者の声のほか、「家族や職場で更年期症状に悩む人たちのために何ができるのか知りたい」といった周囲の人たちからの声が少なくありませんでした。

次回以降の記事でも、寄せられた声に追加で取材した要素を加え、仕事との向き合い方、医療にかかる際の体験、更年期を乗りこえた“先輩”たちの声など、さまざまな切り口から伝え続けます。

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この記事の執筆者

報道局社会番組部 ディレクター
市野 凜

2015年入局、首都圏局・前橋局・政治番組を経て現所属。コロナ禍の女性不況・生理の貧困・#みんなの更年期などジェンダーや労働に関わるテーマを取材。

みんなのコメント(3件)

感想
はるおか
40代 女性
2022年5月10日
私も体調が悪く退職も視野に入れ始めた一人です。現在47才です。 病院の専門職で管理職もしています。更年期という名前を変えてほしいとの桜咲くさんの意見に私も賛同します。生理、育児の法整備も進む世代が羨ましく、社会の貧乏くじばかり引いてきた世代という感覚にも共感を覚えます。私の場合も、偏頭痛注射治療と婦人科治療を行って、毎月の高額な医療費を捻出しています。思うように働けないもどかしさ、仕事を休む後ろめたさと体力の限界、そして高額な出費。それだけでも大きなストレスです。職場では「体が弱くすぐ休む人」と思われているんだろうな。必然的に評価も下がるのでしょう。
提言
桜咲く
40代 女性
2022年4月15日
私も更年期症状で退職した一人です。現在49才で更年期障害の治療中です。
症状は46才の頃から出始めました。当時、大企業で管理職をしていましたが40代前半の男性上司に「更年期」とは言えず体力の限界で退職しました。
更年期という言葉もどちらかと言えばマイナスイメージがあると思っているので、名前を変えてほしいと思う。認知症も痴ほうから名前を変えてイメージが変わったと思う。キャリアを手放してしまったのは今でも悔しい。若い世代の人が羨ましい。生理、育児の法整備も進み今後、更年期も社会の理解が進み仕事や生活環境が整ってくるのではないか。私は、団塊ジュニア、就職氷河期世代です。社会の貧乏くじばかり引いているような気がします。数年早くこの議論が高まっていればなと思いました。既に更年期で社会から離脱し人知れず悩んでいる人が多いのではないか。こういう人に社会復帰または医療が受けられるよう手を差し伸べてほしい。
提言
コニー
50代 女性
2022年3月10日
私も更年期退職者の一人です、この年代は親の介護、死別などに直面し、一方で職場では管理職や責任の重い立場で、仕事を休めず、大変な時期です。通院しても更年期の治療費は薬が高くて、プラセンタなどは最初は3日に一度など言われて、とても一般の治療費ではなく諦めました。精神通院のように自立支援医療など公費負担があれば、治療も続けやすいです。私のように田舎から街中の更年期治療できる医療機関へは交通費だけでも異常にかかります。ホルモン療法、漢方も高額で薬代だけでも5000円ほどになります。ぜひ、自立支援医療のように公費負担をこの障害にも制度にのせて欲しいと思います。