
障害のある人が明かす”生理の悩み” 「ナプキンを替えられない」ことも
「生理をオープンに語ろう」。最近 生理についてメディアで取り上げられることが増えてきましたが、「目を向けられることのなかった」人たちがいます。障害のある人たちです。
生まれつき身体にまひがある、病気で運動機能が低下していく、などで車いすや介助が必要な人たちにはどんな生理の悩みがあるのか。取材すると、見過ごされてきたさまざまな“生きづらさ”が見えてきました。(バリバラ『生理を語ろう!』2回シリーズで放送。)
(『バリバラ』ディレクター 藤井幸子)
車いすユーザーの女性 生理ケアの悩み
取材を始めると まず聞こえてきたのが「生理ケアに悩んでいる」という声です。
小澤綾子さんは『筋ジストロフィー』という全身の筋力が徐々に低下する進行性の難病で、3年前からは歩くことが難しくなり、外出時に電動車いすを使うようになりました。
外出時のトイレの際には 障害者や高齢者などが使う”多機能トイレ“を利用しています。車いすをできる限り便座に近づけ、手すりを使って移動します。
筋力が弱い小澤さんにとって 多機能トイレはまさに命綱です。

普段から多機能トイレの場所を意識的にチェックしていますが、どこにでもあるわけではありません。そのため生理のときは特にたいへんです。
かつて歩くことができたころは2時間おきにナプキンを交換していましたが、今は6時間に1回だけ。日中一度も交換できないことも度々あるそうです。
仕事の出先に多機能トイレが無く、13時間ナプキンを交換できなかったことも。経血が漏れて下着や服も汚れてしまい、ショックを受けたといいます。
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小澤綾子さん
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「歩くことができていたときには、ナプキンを替えられない状況なんて想像もしたことなかったんですけど。車いすになって生理がすごく大変になりました。」
同じような悩みは取材で出会った多くの女性たちも抱えていました。
多機能トイレがなかなか見つからないため、外出時はオムツをするという女性も。しかしお尻が蒸れて、かゆみが出てしまうのがつらいといいます。
車いすで利用できるトイレを探すことに苦労するため 生理中は家に閉じこもることもあるという女性もいました。
介助を受けるゆえの悩みも
また 生理ケアに介助が必要な女性たちは介助を受けるゆえの悩みも抱えていました。
油田優衣(ゆだ ゆい)さん、24歳。筋肉が萎縮する難病で 24時間の介助を受けながら1人暮らしをしています。

筋力が弱く 自力で立ったり下着を脱いだりすることが難しいため、まずはヘルパーに抱えられてベッドへ移動。横になった状態で下着とナプキンを外してもらいます。そして横抱きの状態で便座へ。

移動する間に経血がぽたぽたと垂れ、床や介助者の服を汚してしまうことがあるそうです。
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油田優衣さん
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「汚してもどうこう言うヘルパーはいないけど、小さい頃から『血で汚しちゃいけない』という意識があるから、『嫌な顔されんかな』という怖さがどこかにずっとある。」
ヘルパーと信頼関係を築きながら自立生活をしている油田さんですが、生理介助の際には緊張感や怖さを抱いていると語ってくれました。
生理に関する情報が無い
こうした悩みの声を聞かせてもらう中、多くの女性が同じような言葉を口にすることに気づきました。
「これまで誰とも生理の話をしたことが無いので・・・。障害がある人が生理の時にどうしてるのか、すごく気になります。」
障害がある女性たちはみんな どんな生理の悩みがあって、どのような工夫をしたり、介助を受けたりしているのか。知りたいのに情報交換をしたことがない。
また ネットや雑誌を調べても、立って歩くことができる、自分でナプキンを交換できるといった人たちに向けた情報しかありません。
生理ケアのバリアは高い上に誰にも相談もできず、情報も得られない・・・。生理を語ることがタブーとされてきた社会のしわ寄せが障害のある女性に集中しているのではないかと感じました。
“子宮を取りなさい”
さらに取材を進めると、障害がある女性たちが経験してきた深刻な人権侵害の問題も浮かび上がってきました。「子宮摘出手術」です。
1990年代半ばまで「生理介助の負担軽減」などを理由に、障害のある女性たちが子宮を摘出させられる事態が障害者施設などで広く行われていたと、社会学者の瀬山紀子さんは指摘します。(障害のある人に強制不妊手術を行っていた歴史について詳しくはこちらから)
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瀬山紀子さん(社会学者)
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「過去、“生理の始末が自分でできない人は障害者施設に入れない”と言われて、子宮摘出や月経をなくすことを目的とした放射線照射を受けさせられた時代があったんです。」

そして、この残酷な歴史の背景にあったのは 社会のまなざしだったといいます。
「障害がある女性は、子どもを産まない/産めない/産むべきではないため、月経はなくてもよい/ないほうがよい」
実際に手術を勧められたという女性が自身の体験を話してくれました。
みかちゃんさん(仮名)52歳。筋肉が萎縮する難病で 介助を受けながら1人暮らしをしています。

みかちゃんさんは12歳から28歳までの16年間、障害者が暮らす施設で過ごしていました。そこで中学生のときに女性職員からある言葉を度々投げかけられたと言います。
「面倒くさいから生理を止めなさい。みんな手術をしているんだから。」
毎月 生理がくる度に職員から嫌な顔をされ、次第に自身の体や生理に対し否定的な思いが強まっていったといいます。
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みかちゃんさん
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「『子宮はどうせ使わないし、取っちゃえばいいじゃん』と言われて。そっか、無きゃいいのかって。自分に生理があることは本当に良くないことなんだと思い、自分が女性であるということを考えないようにしていました。」

さらに生理時のトイレ介助を男性の職員が行うこともあったといいます。女性の職員に変えてほしいと施設に訴えても取り合ってもらえず、恐怖を感じながら生理期間を過ごさなければいけませんでした。
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みかちゃんさん
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「私は『みかちゃん』という人間だけど、そのときは人間じゃないというか。女の子でもなかった。」
障害がある女性を 女性とも尊厳のある人間とも見なさない。そんな社会の中で苦しみを抱えてきた人たちがいたのです。
女性であり、障害者である二重の生きづらさ
この問題は過去のこと、施設での話として片づけられるものではありません。
24時間の介助を受けながら生活している油田優衣さんは以前、家族から似たような言葉をかけられた経験があるといいます。
「生理あっても、子どもを産むかも分からんのに。」
10年くらい前、中学生だったときに実家で油田さんの介助を一身に担っていたおばあちゃんが、ぽろっとこぼしたひと言でした。

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油田優衣さん
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「『(子宮摘出手術は)昔のこと』とみんな言うかもしれないけど、重度障害がある私にとっては いつ言われてもおかしくない言葉。すごくリアリティがある話なんです。」
「あなたに生理はいらないよね」と言われたことがある人はどれだけいるでしょうか。少なくとも私自身はありませんし、そこにリアリティを感じることもありません。
しかし女性であり障害者であるというだけで、こうした言葉をいとも簡単に投げかけられてきた人たちがいます。
そして今も危機感を感じながら、生きづらさを抱えている人たちがいます。
さらに、痛みを背負いながら沈黙せざるを得ない状況にあることが分かりました。
これが今の社会の現実であり、多くの人が見過ごしてきた問題だと気づかされました。
タブーなく生理を語るということ
もう一つ、今回の取材を通して気づいたことがあります。それは「生理」について語ることが 人と人とを“つなぐ”ということです。
子宮摘出手術を促された みかちゃんさんが話してくれた言葉です。
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みかちゃんさん
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「生理でお腹(なか)が痛くてつらいこともありますが、生理があることで女性としての生きやすさというか楽しさ、『ああ、こういうふうになるんだな』ということが経験できて、みんなと話もできるから良かったかなって思います。」
生理は障害の有無に関わらず、多くの女性が経験するものです。腹痛や気分の浮き沈みなどを伴う“つらいもの”でもありますが、多くの人がその痛みをひとりで抱え込んでいると思います。
その中で 介助が必要な障害のある人たちは、自分の生理についての経験を望むと望まざるとに関わらず他人とシェアする必要があり、生理について語らざるを得ない人たちでもあります。
だからこそ、“生理のタブー”を打ち破っていくことができる存在であること、そして、障害の有無を越えて 人と人とがつながり合っていくこともできるのだと教えてもらいました。
そして今回、多くの女性たちが勇気をもって声をあげてくれました。
「自分たちの悩みや生きづらさについて知ってほしい。」
「障害がある女性が安心して生きられる社会にしたい。」
この声が1人でも多くの人に届き、障害がある人たちが置かれた現状に気づいてもらえたらと願います。
なぜ障害がある女性には子宮摘出手術が公然と行われてきたのか。なぜ障害者の生理はこれまで語られることがなかったのか。今この社会に生きるひとりの人間として、みなさんと一緒に考えていけたらと思います。これからも生きづらさを抱えるマイノリティーの人たちについて取材を続けていきます。
今回取材した内容は以下の番組で放送する予定です。
【放送予定】
2021年12月23日(木)[総合]午前8:15~
あさイチ「障害がある女性の生理の悩み」