
女子だから工学部はダメ!? “好意的な性差別”と進路 Vol.37
「重いから女子は持たなくていいよ」
クラスで、文化祭の準備をしているときに男子に言われた一言。
「Aちゃん、さすが女子力高いね」
合宿で、夕食後テーブルを拭いた女子にかけられる一言。
日常生活に溶け込んでいる会話だと思います。発言した人に悪意はないし、日常的に男女差別をしている人というわけではもちろんないでしょう。しかし これらは強い言葉かもしれませんが「性差別」。相手を露骨に否定する“敵意的な性差別”ではありませんが、無意識で悪気のない“好意的な性差別”なのです。
“好意的な性差別”は「学びの場」にも浸透し、進路にも少なからず影響を与えています。NHK「#学びたいのに」が制作した1分アニメを通して考えます。
(「#学びたいのに」取材班 秦 圭矢乃ディレクター)
「女の子だったら薬学部?」アニメで考える性差別
大学で機械工学を学びたいと勉強を続けてきたサクラ。模試でA判定を取り、喜び勇んで家族に報告するとこんな言葉を投げかけられます。
父親「本当に工学部に行く気なの?女子は少ないよ」
母親「女の子だったら、薬学部なんかいいんじゃない?」

家族は決して悪意があるのではなく、娘の将来を想像して良かれと思って声をかけます。その背景には「工学は男性の学問」「女性は資格職が良い」などの偏見が潜んでいます。サクラが男の子だったら同じ言葉をかけていたでしょうか?
“女子は理系が苦手”ではない
進路をめぐる“好意的性差別”は日本で理系に進む女子が少ないことの要因の一つと考えられています。
各国の15歳の子どもたちの学力を測るPISA(国際学力調査)の結果を見てみましょう。OECD(経済開発協力機構)加盟国のうち17か国の男女の科学的リテラシーの平均点(縦軸)と数学的リテラシーの平均点(横軸)を示したグラフです。
日本の男女の平均点は各国の男女に比べて高い水準です。日本の女子の平均点もトップレベルであることがわかります。

日本の女子は科学的リテラシーも数学的リテラシーも各国と比べて極めて高いスコアにもかかわらず、理系の大学に進学する人は限られています。大学の学部進学者の男女の割合を見ると、理学部に進学する女子は27.9%、工学部は15.4%にとどまります。他の学部と比較すると著しく低いです。

また 女性の理系研究者の割合はOECD諸国で16.2%と最下位です。

「工学部に女子は少ない」「女の子だったら薬学部がいいのでは?」
こうした無意識の”好意的な性差別“は家庭だけでなく、学校の先生や友人、さらにはインターネットやソーシャルメディア、テレビなどのマスメディアでも目にします。知らず知らずのうちに社会にも深く根付いてしまっているのです。
「女の子だから」「男の子だから」という声かけが、未来へはばたく意欲を制限しているかもしれません。
性別を理由に進路や生き方を型に当てはめることは「性差別」。ひとりひとりがそのことを意識することが、相手そして自分自身の可能性を広げるための大切な一歩と思います。