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ジェンダーVol.24 ジェンダー格差 男性はどう思ってる?  NHK世論調査より②

男女格差や女性活躍について、男性はどのように感じているのでしょうか。NHKは3月末に2890人を対象に電話による「ジェンダーに関する世論調査」を行いました。Vol.23「ジェンダー 社会の“本音”は?」に続いて、今回は世論調査の結果を男性の視点から捉え、専門家の意見を交えて掘り下げます。

(NHK放送文化研究所 岡田真理紗 (所属は調査当時))

現役世代の男性の3~4割が“不利益”を感じている

調査では、男性・女性の性別によって不利益を受けたと感じたことがあるかどうかを尋ねました。今回、調査に協力いただいた1508人のうち、不利益に感じたことが「大いにある」「ある程度ある」を合わせた『ある』は3割強、「まったくない」と「あまりない」を合わせた『ない』は6割に上りました。

この結果を男女別にみると、不利益を感じたことが『ある』と答えたのは、男性は26%、女性は42%でした。自分の性別によって不利益を感じている人は、男性より女性のほうが多くなっています。

さらに男女の年層別に見ると、性別による不利益を感じている男性は若い年層ほど多く、女性は40~50代が5割近くで多くなっています。

筆者(岡田)は30代後半ですが、出産するまでは女性であることに不利益をそれほど感じたことはありませんでした。ただ出産してからは、育児の負担が女性に偏っていると感じることが多くあります。ですので、女性のほうが不利益を感じる人が多いという結果は予想していました。しかし調査結果を見て、男であることの不利益を感じている男性が、18~39歳は4割近く、40~59歳が3割あまりいることは少し意外に感じました。

性別による不利益を感じている男性が、現役世代に少なくない背景に何があるのか。ジェンダー論が専門の東京大学の瀬地山角(せちやま・かく)教授に聞きました。

瀬地山教授

「不利益を受けていると感じている男性には2つのパターンがあると考えられます。

1つ目は『男は仕事、女は家庭』などといった性役割分業の考えに否定的な人です。男性は『育休が取りにくい』『働いて家族を養わなければいけない』『女性におごらなければいけない』といった男性に押しつけられた役割に反発し、それを不利益だと感じている人たちです。

2つ目は性役割分業には肯定的だけれども『女性が優遇されている』と感じる人。例えば、女性専用車両やレディースデーなどを『女性優遇』であると認識し、相対的に『男性は不利益を受けている』と考える人たちです。」

女性専用車両やレディースデーなどを例に挙げて「女性のほうが優遇されている」という意見は、SNSなどで目にすることがあります。こうした考えをもつ人は、最近増えているということなのでしょうか。

瀬地山教授

「『女性のほうが優遇されている』という声は、男女平等を訴える声が社会で強くなるほどに、それに対する攻撃として出てくるものだと理解しています。いわゆる“バックラッシュ(反動)”です。

1960年代に『住友セメント事件』という裁判がありました。会社が定めた『女性社員は結婚したら退職しなければいけない』という決まりに対して、女性が会社を訴えたものです。いま考えれば『結婚したら退職』という制度はあきらかに女性差別ですが、当時の週刊誌などを見ると、差別を訴えた女性の側を激しく攻撃しているものもあります。差別をなくそうという動きが高まるたびに、こうした意見は必ず出てくるものではないかと思われます。ただ今回のデータを見ると、『女性のほうが優遇されている』と感じている人は一部にとどまっていると言えると思います。」

「女性より男性のほうが優遇されている」

世論調査では、「社会では男女どちらが優遇されているか」という質問も行いました。「どちらかといえば」を含めた『男性のほうが優遇されている』と答えた男性は7割弱、女性は8割弱に上りました。

さらに結果を男女の年層別に見ると『男性のほうが優遇されている(「どちらかといえば」を含む)』と答えた人は、男女ともにどの年層でも多数を占めています。一方『女性のほうが優遇されている(「どちらかといえば」を含む)』と答えた人が、男性では18~39歳の比較的若い世代で多い傾向がみられました。また「平等である」と思う人は、女性の40~59歳では5%と極端に少なくなっています。

若い男女ほど「男女平等である」「女性のほうが優遇されている」と思う傾向があることについて、瀬地山さんは次のように指摘します。

瀬地山教授

若い世代に『男女は平等』だと感じる人が多いとすれば、1つには結婚や出産といったライフイベントをまだ経験していないから、といったことが考えられます。20代の初めまでは学生もいますから、学校にいるうちは男女の差を感じにくい。具体的な根拠はないのであまり断定的なことは言えませんが、もう1つ理由があるとすれば、世代によって考え方が変わってきている可能性も考えられます。

女性活躍について現役世代の男性は

世論調査では、国会議員や企業の役員などについて一定の割合を女性に割り当てる、いわゆる「クオータ制」導入への賛否についても聞きました。男女の年層別にみると、女性の全世代と男性の60歳以上では「導入するべきだと思う」は7割超でしたが、18歳から50代の現役世代の男性は6割弱にとどまりました。

瀬地山教授

「強烈なデータですね。特に男女の40代の意見の違いが、きれいに出ています。女性の40代は82%と圧倒的多数がクオータ制の導入に肯定的なのに対し、男性の40代は55%とより否定的です。

40代は、組織のなかで昇進などの真っただ中にいる人たちなので、男性にとってはクオータ制が自分の昇進などに不利に働くと感じている。不平等と思っている人も少なくない。それが数字に表れているのでしょう。

60代で『賛成』が一気に8割近くに増えるのは、自身が退職して、自分ごとというよりは一般論として考え始めるので『別にいいんじゃないか』と感じるのだと思います。

ただ全体で見ると、クオータ制には肯定的な人が、出世レースの真っただ中にいる40代の男性でも過半数を超えている。すべての年代の男性がクオータ制を肯定しているということのほうが、私には驚きでした。」

女性では、クオータ制に『賛成』している人は40代で8割を超えます。職場で自身も管理職や役員として力を発揮したいと考える現役世代の女性は多いのでしょうか。

瀬地山教授

「今の女性の40代では、正社員として働いている人の割合はそこまで高くないと思います。それでもこれだけ数字が高いのは、かつて正社員だったときの自分の経験や、現在非正規で働いている環境などを含め、多くの女性が不当な立場におかれていることを知っているから。8割というのは重く受け止めるべき数字だと思います。」

男性の育児休業 男性の本音は

最後に注目するのは、男性の育休取得への賛否のデータです。

男性の育児休業について、どちらかといえば賛成の人を含めた『賛成』が8割強と大多数を占めています。しかし、国のデータ(令和元年度・厚生労働省『雇用均等基本調査』概要 全体版P.22)を見ると、実際に取得できた割合は、7.48%にとどまっています。このギャップをどうご覧になりますか。

瀬地山教授

「今回の調査で男性の育休取得に『賛成』と答えた人が、おそらく想定している育休期間は1~2週間程度だと推測します。実際に育児の戦力として役立つかと考えると、十分な期間とは思えません。育児休業で1か月以上あるいは1年休むことについて意見を聞いたらもっと『賛成』が少なくなると思います。」

6月には、男性が育休を取りやすくするために法律が改正され、通常の育休とは別に、妻の産後8週間以内に男性が最大4週間取得できる新しい育休制度の新設や、企業が従業員に育休取得の意向を確認する義務がもうけられました。しかし三菱UFJリサーチ&コンサルティングが平成31年に実施した調査※では、男性が育休を取らなかった理由として、最も多かったのが「会社で育休制度が整備されていなかったから」(23.4%)、次いで「収入を減らしたくなかったから」(22.6%)、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」(21.8%)などの理由が挙げられています。
(※平成31年2月『労働者調査 結果概要』 4.男性の育児のための休暇・休業の取得 P.21図表19)

なぜこんなに男性が育児することが難しいのでしょうか。

瀬地山教授

「1つは、政策的な側面があると思います。配偶者控除や会社からの配偶者手当の制度などは、『男は仕事、女は家庭』という性役割分業を促進するものになっています。“妻が専業主婦になったほうが得ですよ”という制度が2つも3つもある中で、男性の育休に多少のインセンティブを設けたところで、社会全体は動かないということだと思います。

また日本の場合、一度正社員をやめたら簡単には戻れないという雇用慣行があります。そこで第一子を出産後に女性が退職してしまうと、再び働くにしても非正規雇用が多く、それが男女の収入の決定的な差につながってしまう。日本の雇用慣行が男性に育児をさせず、女性にとっては生涯賃金の大幅な低下という大きな不利益を生み出していると思います。」

収入を担うこと、家事育児をすることの負担が男女どちらかだけに偏らないようにしていくには、まずは制度や仕組みを変えていくことが不可欠なのでしょうか。

瀬地山教授

「もちろん個々の人々、個別の家庭で相談して変えられることはあると思います。ただ男女の性別役割分業に誘導しないような制度をつくらないと、社会全体としては解決しないだろうと思います。女性の出産後の就労に中立的な制度ができて初めて、どちらがどれだけ働くか、どれだけ家事・育児をするかという話を始められるのではないでしょうか。配偶者控除が問題の大きな要因のひとつであることは何十年も前から指摘されています。」

世論調査を行って

女性は過去に、参政権が認められない、結婚・出産したら退職する、などのあからさまな不利益がありました。一方、男性が「稼がないといけない」「おごらなければいけない」などの固定観念を押しつけられることは、“見えにくい不利益”だと思います。また、男性は社会的には「優遇されている」と自身が感じ、周りにもそう見られているために、「なんで自分が稼がないといけない?」「なんで自分がおごらないといけないのだろう」などの疑問や違和感を口にしにくい面もあるように思います。

調査結果を見ると、社会の状況やライフスタイルが大きく変化する一方で、性別によって「こうあるべき」という意識は根深く残っています。男女ともに、押しつけられた価値観と現実とのギャップに違和感を抱いたり、苦しんでいたりする人は少なくないと感じました。

遠くない未来に「男だから」「女だから」といった理由で、個人が抑圧されない社会を実現することができるのか。これからも注視したいと思います。

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みんなのコメント(3件)

感想
日本史好き
40代 男性
2022年5月8日
男性の生きづらさは、いわゆる「男性特権」によるところもある。例えば、家事を妻にまかせて会社の仕事に専念出来る男性社員が、二児の母として育児に奮闘しながら勤務する女性社員に出世競争で破れた場合、女性から見たら「快挙」となるが、男性から見たら屈辱感は深刻なものになりうる。男性は「勝って当たり前」とされやすいので負けるケースが増えると生きづらさも増すと思う。
7days
30代 男性
2022年2月13日
クオーター制というと『女性枠を確保すること』の意味で使用されがちだが『男性枠を確保すること』の意味もあるという実績が作られなくてはならない。
例えば医大入試で男性に加点があることが問題視される。しかし実際に医師として職務を全うするのは現状男性が多いのだから、医療体制を維持するために必要な人数を確保することは『男性のためのクオーター制だ』と公言して憚られることのない風潮になる必要がある。
男子学生
20代 男性
2022年1月4日
ジェンダー問題と聞くと多くの人は女性が被害者だと思い込む。しかし、「性」に関しては男性の方が圧倒的に軽視されている。男女を逆にするとありえないことでも男性に対しては平気で行われる。銭湯の脱衣所に平気で入る女性スタッフ、外から丸見えの男性用トイレ(新幹線や公園)、男性への配慮に欠けた温泉の造り、男性用更衣室に子供の母親が入ってくることなど挙げればきりがない。これらの背後には男性は見られても構わないという勝手な偏見がある。テレビ番組でも男性軽視は至る所に見受けられる。バラエティ番組で女性器を意味する言葉は禁じられているが男性器を意味する発言は字幕付きで放送される。出演者が男性であれば平気で入浴風景を盗撮し、健全な旅番組でも男湯は撮影され放送される。モザイクがあればいいという問題ではない。男性も女性と同じ様に扱われるべきである。女性ばかりに気を使いこれらが全く問題視されないことが大問題である。