
Vol.13 陣痛見守るモニターも アメリカのフェムテック最前線
女性特有の体の悩みを最新技術で解決しようというフェムテック。アメリカでは次々と新しい製品やサービスが生まれ、市場は拡大を続けています。その中で注目を集めるサービスの一つが陣痛モニターです。妊娠中にお腹に貼り付けるだけで、自宅にいながら子宮の動きや胎児の心拍をスマホで確認することができると言います。どんなサービスなのか、アメリカの最新事情を取材しました。
(政経・国際番組ディレクター 宣英理)
家にいながらお腹の赤ちゃんを見守る
新しいフェムテックが次々と生まれているアメリカ・シリコンバレー。ここに拠点を置くスタートアップ企業、ブルームライフは、妊婦の悩みを解決するフェムテックで、今世界的に注目を集めています。
この会社が2年前に開発したのが、小型の陣痛モニターです。
お腹に貼り付け、子宮の動きと、妊婦と胎児の心拍を計測できます。

妊娠後期になると、ときどき子宮収縮が起きますが、それが出産につながる陣痛なのか、多くの場合妊婦自身にはわからず、病院に行くのが遅れて、胎児に危険が及ぶこともあります。
このモニターを使うと、スマホで子宮収縮の頻度を確認でき、それが規則的になると陣痛が始まった可能性があると、いち早くわかると言います。

-
Bloomlife エリック・ディー代表
-
「女性たちが自宅にいながら、自分の体に何が起きているか分かる初めての装置です。これによって、妊娠中もより安心して過ごすことができます。」
働く女性の妊娠支える
このモニターを特に支持しているのが、働く女性です。

オリール・パーキンスさん。去年、妊娠中にこのモニターを活用していました。
看護師として1日12時間以上働いてきたパーキンスさん。14年前、予定日より3か月早い早産を経験しました。そのとき生まれた長男は、体重が1500グラム。集中治療室で5週間治療を受けなければなりませんでした。
-
オリール・パーキンスさん
-
「私のせいだと自分を責めました。私が仕事をしていたのがいけなかったのだろうか、と。」
アメリカでは、妊婦の10人に1人、年間38万人が早産しています。早産で生まれた子どもは、病気や障害のリスクが高まります。医療コストもかかり、社会全体の問題として捉えられています。
パーキンスさんは去年、妊娠中にこのモニターを知りました。利用料が月額20ドルと手ごろだったこともあり、「少しでも安心して過ごせるなら」と使い始めました。
すると、出産予定の2か月前、異変に気づきました。
-
オリール・パーキンスさん
-
「波形を見て驚きました。陣痛が始まっていることを示していたのです。病院に駆けつけ、医師に画面を見せると、急を要することがすぐに伝わったんです。」
パーキンスさんは、病院で子宮収縮を抑える薬を投与され、なんとか早産を回避することができました。その後、娘のアメリアちゃんを無事出産しました。

-
オリール・パーキンスさん
-
「私たちの命を救ってくれました。これなしに妊娠生活を送ることはもう想像できません。」
開発のきっかけは妻の流産
このモニターを開発したエリック・ディーさん。開発の背景には自身のつらい経験がありました。
妻が、一人目が生まれるまでに3回流産を経験したのです。ディーさんはその過程で、妊婦健診で病院に行かなければ、胎児の状態がわからないなど、数十年前と変わらない周産期医療のあり方に問題意識を持ったと言います。

-
Bloomlife エリック・ディー代表
-
「これほどイノベーションが起きていない医療分野は他にありません。近年、出産年齢の上昇などにより、出産に関わるリスクは高まり続けています。これは解決すべき課題だと思いました。」
ビッグデータの活用で広がる可能性
このモニターを使った妊婦はこれまでに1万2000人以上。ディーさんは今、集まったビッグデータの活用にも取り組んでいます。

蓄積された100万時間以上の妊婦と胎児の記録をデータベース化。これをその他の医療データと組み合わせ、AIで解析することで、胎児の異常や突然死、早産などの兆候を早期発見できないか、欧州の研究機関などと共同研究しているのです。
この会社には今、モニターの世界的な普及を期待する投資家や、新たな治療法の発見を期待する大手製薬会社などから、提携や投資の依頼が相次いでいます。これまでに集まった投資は、1400万ドルを超えました。
-
Bloomlife エリック・ディー代表
-
「彼らは、こうした医学的データには非常に価値があるということを知っています。投資家などが、女性の健康が巨大な未開拓市場だと気づいたことが、資金の流入につながっているのです。」
アメリカのフェムテック、最新トレンドは
アメリカには他にも、妊娠しやすい日を教えてくれるウェアラブル端末、妊娠可能期間や閉経時期の目安を教えてくれるホルモン検査キットなど、新たなフェムテックが次々と生まれています。現地の事情に詳しいデロイトトーマツベンチャーサポートのセントジョン美樹さんに、市場拡大の背景や今後の可能性について聞きました。

-
セントジョン美樹さん
-
「アメリカでは、人口の約半数が39歳以下のミレニアル世代です。デジタルネイティブの世代でもあるため、自分の体についてデータで把握したいという傾向が強く、今後、フェムテックやスマートウォッチなどの普及によって、女性の体についての膨大なデータが蓄積されていくとみられます。妊婦や胎児に関するものだけでなく、女性ホルモンの値や月経周期などのビッグデータも集まっており、それを認知症などの病気の早期発見や治療に役立てようという研究が活発化しています。」
これまで、ベンチャーキャピタルの投資家は中高年の男性がほとんどで、女性の健康に関する商品開発には関心が薄く、投資が集まらない状況が続いてきましたが、潜在的な市場の大きさや可能性が明らかになったことで、一気に投資が増え、大手企業との連携も活発化していると言います。今後の注目ポイントは。
-
セントジョン美樹さん
-
「フェムテックは当初、生理周期を記録するアプリなど、「生理」に関するものから始まり、次に、「妊娠・出産・授乳」に関するものへと広がってきました。最近ホットになっているのが、「更年期」に関するもの。これまではタブーとされがちでしたが、更年期症状を抱えながら仕事や育児をする女性が増える中でニーズが高まっていて、将来の更年期症状のタイプを予測し、最適な治療法を紹介してくれるというサービスや、更年期特有のほてり対策用のウェアラブル端末などが登場しています。 また、健康経営や福利厚生の一環で、妊活などをサポートするフェムテックを社員に提供する動きも活発化しています。優秀な人材に選んでもらうためには、こうした取り組みが欠かせないと考える企業が増えているのです。 」
フェムテックはまだ黎明期で、中にはエビデンスが薄いものもあるため気をつけて活用した方がいいと指摘する専門家もいますが、これが広がることで女性たちが我慢していたことを話しやすくなるなど、社会に良い変化が生まれて欲しいと感じます。フェムテックによって、女性の暮らしはどう変わっていくのか、今後も海外の動きに注目したいと思います。