
Vol.12 紗倉まな×NHK “あったらいいな こんな性教育”
2月26日放送の「不可避研究中」では、AV女優の紗倉まなさんと20-40代のNHK職員6人をオンラインでつなぎ、「性教育」について議論しました。紗倉さんは、小説家や情報番組のコメンテーターとしても活躍していて、「高齢者の性」を描いたり、性的同意(性行為の同意)の大切さなどについて発言したりと、さまざまな視点から「性」について積極的に発信しています。
なかなか誰かに話しいくい「性」の話。本音をさらけ出すことで見えてきたのは、性についてオープンに語りあえる社会の必要性、そして人と人とのコミュニケーションの大切さでした。

「性」を堂々と語りにくい…
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紗倉まなさん(以下、紗倉さん)
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早速ですが、皆さんはこれまでどんな性教育を受けた記憶がありますか?
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秋山
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僕の中で記憶に残っているのは、保健体育の先生が教室にやってきて、手に持っていた鉄の棒を教壇の上にドンって置いて、「いいか、こうやってつけるんだ」とコンドームをそこに装着し始めたんです。
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(一同)
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えー!

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秋山
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コンドームのつけ方って大事なことだから、強烈に印象には残ったけど。
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紗倉
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衝撃的ではあるけど、保健体育の授業としては実践的でありがたいような。
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三日市
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紗倉さん、例えば「コンドームしないでセックスしたい」って、パートナーが言ってきた場合に、何か言ったりしますか。
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紗倉
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言います。でも、言えるようになったのも、けっこう大人になってからなんです。断りきれない人も多いとよく聞きます。雰囲気が作られている中で手元にコンドームがなくて、いざセックスしようとしたときに、「コンドームつけて」➡「ないんだけど」➡「じゃあ買いに行こうか」➡萎(な)える、みたいな。ちゃんと言ったほうがいいけど、ムードを壊したくなくて配慮しちゃうっていうのも、問題としてはあるのかな。
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立野
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それこそ学校で、そこだけは教えておいてほしいですよね。「拒む権利があなたにはあります。お互いの体を大事にしましょう」って。

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三日市
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でも本音って、そういう雰囲気の中で言いづらい可能性もある。また、「嫌」と言っているのに、「嫌よ嫌よも(好きのうち)」みたいな感じで相手に誤解されてしまう可能性も。
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髙田
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AVのお仕事でも「嫌よ嫌よも…」でなし崩しOKしちゃうような演技が求められることはけっこうあるんですか?
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紗倉
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よくあります。そういう演出がひとり歩きしちゃうんじゃないかというのは、女性の立場からすると本当に悩みどころで。
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(一同)
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うーん。
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紗倉
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そのようなAVに影響を受けて、嫌がっている女性を見ても、「実は好きなんだけど嫌よっていうポーズをしているだけなんだ」と誤解されちゃったら困るなと思います。それが「ふり」なのか本音なのかは本当に個人差があるところで、そこを自分に都合のいいように解釈して進んではいけないのだとは思います。
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リカD
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「嫌よ嫌よ」は、多くの場合「嫌」を意味すると思いますけどね。
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紗倉
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そうですよね。本当に嫌なときって、「嫌」としか言えないし、体もやっぱり、こわばったり硬くなるじゃないですか。
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(男性陣)
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やっぱり。そっか…。
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三日市
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「自分がこれをしたら相手はどう思うか・・・」。目の前にいる人の気持ちに想像をはせるのって大事ですね。
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リカD
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自分の身を守る知識をつけるのも大事なことですよね。もちろん体を守る術を知らないからって嫌なことをされてもいい理由には絶対にならないけど、コンドーム以外にも選択肢があって、使うかどうかを選択するのは個人によるけど知識をつけるのは大事だと思う。
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紗倉
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私、3年ぐらい前から子宮にミレーナ(子宮内避妊システム)っていうのを入れているんですけど、そういう避妊具やピルに関して全然教わった記憶がないし、実際教わっていないから、「コンドームしか選択肢がない、それがダメならもうダメ」みたいになってしまうのはすごく分かる。
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リカD
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性的同意について海外の事例とか、過去に髙田さん取材していましたよね。どうですか。
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髙田
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日本を訪れている外国人50人ぐらいに、性的同意について取材したことがあります。海外では恋愛関係のつきあい方って、(上下でなく対等な)パートナーシップが基本なので、「『イエス』『ノー』ってはっきりと言うよ」という人がほとんどでした。しかも、すごいと思ったのは、テレビカメラを構えて質問しても、カップルの男女がハキハキと話すんですよ。
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紗倉
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おおーっ。
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髙田
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そのカップルの片方は「私は昔から家庭でもそういう話をするし、今のパートナーとも、ちゃんと『イエス』『ノー』を確かめています」って。そうしたら、隣にいたパートナーも「そうだよね。それで断られることもあるし、僕が断ることもあるよ」と言っていました。
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髙田
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そのカップルの片方は「私は昔から家庭でもそういう話をするし、今のパートナーとも、ちゃんと『イエス』『ノー』を確かめています」って。そうしたら、隣にいたパートナーも「そうだよね。それで断られることもあるし、僕が断ることもあるよ」と言っていました。
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(一同)
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へえー。
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髙田
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家族連れの人にも、「性的同意の話で取材しています」と伝えたところ、お父さんが娘さんに「何か意見ある?」と話を振って、娘さん自身もお父さんの前で意見を言っていました。
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紗倉
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ええー。
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髙田
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その子、13歳ぐらいだったんですけど、「今ボーイフレンドとつき合い始めて…」みたいなことを恥ずかしがらずに話していて。「性」が人生の中で特別なこととして浮いているのではなくて、人権として自分の意志をちゃんと伝えることの一部なのだなと感じました。
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紗倉
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セックスについてどう考えているかって、日本の中であんまり堂々と言える環境や機会もないような気がして。どこで海外との差が出てしまうのかなと、すごく感じます。隠すこととか、秘めることが美徳みたいなイメージじゃないですか、日本って。
性教育 日本と海外でどこが違う?
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リカD
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日本の性教育と海外の性教育について、調べてみました。日本では中学1年生で成長に伴い男女の体がどのように成熟していくか、ヒトの受精卵がどう胎内で成長するかを学ぶんですが、教科書ではその前提となる性行為については触れていません。避妊方法もほとんど教えていないようなんです。
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(一同)
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そうなんだ。
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リカD
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(中学校の)学習指導要領(文部科学省が定めている教育課程の基準)に1998年から「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という文言が含まれていて、いわゆる「歯止め規定」と呼ばれているそうなんです。
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髙田
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海外の場合、「性教育」の授業はもっと幅広い内容を教えているように思います。
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リカD
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そのとおりで、ユネスコ=国連教育科学文化機関が包括的性教育の枠組みを示した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」というものがあります。セックスや避妊、ジェンダーの平等など“性の権利”を基本的人権の一部と捉えています。これが2009年に公開されて以来、ヨーロッパ各国や台湾などアジアでも、このガイダンスを踏まえて性教育の方針を出しているそうですよ。
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丸山
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ユネスコのガイドラインの話を聞くと、人権・文化・家族とか、性教育の捉え方がすごく広い。「それって性教育とどう関係しているの?」と聞かれても答えられないと思うくらい、「性教育」という漢字3文字が表している幅が、今まで僕らが受けてきた日本の性教育だとすごく狭いのかなって感じますね。
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紗倉
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根本的にコミュニケーション不足がたたっている部分もあるのかと思う。オープンに話したり相談しづらいがために、独学でインターネットなどでいろいろと(誤った情報も含めて)詰め込んで、それをそのまま実践して、相手を傷つけてしまうこともありますよね。 正しい性の知識を知りたくても知ることができないというのは、寂しいことだなと思います。知りたくなくて避けてきたわけじゃなくて、なかなか知る機会がない。そこはどうにかして補いたいところだし、気後れしたり恥ずかしがったりすることもなく話せる環境や、相談できる場があれば、理想的なのかなと思いました。
ジェンダーロールにとらわれがち…
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リカD
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ユネスコのガイドラインにはジェンダーについての記載もあると説明しましたが、みなさんジェンダーロール(性的役割)について思うことはありますか?
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秋山
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セックスのときに「男はこうしなきゃいけない、女はこうしなきゃいけない」みたいなのにすごく縛られている感じはしますよね。
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紗倉
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確かに、役割分担みたいな。
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立野
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以前ジェンダーに関する番組を作ったときに、街中の人に、「男だから・女だからこうしろって言われて嫌な経験ありますか」とひたすら聞く取材をしました。たくさん出てくるんですよね。「女なんだから家事をしなさい」、「男なんだから泣くな」みたいな。「それが性行為のときにも起こっているな」とリンクしています、今。
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丸山
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それはすごく感じますよ。リードしないといけなさそうな気がするのと、そのタイミングって聞くことじゃなさそうな気がするっていうか。空気感やムードとか、「男が主導で進めていかなければダサい」みたいなことに、もしかしたら男側はとらわれているかも。
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秋山
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めちゃめちゃとらわれている。
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丸山
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よくも悪くも「男性側がリードすべし」を前提とされているイメージがあります。
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紗倉
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そうですよね、そこの負担、男性側は大きい気がしますよね。「今日はしたい・したくない」という、「イエス・ノー」に関してもそうですし、「こんなシチュエーションがいいな」という意見交換もそうですし、全体的なコミュニケーションって希薄なまま進むことが多いと感じやすいというか。
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秋山
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女性側はどうですかね。「台本にのっとってやられると冷める」とか、そういうことはない?
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立野
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でも、合意に関しては、絶対に台本どおりに聞いたほうがいいんじゃないですか。
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髙田
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私、その質問も海外の20代半ばの男の子たちに街頭インタビューで聞いたことがあります。「そういうことをすると日本だと『冷める』って言われるんですけど、どうですか?」って。そしたら「お互いの意志のほうが大切だから冷めても聞きます」って堂々と。
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秋山
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「する・しない」の同意はもちろん必要だけど、そのあとの詳細については?
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髙田
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詳細についてもたぶん同じことじゃない?それって秋山君が言わないと伝わらないじゃん。「僕はこうしたいんだけど」って。
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(一同)
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確かに、確かに(笑)。
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秋山
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あー、そっか。恥ずかしがらずに相談する。
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リカD
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「恥ずかしい」とか「聞けない」みたいなのも、ジェンダーロールに縛られがちな自分がいるからなのかもしれませんね。
家庭で「性教育」すべき?
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紗倉
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自分の次の世代の子どもたちにはどういったことを学んでほしいか、どんな風に引き継いでいったらいいかということも、課題だと思いました。やっぱり、大人が恥ずかしがるっていうのがよくないんですかね。
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三日市
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さっきの海外の方たちの話を聞いていると、日本の社会にあるような空気感とは違うコミュニケーションがあるのだろうなっていうのは分かるじゃないですか。
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髙田
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うんうん。
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三日市
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そもそも性教育って学校だけで教えるもの?すごく大事なことだから、親が子どもにしつけとか教育をすることがあるんだったら、性についても親が教える責任もあるのではないかと思ったりします。その反面、親子でオープンに性の話をするメンタルを僕自身が持ち合わせていないのは課題ですけど。

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三日市
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逆に性教育を、例えば「生理が始まるからやりましょう」という場当たり的なことじゃなくて、もう少し幼い頃から、はっきり教えずとも何が起こって自分が生まれたかということも含めて、当たり前のように家の中でしゃべることのできるような社会が日本にもあるといいんじゃないかなって思います。
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紗倉
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学校で教えることが難しいっていう点ももちろんあると同時に、ずっと「こうのとりに運んできてもらった話」をされるよりも、家の中でも堂々と自分の性やセクシュアリティについての話ができたり、相談できたり教えてもらったりっていう環境が自然と整うことも大事ですよね。
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三日市
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それが当たり前の環境になっていれば、たぶんカップルになったときも、「私こういうのが好きなのよ」とか、「きょう私は攻められたいの」とか「きょう、俺は攻めるよ」とか言いやすい感じにはなっているんだろうな。
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丸山
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そういえば僕、親から受けた性教育を今思い出しました。中学生のときに2つだけ教えてもらったなと思うことがあって、1個は、「体にいいから毎日牛乳を飲みなさい」もう1個が「コンドームをつけなさい」っていう話。
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紗倉
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牛乳とコンドーム。
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丸山
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中学生のときに、母がサランラップの芯をボンッと目の前に置いて、「こうやってつけるんだよ、将来必要になるから覚えておきな」と。
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紗倉
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ええーっ。
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秋山
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“サランラップ母さん” かっこいい。僕の場合は家庭内で性の話をしないっていう環境で育っているから、親と性についてオープンに話す環境をつくるということには、違和感をまだ感じています。そういう意味で学校が、家庭とはワンクッション距離を置いたところで、オープンに話せる場をつくる可能性はあるんじゃないかなって思いました。
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髙田
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いろんな事情で学べない場合もあるから、男女平等や性的同意とかもちゃんとできる社会の実現のためには、やっぱり学校の義務教育の範囲内で、ある程度やったほうがいいとも思います。
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リカD
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義務教育でも学びつつ、家庭でも必要なことは教えつつですね。 だいぶ盛り上がりましたけれども、そろそろお時間です。
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紗倉
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道徳とか歴史とか、性教育っていろんなジャンルの要素が含まれているカテゴリーだなってすごく感じたので、これ、ひと言でまとめるのは難しいですね。

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秋山
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でも、それぐらい根深いし広いですよね。保健体育だけには収まらない。
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紗倉
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広いです。「地理1」とか「地理2」とかあるじゃないですか。「道徳編/モラル編」とか、「避妊編」とか、ほんと、たくさん章立てしてほしいですね。
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リカD
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いろいろな側面を含んだ包括的な性教育、日本でも取り入れたいですね。
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紗倉
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というわけで、これを持ちまして本日の会議、終了にしたいと思います。皆様、本日はご参加いただきありがとうございました。
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(一同)
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ありがとうございました。
番組を企画・制作して…
今回の議論を通して、年代や性別は違っていても、みんな「性」に関して何かしら抱えているのだなと感じました。自分の体と向き合って、好きな人やパートナーができて、結婚して、親になって…それぞれのステージで悩むことはあると思います。誰にでも関わる「性」のこと。命を育むこと、大切な人を傷つけない・自分の身を守るために必要な知識、心や体の悩み。どこか切り離されているようで密接につながっているとも感じます。
4月から「生命(いのち)の安全教育」という、性にまつわる具体的なリスクを教えるための新しい教育が段階的に導入されます。今回の議論のように「タブー視せず、向き合ってみる」という機会が増えたら、どんな社会に変わるでしょうか。今後も取材を続けていきたいと思います。
(2021年2月26日放送『不可避研究中 #性の教科書・理想の目次』担当 リカD/川田莉加)