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Vol.10 “性”を語りやすい社会に

「どうしたら子どもはできるの?」

もし 子どもから こう聞かれたら、あなたはどう答えますか?

ネットで検索すればさまざまな性の情報に触れることができる時代。
子どもたちが間違った知識から、誰かを傷つけてしまうかもしれません。

しかし、「性の話はタブー」「話すのは恥ずかしい…」と感じている人も多いのではないでしょうか。性の正しい知識について、子どもから大人まで誰もが気軽に学び、語りあえるきっかけをつくろうと、さまざまなツールの開発・制作に取り組む若者を取材しました。

(NHK名古屋 ディレクター 大間千奈美)

“親しみやすい”性教育を

東京都内で性教育に関するワークショップが開かれました。学校や家庭でもなかなか教わらない性の話を詳しく知りたいと、10代から40代まで幅広い年代の人が参加。講義が始まると思いきや、参加者が始めたのは、なんとボードゲームでした。

ワークショップで性教育ボードゲームをする参加者

「初めての生理/射精。処理方法がわからない…」
「セックスという言葉を耳にした。インターネットで調べたら変な動画が出てきた」

誰もが思い当たるようなできごとの数々…。

ゲームを通して 子どもが直面する性の課題を体験してもらい、そのときどきに必要な、正しい知識を学ぶ仕掛けです。

このゲームを制作した鶴田七瀬さんです。親しみやすい性教育を広めようと取り組む団体を2年前、23歳のときに起業しました。

性知識を学ぶツールを開発する ソウレッジ代表 鶴田七瀬さん(25)
鶴田七瀬さん

「性教育とは『人生の中でこういうフェーズがあって、あなたにはこういう知識が必要なんですよ』みたいなことを一緒に歩んでいくような教育だと思います。日常に性教育を取り入れることをすごく大切にしています。」

海外で目にした「性知識」の伝え方

鶴田さんが性教育と向き合うようになったのは、大学生のとき。親友から性暴力の被害にあっていると打ち明けられたことがきっかけでした。

大学時代の鶴田さん
鶴田七瀬さん

「どうしたらいいか わからなかったから、話を聞くことしかできなくて。何を言ったらよくて何を言っちゃいけないのかが わからず、提案もサポートもできなくて、もどかしい気持ちになりました。そして、知識が必要なんだというところにたどり着きました。」

性について学ぼうと、ユネスコが作成した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』をはじめ、性教育に関する本や記事を読みはじめた鶴田さん。調べていくうちに、海外では幼少期から性教育を行っている国があると知ります。実際にどのように行われているのか、自分の目で確かめるために、1年近く、デンマークやオランダ、フィンランドなどに留学しました。

留学中フィンランドの小学校で授業に参加した鶴田さん

そこで、学校や家庭で誰もが当たり前のように性について話し合う様子を目にします。

オランダでは、小学校の教育に性について学ぶ“性教育月間”があり、子どもたちは図書館などで性について、自分自身で本や資料を使って調べる習慣がありました。

イギリスでは幼児向けの動画を通して、性教育が行われていました。水着で隠れる部分は「プライベートゾーン」といい、大切なところだから人に触らせてはいけないということをポップな動画で伝えていました。

特に印象的だったのは、その伝え方です。幼少期より、「あなたは大切」と伝えることから性教育が始まり、「その大切なあなたをどうやったら守ることができるのか?」という視点で、性の知識を深めていくのです。

鶴田七瀬さん

「『自分の体があまり大切じゃない』という感覚を持っていたら、自分の体を守ろうとは思えないからだと思います。そこで、まず自分の体を大切にすることを伝え、それから相手の体や気持ちを尊重することを伝えていました。それを見て、性教育は『人生の中で必要なことを考える教育』だと思いました。」

日常で「性知識」を学べるように

自分や相手の体が大切であることを含め、性の正しい知識を、誰もが日々の暮らしのなかで身近に学べる環境を作りたいと思った鶴田さん。帰国後、まず始めに作ったのは「性教育トイレットペーパー」です。

性教育トイレットペーパー

トイレットペーパーに書かれているのは、性に関するさまざまな情報です。性別にも「自分らしさ」があり、さまざまなセクシュアリティがあるということ。「性暴力」とは、同意なしに性的な行為を無理やりすること。また、相手を傷つけないために気持ちを確認することが欠かせないという「性的同意」の話などを、わかりやすい言葉で盛り込んでいます。

開発資金をクラウドファンディングで募ると500人以上が賛同。一般向けに販売を開始し、子どもに食事や居場所を提供する 子ども食堂などには無料で配布したところ、親世代から大きな反響がありました。

「子どもにきちんと性教育をしてあげたいと思いながらもキッカケがなかったのですが、性教育トイレットペーパーが背中を押してくれました」

「こんなにわかりやすい教材が、私の子どもの頃にあったら良かったのに」

「性の悩み」を気軽に話せる環境づくり

知識を得るだけでなく、悩みを気軽に話せるようしたいと、鶴田さんが次に制作を手がけたのが、冒頭で紹介した性教育ボードゲーム。自分の経験を話すための工夫も盛り込まれています。

『性の課題を学ぶボードゲーム』

たとえば「通勤中の満員電車で痴漢にあった」というマスにはクイズも掲載しています。

問題日本では痴漢にあったことがある人は何%いるのか?

答え女性の70%、男性の32%が電車やバス、道路などの公共空間で 何らかのハラスメント被害を経験していると言われており、 痴漢被害にあった人の約半数が「我慢した」と答えています。
(#WeToo Japan調査より)

ボードゲームは、保護者や教員向けにネットで販売を始めています。また、鶴田さんは性教育のワークショップでも活用しています。この日のワークショップ。参加者のひとりの駒が「痴漢にあった」というマスに止まり、自身の体験を話し始めると、ほかの参加者たちも堰(せき)を切ったように語り出しました。

性について自身の経験を語り合う参加者

「痴漢にあったときに、親に全然話せなかったし、相談できなかった」

「私は痴漢にあったときに、母親から『なんで大声を出さなかったの?』と聞かれたその ひと言で二度と相談しなくなりました」


「知識を得るだけでなく、性の悩みを安心して話すきっかけになる」と、子育て中の親や養護教諭などにも好評です。

ワークショップで参加者と話す鶴田さん
鶴田七瀬さん

「話しても大丈夫と感じさせる環境を大人側がつくっていくことが重要。日常生活の中に性教育を取り入れることによって、もっと話しやすい環境、安心して相談できる場所ができるのではないかと思っています。」

取材して…

国の調査(「男女間における暴力に関する調査 報告書」内閣府男女共同参画局 平成30年3月)では男女あわせて20人に1人が「無理やりに性交等された被害経験がある」と回答していますが、そのうち女性の約6割、男性の約4割は、誰にも相談していないという実態があります。

鶴田さんの取り組みは被害が起きてからではなく、起きる前に私たちが知っておくべき情報を伝え、悩みを相談できる環境をつくることにつながっていると感じました。性被害から自分や大切な人を守るために、性の話をタブー視せず、日頃からしっかり向き合うことが何よりも大切だと強く思いました。

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みんなのコメント(2件)

wba
2021年3月4日
幼い頃から母に、生まれたときの話をよく聞かされていた。破水しないようにと、親族・医療の全面的ケアのおかげで生まれたこと。泣き叫ぶ赤ちゃんを見るたび、母は「あなたもこうだった」と言った。自分がこの遺伝や恩を背負えるか。それが背負える相手か。大概は「ノー」だった。ちまたに知識が無い。下品な金目当ての代物ばかりあふれかえっている。
かに
40代 男性
2021年2月25日
身近になり過ぎた性犯罪を予防する取り組みは必要だと感じる一方、性教育に伴ってさまざまな利害関係が絡んでくることの難しさも感じます。興味本位で性に関する誤った情報が発信されてきたこともあるのかもしれません。男女間の利害関係だけでなく、親子でも利害関係があったり、思春期を迎えてからの価値観の対立が起きたりすると考えると、多様性を確保しながら伝えていく機会を生み出すのはなかなか大変ではないかなと思います