
わたしに依存してくる母 これから関係をどうしたらいいのでしょうか?
親からの過保護・過干渉がつらい、期待が重すぎる。
子どもや若者の幸せを考えるNHK「君の声が聴きたい」プロジェクトには、こうした苦しい気持ちを抱える10代、20代からの声が多く届いています。
「これはあなたの人生じゃないから、限界が来るまで子どもをコントロールしようとしないで」(13歳・女性)
「私の親は過保護でずっと見守ってくるんですね。したいこともできないですし、しんどい時ですらずっと『大丈夫よ』と言うので、私はもう頭ずっと痛いんです」(14歳・女性)
「『幸せな家庭』を決めつけないで欲しい。例えば『良い親』を演じてるつもりの親は、子どもの意見なんて聞かない。傍から見たら幸せだけど、実際は親に押しつぶされてるだけ」(18歳・女性)
一見、家庭には何も問題がなく、むしろ恵まれた環境にいるようにさえ見える。でも、実は親との関係にとても苦しんでいて、それを誰にも打ち明けることができない・・・。そんな若者たちの声に耳を傾けました。
(「おとなりさんはなやんでる。スペシャル × 君の声が聴きたいプロジェクト」デスク 谷 花菜子)
おとなりさんはなやんでる。スペシャル
放送:2023年5月6日(土)午後4時15分~[NHK Eテレ]
※放送から1週間は、NHKプラスで見逃し配信をご覧いただけます。
いつもは保護者の子育ての悩みを話し合うこの番組…今回は特別編!子どもたちが親に言いたいことにじっくり耳を傾けます!ピアノの習い事をやめたい中学生。放任主義の母に不満を抱く高校生。普段言えないモヤモヤを初めて親にぶつけてみると…?親の過干渉・過保護に苦しむ20代の大学生からは切実な声が…。。子育て真っ最中のタカアンドトシさん、青木さやかさん、10代の代表・ひかりんちょさんが耳を傾ける。
「わたしは親不孝ですか?」
親子関係の葛藤を投稿してくれた20代の一人、えなさん(仮名)。
今年4月に新社会人になったのを機に、自分の気持ちを整理したいと取材に応じてくれました。

子どもの頃から母親の過干渉に悩まされていたえなさん。しかし「ここまで育ててもらったのに『親のことが嫌い』と言うのは親不孝なのではないか」という思いから、自分の気持ちを今まで誰にも打ち明けることができなかったといいます。
母親への違和感は小学生のころからありました。他の子よりも門限が1~2時間早い、1分でも遅れると家に入れてくれない、1日7~8回もノックもせずに部屋に無断で入ってきては小言を言う。また、高校生・大学生になっても友人関係に口を出してくるなど、いつも母親に縛られて生きていると感じてきました。
また少しでも反論すると、ヒステリーを起こし「死んでやる」と自殺をほのめかすため、母親に逆らえないような状態が続いていました。
「母のことは嫌い」でも「親を100%大事に思えない自分が苦しい」
大学生になると、母親に「支配されている」「依存されている」という気持ちを抱くようになったというえなさん。さらに就職活動を妨害していると感じるような言動があったり、遠方で行われた内定式にも同じ飛行機に乗ってついて来たり、社会人目前になっても娘の自立を阻むような母の行動を目の当たりして、このまま母に縛られるずっと生活が続くのではないかと強い不安を感じるようになりました。
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えなさん
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大学の同級生たちはみんな将来のことを考えているのに、私の頭の中はいつも母のことでいっぱい。どんどん母のことを嫌いになっていて離れたいという気持ちが強くなる一方、母は寂しがり屋なので見捨てるのもかわいそうと思ってしまう。親を100%大事と思えない自分がとても苦しい
自分でもどうしていいのかわからない、揺れ動く複雑な心境を語ってくれました。

さらにえなさんの就職先は自宅から近いため、社会人になっても母親との同居が続きます。
「どういったマインドで過ごせば過干渉な親にストレスを感じないのでしょうか?」と、誰かに聞いてみたいと考えていたえなさん。同じく母親との確執を抱えていた青木さやかさんに話を聞いてみることにしました。
どうすれば母との関係を変えられる? 青木さやかさんに聞いてみると


私は本当に母と同じ空間にいるだけで、息苦しくなったりすることがあるんですけど、青木さんはそういったことありましたか?

すごく、ありました。私は愛知県出身なんですが、愛知に入ると、もう愛知県ごと何かそういう気持ちになっていました。だから、えなさんの気持ちは、とてもよく分かります。私はケースが違いますが、親がすごく固定観念のある人だったので。大学に行かないと駄目だとか、あの場所に住んでいると駄目だとか…固定観念や評価、世間体をとても気にする人だったので、ものすごく嫌でしたね。そして、えなさんと一緒で、わたしも親を嫌いでいる状態はとてもつらかったですね。人とうまくいってない、それが一番近くにいる親だとなおさら苦しいですよね。何をやっていても楽しくないし、本当に人として駄目なんじゃないかみたいに思えてきて、つらかったですね

そういうとき、青木さんはどんなふうに自分のマインドを切り替えて、自分を保ったりしていましたか?

わたしは自分が尊敬する人たちに話を聞いてもらっていました

話を聞いてもらうと、結構気持ちが落ち着いたりするのでしょうか?

そうですね。私の場合、何回も何回も同じことを聞いてもらっていました。100%楽になるわけではないけど、気持ちは軽くなったと思います。あと、しゃべってみると、「ああ、自分はここの部分解決できてないな」ってことも分かってくるから。分かっていることはしゃべれるんだけど、分からないことや解決できてないことが出てくると、しゃべれなくなるんですよね。「ああそうか、ここが解決できてないんだ」ってことが自分で分かるから、しゃべってみるといいなって思いました

しゃべってみる、うん


あと書いてみるとか。書いてみると、整理がついてないことが分かると思います。私は母親との確執を書いた『母』という本を出したんだけど、すごくたくさんの女性の方から手紙やSNSにメッセージをいただいたんですね。みなさん長文で自分のことを書いてきてくれるの。自分が親とうまくいってないとか、娘とうまくいってないとか。皆さん、どこかに出したいとか、整理したいという気持ちがあるんだなと実感したんですよね

やっぱりそういう方がいっぱいいるんですね

いっぱいいるのよ。いっぱいっていう言い方もちょっと違うかもしれないけど

わたしと同じように思っている人っていうのは、全然少なくはないんですか?

少なくないと思うし、仲が良いと思ってたけど、あれ、よく考えたら、そう思い込んでたのかなみたいな人もいるし。親子、特に母娘は「仲が良くない」ということを言ってはならないみたいなところがあるから、多くの人は口にはしないんだろうけども、多いと思いますよ
青木さんがえなさんに勧めたのは、信頼のおける誰かに話してみること、そして気持ちを書きだしてみること。
「それは親不孝じゃない」
そして、えなさんは最後にある質問を青木さんにしました。

やっぱり母と物理的な距離を取るっていうのは大事ですか?

うーん、わからないな。どうだろう・・・

(距離を)取ってみてもっていう感じですか

やってみたら?

やってみる、うん、うん

何か環境の変化がないと人は変わろうとしないし、気づかないから。自分一人が変わっていくっていうこともあるけど、相手もいいほうに変わるかもしれないし、気付きや発見があるかもしれないから。だからいいんじゃない、やってみても

はい

それは親不孝じゃないと思うよ
最後にえなさんに「それは “親不孝”じゃないよ」と伝えた青木さん。
その言葉に、「そうか、うん、親不孝じゃない」と繰り返したえなさん。少しほっとした表情に変化していました。
「やましさを持つ必要はない」公認心理師の見解は・・・
母娘関係にかかわるカウンセリングを長年行ってきた、公認心理師の信田さよ子さんにも話を聞いてみました。

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信田さよ子さん
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離れたくても離れられない、母親を拒絶すると母がかわいそうと思ってしまう。
でも自分の気持ちをNHKの掲示版に書き込んだということは、どこかで母親との関係を変化させたいと感じているからではないでしょうか?
まずあなたに伝えたいことは、母との距離を取ることに、やましさを持つ必要はないということです。今の自分の状態を苦しく思うのは、あなたがまっとうである証拠です。自信を持っていいと思います。またあなたのように感じている人も多くいます。
日本はどうしても“親だから”という価値観が強いですね。でも、その価値観はいったん横において、まずはあなたが自分の人生を生きるためにどうすればいいのか、考えてみてはいかがでしょうか。
母との関係に苦しむあなたへ 今できる3つのこと
信田さんには、いま、えなさんができる3つのことを教えてもらいました。
【① 自分の味方を増やす】
お母さんに何か言われるととても心が重くなりますよね。
それはあなたがお母さんと1対1の関係にあるからです。お母さんを変えることはとても難しいので、自分側の陣営を増やすことを考えてみてはいかがでしょうか?
SNSのコミュニティでも、母との関係に苦しむ自助グループでも大丈夫です。あなたと同じように考えている仲間が増えると、自信にもなりますし、自分側の味方を増やしていくと母親が何を言っても動じなくなります。
1対1で母親と対峙していたときは苦しかったけど、1対10、1対20と自分側の味方が増えていくと、お母さんの言葉の重みは軽減されていくように感じると思います。
【② 自分の座標軸となるものを見つける】
母親との関係がとても苦しいのに、そんなふうに思ってしまう自分に罪悪感を抱いてしまう。日によってその気持ちが揺れ動くことも、その割合が変わることも、普通のことです。あなたと同じような悩みを抱えている方にたくさん会ってきましたが、みなさん同じようにおっしゃいます。
気持ちが揺れ動いたときにオススメしたいのは、あなたを助けてくれる『自分の座標軸』になるものを見つけることです。たとえば母娘関係について書かれた本でもYouTubeの動画でも大丈夫です。心が揺れたときには、それを見ることで「母が苦しい私は間違っていない」と思える座標軸となるものがあると、心が軽くなると思います。
【③ 同居しながらでも、親とは距離をとる】
家を出て物理的に距離を取れるならそれが一番ですが、金銭的に家を出るのが難しい方も多いと思います。
そのときには、同居しながらも母親と距離を取る方法があります。
それは【敬語】を使ってみることです。
敬語など他人行儀な言葉を使うことで、心の距離がとれます。最初はあなたも少し抵抗はあると思いますし、敬語を使うことで母親がどんな反応をするのか不安になるかもしれません。でも、これはとてもおすすめの方法です。最初のうちは「なによ、親子なのによそよそしい」と言われるかもしれませんが、これまで多くの人たちに提案し、実施していただいた経験から言えるのは、これはけっこう効果があるということです。2~3週間経つと親のほうもあなたに敬語を使ってくるようになるでしょう。そうなれば大成功です。
心理的距離がとれるようになると、同じ空間で一緒に過ごすことへの苦痛が減っていきますので、ぜひ試してみてください。
大切なことは、自分の考え方や気持ちの動揺を否定的にとらえないことですね。それと同時に、具体的な発言の仕方などを工夫してみましょう。
取材を通して
青木さんとの対談では、えなさんはとても生き生きしていました。「うん、うん」と何度もうなずきながら聞いたり、「わたしと同じ人はいっぱいいるんですね」と何度も確認したりするなかで、すごく安心した表情に変わったのが印象的でした。青木さんの傾聴力の素晴らしさを感じると同時に、きっと青木さんもそのように聞いてもらっていたのだなと感じました。
これまで気持ちを誰にも話せなかったというえなさんですが、以前一度だけ友人に話そうとしたことがあったそうです。しかし、「うわ、お母さん、やば」と言われてしまったことから「あれ、うちってやばいのかな」と話すのをやめてしまったそうです。誰かに悩みを打ち明けられたとき、評価せずにただ聞く、というのはとても難しいことだなと改めて感じました。
わたしも仕事では取材者として傾聴を心がけていますが、日常生活では「それはひどいね」と身勝手な評価をしたり、「こうしたほうがいいよ」など相手が求めていないアドバイスをしたりしてはいないか。誰かにこうした悩みを打ち明けられたとき、本当に意味でその人の力になるにはどうしたらいいのか。日頃の自分を振り返るきっかけにもなりました。
えなさん、勇気を出して話してくれて、ありがとうございました。
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