
親から見ると“反抗” 子どもからすると…?
あんなにかわいかった我が子に「うるせー」「ババア!」「ジジイ!」と言われたり、何を言っても無視されたり…。小学校高学年や中学生のころに悩みがちな、いわゆる“反抗期”。親は悲しいし、イライラしますよね!
一方、思春期の時期の子どもは、学校・部活・習い事などの忙しさに加えて、「理由のわからないイライラ」を抱える時期でもあります。
この難しい時期に、親はどんな心構えでいればいいのでしょうか? 20年以上、子育てに悩む親のカウンセリングをしてきた医師・臨床心理士、田中茂樹さんのアドバイスを紹介します。
深刻な親子問題にも接してきた田中さんは、「子どもを信じる」ことの大切さを強調します。子どもを信じるとは、どういうことなのでしょうか。
(ディレクター くぼまどか)

【関連番組】おとなりさんはなやんでる。「反抗期」
2023年4月29日(土)[NHK Eテレ]午後12時30分放送
※放送から1週間は見逃し配信をご覧いただけます。
親からみると「反抗」子どもから見ると・・・?

佐保川診療所 医師・臨床心理士 4児の父
親を取材すると、「将来のために、勉強も部活も頑張ってほしいなど、子どもを思う気持ちから声をかけているのに反抗的な態度をとられる。親もイライラするしどう接すればいいのか分からない」という声をよく聞きます。
田中医師:
「早くお風呂に入りなさい」「今宿題やりなさい」など、「~しなさい」と親が指示することに対して、子どもが無視したり反抗的な態度をとったりするようになってきたら、「子どもの自己主張」が始まっているかもしれない、と考えましょう。「自分の行動を自分で決めようとし始めているんだな」と、子どもの気持ちを尊重することも大切です。
子どもの気持ちを尊重するには、親は具体的にどう行動すればいいのでしょうか?
田中医師:
2つほど紹介します。
▶親がゆずる・怒らずに返す
「ババア」とか「ジジイ」とか「死ね」とか、そういう乱暴な言葉を子どもが使ったり、ものを壊したり、そういうことが起きている親子関係も見てきましたが、多くの場合、親がとてもかたくなである印象があります。子どもが何を言っても、親は考えを変えようとしないし、子どもの考えを受け入れない。その結果、子どもはコミュニケーションを拒否するようになり、暴言を吐いたり暴れたりする。
そうなる前に、親は自分がかたくなになりすぎていないか、反省してみることが大切だと思います。親は、「敵」じゃなくて「サポーター」になりたいですよね。

反抗的な態度を子どもがとったときに、親は即座に怒りで返したりしないで、いったん子どもの主張を受け止めてみます。断っておきますが、なんでも子どもの言うなりになれといっているのではありません。子どもの話を聞くのです。内容を受け止めるのです。どういう思いでそれを言っているのか、感じてみるのです。
そのように、対応してもらえることは、子どもにとっては、親に対して主張ができた、親から受け止めてもらえたという体験になります。このような体験は子どもの自己主張の力を育てます。さらに、「自分のことを自分で決める」「自分のやりたいことをやる」「やりたくないことはやらない」などは、将来において子どもが自分を守るために大切なコミュニケーションの力が育っていきます。
▶指示せずに見守る
「~しなさい」「~したらダメ」と子どもに行動を指示する親からの声かけは少ない方が、子どもは早く自立します。見守る、というのは、子どもが何をするかしないかなど、子どもの「行動を見張る」のとは違います。
子どもは今、何を考えているのか、どんな事を楽しいと感じるのか、どんな事をしたいと思っているのかなど、子どもの思いに「関心を寄せる」ということです。子どもが幼いときには、どんなゲームが好きなのか、どんな友達と仲がいいのかなど、わりと簡単に親にも分かりますが、思春期になってくると、それまでよりは見えにくくなってきます。そうなると、親は子どもに関心を寄せて、見守っていかないと分かりません。
親は我慢するしかない?

子どもに指示をせずに見守ろうと頑張っている保護者も取材しましたが、「それは簡単なことではない、我慢が必要…」とおっしゃっていました。やはり親は我慢するしかないのでしょうか。
田中医師:
「我慢するしかない」と感じる原因は、子どもが大きくなっているのに、いまだに幼い頃のように、親の思い通りに行動してほしいと期待をしているからではないでしょうか。子どもを思い通りにしようと期待する自分の思いをあきらめることを意識し始めてみてはどうでしょう。
多くの保護者はわが子に口を出し、指示をして導かないといけないと思っています。
「そうしないと、わが子はうまくやっていけない」という心配や不安があるからだと思います。しかし、子ども側からしたら「あなたは頼りない」とか「口うるさく言われないときちんとできない」と、親から思われているのは、うっとうしい、情けないことでしょう。自信もなくなってしまうでしょう。
逆に「あなたは、まあ、なんとかやっていけるよ」と親が思っていると感じられれば、それは子どもの自信につながるでしょう。一番身近にいて、自分のことを一番よく知っている大人、つまり親が「自分のことを大丈夫だと思ってくれている」という安心感。これはとても大事なことだと思います。
そういう意味で、この時期にこそ「子どもを信じる」ことが大切なのです。

「子どもを信じる」とは?
子どもを信じると、反抗的な態度はなくなっていくのでしょうか。
田中医師:
保護者のカウンセリングをしていると、「子どもを信じていれば、起こさなくても朝起きるようになりますか?」とか「子どもを信じていたら、自分から進んで勉強するようになるんでしょうか?」などと尋ねる方がいます。しかし、「わが子を信じる」ということは「信じていれば、子どもが期待通りに何かしてくれるだろう」と思うことではないと、私は考えています。
「子どもを信じる」とは、「この子は、大丈夫。なんとかやっていくだろう」と思えることです。勉強をしようがしまいが、片づけをしようがしまいが、「この子は私にとって大切な人だ」「この子は、愛するに値する存在だ」と信じ続けることです。つまり、子どもへの自分の気持ちを信じる。自分の想いを信じることです。
反抗・自己主張は 自分を守る力になる
田中さんは、これまで様々な親子問題に寄り添ってこられました。「反抗的な態度は、自己主張のはじまり」と前向きにとらえていいということですが、逆にどのような態度は心配ですか?
田中医師:
僕が心配だと思うのは、「親をイライラさせないために宿題を早くちゃんと頑張っている」とか、「スマホは1時間って決めているからそれ以上は見ないようにする」とか、そういうふうに親に気を遣って自分を抑圧している子どもたちです。過剰にコントロールされているように見えます。親にしてみれば「いい子に育っているなぁ」と安心しているかもしれません。しかし、そういう子のなかには、実はかなり深刻な状態になっている場合があります。
親のためではなく「自分はどうしたいのか」ということがよく分からなくなっている子が少なくないのです。どうすれば、親ではなく「自分」は楽しい気持ちになれるのか、どういうときに自分はリラックスできるのかが分からない。家にいるときでさえ、自分を心地よくすることが、しっかりとできていない。それで大人になっていく。なかなかそれは大変です。将来、仕事などストレスが増えてきて、自分で自分を支えながらやっていけるでしょうか。
親や先生が与えてくれる「こうしたらいいんだよ」という導きに従っていれば、小さい頃は何とかなるかもしれません。しかし、思春期を経て大人になっていくにつれて、自分のことは自分で決めねばならなくなります。時には相手の意図に反する主張をしたり、うまく交渉したり、といったことも必要になります。場合によってはずるさも必要になるでしょう。やっかいな状況から巧みに逃げることだって自分を守るスキルです。
パワハラやモラハラなど、なんらかのハラスメントに直面するような状況になったときに「自分を守る力」につながるものです。親や先生、つまり相手の言うことを、ただちゃんと聞く、というだけでは、これらの力は育ちにくいことは、想像すればわかると思います。

子どもとの暮らしを楽しむ
最後に、難しい時期の子育てに奮闘する親のみなさんへメッセージをおねがいします。
田中医師:
子育てを、「義務」や「成功や失敗」、「やらなければいけない課題」のように感じている保護者に多く出会います。しかし、一度視点を変えて、子どもと過ごす限られた時間を、楽しく過ごしてはどうでしょう?
子どもとの時間を親も楽しむ、親は子どもを喜ばせることに徹する、そういう育児の姿勢があってもよいと、私は思っています。
私の経験からすると、親が子どもとの暮らしを楽しんでおり、子どもの存在をただうれしく受け止めていれば、子どもは自分のことが好きになります。世の中を楽しいところと思うようになります。そして、その子の良いところが育って、結果的には、幸福な人生を送ることができる可能性が高まります。
臨床を通して、また自分の生活でも、何十年とたくさんの親子に出会って、つくづく実感しているのはここです。

“反抗期”は自分の子育てを見直すタイミング(ディレクター取材後記)
「おとなりさんはなやんでる。」は、番組に子育ての悩みを寄せてくださる保護者のみなさんへの取材をもとに制作しています。
“反抗期”で悩む保護者のみなさんの話を聞いていると、進路のことなどで一番心配や不安がつのる時期なのに、子どもとじっくり話ができない関係に悩んでいる方がとても多くいらっしゃいました。
そんな中で出会ったのが、田中さんのアドバイスです。
例えば、「宿題をきちんとやるほうが、子どものため、将来のためだ。だからきちんとやってほしい…」と思い悩む保護者が多い中、田中さんの意見は、驚くべきものでした。
田中さんは、「親が学校の手先となって、子どもに宿題をやれ、やれと言わなくていい。宿題をしていかない、という子どもの選択肢もあっていいし、親は、『家庭が楽しく暮らせる場所にするのが仕事なので、あとは先生よろしくお願いしますね!』と言っていいのでは?」とおっしゃっていました。
田中さんへの取材をすすめていくと、「学校の勉強や宿題をきちんとできる人は将来幸せになるのか?」「整理整頓ができる人は、将来の幸せを確約されているのか?」という疑問もわいてきます。職業や暮らし方も多様化する今、子どもが親の言うまま、先生の言うまま行動するよりも、
「自分の思いを主張する力」も大事なのかもしれません。
みなさんも、一番子育てが難しいこの時期にこそ、子どもへの接し方、子育ての指針を見つめ直してみてはいかがでしょうか?
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