みんなでプラス メニューへ移動 メインコンテンツへ移動

みんなでプラス

経営者の後継ぎ問題 思いを“オープン”にすることが解決のカギ!

視聴者や当事者から寄せられた地域のお悩みの解決を目指す「1ミリ革命 みんなでローカルグッド」。2024年3月放送のテーマは、「事業承継」でした。“事業承継”とは、経営者が自身の会社や事業を後継ぎに引き継ぐこと。今、さまざまな業種で後継ぎが見つからず、黒字経営であっても廃業に追い込まれる事態が相次ぎ、地域経済にも悪影響を及ぼしています。一方で、家族や従業員でもない第三者が引き継ぐ“第三者承継”をサポートする取り組みも増え、会社員が経営者になる可能性も広がり始めています。私たちの暮らしにも大きく影響する“後継ぎ”問題を一緒に考えましょう!

【関連番組】

経営者の後継ぎ探しは、喫緊の地域課題!

後継ぎが見つからないままだと…

今、経営者の後継ぎ探しは、喫緊の地域課題の1つです。中小企業庁によると、2025年までに70歳を超える経営者はおよそ245万人。そのうち、半数にあたる127万人が「後継ぎ未定」の状態だといいます。このまま廃業が進むと、中小企業などで働くおよそ650万人の雇用が失われるという試算も出ています。さらに東京商工リサーチの調査では、2023年に休廃業・解散した企業およそ5万件のうち5割が黒字経営にも関わらず廃業に追い込まれたといいます。後継ぎがいないことは、地域からお気に入りの店が消えてしまったり、働く場所が失われてしまったり、私たちの生活にも悪影響を及ぼす問題でもあります。

後継ぎを探す経営者たち

NHKでは、“後継ぎ”問題を抱える全国各地の経営者たちの声に向き合い、現状や対策を取材してきました。取材した経営者は、飲食業、宿泊業、伝統産業など、多岐に渡っています。

【福井】 すし店の後継者探し
事業承継 カギは企業の情報公開にあり?

【広島】 楽器店の後継者探し
経営者みずから事業を説明 新たな後継者探し

【鹿児島】 地域一体で進める事業承継
自治体×民間サイトで事業継承

今回、1ミリ革命では、NHK松山の伊藤瑞希記者が取材した、“後継ぎ”問題に直面している洋食店経営者の高市澄雄さんのお悩みに向き合い、解決策を探ることにしました。

集まったのは、事業承継のエキスパートたち。事業承継プラットフォーム運営会社の取締役、地域一体で事業承継に取り組む鹿児島県大崎町の担当職員、未経験の宿泊業を引き継いだIT企業の社長、NHKの取材者など、それぞれの立場で“後継ぎ”問題を解決するアイデアを出し合いました。

高市澄雄さんと伊藤瑞希記者

高市さんは、愛媛県伊予市で40年に渡って洋食店を営んでいます。看板メニューは県産牛を使用した俵型のハンバーグ。昼どきには連日のように行列ができる人気店です。

現在、アルバイトを含め20人が働いています。“自慢の味”と“従業員たちの職場”を守っていきたいと考えていますが、一番の悩みの種になっているのが、“後継ぎがいない”こと。

洋食店経営 高市澄雄さん
洋食店経営 高市澄雄さん

「10年前から後継ぎを探していますが、まだ候補者が見つかっていません。家族と従業員には断られてしまいました」

後継ぎ探しは、なぜうまくいかない?

帝国データバンクがおよそ27万社の後継者動向について調査した結果、後継者が「いない」、または「未定」とした企業は53.9%に及んだといいます。近年、改善傾向が続いていますが、まだ半数以上が後継ぎがいない状況です。なぜ後継ぎ探しは、うまくいかないのか。事業承継プラットフォーム運営会社で取締役を務める齋藤めぐみさんと鹿児島県大崎町役場で地域一体の事業承継に取り組んできた竹原静史さんが分析してくれました。

事業承継マッチングサイト運営会社取締役 齋藤めぐみさん
事業承継マッチングサイト運営会社取締役 齋藤めぐみさん

「中小企業の後継ぎには主に3つのパターンがあります。子どもが継ぐ『親子承継』。従業員が継ぐ『従業員承継』。知人や同業者が継ぐ『知人・同業者承継』。日本では、子どもが継ぐ文化が脈々と根付いてきましたので、これまで経営者の多くが『親子承継』か『廃業』の2択を迫られてきました。しかし、今は生き方が多様化し、必ずしも子どもが継ぐという時代でもなくなってきています。『親子承継』の減少を補填する方法がまだ広まっていないことが後継ぎ問題が解決しない大きな原因になっていると思います」

岡積 奈津子ディレクターと鹿児島県大崎町役場 担当職員 竹原 静史さん
鹿児島県大崎町役場 担当職員 竹原静史さん

「事業承継のマッチングに長年携わってきましたが、うまくいかなかったケースでは、経営者が求める引き継ぎの条件に対するこだわりが強すぎるケースが数多くありました。条件を1つだけに絞るなど、余白を残した形で引き継ごうとするケースはうまくいきやすいと感じています」

会社員が経営者に!? 広がる第三者との後継ぎマッチング

「親子承継」が減少する中、齋藤さんたちの会社が進めているのが、家族、同業、地元の枠を超えた第三者との後継ぎ、いわゆる“第三者承継”です。

運営している事業承継専門のマッチングサイトでは、後継ぎを探している全国各地の経営者に関する情報や譲渡条件、思いなどを紹介する記事を公開し、後継ぎを募集しています。

事業承継専門のマッチングサイト
事業承継専門のマッチングサイト(「天水旅館」が後継者を募集のページ)

記事には、修繕が必要な設備など、マイナスな情報もできる限り掲載しているといいます。さらに、齋藤さんたちは、経営者と後を継ぎたい人がマッチングするイベントも開催しています。

後継ぎマッチングイベント 東京都世田谷区
長野県阿南町 とうもろこし農園経営者

2024年2月に東京で開催したイベントには、長野県のとうもろこし農園、宮城県の牧場、新潟県の旅館などの経営者が参加した一方で、会社員や看護師など後継ぎ希望者も30人ほどが訪れました。イベントは大盛況で、実際に経営者と話せたことで、現地で会う約束をしたり、仕事を引き継ぐ具体的なイメージが湧いたり、一回きりの人生で挑戦してみたいという思いを強くしたりする人もいました。

後継ぎ候補が見つかったと話す宮城県加美町の牧場経営者
「いろいろと挑戦したい」と話す後継ぎ希望者

これまで後継ぎの探し方は、取引先や顧客などへの影響を考慮し、情報をクローズにして進める方法が一般的でした。しかし、齋藤さんたちは情報をオープンにした取り組みを進めることで、“第三者承継”を人生の新たな選択肢にしていきたいと考えています。

事業承継マッチングサイト運営会社取締役 齋藤めぐみさん
事業承継マッチングサイト運営会社取締役 齋藤めぐみさん

「地方から都会に出てきた人の中には、『本当は故郷に戻りたいけど、仕事がなくて帰れない・・・』と悩んでいる人も多いです。そうした人に『経営者として故郷に帰る道はどうですか?』と提案しています。起業でも転職でもない“第三の選択肢”と呼んでいます」

岡積奈津子ディレクター
岡積奈津子ディレクター

「自分がもし次の仕事を探すときに今、“経営をする”ということが一つの選択肢として身近にあるんだなと感じることができました」

後継ぎ探しのカギ 自分の思いをもっとオープンに!

情報をオープンにした事業承継の取り組みは、国の相談窓口や金融機関でも始まっています。高市さん自身も、日本政策金融金庫が主催する第三者承継のマッチングイベントに参加したことがありますが、候補者を見つけるまでにはいかなかったといいます。

洋食店経営 高市澄雄さん 

「『うちはこういうお店ですよ』と情報をオープンにして後継ぎを探していますが、さらに一歩進むためにアピールする方法はないですか?」

洋食店経営高市澄雄さんと事業承継マッチングサイト運営会社取締役齋藤めぐみさん
事業承継プラットフォーム運営会社取締役 齋藤めぐみさん

「今はネットで情報を広めることができるので、離れて住んでいても、子どものときによくお店に行っていた人から、思いがけず問い合わせが来ることもあります。大事なのは、高市さんが培ってきた味やお店の雰囲気をどんどんPRしていくことだと思います。今まで何十年も地域に愛され、黒字経営であっても、後継ぎ探しの情報が見えないまま、結局、廃業をせざる得なかったというケースがよく起きてきました。やはり情報を広めて伝えていくことが一番の近道だと感じます」

洋食店経営 高市澄雄さん
洋食店経営 高市澄雄さん

「自分の思いをもっとオープンに伝えていきたいと思います。今の味をこのまま引き継いでもらいたいですし、40年も経営してきたので、今のお客様に感謝をもって誠実に商売に向かっていただける方が一番いいかなと思います」

第三者が引き継ぐメリットは? 異業種だからこそのイノベーション

番組には、“第三者承継”の当事者として、NHK札幌の磯貝砂和ディレクターが取材したホテル経営者の中山仁史さんも参加してくれました。

北海道小樽市ホテル経営 中山仁史さん

中山さんは社員7人を抱えるIT企業の経営者です。取引先としてHP作成を任されていたホテルの経営者から事業承継の申し出を受け、経営を引き継ぐことになりました。

朝里川温泉 北海道小樽市

中山さんが経営しているホテルは、北海道小樽市の山間、朝里川温泉にあります。これまで主に工事現場の作業員や学生の合宿など、団体客の長期滞在に利用されてきました。

グランピング

中山さんは異業種ならではのアイデアをいかし、ホテルの前に広がる雄大な自然をいかした「グランピング」のプランを立ち上げました。海外の宿泊サイトへの登録やSNS発信もスタートさせることで、外国人観光客、家族連れ、女性客など新たな客層の獲得に成功しました。

北海道小樽市ホテル経営 中山仁史さん
ホテル経営者 中山仁史さん

「僕だからこそできる“プラスアルファ”を加えていきたいと考えています。前の経営者の方からは、銀行やさまざまな業者など自分自身にはない人脈も引き継ぐことができています。長い年月かけて育ててきた先代を尊敬しているので、引き継いだ後も自分勝手にやるのではなく、なるべく細かく相談してアドバイスをもらうようにしています。仕事の場合、家族だと言えないことが他人だと言えるような気がするので、親族承継よりも第三者承継のほうが、実は腹を割って打ち明けられるのではないかと思っています」

NHK札幌 磯貝砂和ディレクター 
NHK札幌 磯貝砂和ディレクター 

「中山さんは異業種だからこそのアイデアがある一方で、宿泊業はゼロからのスタート。引き継いだ後も、先代と相談できる関係を続けていることがうまくいったポイントではないかと感じました」

中山さんのケースのように、第三者承継には、ただ事業を引き継ぐだけではなく、新しいビジネスへと発展できる大きな可能性があります。

第二創業
事業承継プラットフォーム運営会社取締役 齋藤めぐみさん

「今の時代、ゼロから起業するのは、土地、建物、機材などの準備でお金も必要だし、融資もなかなか難しく、時間もかかって大変。でも、事業承継はすでに場所があり、機材もノウハウもお客さんもある程度土台があります。初期投資もリスクも抑えた起業、“第二創業”みたいなことができるのが第三者承継の大きなメリットだと思っています。異業種から引き継いだ場合、そこに自分の得意分野を取り入れてリノベーションすることで可能性をさらに広げることもできます」

事業承継のポイント “譲れない点”と“変えてもいい点”をクリアに!

今回、高市さんは番組に参加したことで、事業承継するにあたって、“譲れない点”と“変えてもいい点”がよりはっきりしたといいます。

人気メニュー以外は変えてもいい
洋食店経営 高市澄雄さん

「店名に関しては、新規にオープンした形をとるよりは、このまま守ったほうがお客様も定着していますので、経営的には楽なのではと思います。味は守っていただきたいですが、例えば売り上げランキングで上位のメニューはそのままにする一方で、下位のメニューを変えるなど、自分のアイデアもぜひ取り入れてやってもらいたいと考えています」

事業承継を進めるにあたって、事業を譲る側と引き継ぐ側が注意するポイントを伺いました。

事業継承の注意点
事業承継プラットフォーム運営会社取締役 齋藤めぐみさん

「個人間で直接やり取りをしないことが重要です。個人間で取引は予期せぬトラブルが起こりかねません。例えば最初はレシピだけを譲ると話していたが、途中から条件が変わってしまったなど、お互いにとってよくない方向にいってしまうこともあります。そのため、自治体や金融機関や事業承継プラットフォームなど、第三者を間に入れてやり取りを進めるほうがいいと思います」

高市さんは番組に参加した後、新たに地元自治体にも相談を始めました。
後継ぎ候補は見つかるのか、私たちも引き続き取材していく予定です。

1ミリ1ミリ前進していきたい

この記事の執筆者

第2制作センター ディレクター(「1ミリ革命」プロジェクト・クローズアップ現代)
阿部 公信

福島県いわき市出身。福井局や大分局での勤務経験などをいかし、地域課題の解決を目指すコンテンツを制作。みなさんからの情報提供をいかした“エンゲージドジャーナリズム”に力を入れている。

みんなのコメント(1件)

感想
ニーム
30代 男性
2024年3月10日
今回見させていただきましたが、私は後継ぎなんかしなくてもいいと感じます。実際うちの実家も自営業していますが、見ていた側からしたら継承を簡単には言わないほうがいいと感じます。
中には家庭内分裂や金銭面で自殺に走る、夜逃げなど、生の情報を見たり聞いたりしてきた人間からしたら、簡単な話ではなくそこには賃金やどう地域に根ざすかなんです。
そして、働く人口層も40代以下は地方は少ない中で若い人が地方から消えるのは当たり前で、そもそも高度成長期に一国一城の主のムーブメントが起きて、日本各地に中小零細が生まれましたが、その後大学全入試時代に入り、社会のあり方などが変わり、情報化社会に変化した時に後継ぎがネックになり、子どもの人生を潰しかねない出来事もありました。

そういう所にも踏み込んで話してほしかったです。
この記事のコメント投稿フォームからみなさんの声をお待ちしています。