
子どもを乗せた電動アシスト自転車 転倒をどう防ぐ?
買い物や子どもの送迎に便利な電動アシスト自転車。
ところが、「1ミリ革命」プロジェクトで「自転車事故」をテーマにご意見を募集したところ、電動アシスト自転車について「転倒しそうで怖い」「転倒して子どもにケガをさせてしまったことがある」「周りから見ると電動自転車が怖い」といった声が集まりました。 転倒事故を防ぎ、子どもをケガから守るにはどのようなことに注意すればよいのでしょうか。
(1ミリ革命 ディレクター 岡田 歩)
「多く寄せられた電動アシスト自転車の悩み」

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35歳 女性
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「歩道が狭く、通学時間帯などは歩道を通れない。車道も狭く、子ども2人を乗せて車の横を通る時とても怖い。いつか車に3人一緒に轢(ひ)かれるのでは?と思う」
「大きな幹線道路は車道を怖くて走れない。歩道は電柱が邪魔して電動自転車には狭くて危険。子どもを乗せて安全に走れない。法律通りに車道を走ると怖い」
今回、「自転車事故を減らすには」というテーマでご意見を募集したところ、幼児用座席をつけた電動アシスト搭載の自転車を利用する人からの投稿が、27件寄せられました。
その多くが、「『自転車は原則車道』『歩道を通行する場合は徐行で』というルールは知っているけれど、子どもを乗せていると守りたくても難しい」という深刻な悩みでした。
私(ディレクター)も子どもの保育園の送り迎えや通勤で、毎日電動アシスト自転車を使っています。2人の子どもを前と後ろに乗せ、荷物を抱えての走行は、バランスを保つのも難しく、気を抜いた隙に転倒してしまった経験もあります。
特に雨の日はレインコートを着るため視界が狭くなり、商店街の坂を下るときに滑るのではないか、後方の車と接触するのではないかと不安がつきまといます。
今回の取材で自転車マナーやルールを学んだものの、道路状況によってはルールに従うほうが危ないのでは?と思うこともしばしばです。
「子どもを乗せて車道を走るのが怖い」

電動アシスト自転車を含めて、今回の投稿で最も多かった悩みは、車道での走行が怖いという声です。
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31歳 女性
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「車道を走ることが原則であるにも関わらず、狭い車道を走っていると、車の方からクラクションを鳴らされる。車道の端を自転車で走っていたら、ギリギリで追い越してきたタクシーが急に停車してぶつかりそうになった」
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京都市 40歳 女性
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「京都市在住だが、車道も狭いし、歩道だと人に当たりそうで、子どもを乗せて保育園送迎がつらい。いつも、車にあたりそうでひやひやする」
車道の中でも、青い「矢羽根」(自動車だけでなく自転車やバイクも走ることができることを示すマーク)が表示されていたり「自転車専用道路」があったりと、走りやすい道もあれば、車列にまではみ出して走らざるを得ない道もあります。
では、どういう時に歩道を通行してもよいのでしょうか。交通工学の専門家で、中央大学 研究開発機構 准教授の稲垣具志さんに聞きました。

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中央大学 稲垣具志 准教授
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「自転車は原則、車道の左端を走るのがルールですが、自転車通行可の標識がある歩道は歩行者優先で、車道寄りを徐行して通ることができます。車道にバスやトラックなどの大型車が行き交っている、路上駐車の車が連なっているなどの場合は、無理せず歩道を選びましょう」
歩道での徐行が難しければ押し歩きを、歩道を通る際は「徐行」が基本です。
しかし、電動アシスト自転車の場合、逆に徐行が怖いという声も寄せられました。
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神奈川県・38歳女性
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「子どもを乗せながら車道を走るのはよろけた時などを考えると怖い。危ないために歩道を進むことがありますが、子ども2人乗せの電動自転車は非常に重たく、減速や徐行するとかえって不安定で危険なことがあります」
一般的な歩道での徐行の定義は、時速6~8キロと言われています。狭くて歩行者の多い歩道であれば、時速4キロ以下が望ましいです。しかし電動アシストの場合、一定のスピードを出さないと、かえって重みでハンドルを取られ転倒してしまう危険があります。
そこで稲垣准教授は状況に応じて自転車から降りて、「押し歩き」をすることを薦めています。
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中央大学 稲垣具志 准教授
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「人がたくさんいる場所では無理に徐行運転をするとバランスを崩し転倒につながるので、押し歩きをしましょう」
とはいえ、子どもを乗せた電動自転車を押して歩くのも至難の業です。NHKにはこんな切実な声も届いています。
「後ろに3才の子どもを乗せて、0歳の子どもを抱っこ紐で前抱っこにして自転車に乗っています。保育園に行く時は荷物も多く、子どもの保育園の荷物2人分をカゴに乗せて、私の荷物はリュックに入れて背負っています。橋を渡るのですが、自転車専用レーンはありませんので、歩道を走っています。そんなある日、警察官に自転車から降りて押してくださいと言われ、押しましたが、自転車の重さと自身の重さで転倒しそうになりました。転倒すると子ども2人がとても危ないです。私に力がないのもありますが、なぜ自転車専用のレーンを作らないのでしょうか。自転車利用者が多いところなのに」
転倒をしない押し歩きの方法はあるのか。稲垣准教授に聞きました。
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中央大学 稲垣具志 准教授
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「押し歩きの際の注意点としては、ハンドルをしっかりと両手で持ち、車体を少し自分の方に傾け、サドルを自分の腰に押し当てるように3点で支えることです。車体が重いので、向こう側に倒れ始めたら、自力では立て直せず転倒につながるということを理解しましょう」

こぎ出し・走行中・停止中・・・常に潜む転倒リスク
電動アシスト自転車に子どもを乗せる保護者から1番多く寄せられた声は、転倒の怖さです。
一般的な電動アシストの本体はおよそ30キロ。前方のチャイルドシートに10キロの子ども、後方のチャイルドシートに15キロの子どもを乗せ、自分も乗ると総重量は100キロを超えます。
これは通常の自転車の2倍。バランスをとるのが難しく、こぎ出しの時にふらついたり、走行中、段差にハンドルを取られたりと、転倒の危険があらゆる状況で潜んでいます。
ここからは、「こぎ出し時」「走行中」「停車時」それぞれの場面で注意点を考えていきます。
1.こぎ出し時のポイント:平坦な道で、ハンドルは水平に
電動アシスト自転車は、発進時に思い切り踏み込むと予想以上のスピードが出て、転倒することがあります。
東京都町田市に暮らすM.O.さんは、毎日利用する公園でも、焦ってこぎ出したことで、転倒。当時5歳の娘がケガをしてしまった体験を寄せてくれました。
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M.O.さん
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「幼稚園の帰り道、娘のお友達と公園で遊んで夕方、家に帰るところでした。後ろのチャイルドシートに娘を急いで乗せて、こぎ出したところ段差にハンドルが持っていかれて、勢いよく倒れてしまいました」
娘さんはヘルメットをしていましたが、倒れた際に、おでこを花壇にぶつけました。
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M.O.さん
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「慌てて自転車を起こして、娘をみると目をつむっていました。ヘルメットを外したら顔の半分を覆うぐらいの出血でびっくりしました。その時は段差に意識はいっていなかったです。いつもは押して歩いていた段差を、その日は仕事帰りで疲れていたこともあり、つい焦って自転車に乗ってしまったんです」
すぐに救急車で運ばれ、5針を縫う手術となりました。頭蓋骨を骨折してしまったため、その後1ヶ月は幼稚園を休み、療養しました。
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M.O.さん
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「娘には申し訳ないの一言です。二度とママの自転車に乗りたくないだろうと思って『怖かったね。ごめんね』と何度も謝りました。ヘルメットをしていても100%安全ではないこともすごく感じましたし、こぎ出しの時のスピードをコントロールできず、怖かったですね」
それでも日々の通勤や幼稚園の送り迎えで電動自転車は手放せない生活だったM.O.さん。その公園には自転車で乗り入れず、押し歩きをしたり、こぎ出しの時にハンドルをまっすぐ持つこと、そして何よりも焦って自転車をこぎ出さないことを意識するようになったといいます。
稲垣准教授は、発進時は特に加速するのでハンドルが取られがちだと指摘します。気をつけた方がよい、3つのポイントを伺いました。
① 電源をONにする時はペダルに足を乗せない
② 発進時には思いきり踏み込まない
③ あらかじめサドルは両足のかかとがつく高さに調整しておく
特に注意が必要なのは、M.O.さんのような段差での転倒事故。親子ともに大けがするリスクがあります。
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中央大学 稲垣具志 准教授
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「特に段差はハンドルを取られてバランスを崩しやすくなっています。段差に浅い角度で進入しないことが大切です。縁石に乗り上げるときなど、段差がある場所ではスピードを落とし、段差に対してできるだけ直角にタイヤを当てて、正面から乗り越える、余裕があるならば押し歩きするようにしましょう」
2.走行中のポイント:曲がるときは大回りで

走行中の転倒で多いのは、無理な右左折やUターン時です。電動アシスト自転車の特徴を理解することが大切です。
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中央大学 稲垣具志 准教授
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「電動アシストの自転車は通常の自転車よりも長めのスパンで作られているため、小回りがききにくいのです。自転車の重さから一度バランスを崩すと持ち直せず子どもを乗せたまま道路に投げ飛ばされていまいます。曲がりたい時やUターンをしたいときは道幅の広いところで大回りをするか、迂回して戻るようにしましょう」
雨の日は視界も悪くなり、マンホールや点字ブロック、坂道や石畳などでスリップすることも増えます。鉄板やタイルなど滑りやすいものの上を避けるなどすることでも転倒を防げます。
3.停止時のポイント:子どもは最後に乗せて最初に降ろす
転倒事故は、走行時だけでなく停車時にも起きています。
まずは、サドルの高さはやや低めにし、両足が地面につくよう調整することで自転車そのものを安定させましょう。そして、信号などで停止するときには、常に両足をしっかりと地面につけて自転車を支えることで停止時の転倒を予防できます。
駐輪時は平らで安全な場所に停め、子どもを乗せるのは親の乗車直前に、降ろすのは親の降車直後に行い、子どもが乗っている時間を極力短くしましょう。
特に買い物や保育園の送迎で荷物が多い時は、つい荷物を優先させたくなりますが、まず子どもを降ろしてから荷物を降ろすことを意識しましょう。
子どもが自分で乗降したがることもありますが、乗せ降ろしは必ず大人が手伝いましょう。

停止時も急ブレーキではなく、早めのブレーキが転倒を予防することにつながります。
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中央大学 稲垣具志 准教授
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「自転車は重たくなればなるほど、ブレーキを踏んでから止まるまでの距離が伸びるので、急には止まれません。大人1人が乗っている自転車に比べてブレーキを踏んでから止まるまでは時間がかかるので、通常の自転車より早めのブレーキを意識しましょう」
周囲の迷惑にも・・・「歩行者のすり抜け」
最後に商店街や抜け道など、歩行者を縫うように走る、“蛇行運転”への注意点です。
この時に後ろのチャイルドシートの雨避けカバーがどうなっているか考えたことありますか?実は、大きく左右にしなり、気づかぬうちに周りの歩行者にあたっていることがあるといいます。
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中央大学 稲垣具志 准教授
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「蛇行すると、自転車は自分が思っている以上に傾いています。特にプラスチックの雨カバーは自転車の軸よりもぶれ、これは子どもが乗っていなくて軽いときほど顕著になります。つまり、自転車をこいでいる本人は歩行者を避けているつもりでも、後ろのチャイルドシートの一部が歩行者にあたっている可能性があるのです。人通りが多い場所での蛇行運転は控えましょう」
「30秒待てない?」自分自身にきいてみよう

子どもを乗せた自転車に乗っている人は、とにかく急いでいる方が多いと思います。「保育園のお迎え時間に間に合わせないと」「電車に乗り遅れないように」「早く夕飯を作らなければ」・・・
だからこそ、ルールはわかっているけれども、ついつい一時停止を忘れて車とぶつかりそうになったり、歩行者を縫うように蛇行してしまったり、ぐずって暴れる子どもを急いで自転車に乗せて転倒なんてことも。
稲垣准教授の話を通して私が感じたのは、一つ一つのリスクを知ることが安全運転への一歩だということ。「ちょっとだけなら大丈夫」「これまで危ないことはなかったから」の先に大きな事故につながること、そして自分だけでなく子どもも巻き込んでしまう可能性があることを想像することが大切なのではないでしょうか。
特に子どもを乗せた電動アシストの総重量は100キロ。これをわかって運転するだけで、慎重に運転しようという気持ちになりました。
焦って出会い頭の事故にあったり、転倒して子どもにケガを負わせてしまったりしたら、残るのは後悔と自責の念です。焦っている時こそ深呼吸。「あと30秒本当に待てない?」と自分自身に問うようにしたいです。状況に応じて押し歩きをしたり、子どもの機嫌が直ってから自転車に乗せたり、もしくはいつもより5分早く行動することも意識することで、日々のヒヤヒヤは防げるかもしれないと思いました。
ドライバーや歩行者の方からは「電動アシスト自転車との接触が怖い」といった声も寄せられています。今後、ドライバー・歩行者の視点からの記事も掲載を予定しています。ご意見・ご感想をお待ちしております。
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1ミリ革命「 自転車事故をどう減らす?」
2021年9月23日放送