
性交同意年齢とは?なぜ13歳?世界では…<用語解説>
最近、ニュースなどで目にする機会が増えた「性交同意年齢」。これは性行為への同意を自分で判断できるとみなす年齢のことで、日本では刑法で13歳と定められています。これは、明治時代に制定されてから変わっていません。
何のために「性交同意年齢」が定められているのか?どうして日本では13歳なのか?海外ではどうなっているのか?長らく性暴力の被害者支援に携わっている、弁護士の上谷さくらさんに聞きました。
(編集部より追記)2022年10月24日、性犯罪の実態に合わせて刑法の規定を改正する試案が示されました。それによると、性交同意年齢は現在の13歳から16歳に引き上げ、同年代を除き、16歳未満との性行為は同意の有無にかかわらず犯罪とするとしています。試案のポイントや今後の議論のゆくえについて改めて取材し、この記事の最後に加筆しました。
性交同意年齢 とは

ことし(2021年)7月、立憲民主党の衆議院議員が党の会合で「50歳近くの自分が14歳の子と性交したら、たとえ同意があっても捕まることになるのはおかしい」と発言したと報じられ、SNS上などで「性交同意年齢」という言葉が飛び交いました。批判が相次ぎ衆議院議員は議員辞職しましたが、そもそもこの一件で初めて「性交同意年齢」という言葉を知ったという人も少なくないのではないかと思ったんです。

普通に生活していると、なかなか聞き慣れない言葉だと思います。被害者弁護をしていても、お子さんが性被害に遭って、同意があったとみなされてしまったときに初めて性交同意年齢の定義を知って、親御さんが驚がくする…というケースも少なくありません。
率直に、「性交同意年齢」の定義って、何ですか?

性交、つまりセックスすることについて 同意する能力があるだろうとみなされている年齢、という言い方になりますね。また「性的同意年齢」というものもあります。キスしたり、裸にして体をなめたりなど、“性交”以外の性的行為に対して同意する能力があるとみなされる年齢のことです。


日本では「性交同意年齢」も「性的同意年齢」も「13歳」になっているので、13歳未満でレイプされたり、胸を触られる、無理やりキスされたりといった性被害に遭った場合は、その事実さえ立証できれば、問答無用で性犯罪に問うことができます。しかし逆に言えば、被害に遭ったのが13歳以上である場合、被害者は暴行や脅迫をされたか、抵抗できない理由があったかなどを自分で具体的に説明しなければならないのです。いまの刑法には「暴行脅迫要件」というものがあり、望まない性行為を犯罪として処罰するには、「同意していないこと」だけでなく、加害者から暴行や脅迫を加えられるなどして、「抵抗できない状態につけこまれた」ことを被害者側が立証しなければならないからです。
(※加害者が親など“監護者”にあたる場合は、刑法第179条「監護者わいせつ及び監護者性交等」により「18歳」とされています)
刑法 第176条 強制わいせつ
13歳以上の者に対し、暴行、または脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6か月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑法 第177条 強制性交等
13歳以上の者に対し、暴行、または脅迫を用いて性交、肛門性交、または口腔性交をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も同様とする。
「13歳」というのはどういう理由からなんでしょうか。

日本の性交同意年齢は、刑法が制定された1907年から変わっていないんです。つまり、明治時代から「13歳」のままということです。日露戦争が始まったのが1904年です。第一次世界大戦(1914年~)が始まるよりも前の社会で作った基準を、ずっと使い続けているということになりますね。制定当時、なぜ「13歳」とされたのかは意見がいろいろと分かれるところですが、そのころの女性の平均寿命は44歳で、若くして結婚したり、子どもを産んだりということが当たり前でした。当時の社会とすれば、性交同意年齢が「13歳」であることは妥当な年齢だったのかもしれません。ちなみに、2017年に一度刑法が改正されたときは、まだお隣の韓国でも13歳のままだったので(※)、今ほど議論にならなかったと聞いています。
(※現在 韓国の性交同意年齢は16歳。他の国の同意年齢については後述します)
何のために必要? 性交同意年齢

年齢で線を引くことにはどういう意味があるのでしょうか。

もし同意年齢が無ければ、司法の現場は大変なことになると思います。たとえば加害者が成人した大人で、被害者が子どもの場合、何歳の子どもであっても抵抗困難なほどの暴行・脅迫がなければ犯罪として成立しないケースが増えるからです。「被害に遭った子の年齢は10歳だけど、この子は頭がとても良くて性知識も豊富なんです。だからセックスに同意する能力は十分あったと思います」とか「この子の物言いは思わせぶりなので、大人の側が“同意があった”と誤解してしまっても仕方がないです」というような言い分がまかり通ってしまうと、子どもたちを守れないですよね。
なるほど、「性交同意年齢」は、被害に遭った子どもを守るための指標でもあるんですね。それが明治時代に「13歳」とされて、今もそのままである、ということですか。

そうなんです。同意できるとかできないとか、子どもの能力や性的自由を議論するための年齢というより、子どもたちを性的搾取からどう保護するか、その対象を線引きするための年齢であるべきなんです。一般の方にとっては「同意年齢」、という言葉が紛らわしい印象を与えていると思うので、私は「性的保護年齢」と言い換えてはどうかとも考えています。
確かに、子どもの同意能力の有無についてだけで「性交同意年齢」を捉えていると、「何歳までは手を出しちゃいけない」とか「何歳からは手を出していい」とか、自分よりも若い相手に性交に及ぶ大人側の視点でしか話ができなくなりそうです。

同意年齢は、大人の子どもに対する性行為の自由を保障するためのものではありません。いま、運転免許証の取得は18歳からですよね。実は18歳未満でも、運動神経抜群で知識豊富であれば、車を運転する能力そのものは持ちえるのかもしれません。でもどうして18歳まで免許が取得できないかというと、18歳未満はそれに伴う責任を負えないし、自己加害(※)の心配もあると考えられているからです。そこには制限という意味だけでなく、子どもたちを保護している意味合いもあるわけですよね。それと同じ考え方で捉えてほしいと思います。
(※自己加害…その人にその行為をするかどうか自己決定できる能力があったとしても、その行為が本人を害することになること。未成年の飲酒・喫煙など)
世界の性交同意年齢は?
「性交同意年齢(性的同意年齢)」は子どもたちを保護するためのもの、と捉えると、それが2021年のいまも「13歳」というのは妥当なのか?と気になってきますが、上谷さんはどのように考えますか。

私個人としては16歳まで引き上げて、せめて義務教育の間は守られるべきだと考えています。16歳でも、セックスに同意したり、予期せぬ妊娠をしてしまったりするリスクを考えて行動することができる能力が十分かと問われれば、いろんな意味でまだまだ未成熟だろうと思います。ただ一方で、性的なことは本人の自由意志に基づいて行われるべきものだから、国が過度に介入すべきではないという刑法の性質も鑑みる必要があります。ですので、少なくとも16歳ぐらいがいいのではないかと思います。
海外ではどうなっているんでしょうか?


国によって、宗教や文化的な背景、性教育の内容が違うので単純な比較はできませんが、先進国はだいたい15~16歳という感じですね。韓国でも去年、13歳から16歳に引き上げられたところです。少なくとも、日本の13歳は低すぎる設定だと思います。
(取材:2021年8月)
“13歳から16歳へ引き上げ” 試案示されるも…
性暴力被害の実態を踏まえた刑法改正に向け、法制審議会の部会では 2021年10月から議論が行われています。そして2022年10月24日、法務省は刑法の規定を改正する試案を示しました。

性交同意年齢については、現在の13歳以上から16歳以上に引き上げるとされています。
議論では、同年代の恋愛までも処罰されかねないという意見も出たことから、相手との間に5歳以上の年齢差がある場合に適用するとしています。
13歳未満に対してわいせつな行為をした場合は今と同様に罪に問われることになります。
試案の通りに改正されれば、明治時代に刑法が制定されて以降 初めて 性交同意年齢が引き上げられることになりますが、改正条文案は子どもたちを性被害から守るものになっているのでしょうか。
改めて、上谷さくらさんに話を聞きました。

この試案について、上谷さんはどのようにみましたか?

ニュースや新聞などでは「性交同意年齢が引き上げられる」と報じられましたが、本当にそうでしょうか。私はこの条文案では、あまりにも分かりづらく、子どもを守るための引き上げになっているとは言えないと思います。これ、何が違法で何が違法ではないのか、何歳が何をしたら犯罪なのか、一読するだけでは理解できないですよね。
確かに、「当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が…」といった部分が、何を示しているのか分かりづらく感じました。

刑法は、ある行為をした人を犯罪者とするのかしないのか、その線引きを決める法律ですから、国民の大半が読んですんなり理解できることが重要です。全国の警察官が自信を持ってその線引きを判断できなければ、誤認逮捕が生じたり、危険な犯人を見逃したりすることになりかねません。すべての人が明確に理解できる書き方でなければ、混乱をきたすと思います。
SNSでは13歳から16歳に引き上げられることへの好意的な反応と共に、「年齢差が5歳差以内ならセックスしてもセーフってこと?」といった反応もみられます。

まず、この条文案で、性的同意年齢が16歳と読み取れるでしょうか?私は最初に読んだとき、13歳に据え置かれたのではないかと思うほどでした。法制審議会でのたたき台とかけ離れた内容だったのです。


試案の条文案では、相手と「5歳差」という年齢差が示されましたが、10代にとっての「5歳差」は大人どうしの「5歳差」とはまったく意味合いが違うと思うんですよね。つい最近までランドセルを背負っていた13歳と、すでに成人になっている18歳は対等ですか?もっと考えてほしいです。このような規定があるということ自体、そもそも“13歳から15歳の子どもたちには性行為への同意を自律的に示す能力がある”ことが前提ですから、性的同意年齢が明治時代と同じ13歳に据え置かれたのと同じではないでしょうか。
私が委員をしていた性犯罪に関する刑事法検討会では、16歳に引き上げたとして、15歳どうしの恋愛を犯罪にするのか?という観点から議論されていたのに、法制審議会になって、18歳~20歳の成人が中学生と性交したときに、それが犯罪ではないという余地を残したことになります。このままでは、例えば13歳の子どもが18歳の大人にレイプされたときに、「誕生日を迎えていたから罪に問えない」ということが起こり得ます。知り合ったばかりなど、まだお互いの誕生日などを知らない状況で被害が起きた場合、「5歳以上差があると思わなかった」といった言い分がまかり通ってしまう可能性があるんです。
仮にこの試案のまま改正されると、実際の裁判ではどのような影響が出るとお考えですか?

年齢差要件があることで、「性的なことについて自律的に判断して対処することができる能力が不十分であったかどうか」が激しく争われることが予想されます。有罪と無罪では大違いですから、被疑者・被告人となった人は必死に主張するでしょう。その場合、13歳や14歳が法廷に引っ張り出されて証言しなければなりません。仮に加害者が有罪となっても、被害者はその過程で傷つき、被害回復が遠のきます。そんなことになるならなかったことにしよう、泣き寝入りの方がマシ、と考える人も出てくるかもしれません。そして、検察官が立証できなければ、被告人は無罪です。
子どもたちを性被害から守るという意味では まだまだ課題が残る条文案ということでしょうか。

そうですね。子どもどうしの恋愛関係に基づく性的な行為まで罪に問う必要はないという意味で、何らかの要件が必要だと考えています。ですが今の条文案では、そういうこと以前に、大人が子どもをだまして加害するケースが社会にはびこっている現状が踏まえられていないとみています。はっきりと冒頭に、「16歳未満の者に対し」と記すべきです。この条文は、国民に対するメッセージ性が足りないと感じます。
試案が示され、今後どのように進むのでしょうか?

もう少しの間、法制審議会での議論が続くと思います。一般の人たちが参加することはできませんが、いちばんよくないのは、誰もあずかり知らぬところで議論が進んでしまい、後世に課題の残る法律を世の中に出してしまうことです。性行為について、無関係な人は誰ひとりとしていません。 “分かりにくい法律の話だ”と嫌煙せず、この条文でいいのかどうか、ぜひ、多くのかたに議論のゆくえを注視してほしいと思っています。
(取材:2022年10月26日)
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