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“ナナメの関係”つくっていますか? 子ども支援の最前線から

20年以上にわたり、のべ50万人以上の子どもたちに教育支援をしてきた認定NPO法人「カタリバ」。

「震災のせいで夢を諦めた」「希望の学校に進めなかった」

2011年、東日本大震災で被災した子どもたちからこうした声を聞き、被災地に“放課後学校”を開校して無料で勉強を教えるなど、“居場所”や“出番”をつくる活動を続けています。

職員の1人、池田隆史さん(43歳)。もともとは中学校の教員でしたが、被災地で教育ボランティアに携わったことを機に、カタリバに転職しました。

子どもたちに求められる支援として池田さんが語ったキーワードは、“サードプレイス”、そして“ナナメの関係”。その意味とは。

(「大震災と子どもたち」取材班)

教員からの転職 被災地で見つめ直した教育の意義

池田さんは新潟県出身。新潟市内の中学校で数学の教員を務めていました。

転機となったのは教員12年目の2013年。東日本大震災の被災地を支援したいと教育ボランティアを探していたとき、「カタリバ」が行っていた教育支援を知りました。

岩手県大槌町で、被災した子どもたちに放課後、無料で勉強を教える「コラボ・スクール 大槌臨学舎」 です。

「コラボ・スクール 大槌臨学舎」で過ごす子どもたち(2013年)

担任していた学級で、生徒が不登校になることもあったという池田さん。当時、頻繁に考えていたのは、子どもとの関わり方や教育の意義でした。

偶然に出会った大槌臨学舎は、そうしたことを問い直す絶好の場だと感じたといいます。

池田隆史さん

被災された方々って、一人ひとりの安全が担保されないというか、例えば避難所で生活されている方の中には、自分がやりたいことや言いたいことも我慢。人に気を遣ったり、この先どうなるのか分からなかったりという生活が続いていたと思うんです。
でもここ(大槌臨学舎)は、学校の先生とも連携をとりながら、今ある現状で、子どもたちに最善の教育環境、学びの場をどう提供していくかってことをみんなで考えていて、その姿に僕はすごく感銘を受けて。
たぶん僕では想像できない経験を子どもたちがしていて、だけれどその中で、すごく明るくて前向きな子どもたちもたくさんいました。最初は、勉強嫌だなって思っている 子どもたちでも、すごく熱を持って勉強したり、自分を成長させたりっていう姿を見られたし、何よりも、そういった子どもたちが町のために何かをやるっていう動きを、自分たちで考えながら、実際に行動している姿を見たときに「すげえな!」って思いました。

池田隆史さん

池田さんは13年間続けた教員を辞めることを決断。2014年に「カタリバ」に転職しました。

池田隆史さん

学校教育に携わっている方や、福祉に携わっている方、子どもの支援をしている方に出会って、フリースクールのお手伝いもしました。そのとき、そこを“居場所”としている子どもたちが数多くいること、そこがあることで子どもたちが救われていることを目の当たりにしたんです。

学校の先生だからできることって、もちろんあるとは思っています。だけど不十分さというより、学校の機能としてどうしても子どもに学校に来てもらいたいって思うんですよね。だけど「学校に行かない」とか、「学校ではないところで学ぶ」とか、「学校にも行くし違う所でも学ぶ」とか、いろいろなパターンがその子の成長過程、状況によってはあるなって思ったときに、一度学校の外に出て、学校の先生と協同していくことが子どもたちにとって最善のサポートかなと思ったんですよね。

“サードプレイス” 自分で決め、互いを尊重し合う第3の場所を

自宅でも学校でもない、居心地のいい第3の場所 “サードプレイス”。

池田さんはサードプレイスという場所をつくるうえで、欠かせないことがあると感じています。

池田隆史さん

ポイントは子どもたち中心、子どもたちの自分による決定がすごく重要だと思っています。やりたくないことを無理やり周りに合わせてやる必要はないし、やりたいことがあったら周りの人がやっていなくても1人でやってもいい。子ども自身の選択や決定が大切に尊重されるところはすごく重要な要素かなと。
あとは対等性というか、そこに集まっている人の人権や個性を互いに認め合うこと。それはスタッフだけじゃなくて、利用している子どもたちみんなも、互いを尊重しあう・大切にするみたいなところが担保されているといいなと思っています。

「コラボ・スクール 大槌臨学舎」で過ごす子どもたち(2013年)
池田隆史さん

僕が小さいころは、公園にしろ近くの学校の校庭にしろ、結構自由に出入りができて、いろんな遊びをやっていても大丈夫だった。けれども、今だとそういう広場みたいなところって、ボールを使っちゃいけないとか、自分が卒業した学校の校庭に入るときにも許可を取ってくださいみたいな感じで、子どもたちが自由に遊べる場、集える場が減ってきている。それは安全面の確保の点もあるけど、子どもたちに不自由があるかもしれないなって。
あとは核家族化が進んでいて、かつご両親が働いていらっしゃる場合が多い。子どもが学校から帰ったあと、家に誰もいないってよくあると思うんですよね。そうなったときに、子ども自身が安心して過ごせればいいですけれど、ちょっと不安だったり、自分自身に寄り添ってくれる人がいないなという感覚になったりしちゃうと、よくないなというふうに思っていて。そういう点からも、サードプレイスの必要性は高まっていると思います。

子どもたちと“ナナメの関係”をいかにつくるか

サードプレイスとして大槌臨学舎に集まってきた子どもたち。

池田さんはそれぞれの安全・安心を担保するために、何気ないことばで傷つけてしまうことはないか、誤解が生まれることはないか、細心の注意を払っていたといいます。

池田隆史さん

例えば家族の話を出すということは、非常につらい思いをする子どもたちがいる可能性があって、これはどの子でも同じですね。きょうだいのこととか。ほかには部活の話とかって「小学校や中学校のとき、何の部活やっていたの?」とか、そういう話が子どもたちの会話の中で日常にあるかもしれませんが、もし部活の中でいじめの被害があったりすると、日常会話が子どもたちにとってみたら、すごくきつい体験を想起させることになるかもしれないっていうことは常に思っていました。

サードプレイスに通ってくること自体、子どもたちにとっては選択ができますよね。学校よりも強制力が少ない場だと思うんです。そうなったとき、やはりいちばん最初の会話で、その子にとっての安全性が確保されない話題を出してしまうと「そこには行きたくない」みたいな形になってしまうんじゃないかなって思います。そういうリスクをできるだけ下げるという点で、僕らが日常的に当たり前に使っている話題を一つ一つ吟味することは重要かなと。

「カタリバ」が被災地で行っている教育支援の様子

会話の一つ一つに配慮しながら、子どもたちとどんな関係を築けばいいのか。

池田さんは、親や先生などとのタテの関係でも、同世代の友達とのヨコの関係でもない、“ナナメの関係”がカギになるといいます。

池田隆史さん

あのときの臨学舎は、全国からボランティアやスタッフがたくさん集まっていたので、臨学舎に行って思ったことは、(子どもたちが)サードプレイスに来ることで、学校と家以外で関わる人が増えるし、「こういう生き方もあるんだな」とか“ナナメの関係”が非常に作りやすい環境が根底にあるなってことですね。憧れになる存在がそこにいるとか、評価なしで自分のことを受け止めてくれるとか。

どうしても学校だと、たくさんの人と同じことをするので、自分が「なんかダメかな」とか思っちゃう子もいるかもしれない。けれども、それは学校の機能としてはしょうがないっていうか、相対的に自分を見るっていう機会は大切な機会だとも思うんですけど、逆に全く評価しない、ありのままの自分でいてOKとか、何気ないことを聞いてくれる存在がいるとか、そういうことって学校以外の場のほうが作りやすいなって思っていて、学校とサードプレイス両方の機能があるのはとてもいいことだなと思っています。

私たちが誰かの“ナナメ”になったときは・・・

「おんせんキャンパス」で活動する池田さん

池田さんは大槌町で働いたあと、島根県雲南市に移住。

廃校を活用し、「おんせんキャンパス」 という、不登校の子どもたちを支援する拠点の立ち上げに携わりました。

「おんせんキャンパス」の様子

池田さんは拠点責任者として、学校に通うことに困難を抱えている児童や生徒に、安心できる場所とさまざまな学びの機会を提供しています。

昨年度(令和3年度)、小中学生の不登校は24万人あまりと、前の年度から4万9000人近く、25%増えて過去最多を更新しました。

私たちが誰かの“ナナメ”になったとき、大切なことは何か。池田さんは2つのポイントを教えてくれました。

池田隆史さん

1つは「共通の敵を作らない」こと。
例えば学校に行きづらいお子さんがいるとき、保護者は学校の先生やほかのところに不満を持たれている方って多いんですよね。もちろんそれは本当に感情的にはあることだと思うんですけれども、一緒になって「それ分かる、分かる」とか、共通の敵を作るっていうことだとあまり建設的に進んでいかないから、そういう気持ちや感情は理解するけれども、一緒になって共通の敵を作ることには、すごく気をつけて関わっています。

2つ目は、もし子どもがいないときでも、その子どもが聞いてつらくなったり、悲しくなったりするような話は絶対しないようにすること。
その人のことを思って話ができるっていうことに気をつけるだけでも、実際に会ったときの僕らの表情とかことばとかが変わってくるんじゃないかなって。その人にとっての安心・安全につながるんじゃないかなと思っています。

そして最後に池田さんが語ったのは、保護者への思い。

わが子が不登校になったとき、自分にも原因があると責める親も多いというなか、保護者にも“ナナメの関係”が必要だと考えています。

池田隆史さん

保護者の方にとって、学校の先生というのはタテの関係、ママ友さんみたいな保護者さんどうしのつながりっていうのはヨコの関係だと思ったときに、評価とか人間関係とかを気にしないで話し合える場・人がいるっていうのは、大切な気がしていて。僕が住んでいた実家の町内では「子ども会」みたいなのがあって、みんなで旅行に行くとかいうのがあったと思うんですけど、そういう関係性は希薄になってきている。ちょっと緩い関係性を作れるとか、クッションになるような方とかがいると、その方々が“ナナメの関係”ってイメージですけど、そういう人が地域の中にたくさんいれば、支援につながりやすくもなるかもしれないし、そうしてみようかなって気持ちにもなるかもしれないなと。
子どもを支えていくのは、“大人のチーム戦”だと思っているんです。学校・家庭・地域の大人。「もう1回子育ての環境をみんなで考えて新しい形を作っていこうよ」みたいな、そんな感じに思っています。

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