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家族のこと、自分のこと、どう話す?

福島県 相馬市出身の宍戸ひかりさん(19)。震災前、父と子との2人家族だった宍戸さんは、東日本大震災でお父さんを亡くしました。去年、宍戸さんは、県外の大学に進学したことで、新しくできた友人などに「自分の境遇」をどう伝えればいいのか悩んでいます。

「同じ境遇の同世代と話をしたい」という宍戸さん。そこで、対話の相手となったのは、宮城県石巻市出身の大槻綾香さん(25)です。震災で母親を亡くし、いまは遺児の心のケアを行うボランティア活動もしています。

はじめて出会うふたりの対話の記録です。

(福島放送局 ディレクター 池上祐生)

東日本大震災で、親や家族、故郷・思い出など大切なものを失った子どもたちの“いまの気持ち”を、誰かとの対話を通じて記録する「いま言葉にしたい気持ち」。
「家族」「生き方」「人生」…個人の名前が出る話などはのぞき、ありのままの言葉を残していきます。

宍戸 ひかりさん(ししど ひかり・19)
福島県相馬市出身。震災当時は小学2年生で、津波によって父親が犠牲になった。それ以降は「泣いたら負け」と悲しさやつらさを押し隠してきた。そんな中、小学校のスクールカウンセラーに支えてもらった経験から、自分も養護教諭を目指すようになり、いまは仙台の大学で勉強中。
大槻 綾香さん(おおつき あやか・25)
宮城県石巻市出身。震災当時は中学2年生で、津波によって母親が犠牲になった。その後、震災遺児の心のケアプログラムに参加したことが支えとなってきた。現在、大槻さん自身も遺児を支援するボランティア活動に参加。お菓子作りが得意だった母親の影響もあり、現在はパティシエとしても活躍している。

家族のこと どこまで話す?

左:大槻綾香さん 右:宍戸ひかりさん

去年、宍戸さんは、大学進学をきっかけに地元を離れて一人暮らしをはじめています。
いま新しい人間関係の中で、自分をどう表現すればいいか戸惑いを覚えるようになりました。

宍戸さん

私が聞きたいのは、もともと震災があって、家庭とか友人関係、人間関係がどういうふうに変わっていったのかなというのが気になって。私の場合は、家族は、全員、津波で死んじゃったから、それを知っている友達もいて、まあ、うまい具合に友人関係はよかったんだけど。

震災当時は小学2年生。宍戸さんは「泣いたら負け」と悲しみを隠してきた。
大槻さん

私は中学2年生で被災して、母親が亡くなって。みんな中学校で被災しているから、私が母親を亡くしたことも知っている。高校生になったときに、誰も私のことを知らないから、亡くなったことも知らないし、震災で家がなくなったりとか、そういうことも知らない人たちばっかりで、私から伝えるのもどうなのかなというのがあって。

震災当時は中学2年生。大槻さんも家族のことを周りに伝えられずに悩んでいた。
宍戸さん

私もそんな感じで。で、大学に入ってから、県外から(学生が来ているので)。

大槻さん

いろんなところから来るからね。

宍戸さん

はい。多いので、でも、やっぱり家族とかの話になると、ちょっと、ああ、言いづらいってなるんですよね。

大槻さん

どこまで言っていいんだろうとか、ひかれないかなとか。

宍戸さん

気を遣われるのが、ちょっと。

大槻さん

変に気を遣われちゃうと、こっちも大丈夫なのにと思っちゃうし。『ごめんね、こんなことを聞いて』みたいな感じになっちゃうのが、そこで、言わないほうがよかったのかなって思うときも、たまにあるんだよね。

宍戸さん

そうなんだよね。

大槻さん

別に親亡くなったんだよねって、そんな明るいテンションで言うことでもないし。じゃ、どうやって言ったらいいんだろうなっていうのをやっぱりすごく悩んで。
やっぱり親の話って、普通に出てきちゃうから。『今、何歳なの?』とか。

宍戸さん

結構、言われます。

大槻さん

結構、年齢を聞かれることが多くて。(母親は)42歳で亡くなったんだけど、まあ、進まないわけだよね。いま、彼女にしてみたら。足すことはできるけど。何歳かなと考えてやったこともあるけど。今は亡くなった年でいいのかなと。勝手にだけど思っている、いちばん覚えているから。42歳で亡くなったんだなというのが、自分の中ですごく残っているから。

大事な人には 隠さず伝えてよかった

支援団体「あしなが育英会」のイベントに参加した時の大槻さん

大槻さんも宍戸さんと同じように、周囲に家族の話をできない時期がありました。
しかし、震災で親を失った子どもを支援する団体や親しい友人との出会いから、閉ざしていた胸の内を徐々に開けるようになったと言います。

大槻さん

友達ができたりとかして、いつ言おうか、今じゃないかなとか、悩みながら。でも、思ったのは、自分が大事な人とか、これからこの人と仲良くなりたいなとかという人には、別に隠すことでもないし、伝えたほうがいいのかなという。気持ちとしてやっぱり大事なことだし。言わないとモヤモヤするなみたいなのが残ったまま、これから付き合いを続けていくのかと思ったら、ちょっと苦しくなったかなと思って、私は(家族のことを)言ってよかったかなと思う。
私がこういう新聞とか何かに出ていると、見つけたって言われて(笑)。それで知ってもらったというのもあるかもしれない。

宍戸さん

去年、相馬市の追悼式の遺族代表あいさつでいろいろ取材を受けて、そのときに同じ大学で同じ学科の子に、テレビに出ていたよねとか、新聞に載っているのを見たよって言ってくれる子がいて『えー? 見てくれていたんだ』と思って、ちょっとうれしかったな。

大槻さん

そんな嫌なことじゃないし。ちょっとした近況報告というか。それこそコミュニケーションの始まりとして、見たよって言ってくれるの、ちょっとうれしいなと。そこに、また会話が生まれるから。自分の言葉でいろんな今の思いとかを伝えるのもすごく大事だなと思うけど、たまに来るその友達からの連絡というのが、それが結構うれしくて(取材を)受けているのもある。

子どもたちには“自分のこと”を しゃべってもいい

大槻綾香さんと宍戸ひかりさん

ふたりの対話は、宍戸さんの将来の夢についての話題へと広がりました。
夢に向かう中、大学で子どもの支援ボランティアをはじめた宍戸さんには気がかりなことが出てきています…

宍戸さん

将来の夢が養護教諭、保健室の先生になりたくて。

大槻さん

どんな先生になりたいなとかはある?

宍戸さん

なんでも話してもらえるような、安心して話してもらえるような先生にはなりたいなって思って。

子どもの支援活動をはじめた宍戸さん、気がかりなことが…
宍戸さん

震災孤児の子たちとの関わり方というのがちょっと難しいというか、ちょっと考えていったほうがいいよなって考え始めて。それについて考えようと思ったきっかけが、震災のことを知らない世代でも(震災)孤児の子たちがいるというのを知って。その子たちとどう関わればいいんだろうみたいなというのがちょっと疑問に思っていて

大槻さん

心構えとしてやっぱり私は「なんでも聞くよ」というスタンスをすごく自分にとっても大事かなと思うし、自分のこと(経験)をしゃべってもいいのかなと思う。子どもたちに。

経験した悲しさもつらさも“ありのままの姿”を伝える

支援団体「あしなが育英会」の集まりで、自分の経験を子どもたちに伝える大槻さん

いま支援団体で、子どもたちの話を聞くボランティアをしている大槻さん。
子どもたちには自分が抱えてきた悲しみも含めてありのままの姿を見せたいという思いを教えてくれました。

インタビューで思いを語る大槻さん
大槻さん

(震災を) 経験したからこそ、わかることもたくさんあって。人のつらさときか、親亡くすって、こういう気分なんだなとかっていうのは、すごい自分の中で大きかったなと思うし、『あっ、やっぱ死って意外と身近なんだな』って思ったし、『あっ、人間ってあっという間に死んじゃうんだ』というか。忘れることはないだろうなと思うし。絶対人生の中で、いちばんつらい出来事だったなと思うんですけど。それによって、「あっ、生きるって大事だな」って思ったし。もしかしたら、あした亡くなってしまうかもしれない命ではあるけど、生きれるのなら生きてみたいし。そう思わせてくれたのは、母親が亡くなったりとか、まあ家がなくなったり、いろいろなものを失ってみて得たことなのかなとは思っていて。その重みはすごく大きいし。これから大事にしなきゃいけないことっていうのを知れたのは、すごく震災があったからかもしれないなっていうのはあります。

左:亡き母・京子さん 右:赤ん坊の頃の大槻さん
パティシエの道に進んだ大槻さん。お菓子作りは母・京子さんも得意だった。
大槻さん

こんなことを経験したんだよとか、こんな悲しかったけど、今、先生、元気に笑っているよとか、そういうことを伝えると、今は苦しくても、先生みたいになれるんだったらもうちょっと頑張ろうって思ってもらえたら。そしたら、もうちょっと今は、親子関係だったりとか、学校での関係があんまりうまくいっていなくても、もうちょっとやってみるかって思ってもらえたら、それはすごく有意義な時間だったのかな。話を聞くだけじゃない、何かそういうコミュニケーションがとれたら、私もいいかなって思う。

宍戸さん

なるほど。

大槻さん

難しいよね、ずっと悩んでいるのって、やっぱりちょっと苦しいというか、どうしたらいいんだろうと思うけど、意外と周りに子どもたちがいると、意外とそんなこと考えずにというか、とりあえずこの子たちに向き合おうというのが出てくるから。

宍戸さん

確かに。あんまり子どもたちに関わる時間というのはあんまりなかなか取れなくて。話を聞いて、今、関わっていないからわからなかったけど、関われば確かにちょっと状況とか様子を見ながら関わっていけば大丈夫かなっていうのを。

大槻さん

実際に関わってみて、今の子どもたちを見ていて、悩んでいるんだったら、こういう方法もあるよって、いろんな選択肢を増やしてあげるのも、すごくその子たちのためになるかなというのがあるかもしれない。

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