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東日本大震災で親を亡くした子どもたち 10年で見えてきた今|あしなが育英会・西田正弘さんに聞く【前編】

自分の気持ちを「誰とも話さない」と答えた子どもが3人に1人ー―東日本大震災で大切な親を亡くした子どもたちを対象に行ったアンケートの結果。この10年、子どもたちを支援してきた「あしなが育英会」が去年調査しました。
被災地3か所に設置された支援拠点「レインボーハウス」で、子どもたちと関わり続けてきた職員たちは、アンケートに寄せられた声から何を感じ、今後どう支援していこうと考えているのか?3つのレインボーハウスで所長を務める、西田正弘さんに話を聞きました。
(仙台放送局 ディレクター 岡部 綾子)

西田正弘さん (60)
一般財団法人あしなが育英会が設置した「東北レインボーハウス」の所長 兼 心のケア事業部長

阪神・淡路大震災では、神戸で親を亡くした子どもたちの支援を経験。宮城県仙台市・石巻市、岩手県陸前高田市と3つのレインボーハウスの所長に2015年に就任。東北のグリーフサポート(心のケア)の拠点として尽力されるとともに、担い手(ファシリテーター)の養成にも取り組む。

アンケートから見えてきた子どもたちの”今”

「あしなが育英会」による子どもたちへのアンケート

今年3月、西田さんたち「あしなが育英会」は東日本大震災で親を亡くした子どもたちを対象にしたアンケートの中間報告を行いました。(回答310人)
「亡くなったり行方不明になっている親についての自分の気持ちを誰と話すか」とたずねた質問では「誰とも話さない」と回答した子どもが3人に1人を超える36.1%に上ったといいます。「話さない」という人を年代別に見ると、中高生は52.2%、18歳以上が29%でした。

また、親に対する気持ちを複数回答で尋ねた質問では「後悔」という回答が51.6%を占め、「感謝」が51.2%とほぼ同数でした。

アンケートからは10年が経つ今も悲しみは消えず、深い喪失感を抱えていることが浮かび上がったといいます。

NHKスペシャル「大震災と子どもたちの10年」より

”語れない”は3人に1人

――こちらのアンケートがスタートしたのは去年の秋ごろとうかがっています。

そうです。やっぱり10年経ってどんな生活・心持ちなのかを子どもや保護者に教えてもらって、今後の活動をどんなふうに求められているのかを知るためにアンケートをしました。送付数は中高生が379人、18歳以上が1129人、保護者が942人。回答は2~3割からいただきました。

中には子どもの成長につれて、亡くなった親の“不在感”が強くなっているという状況が見えますし、18歳以上の方たちにとってみれば「あの時こうしてれば良かったかな」とか後悔する気持ちもまだ残っていたりとか。一方で、「亡くなる瞬間まで、本当に僕らを育ててくれてありがとう」という感謝の気持ちも。自由記述欄もさまざまな声を寄せていただいてます。

――私も自由記述などを見せていただいて、レインボーハウスのような場所があったことが、支えになっていたんだろうと感じました。今後、分析結果を出されると思うんですけど、見えてきそうなこと・明らかになるんじゃないかと考えていることはどんなことですか?

震災当時、「こんなことが役に立ちました」とか「もっとこういうのがあれば良かった」という回答もあります。また、いま必要なものも聞いています。10年の変化の中で役に立ったもの、力になったものと、なかなかそうはならなかったもの。”どんな関わりが力になったのか”というのが明らかになれば、今後も災害があった時にこういうものが力になったというところから取り組みがスタートできて良いかなと思っています。

つながり続けることが改めて大事な10年だったのかな、と思います。やっぱり「1人じゃない」というか、孤立させない。その大切さは、つながりの継続の中にあるのかもしれないなと思います。

――自分を見ていてくれる人が、誰かいるっていうことが嬉しいんですね。

そうですね。本当にもう、そんな感じですね。

レインボーハウスでは、親を亡くした子どもと保護者に向け、定期的にプログラムを行っています。プログラムの中で子どもたちは、体を動かしたり、絵を描いたり、おしゃべりしたりなど、自由に時間を過ごします。数時間の日帰りコースや、時には泊りがけのコースで実施されるプログラムの目的は、グリーフ・ケア(心のケア)。遊びや会話などを通して、子どもは自分の気持ちに「丁寧に」向き合うことができます。

――番組でアンケートを参考にさせていただいた中で、亡くなった親や行方不明になった親の話を「誰にもできない、話せる相手がいない」という子が3分の1以上いました。この結果は、どんなふうにお感じになりましたか?

何かあった時に「あのね」って、震災のことだけではなく、SOSを出す相手がいないのであれば心配ですよね。アンケートの自由記述に「やっぱり親を亡くした痛みに触れるには一人じゃつらいので、あんまりそこに触れずに来たけど、やっぱ触れてこなかったことの影響が、結構あるように思います」というひと言が書いてあるところがあって。だから、ほぐれてないって感じですね。そのまんまの痛みがそこまであるというか。

「時間が解決すると言われたけど、全然解決しないじゃん」というひと言や、「10年経ったのに、まだその気持ちなの?」というような、相手からの反応に対する恐れみたいなものもあって。なかなか話しづらいというか、”誰かに聞いてもらおう”、あるいは話を聞く人がいないような感じがします。

――番組制作の中で、子どもには「話したい」って思いもすごくあるんだなというのは感じました。

触れづらいものに触れる時って、自分で触れるのは結構難しいですよね。だからよく「向き合う」って言う。

自分の気持ちに丁寧に触れる時に、誰か一緒にいて手助けしてくれた方がやりやすいというのは感じているところです。悲しいとか、つらいとかって、誰かやっぱりそばにいて手助けしてくれる人がいると、本人はやりやすいんですよね。

タイミングがよければ、話したいというのも、分かってきているので。関わり続けるというか、「あのね」って言えるような相手として居続けることを、今後も続けていった方がいいだろうなって、いま思っているところですね。

「東北レインボーハウス」所長  西田 正弘さん

インタビューの後半では、レインボーハウスが新たに始めるインタビューの取り組みや、西田さんたちがこの10年感じてきたことについてさらにお話をうかがいます。

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