
“女性活躍”が叫ばれる陰で・・・1000超の声が伝えること
「誰もがいつ、どんなきっかけで、ひきこもることになるかわからない時代にあって、“ひきこもり”をすぐとなりにある存在に感じるという声が増えています」
そんな言葉とともに、私たちが「#となりのこもりびと」を始めてまもなく1年がたとうとしています。その間に、サイトや留守番電話を通じて届いた声は1000を超えました。
今回は、その中でも多くを占めた女性の声をご紹介します。そこからは、「女性活躍」が叫ばれる陰で、自分を押し殺して生きる女性たちの姿が浮かび上がってきました。
記事の最後に、声を寄せられる投稿フォームなどを紹介しています。
どこに行っても“部外者” 非正規雇用で募る疎外感
多くの声に共通していたのが、派遣社員やパートなど非正規雇用で働く中での疎外感です。
理不尽な扱いを受けたとしても、立場の弱さのために言い返すことができない。キャリアを重ねているにもかかわらず、年齢が上がる度に仕事が見つかりにくくなる。努力して資格を取ったとしても、容赦なく雇用が打ち切られる。そんな中で「自分は社会から必要とされていない」という思いを抱えていました。

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たかさん(50代)
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地方から首都圏に出てきて専門職で派遣社員をしています。もう10年ですが、機械のように仕事し、家で日夜勉強しても、企業の中ではいつも部外者です。どこに行っても『部外者』が私の普通の立場になりました。
コロナで思うように仕事が得られなくなって、収入も減り、趣味も続けられなくなり、たった独りで何もなく生きています。在宅での派遣の仕事は続けていますが、毎日誰とも会わず、誰とも口をきかず、心の通う会話をどこでしたらいいのかも分かりません。
知り合いも友人もゼロです。寂しい。もう貯金もつき、あとは自分をどう処分するかだけです。
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かなさん(40代)
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就職氷河期世代です。30代の初めに本当にやりたかった文化系の職に非正規としてつきました。当初は希望があり、頑張れば正職員並みの待遇になるのではないかと期待もありました。5年勤めましたが周囲には専門職として独立した存在が理解されず、非正規なので見下されてもいる状況になっていきました。
真剣に頑張っていた20代30代の自分を思うと、自分の人生や選択が間違っていたとはどうしても思えないのです。勉強にも仕事にも熱心だったし、家族や周囲の人たちにも柔軟に親切に接するよう心がけていました。ですが、ここに書いたようなことを誰かに訴えても愚痴や甘えだと思われます。
今は外出するのも就業するのも怖いです。肩書きや世間体がどうしても必要になりますから。私は既婚主婦でも会社員でもない空っぽの存在です。世間話で自己紹介すらできない、後ろ指を指されるのが恐ろしいと感じています。
実家を手伝ううちに・・・埋めることの難しい“空白”
外で働く夫などに代わって、実家の家業の手伝いや親の介護を担ったという女性たちからの声も多く寄せられました。親や家族の期待に応えるために、自分の人生を選択できず、口をつぐみ続けてきたと言います。

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みやんさん(50代)
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氷河期世代で就活がうまくいかず、実家の自営業手伝いをしていました。
家業や家事、介護等で長年にわたり家庭を支え、それなりに重宝がられてもきましたが、親が高齢で廃業したらそれまで。私のような生き方は「社会経験が積めていない」「ブランクがある」とみなされます。働き盛りの年齢を過ぎて立派な職歴も残せていない中年女性に需要などなく、新卒以来行った就活はまた実りませんでした。
ひきこもりには、なろうとしてなったのでも、まして自ら選びとった「居場所」でもなく、ただ社会から「お前はいらない」と拒まれ、はじかれ続けた結果です。
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たかりんさん(50代)
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私は一人っ子で未婚で、両親の介護をして2人とも見送りました。介護中に離職していて、父の3回忌を済ませて再出発しようと考えていた時にコロナ禍になりました。コロナ禍ではほとんど誰とも会わず、仕事もなく、生き甲斐だった飼い猫も亡くなってしまいました。
世間ではコロナ明けとか言われていますが、私の状況は変わる事はなく、今も何のために生きてるのか自問自答する日々が続いています。私のように天涯孤独である友だちは周りにおらず、孤独感を理解してもらえないことが余計につらく、ますます孤独感が増します。
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ジェインさん(50代)
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30代で婦人科系の疾患で仕事ができなくなり、子供を持つことや結婚も諦めざるをえませんでした。家が自営業なので家事を手伝うことにしましたが、ようやく手術で病気を完治させた直後、母が亡くなり、今度は老齢の父の世話や親戚の世話などが重なり更年期もあって体調不良に悩まされながらも10年がんばってきました。気がついたらもうこんな年になっていて、残されたものは家だけでした。私の人生ってなんだったんだろうと、むなしくなることもあります。
“男性のいる社会が怖い” 性暴力のトラウマ
幼少期に受けた性暴力のトラウマから、男性のいる社会に出ることが怖い。そんな思いを打ち明けてくれた人もいました。また、性風俗などの業界で働いて生計を立て、その後何年もフラッシュバックに苦しんでいるという人もいました。

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毒きのこさん(30代)
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実父や母方の祖父・叔父からの性的虐待や就職失敗が原因で大学卒業後、7年ほどひきこもっていました。20代になって幼い頃の体験が性被害だったのだとやっと気づき、生きづらさの根幹はここにあったのだなとその時思いました。
3年前に実父に性的虐待のことを問い詰めたら「スキンシップだった」と開き直られ、実母からもそれを擁護され、元々ぼろぼろだったメンタルは更にどん底になりました。 現在は家を出て彼氏と同棲していますが、毎日性的虐待のフラッシュバックがあり非常につらいです。彼氏には大事にしてもらっていてとてもありがたいのですが、生活費の事を考えると申し訳なく思っています。
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まなかさん(40代)
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私が生まれてすぐ母親が家を出て両親は離婚。小学校へあがるまでは児童養護施設で育ちました。小学校へあがり父親と他の兄弟たちと暮らすことに。父親は酒を飲む度に暴れ、暴力を振るわれることは日常でした。他の兄弟からは暴力や性的いたずら、レイプ。ずっと自殺を考えていました。
高校卒業後、就職し同僚と籍を入れました。妊娠してからの入籍ということもあり相手の親からもつらく当たられ、主人からは「俺の子か?」と。その後子供が生まれましたが病気が続き、私自身も精神、身体の病気にもなり働くことができず。一時、玄関から出るのも怖い、買い物へ行くだけでも、その場から逃げ出したい、震えが止まらないというようになりました。主婦業も苦手なことだらけ。料理も掃除も片付けも上手くできません。こんな私が生きていてもいいのか。
子どもを授かれない・・・「少子化」という言葉の重圧
さらに、結婚し、子どものいない女性からの声。「どうして結婚しているのに子どもがいないの?」そんな視線にさらされ続けた結果、外に出ること自体がつらいという訴えでした。
仕事の面接に行くと、「お子さんの予定はありませんか」と聞かれ、子どものいる友人からは「子どもがいなくて楽で良いね」と言われてしまう。どこにも属することができない中、少子化のニュースを聞く度に、自分を否定された気持ちになると言います。

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はなさん(40代)
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妊活のために、大手企業での勤めを辞めましたが、2年がんばって結局子どもはできませんでした。復職しようにも就職がありませんでした。
いけそうな求人は給与が前職の何分の1、夫が休日出勤半日で稼いでくる金額を、1週間かかって得られるもので、絶望感しかありませんでした。そうこうしている間に、友だちとも疎遠になり、夫にもあきれられています。
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かふぇさん(40代)
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子どものいない主婦という名のニートのような存在です。5年ほど前に夫の転勤で海外に行きました。海外の暮らしにうまく適応できず孤独が始まり、日本に帰った現在も家にこもりがちです。
コロナで唯一の友人とも疎遠になり、夫に頼ってばかりで日々罪悪感を抱えています。実家は実家で大変なので弱音が吐けません。子どももおらず、働くには体力もなく、世間との繋がるにも、支援は働く前提、子どもがいる前提で子なし主婦は弾かれていると感じます。繋がり方がとにかく分かりません。私よりひどい状況でも懸命に働いている人がいるのに、多少動ける自分は動く勇気がなくて情けないです。
「自分」を思い出せない 母親たちの孤立
子どもに障害や病気があったり、不登校などになったために自分のキャリアを諦め、ひきこもっているという女性からの声も寄せられました。
母親として子どもに尽くす中で、「自分」を失っていく不安がつづられていました。

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ゆきさん(30代)
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障害のある娘が病弱のため、育休から復帰せず、退職しました。子どもを優先して過ごす日々。子どもの用事以外で、社会との接点はありません。子どもの母親、として過ごす毎日から、出産前の自分自身を思い出せません。
何が好きで、毎日何をして過ごしていたのか。時間があっても何をしたら良いか分からず、意味もなくテレビをながめたり、子どもの用事をすませたりしています。子どもがいつか自立したとき、私にはなにも残りません。それが恐ろしいです。
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スダチさん(40代)
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第1子の妊娠を機に退職して以来、家事と2人の子の育児に追われて20年以上経ちました。普通なら、子育てを終え再就職したり、自分の趣味等を再開して、社会とつながるのでしょう。しかし、下の子が不登校からひきこもりになり、精神不安定のため目が離せず、私自身も不安やストレスから体調を崩し、「ひきこもり親子」になってしまいました。
男性に生まれていれば、大好きだった仕事を辞めずに済んだのにと悔しい思いでいっぱいです。
「あなたは悪くない」
“ひきこもり”状態にある人は推計146万人。実に50人に1人に上る―。
3月に発表された国のひきこもり実態調査。その結果は、誰もがひきこもり状態になったり、孤立したりしかねない時代の到来を象徴するものでした。
今回の結果で特徴的だったのは、初めて女性の割合が4割を超え、40歳から64 歳の中高年に限っては、52%に上っていました。
ジャーナリストとして、25年以上にわたってひきこもり当事者の声を聴いてきた池上正樹さんは、今まで男性中心社会に「黙らされてきた」女性たちが、たまらず声を上げているのではないかと見ています。

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ジャーナリスト 池上正樹さん
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『女性は黙って耐えるべきだ』という社会の圧力の中で、追い求めていた生きがいや夢を諦めて、そういうものだと自分で自分を納得させて生きてきた人たちは、これまでにもたくさんいたのだと思います。
それが、時代の変化やコロナ渦でみんなが孤立を経験したことで『あ、そうだ、声を上げていいのだ。こんなに同じように苦しんでいる仲間がいる』ということを知って多くの人が声を上げ始めて、顕在化してきたのではないでしょうか。
そして、多くの人にとって「生きにくい」と感じる社会が変わっていくために必要なのは、「想像力」だと指摘します。
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ジャーナリスト 池上正樹さん
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『もしかしたら自分もそうなるかもしれない』『自分の大事な家族もそうなるかもしれない』と、自分事として受け止めて想像していく。みんなが安心できるような社会にするためにはどうしたらいいのか、一緒に考えて欲しいと思います。
今、自分で自分を責めてしまう苦しみの中にいる人には、『あなたは悪くない』と伝えたいですし、周りを頼っても良いと言うことを伝えたいと思います。
あなたの声を寄せてください
自分が声を上げることで、誰かの力になるかもしれないー。
最近、そう言って声を上げてくださる方が増えていると感じています。
この1000件という数字は、つらい気持ちを抱えた人たちの数でもありながら、より生きやすい社会へのヒントでもあるのではないかと考えています。
言葉のひとつひとつに深くうなずきながら、すべて読ませていただいています。
「気持ちをもっと共有できる場が欲しい」
私たちは、皆さんからのそうした声を受け、取材の音声をそのまま伝えられないかと考え、新しい取り組みを始めることにしました。
音声には、すぐとなりで一緒に時間を過ごしているように感じられる力があります。
サイト「#となりのこもりびと」や、音声プラットフォーム「voicy」(※NHKサイトを離れます)で聞いていただくことができます。
みなさんの声を、「1人ではない」と思える力に、さらに変えていけたらと願っています。

