
働かずに生きていく!?「FIRE」を目指す人たちの本音
あなたは仕事を辞めたいと思ったことはありませんか?
いま、「FIRE」という新しい生き方を目指す動きが広がりを見せています。
生活に必要なお金を投資などの収入でまかない、会社からの給料に頼らずに自立すれば、早くに仕事をやめて残りの人生を働かずに生きていけるというものです。
当然、投資には失敗のリスクもありますが、各地で開かれているFIREに関するセミナーは、若者を中心に毎回盛況。FIREに関する書籍も多数出版され、注目が集まっています。
今回NHKが行った「なぜ働くのか」というアンケートには、赤裸々な声が…。
なぜ、いまFIREを目指す動きが広がっているのか。そして私たちの働く意味とは何なのでしょうか?
(クローズアップ現代取材班)
あなたは「働くことを辞めたい」と思ったことはありますか?

今の仕事に不満がある/やや不満があると答えた人は約36%。
さらに、働くことを辞めたいと思ったことがあると答えた人は約76%にのぼりました。
いまの仕事についてはこんな声が…
「給料の天井がそれほど高くないため、モチベーションが上がらない。」
(20代/女性/正社員)
「年収にはそれほど不満がないが仕事の内容に不満がある。仕事は目的が分からず言われたとおりにやることばかりでやりがいが見いだせない。」
(30代/男性/正社員)
「休日も家に持ち帰って仕事をしないといけない。仕事量もあるが、難易度が高く、考える時間が足りない。結果、精神的な疲弊が続いている。」
(40代/男性/正社員)
給与の限界や職場環境、仕事へのやりがいへの不満が募る結果に…
FIREとは?どんな印象がある?

一方、会社を辞めて働かないという新たな生き方の選択肢として登場した「FIRE」。
元々、アメリカで生まれた新たなライフスタイルで、Financial Independence, Retire Earlyの頭文字をとったものです。直訳すると「経済的な自立と早期退職」という意味になります。
アンケートでは「FIRE」の印象についても聞きました。
「収入と関係なく、やりがい、生きがいのあることに専念できてうらやましい」
(50代/女性/正社員)
「趣味がたくさんある人、守りたいものやお金をかけたいことがたくさんあるのならよい働き方だと思う」
(20代/女性/正社員)
「好きな事をして過ごす事は出来れば良いが、社会的孤立が心配」
(30代/男性/正社員)
「FIREすることで時間に縛られず、自分がやりたいことができると思う。ただ、自分の中で計画や目標を持たずにFIREすると時間を持て余してしまいそう」
(30代/男性/正社員)
「そんなにうまくいくのか?と感じることがある」
(50代/女性/正社員)
やってみたいけど、その後の生活がちょっと不安…そもそも実現できるの…?など、関心はあるものの、一歩踏み出せない人も多くいました。
FIRE生活の実態とは…?
意外と知らないFIRE生活の実態。
番組では、FIRE生活を手に入れた人、FIREを目指している人、約20名を取材。
日々の生活や目標、働くことに対するいまの思いを聞きました。
※名前(ペンネーム・仮名)
(年代/家族構成/(元)勤務先/投資方法)
「将来が不安・・・」FIREのきっかけは?
まずは、FIREを目指すことになった理由を聞きました。
話を聞いていくと、いまの職場環境や将来に対しての不安の声が多く挙がりました。
-
堀川信夫さん・5年前からFIREを目指す (30代/妻・子2人/市役所/株式投資・不動産投資)
-
「今の仕事の上層部の一言ですべてが決まってしまうというトップダウンな体質が自分に合っていないと思ったからです。上司を見ていると仕事の大変さと給料が見合っていないなと感じたこともあります。転職をしても待遇がよくなるとは限らないので、家族がいる中でそのリスクはとれないと思いFIREの道を選びました。株式投資もある程度勉強すれば自分で不確定要素をコントロールできますし、銘柄やタイミングを分散させることでリスクを減らすことはできます。個人的には転職よりもリスクは低いと考えています」
-
イッセイさん・4年前にFIRE達成 (40代/妻・子/元メーカー/不動産投資)
-
「妻が病気で倒れたときに、子どもの面倒を見ながら仕事をしていて、自分もストレスと疲労で倒れてしまったんです。病院のベッドにいるときに「僕が稼げなくなったら、もうこの家は終わるな」と思ったことがきっかけです。サラリーマン以外で、自分が動けなくても稼げる収入源を作る必要があると思い、いろいろ模索する中で出会ったのがFIREという生き方でした」
-
大東さん・今年4月にFIRE達成 (40代/妻・子2人/元ハウスメーカー/不動産投資)
-
「仕事自体は好きだったのですが、ついこの間まで6年間単身赴任をしていて、さらに土日に働かないといけない仕事だったため、子どもたちとか家族と一緒にいる時間がとれず、本当に会社に勤めている意味がよくわからなくなってしまったというのがきっかけですね。FIREをすれば自分の人生の時間の使い方の幅が広がるだろうなと思ったんです」
-
戸田裕子さん ・3年前からFIREを目指す (30代/独身/製薬会社/株式投資・不動産投資)
-
「将来不安が一番大きいです。今の職場は人間関係も悪くないし環境もいいんですけど、今の会社では給料アップは見込めない。なのに物価は上がっている。知らず知らずのうちに相対的に貧乏になっているというところで不安が大きいです」
「勉強」「行動を起こす」FIREを達成するために大切なこと
続いて聞いたのが、どんな工夫や生活をすることで、FIREを達成したかについて。
FIREに欠かせない資産運用の知識や資産を増やすために行っていた工夫。
そして多くの方が、将来のために日々の倹約を心がけていました。
-
堀川信夫さん・5年前からFIREを目指す (30代/妻・子2人/市役所/株式投資・不動産投資)
-
「毎月の手取りは30万円ほどで、そのうち半分くらいを株式投資や投資信託に回しています。不動産は35年ローンで4軒所有していて1軒あたり毎月1万円ほどの利益を生んでいます。今の資産は3000万円ほどで50歳になるまでに2億円ためてFIREすることが目標です。月1回の勉強会やセミナーに参加して投資や税金の勉強をしています。家計簿は私がつけていて妻からは「金の亡者」と呼ばれています(笑)」
-
イッセイさん・4年前にFIRE達成 (40代/妻・子/元メーカー/不動産投資)
-
「不動産投資をするにしても当時はお金があまりなかったのでスピードで勝負するしかなくて、いい物件を買うために不動産サイトを1日に何度も見たり、住宅情報誌が一番早く並ぶコンビニを探して誰よりも早くチェックしたりしていました。不動産はまだまだアナログなところもあるので。あとは不動産に飛び込みするとか、とにかく行動をしていました」
-
岡本亮平さん ・3年前からFIRE目指す (40代/妻・子1人/建設会社/株式投資・不動産投資)
-
「今は投資信託と不動産投資をやっていて、国内と海外に不動産を2軒持っています。これまでFIREするためにいろいろやってきました。仮想通貨でお金をだまし取られたこともありましたね。順調にお金が増えたからいざ引きだそうとしたら、口座のロックを解除するためにお金を振り込むように何度も言われ、弁護士に相談しました」
-
桶井道さん・ 2年半前にFIRE達成 (40代/独身/元会社員/株式投資)
-
「当時の年収は400万円台だったので、節約のために固定費のカットに強い意識を持っていました。携帯電話は格安スマホ、散髪も格安店。コンビニは使わない、飲み会は2次会には行かないなど心がけていました。ただ、何かひとつ自分を満足させる分野の支出については、大目に見ていました。ライブハウスに行くのが趣味で一時期は仕事帰りに毎週のように行っていました」
「お金に縛られずに働きたい」FIRE達成後は?
FIREを目指す人たちは、将来どんな生活を思い描いているのでしょうか?
働かないことを選ぶ人だけではなく、お金に縛られずに働きたいという方もいます。
-
大東さん・今年4月にFIRE達成 (40代/妻・子2人/元ハウスメーカー/不動産投資)
-
「これまで家族と過ごせていなかったので、FIRE後は徹底的に子どもとの時間を大事にしたいです。息子が春から高校3年生で甲子園を目指して野球をやっているので、FIREしたらまず夏までは息子の応援にささげたいですね」
-
中里真衣さん・去年からFIREを目指す (20代/独身/看護師/投資信託・不動産投資)
-
「本当はアパレル業界に行きたかったけど、安定している仕事に就きたいと今の看護師の仕事を選びました。FIREを達成したら自分のやりたかったアパレル業界にかかわってみたいです」
-
米谷優さん・2年前からFIREを目指す (30代/妻/翻訳会社/不動産投資)
-
「10代の頃からスキー選手をやっていて、引退して民間企業に就職したあと、今はスキーチームのマネージャーやコーチとして働いています。FIREの最大の利点は時間を自分の好きなことに100%使えるということにあると思います。今はスキーの若い世代の育成に興味があるので、技術だけではなくて、選手を引退したあとのセカンドキャリアも含めて支援できる仕事ができればと考えています」
-
増田健一さん ・7年前からFIREを目指す (30代/妻・子2人/看護師/株式投資・不動産投資)
-
「経済的自立を達成して初めて自分のしたいような生き方が見えてくると思っています。家族といる時間や趣味に費やす時間をどうするか、そのときになったら考えていきたいです。将来は看護師としての経験をいかして起業をすることも考えています」
「自由な生活?」FIREしたあとの生活とは?
実際にFIREを達成した人たちに今の生活について聞きました。
-
穂高唯希さん・ 4年前にFIRE達成 (30代/妻/元会社員/株式投資)
-
「株を中心に投資を続け、約7000万円の資産を得てFIREを達成しました。いまは、投資などに関する書籍の印税、講演やブログの収入などがあります。年によって変動はありますが、昨年は会社員時代の倍くらいになりました。FIREを達成した後は主体的にやりたいことを決めています。農家のもとで農業を学んだり、趣味の登山や水泳をしたり、好奇心の赴くままに各地の資料館や博物館などに行くこともあります。今日はこれ学んだなという実感は、充実感につながると感じています」
-
小林広太さん・去年FIRE達成 (40代/独身/元介護職員/株式投資)
-
「約10年かけて4000万円の資産をためて今は月十数万円の収入で節約をしながら生活しています。介護職をしていたときは、不規則な生活が続き、ストレスからお酒飲み過ぎてしまうこともありましたが、今は規則正しい生活が送れるようになり、体調も回復しました。月1回の旅行と趣味のマラソンの練習を楽しみに日々を過ごしています」
-
大原誠司さん・3年前にFIRE達成 (40代/独身/元メーカー/株式投資・外貨投資)
-
「ちょうどFIREしたのがコロナがはやりだしたときで何もできなかったので、毎日、カフェに行って新聞を読んで、家に帰ってきてテレビ見て、ネット見るみたいな生活をしていました。FIREする前は何もやることがない生活に耐えられないかなと思っていたんですが、意外と苦痛に感じなかったんです。もともとルーティーンワークが好きだったので自分には合っていたみたいです」
FIRE達成者が語る「価値観の変化」
話を聞いていくと、FIREを達成したあとに、仕事に対する考え方が変わったという声も多く挙がりました。価値観はどのように変化したのでしょうか?
-
小林広太さん・去年FIRE達成 (40代/独身/元介護職員/株式投資)
-
「これまではお金に縛られていたというか、お金がとても大事でしたが、FIREしてから時間の方が大切なことに気づきました。時間は平等に与えられているので、それをいかに有効に使うかということを考えています。仕事中に早く時間が過ぎてくれと思いながら生活するのと、自分で好きなことの計画を立てながら生活するのでは全然違います」
-
中山直樹さん・3年前にFIRE達成 (50代/妻・子1人/元新聞社/株式投資)
-
「前の会社では、管理職になって社内調整の業務に追わるようになり、やりがいが見いだせずに辞めました。FIRE達成したあとに子どもが家でのんびりしている私を見て「将来ニートになりたい」と言いだし、やはり働く姿を見て育ってほしいと思い再就職しました。今はウェブメディアの記者として現場に出て働いています。一度、経済的な自立を達成したからこそ、自分が好きな仕事ができたのでFIREしてよかったと思っています。前職で管理職にならないで現場でずっと働いていたらFIREしていなかったかもしれません」
-
桶井道さん・ 2年半前にFIRE達成 (40代/独身/元会社員/株式投資)
-
「FIRE前はのんびりしたいと思っていましたが、いざ暇な期間を1か月過ごしたときに「これはあかん」と思うようになって、その後「仕事がしたい」と思うようになりました。これは大きな誤算でした。今は仕事をしていたときの経験を生かして子ども食堂の運営にボランティアとしてかかわっています。昔からやりたいと思っていたので楽しく活動しています。好きなことならストレスなくやれる。働くことが嫌いだったわけではないことに気が付きました」
取材を終えて…
取材を通して見えてきたのは、労働環境が厳しさを増す中で、「働く意味」を見出せずに切実な思いを抱えながら、模索を続ける人たちが多いということでした。一方でFIREをしたあとにはじめて、自分のやりたいことが見つかり仕事が好きになったという人も少なくありませんでした。
個々人だけでなく、社会全体として、どうすれば働く意味を見出しやすい環境を作っていけのるか、問い直すときがきているのかもしれません。