
生理がきたことを誰にも言えなかった
親からネグレクトを受けてきた25歳の女性は、小学5年生の時、初潮を迎えたことを言い出せませんでした。どうしていいかわからず学校の先生が気付くまでの1年間、トイレットペーパーでしのいでいたといいます。
虐待、親との確執、DV…。経済的困窮だけでなく、さまざまな要因によって直面する「生理の貧困」の実態です。
幼い頃からのネグレクトの体験

千葉市で10年以上にわたって困難を抱える女性の支援に取り組んでいる大谷明子さん。これまでに関わった女性は80人以上になります。そうした女性たちは生理用品が自由に手に入らない状況を経験している人も少なくないといいます。

数か月前に知り合ったユウコさん(25歳・仮名)の話を本人の了解を得て教えてくれました。
経済的に苦しいユウコさんの生活を立て直したいと相談に乗ってきました。生活状況や家族との関係などを聞くうちに子どものころに母親から受けたネグレクトに話が及びました。
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マザーズ・コンフォート代表 大谷明子さん
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「彼女の母親はシングルマザーで、幼いユウコさんと弟を置いて交際相手と出かけたり外泊したりすることがしょっちゅうだったそうです。初潮を迎えたのが小学5年生の時。でも母親には話すことができず、トイレットペーパーを当てて経血が出たと感じるたびにトイレにいって取り替えていたそうです。当時、経済的にどのくらい困窮していたか分かりませんが、親がネグレクトの状態だったために生理用品が使えなかったんです」
そうした苦しい状況が1年ほど続いた6年生の時、林間学校と生理が重なりました。

ズボンのお尻の部分が汚れていることに気付いた先生が声をかけてくれ、はじめて他人に生理になったことを打ち明けました。
その後、先生が母親に状況を伝えると、ようやく昼用のナプキンだけは用意してくれるようになったそうです。
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マザーズ・コンフォート代表 大谷明子さん
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「自分の成長が恥ずかしいとか、言ったら怒られるんじゃないかと考えてしまい、母親でも信頼関係がないと話せない。自分の存在すら否定されていると感じる中で、初潮が来たことを言ったらまた否定されるんじゃないかと怖くなって言えない。お金がなくて生理用品を買えないというだけではない、もっともっと根深いものを感じました」
家にお金を入れない夫

1年ほど前、行政機関を通じて知り合ったサオリさん(40代・仮名)は夫から経済的なDV、ドメスティック・バイオレンスを受けていたといいます。
幼い男の子3人の育児のため働きに出るのが難しかったサオリさん。夫は仕事が長続きせず収入は不安定で、もともと生活は苦しい状態でした。さらに夫は家計を握り、収入があっても家にはほとんど入れず自分で使ってしまったそうです。わずかに得られたお金でまず買うのは子どもたちの食べ物。次が家族で使う日用品、そして光熱費の支払い。
生理用品はいつも後回しでした。

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サオリさん
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「ナプキンは頻繁に替えなくてすむように、トイレットペーパーを何重にも重ねたものを上に置いて使っていました。立ち上がったり動いたりすると経血が出る感覚があって、とても不安になるので生理のときは家にこもってあまり動かないようにして過ごしていました」
食事もままならない状態が10日ほど続いたある日、食料を支援してくれる制度があると知りました。地元の行政機関に相談し、そこで大谷さんとつながりました。しかし当時は生理用品がほしいとは言えず、食料だけもらって帰ったそうです。
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サオリさん
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「子どものごはんを確保するのに精いっぱいで、自分の生理用品のことまで考えが及びませんでした。家族の中では私だけが使うものだし1か月に1週間だけ我慢すればいいと考えていたんです」
その後、サオリさんは夫と離婚。公的支援を受けて生理用品が買えない状況からは抜け出すことができました。
虐待で身を寄せた場所でも

「たくさん作っておいて、ジップロックに入れて持ち歩くんです。あのときのことは鮮明に覚えていますね。必死だったから」
そう話すメグミさん(24歳・仮名)。高校3年生の時、母親からの虐待が原因で半年ほどファミリーホームで暮らしました。

ファミリーホームは、さまざまな事情で家族と暮らすことのできない子どもを里親の経験者などが自分の家に迎え入れて育てる制度です。子どもを家庭的な環境で育てるのがねらいで作られましたが、メグミさんはここで「生理の貧困」に直面したといいます。

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メグミさん
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「ファミリーホームに入って最初の生理の日に、家の人にナプキンがほしいとお願いしました。すると、あなたを養育するためのお金が市からまだ下りていないから渡せないと言われたんです。その後、お金は入ったのかもしれませんが、それからは生理がきても頼めませんでした。関係が悪くなってホームにいられなくなるかもしれないと思ったからです」
メグミさんはしかたなく、台所にあるラップの上にキッチンペーパーを重ねて、ナプキンを手作りしました。それを袋にいれて持ち歩いていたそうです。
そうした生活が半年ほど続いたあとメグミさんは高校卒業と同時に独立して働き始め、今ではナプキンを買えるようになりました。
「生理の貧困」の背景の問題を見て

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マザーズ・コンフォート代表 大谷明子さん
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「私も母親が厳しく、子どものころは抑圧されて育ってきました。中学2年のときに初潮を迎えましたが、言いだせず母親や姉のナプキンを黙って使っていました。トイレットペーパーを使ったこともあります」
「当時はやり過ごしていたことが彼女たちの話を聞くことで、私にもあったと気付かされました。困難に直面している人は、不快な思いやつらい気持ちにフタをすることが多いのです。こんなもんだ、どうせ私なんてと自分を大事にすることができなくなってしまう」
「生理の問題は単に経済的に困っているというだけじゃない。その先にある問題が見えてくる入り口のようなもので、それぞれの問題を一緒に解決する支援が必要なんだと感じています」
ナプキンだけでは解決できない
大谷さんは生理の問題を改めて認識した今も女性たちへの支援のしかたは変わらないと話しました。困っていることの相談に乗り、必要であれば行政の窓口や病院につきそう。そしてナプキンがなければ渡す。
それは生理で困っている人の問題が生理用品を手に入れられればすべて解決する訳ではないと知っているからです。「生理の貧困」は今、急速に関心が高まり、ことしに入って生理用品の無料配布などを始めた自治体は全国でおよそ30に上ります。
しかし防災用に備蓄していたものを配布して、無くなれば終了するところも多くあります。対策を一過性で終わらせないためにはどうすればいいのか。この問題について取材を続けていきたいと思います。