
「生理の貧困」対策が遅れる長崎県でその理由を聞いた
経済的な理由などで生理用品を十分に手に入れることができない「生理の貧困」。全国500以上の自治体で、ナプキンの無償配布などの支援が始まっています。
しかし「実態がつかめない」「予算がない」といった理由で二の足を踏む自治体も少なくありません。全国の都道府県の中で、対策に取り組む自治体の割合がワースト3だった長崎県もそのひとつです。長崎では、なぜ対策が遅れているのか。県内の自治体や民間団体を取材しました。
(長崎放送局 ディレクター 鈴木 璃子)
食費を限界まで切り詰めた先に・・・

今年11月、経済的な理由で生理用品の購入をためらう女性に話を聞くことができました。長崎県大村市に暮らす、ゆみ子さんです。自宅でエステサロンを営みながら、足が不自由な息子と高校生の娘を養っています。
しかし新型コロナウイルスの流行で、客足が以前の10分の1にまで激減。収入も3分の1ほどに落ち込みました。
子どもたちを養うため、ゆみ子さんは、昼も夜も仕事を掛け持ちして働くことにしましたが、必死に働いても以前の収入にはほど遠いと言います。
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ゆみ子さん
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「睡眠時間は1日に2時間、3時間ぐらいで必死にもがいています。毎日どうしようかという状況です」
ゆみ子さんの家庭の食事は、ごはんと、おかず一品だけの日が少なくありません。食費を切り詰めようと、キャベツの芯まで使うなどしてやりくりしています。
それでも家計は苦しく、さらに切り詰めることにしたのが、娘と2人で月1500円ほどかかっていた生理用品代でした。ゆみ子さんは、1枚のナプキンを取り替えずになるべく長く使うことにしました。
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ゆみ子さん
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「ちょっと我慢してトイレに行く回数を減らしたり、ナプキンを取り替えずにもう1回そのまま使ったりしています。生理用品ひとつとっても切り詰めていかないと、生活の状況が厳しいので」
実態の把握が難しい・・・模索する自治体

ゆみ子さんのようなケースは、県内の他の地域でも少なくはないと見られています。
しかし、対策に踏み切れない自治体も少なくありません。
長崎県の担当者に聞いたところ、「生理の貧困」に対する危機感はあるものの、各自治体が自分たちの市や町でどれくらい困っている人がいるのかという実態を把握するのが難しいため、対策に乗り出せないのではないかということでした。
こうした中、長崎県大村市では、女性のための相談所を市内3か所に設けることにしました。女性たちの声に耳を傾ける中で、「生理の貧困」に悩む人を支援しようと考えたのです。
きっかけは、今年3月、生理の貧困対策のための取り組みが、内閣府の補助金の対象になったことでした。
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大村市の担当者
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「地域女性活躍推進交付金ということで、令和3年度の途中で交付されました。全国のほかの自治体の取り組みを見て、大村市でもコロナで悩んでいる女性たちのために、身近なところで相談できる拠点を作りたいと思いました」

11月、相談所の1つを訪ねました。
シングルマザーや子だくさんの母親などが数多く訪れていました。
相談所で行っているのは、生理用品の無償配布です。
紙ナプキンに限らず、布ナプキンや月経カップといった繰り返し使える生理用品も配布していて、生理にかかる経済的な負担を少しでも減らせるよう工夫しています。
さらに、布ナプキンの作り方を教えたりする中で、スタッフが悩みに耳を傾け、生理の貧困の背景にある経済的な問題などへの支援にもつなげようとしています。
相談所の開設から2か月あまりで、のべ300人以上に生理用品を配布し、市外からも問い合わせが多く寄せられるほど、評判がいいといいます。
2人の子どもを養いながら生理用品を節約していたゆみ子さんもこの相談所のことを知り、訪れました。スタッフとつながりができたことで、自宅にナプキンを届けてもらえるようになりました。
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ゆみ子さん
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「届けていただくと、いつも嬉しくて泣いちゃうんですよね。届けてくれた方が、『こういう時期だけど頑張ろうね』『この先はよくなるよ』と言葉をかけてくれて、その気持ちがうれしくて。自分の仕事が軌道にのってきたら恩返ししたいと思います」
しかし、市の担当者によると、この取り組みが来年度以降も継続されるかどうかは現時点では決まっていないとのこと。事業の継続性が課題となっています。
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大村市の担当者
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「国の事業を活用しているので、この事業が継続されるのかどうかまだわかりません。補助の内容が変わる可能性もあるので、来年度は未定なんです」
「待つのではなく掘り起こす」民間からの動きも

自治体の動きを待たず、民間で対策に乗り出したケースがあります。
「『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき」。
行政に相談できず、人知れず悩んでいる人のために、県内の学校の女子トイレなどに生理用品を配布するプロジェクトです。
メンバーは婦人科の医師や看護師、性教育の団体で活動する人たちなど。
多くの女性と接する中で、「親からの仕送りでは足りず生理用品は余裕がある時にしか買えない」という学生や「母親がナプキンを買ってくれず、トイレットペーパーをぐるぐるにしたもので代用していた」といった声を聞いてきました。
長崎県内の自治体の多くで対策が進まない中、この現状をなんとかしようと、プロジェクトを立ち上げたのです。
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『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき 中山安彩美さん
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「広島県では79%の地方公共団体が(生理の貧困対策に)取り組んでいて、最も進んでいますが、長崎県は5%という低さです。
私たちは、女性や子どもたちの困窮がいまだに見えてこないことを大変危惧しています。行政で把握されていない困窮家庭の女性や子どもたちからの申し出を待つのではなく、こちらから掘り起こすことこそ、今すべきことだと考えています」

プロジェクトメンバーで婦人科の看護師をしている中山安彩美さんに、長崎大学での配布の様子を見せてもらいました。11月から、キャンパス内6か所のトイレの個室に一枚ずつ個別に包装したナプキンを置いています。
個室に置く理由は、共用のスペースだと、女性たちが使いたくても手に取りづらいだろうと考えたからです。
ナプキンの管理を任されているのは、有志の学生たちです。毎日、キャンパス内のトイレをまわって在庫の確認や補充を行っています。悩んでいる人がいたら、学生どうしでも悩みを打ち明けられる環境を作るのもねらいです。
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ナプキンの管理をしている学生
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「同じ学生なので、その他の学生の声とかもすごく聞きやすい、動きやすいところにいるかなと思っています。自分たちのすぐ身近に、見えないところに困ってる方がいらっしゃるはずなので、その方たちにどういうふうに手に取っていただけるか考えています」
さらにナプキンのそばには、生理に関する情報や相談先が書かれたチラシを貼るようにしています。
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『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき 中山安彩美さん
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「ナプキンを配るだけだと、この活動は永遠に終わらないので、性教育の情報を案内をしたり、相談先につながれるようにQRコードを提示したりしています」
こうして、これまで約300個のナプキンが困っている人の手に渡りました。
今後は、長崎市内の小中学校や高校にもナプキンを配布する予定です。また、学校以外の地域の施設にも「ナプキンスポット」を設置して、トイレットペーパーのように生理用品が簡単に手に入る環境を目指しています。
中山さんは行政にも働きかけながら、生理の貧困に悩む女性を社会全体で支える仕組みを作っていきたいと考えています。
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『生理の貧困』対策プロジェクト・ながさき 中山安彩美さん
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「行政より民間の方がスピード感を持ってできることが多いので、モデルケースを作りたいと思っています。この活動を有志だけが行うものとして終わらせるのではなく、今後自治体などにもサポートしていただけるよう、発信していきたいと考えています」

表面化しづらい生理の貧困。「実態が見えないから動けない」のではなく、見えないからこそ先手を打って対策をする必要があると感じました。
NHK長崎放送局では、今後も生理の貧困について取材を続けていきます。
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