
“なな”のこと。その後・・・ ~歌舞伎町の路地裏から抜け出すために~
10月27日のクローズアップ現代+ 「助けて…」と言えない 路地裏に立つ女性たちの放送終了後、SNSなどで様々なご意見、反響をいただきました。
「行政はどうにかできないのか」
「問題提起っていうより現状を伝えているだけ…」
「マスメディアは安全な場所から、血を流し涙を流し、命を削って心を殺され続けている女性たちをただただネタにすべきではない」
そのひとつひとつに目を通させていただき、私自身も改めてこの問題の難しさを痛感いたしました。
私は、女性たちを撮影し、放送することについて、何ヶ月も悩みました。
それでも番組にしたいと思ったのは、女性たちのひとり、“なな(仮名)”の存在があります。
毎日歌舞伎町に立ち続け、「今の私には、これしかないよ」と言いながら、ななの顔にはどこか、“これでいいのか…”という不安が滲んでいました。
「何でも話す。…話せないことなんて、ないよ」
そう言ってくれたななの話を聞かせてもらい、その言葉から、彼女たちが抱える問題の根深さ、複雑さを知っていきました。
「きょうも財布、ゼロだよ」
「フツーに働きたいよ」
夏の終わり、こう語っていた、なな。
放送後しばらくたって会ってみると、ななの心境に大きな変化が起きていました。
きょうは、そのことについてお伝えしたいと思います。
(クローズアップ現代+ ディレクター 坂口 春奈)
前回の記事
「“なな”のこと。~歌舞伎町の路地裏に生きる~」
https://www.nhk.or.jp/minplus/0020/topic032.html
ディレクター「大丈夫だった?」なな「大丈夫だよ」

放送をご覧頂き、女性たちを“ネタ”にしている、そう感じられた方もおられると思います。
「これで本当に良かったのか…」正直、私自身も悩み続けていました。放送後、私はすぐななにメールをしました。
D「大丈夫だった?」
なな「みたみた」
D「記事も書いた」
なな「大丈夫だよ」
D「これで良かったかはわからない」
なな「これで良くなるなら全然いいと思う!」
報道するにあたり、気持ちが揺れるのは情けないことですが、女性たちの現状・窮状を知る度に私の心はぐらつきました。
それでも彼女たちの現状を伝えるべきだと思ったのは、話を、気持ちを聞かせてくれる彼女たちがいたからです。
私自身、何ができるということはありません。
でも、もしかしたら彼女たちを「誰か」「どこか」「何か」に繋ぐパイプにはなれるかもしれない、そんな思いで番組を作りました。
ななが言うように「何かが良くなればいい—」
心からそう思っています。
自分の姿を見て“これじゃあダメだと思った”

11月のはじめ、吹く風が冬の訪れを感じさせるようになった歌舞伎町、ななに会いにいきました。
いつものように元気よく走ってきてくれたななは、「番組、5回見たよ」と言ってくれました。
「ここ、歌舞伎にいるコたちも番組見たって。けっこう話題になってたよ」
聞くと、アプリで何度も何度も自分の姿を見たそうです。
——どうだった?
「“チキン南蛮弁当でございます!”って言ってるのが楽しそうで良かった。でも…」
——でも?
「路上に寝てるのとかさ、やっぱ、あれダメだよね。ダメだと思った…あの姿見てたら…」
「…テレビ見て、こんな生活やめたいって思ったよ」
ななの言葉を聞いて、私自身、ハッとしたことがあります。
彼女は番組を通し、はじめて「自分」を見ました。「自分の現状」を客観的に見たのです。
そして「これではいけない」と思った、と。
モザイクがかかり、仮名となってテレビに映る自分。
そこに映る姿が、なな自身の何かを大きく揺さぶるものとなっていました。
「いま、ほとんど立ってないよ!」
ななは、今、路地裏にほとんど立っていないそうです。他の仕事が見つかるまで「立つこと」をやめることはできないといいますが、躊躇(ちゅうちょ)するようになったそうです。
彼女たちの現状を知っていただき、何かが変われば…社会が変われば…そんな思いでいましたが、「自分の姿を通して、自分が変わる―」
番組はそのきっかけにもなり得るのだということを、改めて、ななが教えてくれました。
「坂本さん、ここから抜け出したい。ちゃんと仕事探したい」

ななだけではありません。
番組終了後、NPOの坂本新さんのもとには同じような境遇の女性たちから「仕事を探したい」という問い合わせが数件あったそうです。
その中のひとりの女性に対し、いま、坂本さんは具体的な就労支援を進めています。
行政も動き始めています。放送後、新宿区などからも意見交換したいとの打診もあったそうです。
坂本さんの活動に協力しながら、区としてもできることを考えたい—、「排除」ではない別の選択肢を模索していきたいとのこと。
番組が、女性たちが「変わりたい」と思う直接のきっかけになったかどうか―、それはわかりません。
けれど、坂本さんの存在を知り連絡をくれた女性たちの明日が、辛いきょうより、少しでも良くなってほしいと願います。
仕事して家を借りたい

そして、ななは、自らハローワークなどに行って職を探すと決めました。
いままで、行こう、行こうと思いながら、二の足を踏んでいた。でも…
「いままで、行く行く詐欺してたからさ、決めたら行くよ」
ななは、自分がその日食べられなくても、友人におにぎりを買うような女性。
人の世話をやくのが好きで、仲間の女性たちの相談にもよく乗っています。
私は、ななには人と関わるお仕事が合っているのではないかと考えたりします。
路地裏に立ち続けていた女性が、そこから‟抜け出したいと思うこと”“気持ちを奮い立たせること”は、きっと、とても難しい。
まだまだそんな社会の構造があります。
「でもね、不安だよ…フツーに働いてなかったし…。不安しかないんだよ、本当は。…警察に捕まるとかもあるじゃん…、ずっとこんなこと、できないよ…」
大きな不安を抱えながら、ななは自ら動き始めました。
路上で寝た冬を思い出したくない、テレビに映る自分の姿がどこか惨めだったから。
そこには、きっといろいろな理由があると思います。
でも、ななは目標を見つけていました。
「仕事をして家を借りたい。それで…すきなひとと住めたりしたらいいよね」

私たちは、何ができたのか?ただただ彼女たちを“ネタ”にしたのではないか?
その問いに対して、まだ答えが出せないでいます。
しかし、彼女たちが思いを言葉にしてくれるなら、その言葉をしっかり届ける。
私は、これからも彼女たちに会い続けたいと思っています。
前回の記事
「“なな”のこと。~歌舞伎町の路地裏に生きる~」
https://www.nhk.or.jp/minplus/0020/topic032.html
関連番組のテキスト記事
10月27日放送 クローズアップ現代+ 「助けて…」と言えない 路地裏に立つ女性たち
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4600/
クローズアップ現代+ 「助けて…」と言えない 路地裏に立つ女性たち
2021年10月27日放送