
命の支援 途切れさせないために オンライン討論/後編
新型コロナウイルスの感染拡大によって、居場所のない子どもたちや、生きづらさを抱える人たちへの支援が届きにくくなっています。2021年2月2日放送のクローズアップ現代+「緊急事態宣言 命の支援を途切れさせないために」では、若年女性や生活困窮者、ひきこもりの人など様々な分野で支援活動をしているNPOや専門家たちがオンラインで集まり、いま必要な対策について意見を交わしました。(前編の記事はこちら)
議論からは「行政の窓口が分野ごとに縦割りで、必要な支援が届きづらい原因のひとつになっている」といった構造的な問題も見えてきました。 苦しむ人たちを支援するために、行政や社会がどのように体制を整えていけばいいのでしょうか。<クローズアップ現代プラス 取材班>
「悩みを抱えている方へ」相談先はこちら※厚生労働省HPへ(NHKサイトを離れます)

橘ジュンさん
若年女性支援を行うNPO法人「BONDプロジェクト」代表
戒能民江さん
お茶の水女子大学名誉教授
国の「婦人保護事業等の課題に関する検討会」で座長を務めた
鈴木和樹さん
生活困窮者の自立支援活動を行うNPO法人「POPOLO」事務局長
勝部麗子さん
豊中市社会福祉協議会・福祉推進室長
「断らない福祉」を理念に子どもから高齢者まで支援を行ってきた
制度のはざまで苦しむ女性たち
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BONDプロジェクト 橘ジュンさん
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社会全体で困っている女の子たちを支える仕組みが、どうやったらできるようになるんでしょうか?
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POPOLO 鈴木和樹さん
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まず、制度が整っていないですよね。
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BONDプロジェクト 橘ジュンさん
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ないですよね。全部、制度のはざまにこぼれ落ちている女の子たちなので、いろんなところから。
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お茶の水女子大学 戒能民江さん
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女性支援は、本来だったら支援までたどりついた女性たちを行政が断らない、しかも全国どこでも行われていなければならないのです。
しかし、相談する場所がどこにあるかもわからない。各都道府県と一部の市区町村には、相談に応じてくれる婦人相談員がいますが、全国で1500人余りしかいません。しかも大都市圏に集中しています。
また若年女性は、親権者の保護のもとにあるかどうかということで、児童相談所と婦人相談所のどちらの管轄なのかという問題が出てきます。行き場がないのが若年女性です。しかしコロナ禍の今、若年女性に対する暴力や性被害などが横行しています。さらに、いろんな問題も同時に抱えていて、いろんな人が、いろんな手を差し出し、支援を一緒にやっていかないとだめなんだということを典型的に示しているのも若年女性ではないかと思います。
始まった「断らない相談支援」
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豊中市社会福祉協議会 勝部麗子さん
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縦割りによって支援の窓口がないということで、「うちではないですね」と断られ、支援の輪から外れてしまう人たちがいたと思うんです。やっと、制度のはざまの問題をみんなが考え始めた状況で、この4月から国は、断らない相談支援体制を作ることになりました。
今年4月に施行される改正社会福祉法。国は、市町村が制度・分野ごとの縦割りを越えて、どんな相談も最初の窓口で丸ごと受け止める、包括的な支援を行う体制を整えようとしています。
この国の事業に先駆け、神奈川県座間市では、「断らない相談支援」の窓口を設け、家賃の滞納から暴力、子育て、介護など、あらゆる相談に対応する体制を整えました。市だけでは対応できない課題は、NPOや民間企業と連携しており、今では連携先は100を超えています。

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豊中市社会福祉協議会 勝部麗子さん
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高齢者の問題を聞いていても、その背景には、経済的なこともあれば家族の問題、いろんな課題がある人たちがいます。また、DVを受けた女性の問題の背後には、実は子どもがリストカットしているなどの状況があるかもしれません。そういう風に考え始めていかないと、いつまでたっても自分のところの問題だけしか見ないという考え方ではだめですよ、というのがこの制度です。
今までは、制度に当てはまるか、当てはまらないかというのが福祉だったのですが、制度にぴったり当てはまる人たちばかりではないのです。確かに、「あなたは制度に当てはまらないですよ」と言うことは正しいことかもしれないですが、そこには優しさがないのです。それでは人は救えません。
そうではなくて、制度からこぼれ落ちる人たちを見つけ、その人たちを助けられる仕組みを新しく作っていくということが求められるのです。そして、それぞれのところでつながった人の手を絶対に離さない、そういう人たちと伴走する体制をいかに作っていくかが大事です。
本当に待ったなしの人たちがたくさんいるというこの機に、行政と民間がもうちょっとスクラムをしっかり組めるように大きく転換してほしいというのが願いですし、今、その最高のチャンスにしたいなと思っています。
「助けて」という声を受け止められる社会に

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POPOLO 鈴木和樹さん
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仕組みを作ることには僕も大賛成で、BONDの橘さんも外に出るし、アウトリーチするし、僕だって路上生活の人を見て回るし、そういったところは民間のほうが速いので、行政にはそういう動きを見たら反応していただけるといいのかなというところは感じます。
一つの団体だけでやろうとすると耐えきれなくなるので、行政とNPO、NPO同士が、地域を越えてつながる意識を持たなきゃいけないと思います。立場を越えて、困っている方をどう応援していくか、そのために、お互いのノウハウや支援の考え方を受け入れていくのが必要だと感じています。「助けて」という社会をどう作っていくか、考えていきたいと思います。
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BONDプロジェクト 橘ジュンさん
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支援者同士でいろいろ情報共有したり、悩みを話すという時間がとれないのも現場の状況だったりするのですが、これからそうした時間を増やしていきながら、社会資源を持っている方たちとつながって、支援できればいいのかなと思いました。
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豊中市社会福祉協議会 勝部麗子さん
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今回コロナでわかったことは、誰もが困難に陥る可能性があるということだと思うんです。女性だけでなく、困ったら、誰でも助けてもらえる、そして助けよう、助け合おうという体制を作ること。目の前の困っている人は、明日の自分かもしれないという意識を持つことが大事かなと思っています。 そして私としては、せっかく悩みを打ち明けてくれたとき、その人の思いをまずはしっかり受け止める、「正しさではなく優しさ」を追求していきたいと思います。
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お茶の水女子大学 戒能民江さん
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どんな人でも支援することにしていかなければ、命をみずから絶ってしまう人がなくならないという状況を正確に認識しなければいけません。そのなかで使命感をもって活動している民間団体の存在を、行政も市民もきちんと捉えて、もっと民間団体が活動しやすいように、担い手を確保するとか財政上の問題とか、社会がもっとバックアップしていく。そして何より他人ごとと思わないということです。誰かが、奇特な人がやっているということでは全然なくて、自分がその社会の一員だということを、深く考えなければいけません。
(収録:2021年1月27日)
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■NPO法人BONDプロジェクト
■NPO法人POPOLO
■豊中市社会福祉協議会
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