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命の支援 途切れさせないために オンライン討論/前編

コロナ禍のいま、女性の自殺が深刻化しています。ここ10年ほど減少傾向にあった自殺者数。去年は、男性が減少している一方、女性は増えています。中でも増加率が高いのが10代~20代で、去年1月から11月までの自殺者数は前の年の1.3倍となっています。 一体何が起きているのか。支援団体を取材すると、新型コロナの感染拡大、さらには緊急事態宣言下で支援が行き届きにくくなり、女性たちがますます孤立を深めている実態が明らかになってきました。

2021年2月2日のクローズアップ現代+では、「緊急事態宣言 命の支援を途切れさせないために」とし、私たちの社会に何が求められているのか、徹底的に考えました。
番組では、若年女性の支援に加え、生活困窮者やひきこもりなど、様々な分野の最前線で活動する専門家とともに、オンライン討論を行いました。活動する分野や地域を超えた連携、行政の役割、行政と民間の協働など、議論の様子を、放送には入りきらなかった内容も含め、2回に分けて公開します。まずは前編です。

(クローズアップ現代+取材班)

緊急事態宣言下 活動が制限される支援の現場

右上:橘ジュンさん 右下:鈴木和樹さん 左下:勝部麗子さん 左上:戒能民江さん

議論に参加したのは、若年女性支援を行うNPO法人BONDプロジェクト代表・橘ジュンさん、国の「婦人保護事業等の課題に関する検討会」で座長を務めたお茶の水女子大学名誉教授・戒能民江さん、生活困窮者の自立支援活動を行うNPO法人POPOLOの事務局長・鈴木和樹さん、「断らない福祉」を理念に子どもから高齢者まで支援を行ってきた豊中市社会福祉協議会の福祉推進室長・勝部麗子さんです。

NPO法人BONDプロジェクト 橘ジュンさん

私たちは東京を拠点に、10代20代の生きづらさを抱えている女の子たちの支援をしているのですが、今回、コロナ禍で全国から相談は来ているものの、直接女の子に会いに行って支援者さんにつなぐことができない状況になっていて、とても大変です。東京から私たちが動いて、そこの場所に行くのはやはりリスクが高いと思いますし、「あなたたち東京の人に会ったら、私たちが2週間自宅待機しないといけないから会えない」って言われたこともあります。対面のほうがいろんなことが分かるんです。雰囲気、においでお風呂に入っていないとか、車中泊の子だったらそういうことも分かるので、悩ましいです。

NPO法人POPOLO 鈴木和樹さん

職員自身が今まで夜回りをしていましたが、私たちもこれまでやってきたアウトリーチの部分がかなり制限されてきています。一方で、コロナ禍で相談件数が圧倒的に多くなっています。そうすると、今までは専門領域の「スーパーマン」と言われるような人たちが自分たちだけで何とかしてきたわけですが、そこには限界があるなと感じています。

若年女性支援 横の連携をどう作っていくか

橘さんや鈴木さんは、自分たちが直接支援できない県外の相談者に対し、その地域の支援団体につなぐことで支援を行えないか、模索を始めています。そのなかで課題も見えてきました。

NPO法人BONDプロジェクト 橘ジュンさん

支援者同士が連携・情報共有するのは難しいというのが実感としてあります。顔見知りで、何度もそういう女の子のことをお願いしているような信頼関係を作れている方には、「すみません、今回もいろいろとご迷惑をかけるかもしれないのですが女の子のことで付き合ってください」とお願いできるのですが、名刺を交換したぐらいの方には、私たちの現場の状況や、あるいはもっと話さないと実態がつかめない子のことは、なかなか伝えられません。容易にいろんな人につなぐことが怖くなっちゃって、自分たちが知っている人しか頼れない状況がずっと続いているのが現実なんですね。

実は、NPO自体も縦割りで活動していることが多いのが実情です。女性支援といっても、生活困窮や虐待、DV、就労、障害など支援内容は多岐にわたりますが、それぞれの分野ごとに法律や行政の支援体制、予算が決められています。NPOもそれぞれの分野ごとで支援を行っており、違う分野のNPOとはつながりが薄いことが多いと言います。

どうしたらNPO同士、連携をとりながら支援を行っていけるのか。すでに連携を始めている鈴木さんは、大事なポイントがあると指摘しました。

NPO法人POPOLO 鈴木和樹さん

一つ目に、団体それぞれの理念の違いですね。相手の団体から相談者を受け入れたとき、その方がすでに受けている支援で前向きになっているのであれば、私たちと方針が違っていても、相手の団体の方針に私たちは従う。だんだんと、私たちのほうに心を許してくれるようになったときに私たちの活動方針の中で支援をしていくのがいいかなと思ってやっていますが、自分たちの普段の方法と勝手が違うので、非常に戸惑うところとか、これで本当にいいんだろうかという葛藤はあります。でも前向きに考えると、自分たちのやり方に固執していたなかで、「ああ、こんなやり方もあるんだ」という発見にもなりますので、非常にいい機会かなと思っています。

二つ目の連携の難しさは、相手の団体とお話しするとき、相談ケースを共有する上でどうしても本人の同意が必要になるので、最初の段階は情報が小出しになるんですね。私たちに言っていることと、その団体に言っていることが違う可能性が一般的にありますので、そこの整合性をとるために、話すにも守秘義務の問題があるので、本人の許可を取らなければ共有もできないので、本人の同意を毎回取っているんです。そこの部分でわずらわしさと、大変さ、難しいなと思っています。本人からすれば、この団体には言ったけど、この団体には言いたくないというのもあるでしょうし、そうすると僕らとしては、事実として知らないので、知らないで接してしまうというリスクもありますし、言っちゃいけない言葉を本人から聞いていないのに言ってしまうとか、そうした部分はあるかなと思います。

コロナ禍で今まで相談に来なかった若い女性の相談が増えたというのが、豊中市社会福祉協議会の勝部麗子さん。NPOに相談者をつなげていく上で大切にしていることがあると言います。

豊中市社会福祉協議会 勝部麗子さん

これまで社会福祉協議会の存在を知らなかっただろうなと思うような人たちなどが1万人以上相談に来られていて、そういう方たちのなかには、これまでなかなか出会えなかった飲食店で働いている女性たちもいらっしゃるんです。しかし、女性相談の窓口やNPOにつなぎたいから「住民票は?」という話から入ると、「もういいわ、そんな、深く調べるなら、やめておくわ」とか、「ややこしいんだったらやめておくわ、もういいわ」ってよく言うんです。何が「もういいわ」っていう話なのかいろいろ考えたときに、難しいことを考えながら関わると「どうでもいいや」みたいな話になってしまうので、私たちは、まずは食料の支援、居住の支援ができるような、今日からすぐ泊まれるところを持っているとか、そういうNPOの方たちにつなげていっているんです。私たちも、そういうNPOとぜひ連携してしっかりサポートしていける、そういうネットワークを築きたいと思います。

行政の制度 いかに機能させるか

    オンライン討論の様子

一方、行政は各都道府県の婦人相談所と、一部の市区町村が窓口となって相談を受け付けています。DV被害などで保護が必要な場合、婦人保護施設と呼ばれる公的シェルターに入所することになります。橘さんたちNPOは、アウトリーチによって保護した女性を公的シェルターにつないでいますが、戒能さんはここにも課題があると指摘します。

お茶の水女子大学 戒能民江さん

若年女性は暴力の問題もそうですし、いまコロナ禍で援助交際なども広がっているんじゃないでしょうか。そういうときに、本当にそこに行くまでに一生懸命止めているのが、橘さんたち民間の支援団体です。でも、それをみんな丸投げしちゃっていていいんだろうかということを本当に強く感じます。 NPOがキャッチアップして、保護して安全を守っているけれども、支援はそれでは終わらないわけです。その次があるわけです。そこが一番、NPOの方は苦労していて、次がないんですよね。だけども、中長期的に女性を支援するための婦人保護施設が、ほぼすべての都道府県にあります。じっくり時間をかけて被害から回復し、次のステップをどうしていこうかということを、一緒に支援しながら考えていける施設があるんですが、そこが利用されていません。ハードルが高すぎるんですね。

戒能さんが指摘するハードルの高さ。婦人保護施設に入所する場合、「携帯やスマホが使えない」「自由に外出できない」「仕事や学校に行けない」など、厳格なルールを設けている施設が少なくありません。そのため、婦人保護施設に入所することを拒否する人が多いと指摘されており、婦人保護施設は定員の2割程度しか埋まっていないのが実情です。

お茶の水女子大学 戒能民江さん

こういうコロナ禍でニーズも高まり、そうせざるを得ない状況をこの社会は示しているわけですから、婦人保護施設の運用を柔軟にしていくことも、新しい仕組みや制度を議論する一つ前の段階として、できることの一つではないかと痛感しています。

議論の後半では、制度の狭間に置かれた若い女性を支援するために、行政、そして社会がどのように体制を整えていけばいいのかについて話し合いました。オンライン討論後編は、あす2日(火)にこのページで公開します。

(収録:2021年1月27日)

後編につづく↓
命の支援 途切れさせないために オンライン討論/後編

<オンライン討論に参加した皆さんの活動はこちら>※NHKサイトを離れます
■NPO法人BONDプロジェクト
■NPO法人POPOLO
■豊中市社会福祉協議会

<あわせて読みたい>
●若い世代に特に関係すること
・ 新型コロナד若い世代” 100人の本音
・ コロナ禍で広がる“パパ活”の実態
・コロナ禍 “夜の世界”に向かう学生たち
●解決策を考える
・生活苦など 女性の悩みを相談できる窓口

・ひとり親家庭を「無料の弁当」で支えたい

みんなのコメント(4件)

美希
60代 女性
2021年2月4日
父親から性的虐待を受け続けて、深く傷ついてリスカが止められない女の子達が紹介された。そんな獣みたいなヤツが何人もいることに驚いた。母親は何やってるの?
暮夜児
男性
2021年2月2日
ためになりました
ミッキー
50代 女性
2021年2月2日
自立支援医療(精神医療助成)を申請し医療保険の訪問看護の利用、行政機関での女性相談員への相談など、もっと医療や行政サービスも活用すべきだと思いました
ムツゴロウ
50代 女性
2021年2月2日
現場で活躍する方々の少しでも支援出来たらと思いました。番組で取り上げて頂かないと知り得ない情報をありがとうございます。今だからこそ出来ることがあればとせずにはいられない苦しさを悶々とした日々を送っています。