
あなたの街の内水氾濫のリスクは?
過去10年の全国の水害による建物被害のうち、河川の氾濫による洪水よりも、実は市街地で起きる「内水氾濫」のほうの被害が大きく、浸水棟数は約21万棟、全体の6割を占めています。
内水氾濫とは、大雨が降ると排水が追いつかず市街地に水があふれる現象のことで、ことし6月頭の記録的な大雨でも全国各地で起きています。
過去には冠水した道路のアンダーパスに車で進入して溺れて亡くなったケースや、地下室で亡くなったケースもあります。
この内水氾濫から命を守るために、まるで天気予報のように、いつ、どこで、どんな内水氾濫が起きるのか、事前に予測する取り組みが始まっています。
(報道番組センター 金森誠)
東京23区の内水氾濫の浸水状況をリアルタイムで予測するサイトはこちら👇(※NHKサイトを離れます)
https://diasjp.net/service/s-uips/"
「内水氾濫」 被害額は約638億円に

ことし6月3日の大雨で、東京の荻窪では、最大50cm道路が浸水しました。
大雨を下水道で流しきれずに道路にあふれた内水氾濫が起きたとみられています。
周辺では半地下の倉庫が浸水して被害を受けた住宅もありました。
内水氾濫は、川の近くや低い土地で起きやすく、アスファルトやコンクリートに覆われた都市化が原因の一つとされています。
東京で過去10年間に起きた内水氾濫による被害額は約638億円にのぼります。
事前に危ない場所を予測 「スイプス」の可能性
早稲田大学の関根正人教授の研究グループは、東京23区の内水氾濫を予測するシステム「S-uiPS(スイプス)」を開発し、去年から試験的にウェブサイトで公開しています。
サイトはこちら👇(※NHKサイトを離れます)
https://diasjp.net/service/s-uips/"
現在は事前に登録すればパソコンやスマートフォンから見られるようになっていて、将来的には一般公開を目指しています。
こちらはことし6月3日の大雨のときの予測の地図。
杉並区の久我山付近、神田川や玉川上水のある地域です。
このシステムは、気象の観測データと予測データから20分先の浸水の予測をリアルタイムで表示するようになっています。

例えば、こちらの図は、午前2時35分時点で、午前2時55分にどうなっているかを表示しています。水色はその道路上で1cmの浸水が起きている可能性がある場所を示しています。
黄色は20cm以上、オレンジは40cm以上の浸水予測です。
過去の水害の事例や実験から、水深が50cmを超えると大人でも避難が困難になると言われていますので、オレンジ色のエリアは注意が必要な場所です。
中央に避難所がありますが、その周辺で浸水している場所が多く、もし避難をする場合はオレンジや黄色のエリアを避けて避難をすることが望ましいと考えられます。
実際のウェブサイトでは時系列の変化をアニメーションで確認することができます。
20分先の浸水状況を見ながら、安全な避難ルートを考えることができます。
さらに、20分先を予測できることから、大雨が降り続いて水深がより深くなる可能性も事前に把握することができます。
次の画像は同じ日の新宿駅周辺の午前3時ちょうどの予測。

駅の東西をつなぐ鉄道の高架下の大ガード(紫で囲った部分)は、このときは緑色で水深10cm以上の予測でした。ところが、その後の予測を見ると…。

14分後の午前3時14分に、大ガードで黄色の20cm以上の浸水になるという予測が表示されました。
車の場合は、水深30cmでも走行できなくなると言われているため、この予測の通りの浸水状況になっている場合は、誤って進入すると走行スピードによっては抜けられず立往生してしまうおそれがあります。
時間帯は異なりますが、前日の日中に新宿区代々木のアンダーパスで浸水した道路にトラックが進入し、立往生したことが確認されています。開発した関根教授は、道路管理者が通行止めにする判断にもこの予測システムを活用できると考えています。
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早稲田大学 教授 関根正人さん
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「道路一本一本の単位で20分先の浸水状況が予測できるため、20分あれば別の安全な道に移動して避難することもできます。道路管理者は、浸水が深くなる予測の道を通行止めにする判断にも活用できます。どこがどう変化して危険になる可能性があるのかを把握した上で、さまざまな行動に生かせるシステムだと思います。ふだんの雨のときから見ていただくと、浸水しやすい場所を確認することもできます。」

水の流れを伴う内水氾濫 東京のどこで起きる可能性があるか
予測はどのように行われているのでしょうか。
計算に使用しているのは、東京23区内の約60万本の下水道と約50万本の道路のインフラネットワークの面積や高低差などのデータ。
コンピューター上に仮想の東京の都市を作り上げ、そこに雨が降ったときの水の流れを計算して浸水の深さを予測しています。
この技術を応用して、さらにリスクが高い場所がどこなのか、調べてみることにしました。
下の画像は渋谷駅周辺の内水氾濫の流速を示した地図です。
想定しうる最大規模の雨、1時間153mmのいわゆる“1000年に1度の雨”が降ったときに、降り始めから1時間半後の浸水の状況です。

赤いところは流速が毎秒80cm以上と流れが早い場所で、渋谷駅の北側の鉄道の高架下や六本木通りのアンダーパス、そして白い丸で示したエリアなどが示されています。
白い丸の場所には流れを生む“ある原因”が隠れています。
次の写真の場所ですが、何か分かりますか。

表参道から一本入ったこの道。周辺の建物より一段低くなっています。
ここは、もともと渋谷川が流れていた場所で今は蓋がされて地下水路になっている道路です。
川の流れは残っていることから、内水氾濫が起きたときに流れが発生するおそれがあるというのです。東京23区のほかのエリアではどうなっているのでしょうか。

降り始めから2時間後の流速を示しています。
荒川周辺の江戸川区や葛飾区などは流速が早い場所が比較的少なくなっています。
一方で23区の西の方の区では、流速が早いエリアがまばらにあることが分かりました。
東京以外のほかの地域の内水氾濫のリスクはどうなっているのでしょうか。
NHKの全国ハザードマップで一部の地域の内水ハザードマップを確認できます👇

国土交通省によると、想定最大規模の雨の内水浸水想定区域図は2022年9月末時点で、下水道による浸水対策を実施している1108の自治体と団体のうち約1割の122団体において作成済みとなっていて、2025年度末までに作成することを目標としています。
全国ハザードマップでは、全国の市区町村に取材し、データ提供の許可が下りた自治体の情報を掲載しております。河川の氾濫による洪水や土砂災害のリスクも確認できますので、お住まいの地域やよく行く場所のリスクを確認してみてください。
※東京都の内水氾濫のリスクについても、全国ハザードマップで「洪水」を選択して地図上で確認ができます。ただし、東京都から提供を受けた、「河川の氾濫による洪水」と「内水氾濫」を重ね合わせた結果となっています。
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報道番組センター(社会番組部) ディレクター 金森誠
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2006年入局 鳥取放送局、盛岡放送局などを経て現所属 NHKスペシャルやクローズアップ現代などの報道番組を担当
大水害から命を守れ!“内水氾濫”あなたの街の危険度マップ
6月12日(月)放送・放送後1週間見逃し配信中