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追跡 “PFAS汚染” 高濃度地域 住民に不安広がる

全国各地で検出が相次いでいる有機フッ素化合物=PFAS。その一部は発がん性や子どもの発育への影響などの有害性が指摘されています。

環境省がこれまでに発表している調査結果をNHKが独自にまとめたところ、国の暫定指針値、1リットルあたり50ナノグラム(PFOS・PFOAの合計)を超える値が検出された地点は全国で139にのぼりました。

このうち特に高い値が確認されているのが大阪府や沖縄県、東京都などで、これらの地域では住民の血液からも高い値のPFASが検出されるなど不安が広がっています。各地の実態を取材しました。

大阪:水や野菜、血液まで・・・ 工場由来のPFAS汚染

【関西地方 地下水で指針値を超えた場所】
※地下水の正確な調査地は公表されていないため、自治体の役所・役場の所在地を示しています。

139地点のうち、最も高い値が確認されているのが大阪府です。
製造業の工場が点在する大阪府摂津市では2007年以降、大阪府の調査で市内の水路や井戸などで高い値のPFASが相次いで検出されています。

最新の調査(2022年8月)で最も高い値が確認されているのは、市内に住む男性が所有する畑で、家庭用の野菜や果物を作るために使っていた井戸水です。3年前、井戸水のPFAS濃度が指針値の440倍=22000ng/Lにのぼっていたことが判明。その後の調査でも毎年20000ng/Lを超える値が検出され続けています。また、研究者が詳しい調査を行ったところ、土壌や野菜などからも相次いで検出されました。(京都大学 小泉昭夫名誉教授・原田浩二准教授調べ)

※環境省のデータに反映されていない府の調査の数値です。環境省データでは最大値が大阪市の5500ng/Lとなっています。

さらに2021年、工場周辺の住民を対象に行われた血液検査でも、男性の血中からは128.1ng/mLのPFASが検出され、アメリカの学術機関全米アカデミーズが示した「PFAS臨床ガイダンス」で、特に注意が必要とされる指針値20ng/mL(PFOSなど7種類のPFASの合計値)を大きく上回っていました。男性を含め検査を受けた9人全員がアメリカの指針値を上回り、5人が100ng/mLを超えていました。

血中濃度の高さはPFASを含んだ野菜を食べていたことが原因なのではないか-。健康への影響を心配した男性は野菜作りを諦めることにしました。

男性

「この畑ではよく葉物が育つんですよ。本当に潤沢に作って食べていたので、それが食べられなくなるというのは気持ちとしてはもうやりきれないです。でも私が食べてしまったらそれを見て孫が食べたら大変ですし、もうやめるしかないですよね」

摂津市内のPFAS汚染の主な原因とされているのが、空調機器の大手メーカー、ダイキン工業淀川製作所です。この工場ではフッ素樹脂やゴム製品の製造に必要な助剤など、1960 年代後半からPFASの一つPFOAを製造・使用してきました。

ダイキン工業はNHKの取材に対し、次のように回答しています。

ダイキン工業の回答

▼当社は過去にPFOAを淀川製作所で製造・使用していたため、敷地外の PFOAについては、当社が発生源の一つであると認識しております。

▼2009年から現在に至るまで、敷地内の地下水の汲み上げ・浄化を実施しています。

その結果、周辺の地下水、流域河川における PFOA 濃度は経年的に低下傾向にあると認識しています。現在、指針値を超えるPFOA 濃度の地下水が敷地外に流出しないように、費用をかけて、遮水壁の設置や浄化設備の増強・改善に向けて取り組んでいます。

しかし住民からは、今も工場周辺で高い値が検出されていることから、工場の敷地内だけでなく、敷地の外の対策や補償についての協議を求める声が上がっています。

50代女性

40年以上摂津市内で暮らしてきた50代の女性は、PFASの汚染が広範囲に及んでいる可能性を危惧しています。子どもの頃からこの地域で暮らしてきた女性は、工場でPFOAの製造が始まった当時、市内ではまだインフラの整備が進んでおらず、雨が降ると下水や排水があふれることが多かったと話します。

50代女性

「大雨が降ると田んぼなのか道なのかがわからず、雨水がすぐにはけないで引いていかない状態が続いていました。小学校でも運動場の水が1週間くらいはけないような土地柄だったので、工場から排出されたPFASが広範囲に広がっていても不思議ではないと思っています」

かつて自身の子どもがPFASとの関連が指摘されている病気を患った経験があることから、健康への影響を懸念しているという女性。ダイキンに対して、工場周辺の汚染の責任をとり、さらなる調査や水の浄化を進めてほしいと訴えています

50代女性

「空気清浄機などの機械を作っている会社が、水や土を汚染している原因になっているという状況がとても矛盾しているように感じています。地域住民の健康調査を行うなど前向きな対応をとってほしいと強く思います」

こうしたなか3月、摂津市議会では健康影響の解明と指針の整備を求める意見書を可決。地下水などが飲み水だけでなく農業用水にも利用されているとして、▽血液に関する分析方法と目標値等の調査研究 ▽食品中のPFOAについての含有実態調査などを国に求めました。

摂津市民を中心とする「PFOA汚染問題を考える会」環境省へ署名提出

また、摂津市民を中心とした市民団体も国に対して2万3千筆の署名を提出し、健康調査や流出防止などの対策を求めています。

沖縄:原因はアメリカ軍か 基地周辺で相次ぐ検出

【沖縄 河川など公共用水域で指針値を超えた場所】

一方、河川などの公共用水域で最も高い値が確認されているのが、在日アメリカ軍専用施設の7割が集中している沖縄県です。2016年、沖縄県が嘉手納基地周辺で水道水の水源にもなっている河川で高い濃度で検出されていることを発表。日本でPFAS汚染が大きく注目されるきっかけとなりました。

以降、基地周辺にある複数の河川や湧き水、さらに一時は水道水からも高濃度のPFASが検出されています。

沖縄県環境保全課が独自に行っている調査では、2022年6月の最新の結果で47か所のうち33か所で暫定指針値を超えていました。県はPFASを含む泡消火剤を利用してきたアメリカ軍基地が汚染源である可能性が高いと考えていますが、基地内での立入調査が実現しておらず、いまも特定には至っていません。

こうしたなか県内では2022年、市民グループ「PFAS汚染から市民の命を守る連絡会」が基地周辺に住む人など387人を対象に血液検査を実施しました。PFOS・PFOA・PFHxS・PFNAなどの血中濃度を調べたところ、宜野湾市や北谷町など基地周辺の5つの自治体の329人の平均は23.3ng/mL(4物質の合計)。

環境省の全国調査(2021年)の平均と比べて2.7倍で、アメリカの指針値を超過する人は52.9%にのぼっています。

嘉手納基地の近く北谷町に暮らす徳田伝さん(68)

30年以上嘉手納基地の近く、北谷町に暮らす徳田伝さん(68)もその一人。血液検査を受けたところ4つのPFASの合計で 27.1ng/mLが検出され、アメリカの指針値を上回る結果となりました。(PFOS 11.9 PFOA 3.3 PFHxS 9.7 PFNA 2.2)

日頃から水の摂取には気を遣い、飲み水はミネラルウォーターにしてきましたが、経済的な面を考慮すると、煮物やスープなど料理にまでミネラルウォーターを使うことはできず、水道水を利用せざるをえないと言います。

徳田伝さん

「過去に浄水場の水から高い値が出ていたので飲み水については意識していましたが、検査結果の数字を見てびっくりしました。『まさか』とショックを受けましたね。そこまで自分自身が汚染されているということには、考えが及んでいませんでした。この先、健康被害が出てこないか不安を感じます。できるだけ今の水の使い方を変えたほうがいいとは思いますが、生活上はどうしても水道水に頼らざるを得ないのが難しいところです」

現在、水道水から目標値を超える値は検出されていませんが、徳田さんは早急な汚染源の特定と対策を求めています。

徳田伝さん

「米国内でも基地周辺のPFAS汚染が問題になっていますし、現状から見たら沖縄も基地由来の可能性がとても高いと思います。でも基地の中の調査すらできない状態が続いていて、正直なところ住民の健康が軽んじられているように感じます。私たちが安心して生活できるような対応を国にも米軍にもとってもらいたいです」

東京:広がる地下水の汚染 水道水への影響は?

PFASの汚染は首都圏にも広がっています。

【首都圏 地下水で指針値を超えた場所】
※地下水の正確な調査地は公表されていないので、自治体の役所・役場の所在地を示しています。

このうち、古くから豊かな地下水にめぐまれている東京では、環境省の公表データでは、37か所の地下水で指針値超えが確認されました。
地下水を水源にした水道水からも、かつて高い濃度のPFASが検出されていました。

2020年1月、東京都水道局がホームページで発表したデータによると、2か所の浄水所から供給されていた水道水で、現在の目標値と比べて2倍以上となる100ng/L(PFOS・PFOAの合計値)の濃度が6年にわたり続いていました。
都は慎重に監視し続け、PFASの濃度が高い井戸の使用を次々に中止してきました。現在、11施設34本の井戸で取水を停止。現在では、都が管轄する水道水は全域で目標値を大幅に下回っています。

PFAS濃度が高いため取水を停止した井戸がある施設

1.  立川市  立川栄町浄水所  一部停止
2.  府中市  府中武蔵台浄水所 全部停止
3.       若松給水所    一部停止
4.  調布市  上石原配水所   一部停止
5.  小金井市 上水南給水所   全部停止
6.  小平市  小川給水所    一部停止
7.  国分寺市 東恋ケ窪配水所  全部停止
8.       国分寺北町給水所 一部停止
9.  国立市  国立中給水所   一部停止
10.       谷保給水所    一部停止
11. 西東京市  保谷町給水所   一部停止

住民の不安はこれまで飲んでいた水道水の体への影響です。多摩地区では、住民が集まり「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」を結成し、2022年12月、600人の希望者を対象に血液検査を始めました。PFASがどの程度人体に入り込んでいるのか、京都大学で血中濃度を分析してもらうことにしたのです。

2023年5月に発表された551人の中間結果によると、4つの物質(PFOS、PFOA、PFHxS、PFNA)の血中濃度の合計は、平均で24.2ng/mL。5割の人がアメリカの指針値を超えていました。

血液検査を受けた高木比佐子さん

今回、血液検査を受けた高木比佐子さん。40年以上国分寺市で暮らしてきました。
高木さんの血中濃度は、
PFOS:16.0 PFOA:7.4 PFHxS:32.1 PFNA:3.4で、
合計値が58.9ng/mL。アメリカの指針値の3倍近い値でした。

高木比佐子さん

「いったいこれをどう解釈すれば良いのか、どう読み込めば良いのかわかりませんでした。私の体はこれからどういうふうになっていくのかという不安が募ります」

実は高木さん、7年前LDLコレステロールの値が高い脂質異常症と診断されています。今回の結果説明で、PFASとの関連が指摘されている症状だと初めて知ったといいます。

高木比佐子さん

「もしかしたら1つの原因なのかもしれない、なんらかの関連性があるのかもしれないと思いました。PFASが体の中に蓄積されていた場合、どういう影響が出てくるのか、あるいは出てこないのか、私の子どもの世代、そして孫の世代についても心配しています。しっかりと調査してほしいです」

一方、国立市在住で、小1から中1まで3人の子どもがいる近藤敬子さん。「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の共同代表を務めています。

今回の血液検査にはボランティアスタッフとして参加しました。PFASの一部について子どもの成長への影響や抗体反応の低下などが指摘されていることを知り、この問題に関心を持ちました。

今後、子どもたちが安心して生活を送れるよう、住民が手弁当で検査をするのではなく、国や自治体が主導してより大きな規模で調査を行ってほしいと訴えています。

「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の近藤敬子さん
近藤敬子さん

「水道水からPFASが検出されたことに初めはびっくりしました。わからないことが多い中でいろいろと学んでいき、今は自分でもできることは何かということを考えています。不安だからこそ、こういう血液調査が大事だと思っています。

自主的な調査だと希望する全ての人の採血はできませんし、協力してくれる病院の負担も大きくボランティアでする活動には限界があるので、国や東京都にしっかり対応してほしいと思っています」

“全国規模の調査で早急な実態把握を”

京都大学 原田浩二准教授

大阪府摂津市、沖縄県、多摩地区の血液検査の分析を行ってきた京都大学の原田浩二准教授がまとめたこれまでのPFAS(4種類)の血中濃度の結果です。環境省が2021年に行った調査と比べると、3つの地域はかなり高い結果となっています。

原田さんは今後、行政によるPFAS血中濃度の調査を全国規模で行い、早急に実態を把握するとともに、PFAS血中濃度が高いことがわかった特定の地域では追跡調査も必要だとしています。

京都大学 原田浩二准教授

「日本人の平均的なPFASの血中濃度は、まだはっきりとした数字が出ているわけではありません。しかし摂津市や多摩地区、沖縄で行った血液検査の平均血中濃度というのは非常に高く、性別や年齢の影響を加味しても誤差による結果ではないと考えます。

アメリカのガイダンスが示した血中濃度20ng/mLというのは、すぐに急いで何かの治療が必要というわけではないのですが、通常よりも注意深く診察するべきという提案をしています。

血中濃度が高くなるというのは何かがPFASで汚染されてないと起こり得ないものですが、やはり摂津市であれば汚染された土壌で栽培した野菜、沖縄や多摩地区であれば過去に水道水にPFASが含まれていたことが主な原因だと考えられます。

ただ、それ以外にもさまざまな形でPFASを摂取している可能性があるので、今後さらに調査を行い、対策を考える必要があると思います。

現時点では水道水中のPFAS濃度が下がっているので、新たな摂取は抑えられますが、すでに体に入ってきた分をどうするのかということが重要です。今後こうした地区の方の血中濃度が十分下がり切っていくのか調査を継続する必要があると考えます」

環境中や体内に長く残留するPFAS。
この化学物質に私たちはどう向き合っていけばいいのか、今後の対応が問われています。

取材を通して

〈報道番組センター ディレクター 渡邊覚人〉
今回の取材は、これまでに高い値のPFASが確認されている地域を中心に行いました。過去3年の環境省や自治体の調査では、河川や地下水などで139地点が暫定指針値を超過していましたが、実際にはわかっていないだけで、もっと汚染が広がっている可能性があります。住民の血中濃度も、すでに明らかになっている地域以外でも、高い値が確認されるかもしれません。
例えば私が取材したアメリカ東部のメーン州では、下水処理施設で出た汚泥の廃棄場所の周辺や、その汚泥を肥料に使っていた農地など、思わぬ場所を原因とする深刻な汚染が確認されています。そして州はその影響が考えられる土地や水道、住民の血液などの調査を積極的に行っています。日本でも、製造・使用が禁止されている一部のPFASを過去に製造していた工場や廃棄物処理場の周辺など、可能性がある場所を調査するとともに幅広く血液検査を行っていくことが必要だと実感しました。国や自治体の調査と並行して、私たちも独自の取材をさらに深めていきたいと思います。

〈第2制作センター・科学 ディレクター 苅田章〉
東京都水道局が多摩地区で水道水のPFAS低減対策を取り始めたのは、国が暫定目標値の検討を始めた2019年6月からだったと答えています。それまでは数値を公表せず、高い低いという認識を持たぬまま、そのまま配水していました。
このように、今回の取材を通して「国の動きを待つ」「それまでは判断しない」東京都のPFAS問題に対する姿勢が浮かび上がっています。不安を抱く住民は、土壌や食品、血液中のPFAS調査を強く求めていますが、東京都は、国が調査・分析方法や基準をまだ定めていないことなどを理由に、調査する考えを示していません。一方、沖縄県のように土壌調査を独自に始めている自治体もあります。改めて国がPFASへの対応を加速化することや、自治体でも独自の積極的な取り組みが求められています。

担当 地球のミライの
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