地球温暖化による水不足問題 世界各地で水を巡る攻防戦【インスタ画像でわかりやすく解説】
今月6日からエジプトで開かれている、気候変動対策を話し合う国連の会議「COP27」。「水の安全保障」を争点のひとつとしています。各国は気候対策・水対策が国の安全保障に関わることに気づき始めたのです。
100を超える国の首脳らが参加する首脳級会合の冒頭で、国連のグテーレス事務総長が、「人類には選択肢がある。協力するか滅びるかだ」と述べて国際社会が一致して気候変動対策に取り組むよう訴えました。
いま地球の気温は産業革命前より1.1℃上昇し、これが1.5℃を超えると、後戻りできない、深刻な影響が広がるとされています。ことしは、日本でも「記録的な猛暑」となり、また世界各地では熱波や干ばつなど異常気象が相次ぎました。気候変動による危機で何億という人々の、命や暮らしが脅かされています。
今回、世界各地を取材すると、私たちの生活に欠かせない「水」を巡る様々な対立やあつれきが起きていることがわかりました。
(クローズアップ現代「世界を襲う“水クライシス” 」取材班)
※サムネイルの画像を矢印に沿ってスワイプすると、インスタグラム「地球のミライ」で投稿した画像の続きを見ることができます。
食べ物にどれくらい水を使うか知っていますか?
「日本にはいくらでも水があるから関係ない」…と思っていませんか。
実は、毎日食べる食べ物には大量の水が使われています。
塩ラーメンにはこれだけ水が必要(出典:環境省)
970リットル=ペットボトル(500ml)×1,940 本

バーチャルウォーターとは
輸入している食料を自国で生産するとしたら、どの程度の水が必要か計算したものです。
例えば、1kgのトウモロコシを生産するには、1,800リットルの水が必要です。
実は、海外から食料を輸入することによって、生産に必要な分だけ日本の水を使わないで済んでいるのです。
つまり、食料の輸入は、あたかも水を輸入しているようなものと考えることができます。
水の輸入ランキング
1位 日本
2位 メキシコ
3位 イタリア
4位 ドイツ
5位 イギリス
※輸入から輸出を差し引いた数字
出典: NGO 「ウォーターフットプリントネットワーク」 東京大学 沖大幹研究室(森かりん)まとめ
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東京大学 沖 大幹教授
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「全世界で比較すると、正味の輸入量(輸入から輸出を引いた数)では、世界一位の958億7,070万㎥/年です。食料生産には、大量の水が欠かせません。日本は食料輸入を通じて大量の水を海外に頼る、水不足に脆弱な国なのです」
牛丼はこれだけ水が必要(出典:環境省)
1,889リットル=ペットボトル(500ml)×3,780本

ほかの食べ物は?

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東京大学 沖 大幹教授
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「水の恵みは、水道の水だけではありません。食べ物や着ている服などにも、大量の水の恵みが詰まっています。『こんなに水が使われているんだ』と驚くだけでなく、バーチャルウォーターの考えを通して世界の水問題と日本の私たちの暮らしの結びつきについて、思いを巡らせていただけるといいのではないでしょうか」
当たり前のように水はあると思っていませんか?
これを機に水について考えてみましょう。
世界各地で起こる 水資源の奪い合い
フランス中部のピュイ・ド・ドーム県では、火山性の地層から豊富な水が湧き出ていて、この地域では食品メーカー「ダノン」がミネラルウォーターを年間12億本生産しています。
実は、いま「水」をめぐって食品メーカーと住民との間に争いが起きています。

最悪の干ばつとなったヨーロッパ。干ばつが長引くと大地が乾燥し、雨水が浸透せず地下に蓄えられないことが明らかになっています。この地域では湧き出る水の量が減少。住民たちは、水の枯渇は地下水の減少と、ダノンによるくみ上げが原因だと考えています。
“このままでは地域の暮らしが立ちゆかない”
裁判でダノンに損害賠償を求めるにまで至っています。

先祖代々、地下水脈から水を引いて養殖を営んできたドフェリゴンドさんは、年間24万匹のマスを養殖してきました。しかし近年、目に見えてわき出る水の量が減少し、廃業に追い込まれました。
地下水を利用してきたリンゴ農家では、ことしの水不足で本来の大きさに育たず、2~3割が売り物にならなくなり、大きな打撃を受けています。
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地元農家
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「小さすぎて売り物になりません。この辺りの農家はみんな同じ問題を抱えています」
ダノンはNHKの取材に「私たちも近年の干ばつを注視していて、持続可能な方法で取水量を減らしている」と回答しました。
いま、世界各地では飲料メーカーと地元住民の対立が頻発。アメリカやドイツ、メキシコなどに広がっています。
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ドフェリゴンドさん
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「みなさんがミネラルウォーターを1本買うたびに、私たちの数千ヘクタールの土地を干上がらせています。水は共有の財産なのです」
水をめぐる争いは、国家間のあつれきにもつながっています。
イラクの上流に位置する隣国・トルコではイラクと同様に、近年干ばつに見舞われ水不足が問題となっています。
去年、チグリス川の上流に完成した巨大な水力発電ダム。トルコ政府は、せき止めた水を飲み水や農業用水にも利用しています。そして、いま、イラク上流でさらに3基の巨大なダムの建造を進めています。
これに対し下流のイラクは、「トルコによる水の独占で、川の水量がさらに6割低下した」と猛反発しています。
気候変動予測の第一人者が警告
日本ではことしの夏、「記録的な猛暑」となり、世界でも熱波や干ばつなど異常気象が相次ぎました。
イラクでは、2022年は例年の1/10の雨に。2か月に及ぶ砂嵐で健康被害も。
ドイツでは、ライン川の水位が30センチ程度に下がり、物流船舶が運航できず。
アメリカでは、“1200年で最悪の干ばつ” が続く。
地球規模で加速化する温暖化で、国連食糧農業機関は2025年までに3分の2が水に不自由することになると指摘。
気候変動予測の第一人者、ポツダム気候影響研究所のハンス・J・シェルンフーバー名誉所長に、わたしたちはどうしたらいいのか聞きました。

地球温暖化の「最悪のシナリオ」
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ハンス・J・シェルンフーバー氏
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「地球温暖化で最悪の場合何が起こるかというと、地球上のいくつかの地域は居住不可能になります。理由の1つは、水がなくなることです。
ペルーなどの地域では人々は夏の間、氷河の水に頼っていて、水源になっています。氷河がなくなれば、夏の間は水がなくなります。世界各地で、人々がこのような課題に直面することになります。
私たちの計算によると、40億の人々が地球温暖化によって住む場所を失う可能性があります。
40億もの人々が水をめぐり戦争をすることなく、血を流すこともなく、平和に移住するところを想像できますか?」
キーワード「社会全体」で
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ハンス・J・シェルンフーバー氏
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「私たちは2、3年前には地球温暖化を少なくとも2℃未満に抑えることが順調に進んでいると考えていましたが、危うい仮定であることが分かりました。ロシアによるウクライナに対する軍事侵攻で、エネルギー転換を進めていたドイツも石炭火力発電所の使用を延長することになったからです。それは気候に大きな悪影響をもたらします。
私たちが自己中心的で利己的で、攻撃的で、お互いに嫉妬し続けるなら私たちは皆、気候危機で滅びます。まず、私たちは気候変動を「緩和」する必要があります。地球温暖化を約2℃に抑えるには、排出量を削減する必要があり、そのためには、世界が力をあわせる必要があります」
日本の温暖化解決策は?
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ハンス・J・シェルンフーバー氏
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「地球温暖化を抑えるための解決策に、私たちはほぼすべての努力とエネルギーを集中させるべきだと思います。
建設部門のコンクリートと鉄鋼を、木材と竹に置き換えることです。日本には長い伝統がありますね。木が光合成によって大気中の炭素を吸収しながら成長します。つまり、炭素を長年使用される建物の中に閉じ込めてしまえば、大気中の炭素を減らしたことになります。
古くからある建設方法を取り入れることで、気候を癒やす手助けができます。このような解決策の観点から考える必要があると思います。
多くの解決策は自然によって提供されます。私たちはそれを「自然に基づく解決策」と呼んでいます」
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インスタグラム「地球のミライ」では、環境問題や気候変動のほかSDGsの達成に向け、いま課題になっていることを写真やグラフィックで紹介しています。こちらも合わせてご覧ください。
インスタグラム「地球のミライ」※NHKサイトを離れます
