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広がる「サステイナブル」観光

新型コロナウイルス「第7波」のなかで迎えた夏休み。コロナによる影響が長引く中、観光地の中には、これまでとは違った意識が芽生え始めているところもあります。
キーワードは、「サステイナブル」(=持続可能性)。国立公園や観光地をめぐる乗り物、世界遺産の寺社など、観光地で進むサステイナブルな取り組みを取材しました。

(地球のミライ 取材班 ディレクター 酒井利枝子)

政府は「感染症対策と社会経済活動との両立を図る」として、かつてのように、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置といった行動制限を求めていません。一方、先週開かれた厚生労働省の専門家会合では、感染リスクのある接触機会を可能なかぎり減らすことや、大人数での会食やお盆や夏休みの帰省などで高齢者と接する前に検査を受けることを推奨しています。

国立公園がサステイナブルに

「のりくら観光協会」のYoutubeより

サステイナブルな観光を行っているのが長野県松本市の乗鞍高原。
地元の観光協会が売りにしたいと考えているのが、「美しい自然の中を自転車でめぐること」です。その自然を守るため、車の乗り入れを一部規制しています。

また、多くの人に楽しんでもらいたいと電動自転車の貸し出しも行っています。
広いエリアの観光と、自然保護を両立するねらいもあるよう。

地元のカフェでは、使い捨てスプーンなどの提供をやめました。
マイボトルを持参した人には、割り引きのサービスを実施しています。

こうした「サステイナブル」な観光に取り組む地域を国も後押ししています。
環境省は国立公園内で脱炭素化に取り組み、持続可能な観光地づくりを目指すエリアを「ゼロカーボンパーク」として登録。乗鞍高原と北アルプス一帯をしめる中部山岳国立公園は、そのひとつです。

国は2020年10月に「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする」ことを宣言。また、脱炭素社会を目指す中で2030年に温室効果ガスを2013年に比べて、半分近くの46%削減する目標を掲げています。

こうしたことから、観光地でも脱炭素化を目指し、国立公園を国内外の人にサステイナブルな体験ができる場にしようとしています。

そのため「ゼロカーボンパーク」に登録する地域では、電気自動車などの活用や、ホテルなど利用施設において再生可能エネルギーの活用によって脱炭素の取り組みを進め、さらにプラスチックゴミの削減も目指しているのです。

観光地 乗り物でも進む脱炭素

観光地といえば、さまざまな場所をめぐるときに欠かせないのが乗り物。
実は、自動車などの運輸部門は二酸化炭素の排出量で二番目に多く、
その削減が課題になっています。

7月にゼロカーボンパークに登録されたばかりの日光国立公園にある奥日光地域。
日光国立公園には、豊かな自然や日光東照宮など世界遺産の社寺があり、
年間1000万人が訪れます。

栃木県の調査によりますと、この地域の交通手段で最も多いのがマイカー。
観光に訪れる人の7割以上にのぼるといいます。

この地域で導入された、環境にやさしい変わった乗りものがあると聞き、現地を訪れました。
目の前に現れたのが、一見カートのような乗り物。窓もありません。

その名は「グリーンスローモビリティ」(通称「グリスロ」)。時速20km未満で公道をゆっくり走行する、電気で走る車を活用した小さな移動サービスを意味するそうです。(乗り物も含む総称)

日光では、この「グリスロ」は世界遺産の社寺がある地域を走ります。
日光山輪王寺(世界遺産)を出発し、約4キロの観光スポットを約30分でぐるっとひとまわり。

グリスロに乗ってみるとー、EV車のため音が静かで、窓がなく開放的。
現地の空気を感じながら風景を眺められました。

停留所には専用の充電スポットが設置されていて、充電することで1日8周することが可能だといいます。

21人乗りと車体がコンパクトなため、細い道を走ることができ、ふだんは見過ごしてしまうような観光スポットを回ることができます。
このグリスロ、二酸化炭素の排出を減らすばかりでなく、新たな観光の楽しみ方を促す呼び水として地元で期待されています。

グリーンスローモビリティを利用した人

「何度か日光は訪れていますが今回初めて乗りました。この乗り物は小型なのでいままで入れなかった道に入っていくことができ、知らなかった観光スポットを発見することができました。楽しかったです。」

導入した日光市では、「地元の活性化につなげたい」というねらいも。

日光市 観光経済部 観光課 篠原義典さん

「グリスロはEV車なので環境に優しいということはもちろんですが、グリスロに乗れば、世界遺産を訪れる観光客の多くの方がこれまで行っていない観光スポットも回ることができます。

本格的に導入したのは今年の4月。2021年に実証実験を行った際には、観光客だけでなく、地元の方からとてもいい反応が寄せられました。観光客に周遊性を持っていただき、地域をより活性化させたいと思っています。」

世界遺産は100年以上前からサステイナブル!

日光山輪王寺

日光山輪王寺の事務所で話を聞いてみると、何やら日光東照宮の近くにサステイナブルに関係したある建物があるといいます。

行ってみるとー、

それは、世界遺産の日光東照宮、日光輪王寺、日光二荒山神社の二社一寺が独自で所有している水力発電所でした。

実は、スカイツリーの高さ634mより標高が高い日光東照宮がある地域。
付近を流れる稲荷川の水が高低差によって下流に流れていく力を使い、水車を回して発電しているのです。

左・発電機 右・川から発電所まで水を引き込むパイプ

発電施設ができたのは、なんと100年以上前の1914年(大正3年)。
火災が起きたときに使う防火用水として、川の水を電動ポンプで送るために発電設備を作ったことが始まりなんだそう。

しかし、電動ポンプを使わないときは、電気が余ってしまっていたため、これをなんとか活用できないかと考えていました。昭和に入ってからはこの電気を使うようになったといいます。
いま二社一寺で使用する電気の50~60%は、水力発電でまかなっているそうです。

そして、発電で使用した水はいまも防火用水として、側溝を通じて日光の街にも流れていました。

日光二社一寺 自家用共同組合電気事務所 阿久津善徳 所長

「二社一寺では電力会社が設立されるだいぶ前から水力による発電を行っています。
川の水を防火用水として使っているうえ、電気としても活用しているという部分がサステイナブルといえるかもしれません。

いまは二社一寺でしか電気を使っていませんが、今年中には再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を利用したいと考えています。
ここで作られた電気が一般家庭でも使われることになるかもしれません。」

サステイナブルな取り組みがあちらこちらで

「グリスロ」に「水力発電」…
取材中をしていると、さらに聞き慣れないことばを耳にしました。

「日光では、マースをやっていますからね」。

「マース??」。

聞けば、Mobility as a Serviceの略(Maas)のことだといいます。
Maas(マース)とは、スマホひとつで複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを提示してくれ、予約や決済なども一括で行うことができるサービスのことです。

世界で初めてMaaSを実現したのは、北欧のフィンランド。
サービスを作った企業によると、サービス開始後は公共交通の利用者の数が大きく伸び、自家用車の利用は減少したといいます。

NIKKO Maas

栃木県では、2021年の10月から国内初の環境配慮型のMaasとして、NIKKO Maasを開始。
国内で初めて、カーシェアで電気自動車とプラグインハイブリット車を導入しました。

NIKKO Maasを使えば、カーシェアリングやレンタルサイクルの予約や公共交通機関の利用、さらに歴史文化施設などの観光チケットもスマホから購入することができます。

日光でMaasの導入の背景にあったのは、マイカーによる交通渋滞によって引き起こされる二酸化炭素や排気ガスなどの環境問題への懸念があったためです。

栃木県の試算によれば、例えば、都心からマイカーで来て、主要な観光地(日光東照宮→中禅寺湖→華厳の滝など)を回り、都心まで戻るとすると、1日の二酸化炭素の排出量は45kg。

しかし、電車やバスなどの公共交通機関を利用した場合、4.59kgで、90%も抑制できると試算されています。

これまでも、自家用車から公共交通機関への転換を図ろうと取り組んできた栃木県。宿泊施設を中心に、現地での電気自動車の利用をすすめてきました。

そんな中で、なぜMaas導入にかじを切ったか、聞いてみました。

栃木県 環境森林政策課 環境立県戦略室 西田一之さん

「マイカーから公共交通機関への転換を図るため、宿泊施設を中心に現地での電気自動車の利用をすすめてきましたが、思うような結果が得られませんでした。そこで、鉄道会社や電力会社、地元の観光協会などと協議し、Maasを導入することにしたのです。

観光客にはとても好評で、効果も少しずつ表れてきています。これからもマイカーから移動手段の転換を進めていきたいと考えています。」

観光地につながる電車もサステイナブル

NIKKO Maasの取り組みに参加している東武鉄道では、今年4月から一部の区間の列車や踏切、駅などで「二酸化炭素排出量実質ゼロ」を実現する取り組みを始めています。

【二酸化炭素排出量実質ゼロに取り組む列車や区間】
□浅草から日光・鬼怒川エリアで運行する特急
□新宿からの特急(新宿~南栗橋をのぞく)
□東武日光線(下今市〜東武日光)と東武鬼怒川線(下今市〜新藤原間)の約23キロメートルの区間

この区間の電車や駅など施設、踏切など使用する電力使用量は年間で約3200万kWh。
二酸化炭素の排出量に換算すると、約1万4000トンになります。
これを一般家庭に置き換えると、約5000世帯の1年間の排出量にも該当するといいます。

これを自社のグループが保有している太陽光で発電し、そのほかは電力会社から再生可能エネルギーだと証書がついた電力を使うことで、二酸化炭素排出実質ゼロを実現しているということです。

〈取材を終えてー〉
日光に行くと、さまざまな場所でサステイナブルな取り組みが進んでいることがわかりました。ひとことでサステイナブルと言っても、単に「環境によい」ということだけではなく、
観光地として持続可能なものなのか、そこに暮らしている方々にとっても持続可能なものかであるのかが重要なのだと思いました。

コロナでなかなか旅行に行きづらいと考える方もいるかと思います。
この夏だけでなく、感染状況が落ち着くなど次の旅行に行かれる際は、観光地のサステイナブルな取り組みに注目してみてはいかがでしょうか?

みんなのコメント(1件)

感想
みきさん
50代 女性
2022年8月8日
観光地としても、地元住民にとっても、持続可能。ナルホド。
グリスロに乗ってるお客さんどこかで見たような……あ、トゥンベリさん!なんて日が来れば?そんなとてつもない夢も見てしまいました。