
環境への“意識が高い”なぜ敬遠されるの?
みなさんは「意識高い系」という言葉を使ったことがありますか?
新語が収録されている年鑑を開くと「ソーシャルメディア上で意識の高い発言をする(中略)が、実力がともなわず空回りする人のこと」(「現代用語の基礎知識2019」より)とされています。
初めは主に就職活動中の一部の学生に対して使われていたようですが、最近は、環境問題について積極的に発信している人たちにも、投げかけられることがあります。
地球温暖化やプラスチックごみ問題への対策が待ったなしの状況の中、環境への「意識が高い」ことはとても大切に思えます。
「なぜ共感してもらえないの?」地球のミライを真剣に考えているのに・・・。
色々な思いを抱えながら活動する若者たちに話を聞きました。
(社会部 環境省担当記者 岡本基良)
“歯ブラシは竹製” モデル・トラウデン直美さん
大学に通いながらモデルやタレントとして活動するトラウデン直美さんは、高校時代に授業で学んだのをきっかけに環境問題に関心を持つようになり、それ以来さまざまな発信を続けています。

多数のフォロワーを持つSNSでは、身近な取り組みを紹介しています。
「お家の中のプラスチック製品、自然素材で代替できるものは少しずつ変えています。歯ブラシは竹製のものに、スポンジはヘチマに、ボディソープは容器のいらない石鹸(せっけん)に」
(インスタグラムより)
ファッション業界では、新しい服の半分が一度も着られないまま大量に廃棄されたり、コットンの生産過程で大量の水が使われていたり、環境に負荷をかけていることが問題視されています。
トラウデンさんはファッションショーで再生素材を使った服を紹介し、リメイクやリユースをもっと活用するよう呼びかけるなど、業界全体への働きかけも行っています。
また、2020年6月には、レジ袋の有料化にあわせて「環境省プラごみゼロアンバサダー」にも
就任しました。
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トラウデン直美さん
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「私はもともと、不便で面倒くさいことは大嫌いなんです。
でも、例えばレジ袋だったらみんな同じ白いポリ袋に入れて持ち歩くよりも、自分のお気に入りのマイバッグを使った方がおしゃれで楽しいですよね。
また、ボディソープをせっけんに代えると、詰め替える手間がなくてむしろ便利だと感じています。“環境配慮=我慢“と思われがちですが、環境に配慮していても便利に生きられることを、多くの人たちに気付いてもらいたいです」

行動を呼びかけたら・・・突然の“炎上”
そんなトラウデンさんですが、あるニュースをきっかけにネット上で批判を受けました。 2020年12月に総理大臣官邸で行われた「2050年カーボンニュートラル・全国フォーラム」に出席した時のことです。
菅総理大臣やノーベル賞受賞者の吉野彰さん、経団連の杉森務副会長などが出席する中、トラウデンさんは若い世代の1人として考えを述べました。
「買い物をする際、店員に『環境に配慮した商品ですか』と尋ねることで、店側の意識も変わっていく」この発言がニュースで取り上げられました。


これに対してSNSでは、「意識高すぎ」「めんどくさい客だ」といった批判の声が相次ぎました。一部のメディアには「トラウデン直美、意識高すぎて炎上!」という見出しのネット記事が掲載されました。
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トラウデン直美さん
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「環境問題について話すと『意識高い系』などと言われてしまう空気感が変わって、もっと自然に話し合える社会になればと思って発言しましたが、違う趣旨で受け取られてしまって残念です。ただ、自分のSNSのアカウントには、励ましのメッセージも数多く寄せられました。声に出さないだけで、共感してくれた人たちも多かったのではないかと思います」
どうすれば環境への配慮を求めるメッセージを、敬遠されずに受け取ってもらえるのか。 トラウデンさんは、環境配慮に対するハードルを下げ、完璧を求めすぎないことが大切なのではないかと考えています。
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トラウデン直美さん
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「100%環境に配慮した生活をしてないと偽善っぽく見えるから、
なかなか環境に配慮していると言いづらいのではないでしょうか。
でも全くそんなことはなく、1%でも2%でも取り組めばすばらしいと思います。
私は『プラごみゼロアンバサダー』ですけれども、マイバッグが足りなくなった時、
お金を払ってレジ袋をもらうこともゼロではありません。
私自身100%は無理だと思っているので、1人1人できることから少しずつやろうよ、と
呼びかけたいです」
“気候変動対策を訴える” 新入社員
次に話を聞いたのは、横浜市の印刷会社に勤める宮﨑紗矢香さんです。大学生だった1年前まで、社会や政府に地球温暖化対策を求める若者の運動「Fridays For Future」に加わり、デモ行進を企画するなど積極的に活動してきました。

就職活動でも温暖化対策に積極的な会社を探したところ、創業140年の老舗企業「大川印刷」に出会いました。社長自らが「環境印刷」を経営方針に掲げ、石油を原料に使っていないインクや、適切に管理された森林から生まれた紙の利用、再生可能エネルギーの導入などを積極的に進めています。
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宮﨑紗矢香さん
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「ほかの企業の面接で気候変動問題について思いを話しても、
『君の思うようにはいかないんじゃないか』などと言われ続けました。
でも、大川印刷では社長も同じ問題意識を持っていることがわかり、共感することができました」
“ただプラカードを掲げていてもダメなんだ”
しかし入社した直後、宮﨑さんは壁にぶつかります。
環境配慮をPRし、国から表彰もされた会社なのに、社内で意識に温度差があると感じたのです。
大きな期待を抱いていた宮﨑さんは、新入社員ながら、それぞれが気候変動に対して問題意識を持って行動するよう呼びかけました。しかし初めは、なかなか思うように話を受け入れてもらえなかったといいます。
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宮﨑紗矢香さん
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「自分の問題意識をなかなか理解してくれない先輩社員もいて、
直接電話をかけて相手の考えを尋ねてみたこともありました。
学生時代は、同じ年代、同じ考えの集まりでしたが、
社会人になると親くらいの世代とやりとりするわけです。
そうなると、思いを感情のままぶつけても空振りしてしまう。
ただ『プラカード』を掲げていてもダメなんだ、と気づきました」
悩んだ末、宮﨑さんはある行動に出ます。
全社員出席の勉強会で「気候変動」をテーマにみずから講演したいと提案したのです。
社長や社員の理解も得て、2021年2月、前例のない最年少社員による勉強会が実現しました。

「理想をふりかざしているだけでは、相手は話を聞いてくれない」
そうした反省から、宮崎さんは自分の気持ちを、できるだけ素直に伝えることを心掛けました。
地球温暖化に関心をもったきっかけから、就職活動で感じた社会への不満、そして、
スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの言葉に衝撃を受けたことなどを率直に語りました。そして今、社員1人1人が将来の地球環境のことをより意識し、みずから社会に働きかけていくことが大事ではないかと呼びかけました。

勉強会後のアンケートでは、「宮﨑さんの考え方や取り組んできた経緯を聞けて、自分たちにもできる事があると感じられました」「いまの会社の取り組みについて宮﨑さんがどう思っているのか知りたい」といった声が寄せられました。
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宮﨑紗矢香さん
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「自分とは考えが違っても、まずは相手の考えを知り距離を縮めたうえで、自分の思いも理解してもらうことが大事だと思っています。
最近『持続可能な社会』『脱炭素』といった言葉をよく聞きますが、
どれも主語が大きすぎて身近に感じられないと思います。
まずは自分の言葉で思いを語り、周囲の人たちに共感してもらうことから始めつつ、
社会全体に向けても危機感を訴え続けていきたいです」
意識が高い“3.5%”が社会を変える⁉
色々な思いを抱えながら活動を続ける若者たち。
地球温暖化に詳しい専門家は、そうした“意識が高い”人たちの存在が、
「地球のミライ」を守るためには欠かせないと話します。
そのカギとして挙げるのが「3.5%」という数字です。

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国立環境研究所 地球システム領域 江守正多 副領域長
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「全国民の『3.5%』が非暴力の抗議活動をすると、必ず社会の大きな変革が起きたという研究結果があります。これは市民運動によって独裁政権を打倒した、といったケースの研究ですが、環境問題についても当てはまるかもしれません。現状で積極的に活動している人は1%にも満たないように思います。
しかし環境を意識して生活している人はもっと多いはずです。この人たちが声を上げれば社会は変わるかもしれません」
江守さんは、少数の活動が広がって社会が変わった例として「分煙化」を挙げます。
もともと日本社会では、オフィスや列車内などでも構わず喫煙が行われていました。
受動喫煙の影響を懸念する声などが徐々に広がり、規制や法律が設けられました。
東海道新幹線で全席禁煙の列車が走り始めたのは2007年。最近のことなのです。
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国立環境研究所 地球システム領域 江守正多 副領域長
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「『分煙』は社会運動を発端にいつの間にか当たり前になりました。
環境に関する運動が成功すれば、近い将来、当たり前に電気自動車を買ったり、自宅の電気契約を再生可能エネルギー由来に切り替えたりしているかもしれません。
トラウデンさんや宮﨑さんのような人たちが、まずは身近なところで意識を広げる事例を積み重ねていくことで、社会の大きな変化につながっていくはずです」

“まずアンテナを立てることから始めてみる”
地球温暖化対策は喫緊の課題となっています。
世界の科学者は、「いまのままでは早ければ2030年には世界の平均気温が1.5度上昇し、
異常気象がさらに増加する」と予測しています。
これから環境に配慮した行動を始めたい人は、どうすればいいのでしょうか。
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国立環境研究所 地球システム領域 江守正多 副領域長
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「まずアンテナを立ててみることを提案します。例えば、気候や環境に関するニュースをフォローして、世界で起きている事実を知ることから始めてみて下さい。
そうすることで、現在の社会の何が問題で、自分がいま何をするべきなのか、おのずと見えてくると思います」
異常気象が増えるなど、地球温暖化の影響は身近にも感じられるようになってきています。
環境配慮のアクションの始め方は人それぞれ。
「意識高い系」と敬遠せず、できることから始めてみませんか。