
あなたの知らない プラスチックごみの行方
燃えさかる炎。火元となったのは不法に廃棄されたプラスチックごみ。何者かが放火したことで燃え広がりました。ひょっとしたらあなたが捨てたごみが原因の一つになっている可能性があるのです。
(地球のミライ 取材班)
世界有数のプラスチックごみ輸入国に
火災が発生したのは人口40万のマレーシアの街・スンガイプタニ。2019年頃から次々とリサイクル工場が建てられています。そのひとつの敷地内でした。燃えていたのは、世界中から輸入されリサイクルされるはずだったプラスチックごみです。
先進国で出たプラスチックごみは、自国内では処理しきれず、世界中に流通しています。かつては世界のおよそ50%を中国が引き受けていましたが、環境悪化を理由に2018年に受け入れを禁止しました。今は、その役割を東南アジアが担い、マレーシアは世界有数のプラスチックごみの輸入国となりました。
国は規制を強化していますが、「リサイクルがコストに合わない」と判断した業者が敷地内に放置し、火災につながるケースが後を絶ちません。

健康被害を訴える住民たち
地元の医師、ティオ-さんによると、肺や気管支の不調を訴える患者が増えていると言います。ティオ-さんはその原因は、プラスチックごみの火災によって発生した化学物質にあると考えています。我々が取材したこの日も、健康被害を訴える親子が受診しにきました。

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患者の親
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「学校に行って5分も経たないうちに目が赤くなり、鼻血も出ます」 症状から、近所の煙によるアレルギーと診断されました。
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ティオ-医師
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「2019年の3月頃から、呼吸の不調を訴える人が15%増えました。マレーシアは外国からのあらゆる種類のごみ捨て場になってしまいました。自分たちのごみは自国で処理するべきであり、マレーシアにごみを持ち込んで欲しくはありません。」
日本も毎年およそ100万トンのプラスチックごみを輸出しています。分別して適切に捨てたはずのごみが、地球のどこかで悪影響を及ぼしている可能性があるのです。大量生産、大量消費の便利さを享受する社会システムのしわよせが、こうした場所で起きているのです。
バリ島の海岸を埋め尽くした プラスチックごみ
火災だけではありません。野外に放置されたプラスチックごみは、風雨にさらされて、やがて海に流出します。今も地球上では、年間3000万トンが新たに海に放出されていると考えられています。
インドネシア・バリ島にすむメラティ・ワイゼンさん(20歳)は、12歳の頃に海岸に散乱するプラスチックごみに衝撃を受けました。心を痛めたメラティさんは、2つ下の妹・イザベルさんとともに、「なにか行動を起こさなくては」と決意しました。

ワイゼンさんが調べると、バリ島では、毎日、14階建のビル1棟分のプラスチックごみが排出されていました。まずは、このごみをなくすことができないかと考えましたが、2人の思いだけで、世の中が動くとは到底思えません。
そこでワイゼンさんは「仲間作り」を始めることにしました。注目したのは教育です。小冊子を作り、学校や地域のコミュニティーでワークショップやごみ拾い活動を始めました。

世界に広がる『バイバイ プラスチックバッグ』
キャンペーンの名前は「バイバイ プラスチックバッグ」。「レジ袋を使わない」という目標のわかりやすさと具体性から、その輪は一気に広がりました。7年間でのべ20万人に語りかけ、一緒に活動を行いました。拾い集めたプラスチックごみは100トン以上になります。さらに、インターネットを通じて海外の人にも活動の様子が伝わり、29か国・50の団体がメラティ姉妹の活動を賛同し、仲間になっていきました。

地元、バリ島でも「プラスチックのレジ袋」禁止に賛成する署名は10万人にのぼります。活動を始めて6年。バリ島では袋だけではなく、ストロー、カップや食品容器などの発泡スチロール製品を含む、使い捨てプラスチック製品が禁止されました。

活動開始当初、「プラを使わない生活なんて」と考えていた人たちが「プラを使わなくても全然大丈夫」という意識変化を起こしたことを目のあたりにして、メラティさんは、手応えを感じています。

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メラティさん
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「子どもの人口は世界の25%ですが、未来の可能性の100%を握っています。それは、私達の行動を伴ってすでに始まっているのです。」
「大人になるまで待てない」
メラティさんは、活動を通じて繋がった同世代の仲間達と「YOUTHTOPHIA(ユーストピア)」というネットワークを作りました。持続可能な地球を目指して、新しい活動を実現しやすい環境作りを続けています。従来の教育ではなく、こういったネットワークによる仲間同士の教育や学びの空間が『若者の変化を後押しすること』に繋がることを目指しているのです。
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メラティさん
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「私達の世代には緊迫感があり、大人になるまで待っている時間はありません。若者は皆、変化を加速させる力を持っている、そう信じています。」

思うだけではなく、とにかく行動に移す。簡単なようで難しいことを、メラティさんは仲間をつくることで実現してきました。小さな事だとしても、私たちにも出来ることがあるのではないでしょうか。
2/28放送のNHKスペシャル 2030 未来への分岐点 (3)「プラスチック汚染の脅威 大量消費社会の限界」でこの問題を考えます☟

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「胃袋から276 個のプラスチック片が…世界遺産の島で何が」