
『モリウイルス』『メタンガス』 永久凍土が溶けて起きること
2020年は、観測史上最高の平均気温であったことが判明しました。産業革命前と比べると1.25℃上昇していることも明らかになり、地球温暖化の加速による“気候危機”の被害もすでに出始めています。
いま世界の科学者たちがもっとも懸念しているが、シベリアなどの永久凍土の融解が止まらなくなることです。永久凍土の中には数多くの“未知のウイルス”が眠っているとみられ、実際に『モリウイルス』という高い増殖能力を持つ新種のウイルス が発見されています。さらにCO2の25倍の温室効果を持つ『メタンガス』が大量に放出される恐れもあります。
これは決して「遠い将来」の危機ではありません。いま、まさに瀬戸際の状況でこの10年の私たちの対策にかかっているという正念場に突入しているのです。
私たちには何ができるのでしょうか? (地球のミライ取材班 プロデューサー 堅達京子)
大雪被害 海水温の上昇が原因の一つか

今年は、東北や北陸地方で大雪の被害が相次ぎ「温暖化どころではない」と思った人が多いかもしれません。でも実は、この異常な大雪にも温暖化が影響していると言われています。
気象庁は今回の日本海側の大雪について、日本海の海面水温が平年より1~2℃高く、大気中に含まれる水蒸気が多い状態で、強い寒気が水蒸気を取り込んだことが原因の一つだとしています。今後、温暖化に伴ってこうした極端なドカ雪が増えると予測する科学者もいます。
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EUの気象観測機関「コペルニクス気候変動サービス」は1月、去年の世界の平均気温は、2016年と並んで史上最高を記録したと発表しました。特に北極圏で38℃を記録するなど、シベリア北部の一部で記録的な高温になり、1980年―2010年の平均と比べて6℃以上高い地域も観測されたといいます。

世界の科学者が懸念 永久凍土が溶け続けたら…
こうした中、世界の科学者たちがもっとも懸念を示しているのは、永久凍土の融解が止まらなくなることです。怖い理由は2つあります。
一つは、溶けた永久凍土から未知のウイルスが拡散されること。
新型コロナウイルスによるパンデミックは、人類が免疫を持たない未知のウイルスによる感染爆発ですが、永久凍土にも数多くの未知のウイルスが眠っているとみられます。
実際にフランスのウイルス学者のチームは、溶け始めた永久凍土から「モリウイルス」という新種のウイルスを発見しました。生物の細胞に入ると12時間で1000倍に増殖し、その高い増殖能力に脅威を感じたといいます。

もう一つは、数万年にわたって溶けずに永久凍土に封じ込められていたメタンガスが大気中に放出されること。
メタンはCO2の25倍の温室効果を持つガスで、その大量放出は温暖化をより一層加速させ、手のつけられない暴走状態に陥れる危険性があります。(University of Alaska Fairbanks, Go Iwahana)

温暖化研究の世界的権威であるヨハン・ロックストローム博士(ポツダム気候影響研究所・ドイツ)たちが提唱しているのが「ホットハウスアース(灼熱地球)理論」です。
気温上昇が産業革命前から1.5℃を超えてさらに上昇していくと、温暖化の進行が後戻りできないティッピングポイント(臨界点)を超えてしまい、ドミノだおしのように暴走していくリスクが高まるというのです。
地球の防衛ラインと言われる+1.5℃に抑えることは、パリ協定の目標でもありますが、 このままでは早ければ2030年にも突破しそうな勢いなのです。
『2100年には4℃上昇も』 悪夢のシナリオ
では、もしこのまま気温の上昇が続いていけば、私たちにはどんな未来が待ち受けているのでしょうか?IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、温暖化対策を取らなかった場合、2100年には4℃前後気温上昇するリスクが指摘されています。
東京で見てみましょう。 気温が35℃を超える猛暑日は、2020年の約4倍に増加、47日もあります。(環境省/文部科学省/気象庁/国立環境研究所)

屋外で労働できる時間は3割から4割も減少します。外出することが死につながるような暑さです。熱中症のリスクは東京23区で現在の13.5倍に高まり、一夏に24万人が緊急搬送、医療は危機に瀕します。(筑波大学研究チーム)

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また高温のため、アジアでオリンピックが開催可能な都市は、標高の高いモンゴルのウランバートルとキルギスのビシケクの2か所だけになってしまいます。(データ提供:Kirk R. Smith et al. 2016, The Lancet)

そして台風の脅威はさらに増し、首都東京はかつて体験したことのない大水害に見舞われる危険があります。2019年の台風19号が+4℃上昇した条件で上陸した場合をシミュレーションすると、広い範囲で赤い色の非常に激しい雨が降り、全体の降水量は30%以上増加することが新たに分かりました。

(2019年の台風19号をシミュレーション 気象庁気象研究所/文部科学省統合プログラム)
1時間に50ミリ以上の非常に激しい雨が降る地域も、現状よりも広い範囲に広がります。 首都圏を流れる荒川では、国が想定する最大規模に匹敵する水量が押し寄せる可能性があり、荒川の右岸で堤防が決壊した場合のシミュレーションでは、浅草も秋葉原も水没。死者は約2300人。浸水が広範囲で2週間以上続く恐れもあるのです。(国交省荒川下流河川事務所)

危機を避けるためには『カーボンニュートラル』しかない
こうした人命に関わる重大な危機は、日本に限りません。
海抜の低い島嶼国では、国そのものが水没するリスクがあります。さらに、干ばつなどで食料生産が厳しくなり飢餓や環境難民の増加につながる地域もたくさんあります。
すでに気温が1℃上昇している現在でもこれほどの異常気象や災害に見舞われているのですから、4℃上昇なんてとんでもない。危機を避けるには、上昇を1.5℃に抑えるしかありません。
気温上昇を1.5℃に抑えるためには、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を、植林などで人為的に吸収する量を差し引いて実質ゼロにする“カーボーンニュートラル”という状態にしなければならないのです。
日本政府は去年10月、2050年のカーボンニュートラルを宣言しましたが、その背景には地球温暖化がここまで悪化し、追い込まれている厳しい現実があるのです。

でも、カーボンニュートラルへの道は簡単ではありません。科学者たちは「2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させる必要がある」と警告しています。箱根駅伝に例えれば、今すぐ、山登りではなく山下りに転じて、猛スピードで駆け下りてゼロをめざさなければなりません。
大事になるのは産業システムそのものの変革です。
つまり“脱炭素”を頑張った企業が得をする仕組みに変えることですが、そのためには、企業に影響力のある私たち消費者の行動を変えることが大切です。
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新型コロナウイルスの危機で思い知らされたのは、一人一人が科学的な意味を分かった上で「マスクをする」「3密を避ける」という“行動変容”することで、感染リスクを減らし危機を乗り越えることができるということでした。気候危機も同じです。
ワクチンや治療薬・医療体制の整備に匹敵するシステムの変革も必要ですが、一人一人が“脱炭素”に役立つ行動に変える!という積み重ねも大事です。 まさに“正念場の10年”、全員参加の総力戦で一緒にチャレンジしていきましょう!