
地球温暖化と異常気象の関係 温暖化による災害とその影響とは
日本で相次ぐ記録的豪雨や海外の大規模な山火事。冬には、雪の降り方も変わっていると言われています。こうしたニュースが報じられる際、最近では「地球温暖化による“異常気象”」という言い方がよくされるようになったかと思います。
では温暖化が進んでいなかったときと比べ、実際にどんな変化が起き、どのくらい被害が増えたのでしょうか。最新の研究であきらかになりつつあります。
自然災害の研究が専門の、京都大学防災研究所・中北英一教授にお話を伺いました。
(NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」取材班)

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中北英一教授
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「『数年前から温暖化の影響は出始めている』と自信をもってお話します。『温暖化の世界』に足を突っ込んでいてもう待ったなしです。災害が多くなり、豪雨が強くなって、世界が新たなフェーズに入っていると思ってもらった方がいいと思います」
「温暖化の世界」は始まっている
ここ数年相次いでいる大規模災害は温暖化とどのような関係があるのか。
NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」(1月9日放送)では、中北教授をはじめ気象学・河川工学・水工学など様々な分野の専門家と独自に検証しました。
シミュレーションしたのは、2019年に九州地方から東北地方にかけて広い範囲で猛威を振るった台風19号です。“温暖化が進む前”の気候条件と比較していくと、明らかな違いがあることが浮き彫りになりました。 温暖化が進む前の1980年ごろの気候で台風19号が発生したと想定すると、降水量は全体で10%ほど増えることが明らかになったのです。
≪温暖化による気温上昇の雨量への影響 台風19号でシミュレーション≫

※赤で示した部分は、非常に激しい雨が降っている部分
(気象研究所 川瀬宏明 文科省「統合的気候モデル高度化研究プログラム」)
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中北英一教授
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「もし温暖化が進んでいなかったら、2019年の台風19号はそこまで大雨にはならず、長野市の千曲川も堤防決壊を起こすまでの水位にはならなかったということです。今回の解析結果は、温暖化の怖さをより如実に語ってくれています」
『雨量10%の差』で被害が大きく変わる
雨量が増えれば、もたらされる被害も甚大なものになります。2019年の台風19号では多くの山間部で総雨量が600mmを超えました。西日本豪雨などでの経験から、600mmを超えると山の斜面が地盤から崩れる『深層崩壊』が起きることがわかってきたと、中北教授はいいます。
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中北英一教授
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「総雨量が1.1倍になると、河川の流れる量は1.2倍になります。そして浸水するリスク、確率がさらに1.4倍になるんです」
今回のNHKスペシャルでは、異なる分野の専門家がデータを共有し合い、具体的に踏み込んだ解析を行いました。温暖化で平均気温が約1℃上昇したことで、どれほど被害が増え、命が奪われることにつながったのかも可視化しました。
≪千曲川(ちくまがわ/長野市)からの浸水をシミレーション≫


(東京理科大学 二瓶泰雄 京都大学防災研究所 佐山敬洋 文科省「統合プログラム」と連携)
上の2つの地図は川からの浸水をシミュレーションしたものです。1つめは温暖化していなかった場合の被害予想地域です。堤防を越水したとしても床上浸水はほとんどありませんでした。しかしいまの気候(2つめの地図)では、堤防が決壊しておよそ9平方キロメートルにわたって浸水、家屋の85%が床上浸水し、2人が犠牲となりました。
こうしたシミュレーションの意義を、中北教授は次のように語ります。
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中北英一教授
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「実際に起こったことを科学で再現できて『温暖化があった時はこうなります』『より温暖化が強くなればこうなります』『温暖化がなかったら堤防はあふれませんでした』といったことを目のあたりにしてもらうことによって、より多くの方に『温暖化がもう始まっている』という認識をもっていただきたい。また、温暖化の恐さ自体も認識いただきたい」
2030年にも「1.5度上昇」
台風19号のシミュレーションでは地球の平均気温が『1度上昇』したことで、これまでの想定をはるかに超えた被害が出たことが明らかになりました。しかし国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によると、現在各国が表明している2030年の削減目標では、平均気温の上昇は、気候変動による深刻な影響が広がるとされる「1.5度」を超える可能性が高いとしています。
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中北英一教授
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「『将来、さらに被害が大きくなっていく』ことを共通認識とし、いま対策を始めなければいけません。『いまはまだ温室効果ガスの影響がわからないから、わかるまで待っておこう』。そんな悠長なことを言っている時期ではありません。いま始めないといけません」
これからの防災はどうあるべきか?
温暖化の影響で、台風や豪雨の被害は今後さらに大きくなると予測される中、私たちはどんなことを考えていかなければならないのでしょうか。

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中北英一教授
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「温暖化の影響はこれからの10年はまだ続くと思いますし、さらに大きくなっていきます。そのことをわかったうえで対応する必要があります。いままで逃げられたところが逃げられなくなることも、出てきます。行政の施策だけでなく、地域に住む人々の防災への意識を高めることが大事になります」
さらに中北教授は国が取り組むべきこととして「治水の目標を早く達成すること」と「中小河川・流域に対する洪水対策」をあげています。
温暖化の影響で被害が起きやすくなるため、まずは以前からの治水の目標を達成していないところから充分な手を打つことが、予防的な意味でも重要だと言います。そして大規模な河川だけではなく、流域も含めた中小河川に対する洪水対策を進めていかなければ、被害がどんどんふえていくことになると警告します。
「命を守る」ために 一人一人が行動を

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中北英一教授
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「防災を意識する人々がもっともっと増えることが、治水や災害への大きな対策になると思います。住む場所を考える時などに、危険なところではないか、あるいはどう逃げるかを考える。自分で命を守るという意識を高めることがとても重要です。
もちろん行政は国民の命を守るため、精いっぱいの使命を果たしますが、もはやそれだけでは足りない世界になってきます。ひとりひとりの意識が高くないと、今後、災害に対して太刀打ちできません。日本人は自然の厳しいところで自然の懐に抱かれながら、色々な災害を生き抜いてきていますので、本来そういう力を持っているんですね。だから、いままでの治水や災害に対する考え方や力をもう一度発揮する時期がきているのだと思います」
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