
テーマ音楽を手がけた音楽家・常田大希 ロングインタビュー
2020年12月3日、音楽家・常田大希(つねた・だいき)さん(millennium parade/King Gnu)が、地球環境について考えるNHKスペシャル「2030 未来への分岐点」のテーマ音楽を制作することが発表されました。制作を担うのは、常田さんが率いるプロジェクト「millennium parade」(ミレニアム・パレード)です。多彩な才能が常田さんのもとに集結し、オーケストラと現代の音楽を融合させた楽曲づくりに挑みました。
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今回は、テーマ音楽に込めた思いに加えて、「芸術とは破壊と構築を繰り返す」ことだという常田さんの信念や、幅広いジャンルの音楽を吸収してきたことが現在の創作活動につながっているといったエピソードなど、貴重な言葉が詰まったインタビューを番組の放送に先がけて公開します。(2020年10月13日収録)
(聞き手:「常田大希 破壊と構築」担当 髙橋隼人 ディレクター)

常田大希(つねた・だいき)
ロックバンド 「King Gnu」(キング・ヌー) の作詞作曲を担当。2019年にソロプロジェクト 「millennium parade」(ミレニアム・パレード) も本格稼働。同世代のクリエイターで構成されるクリエイティブチーム 「PERIMETRON(ペリメトロン)」 とともに音楽・映像・アートワーク・ライブのすべてで独自の世界観を築き上げ、若い世代から熱狂的な支持を集めている。
テーマ音楽は「自然や宇宙との親和性」の高い楽曲に
――今回のオファーを受けた時、率直にどう思いましたか?
常田:
硬派な案件きたなぁと思いましたね。NHKスペシャル、渋いなと(笑)10年後の地球の未来がテーマとして設定されていることが大事だなと思いました。環境問題は大事なことですが、自分にとってリアリティがあるかと言われると、正直あまりないかもしれません。でも、あまり普段そういった将来の大きな問題を意識することがないからこそ、これを機に勉強させていただきたいという気持ちで引き受けました。
――テーマ音楽はどういう思いで制作されたのでしょうか。
常田:
「地球を表現した」なんて寒いことは言いません。説教臭くなるし、絶対につまらなくなるので。だから、単純に音がかっこいいかどうかでつくりました。自分が持っている問題意識やアーティストとしての追求に素直に反応してつくった感じですね。
――完成したテーマ音楽のイメージを教えてください。
常田:
オーケストラを使うこともそうですけど、広い音響というか、大きな空間を意識していますね。自然や宇宙との親和性は高いんじゃないかな。番組で取り上げるテーマや映像に乗ったときに初めてリンクするのではないかと思っています。
――新型コロナウイルスの感染拡大で、春に予定していたKing Gnuの全国ツアーもすべて延期になりました。どう過ごしていたんですか?
常田:
今年1月に『CEREMONY』というアルバムを出して、これからという時期で残念な部分はもちろんありました。でも音楽家として世間に対してできることはほとんどないと思ったので、単純に自分たちが信じるものと向き合って作品を作るということをストイックにやっていました。
芸術の魅力は「破壊と構築を繰り返すこと」

――そもそも常田さんはいつごろから音楽をやっていこうと意識されたんですか?
常田:
両親が音楽をやっていたこともあり、家に楽器やCDが山ほどあったんです。親が弾くピアノの音が家じゅうにあふれているような環境だったので、そういうものを聴いて育つ中ですごく自然に音楽に興味を持ちました。中学、高校くらいのときには自分の曲みたいなものは作り出していたので、そのころには意識して始めていましたね。
――その後、長野から上京して東京藝術大学に入学しましたが、どんなことを感じましたか?
常田:
もともと音楽や絵画などの芸術の魅力は「破壊と構築を繰り返し、今までのものをどう変えていくか」というところにあると感じていました。でも大学に入って周りの学生を見たら、習い事を続けるというマインドが強いと感じました。藝大の音楽は伝統芸能に近い気がして、そういう再現芸術のようなものにはあまり興味がなかったんです。だからここで4年間を過ごすよりは、腹をくくるためにポンと外の世界に出てみることにしたんです。
――実際に大学を辞めて活動を始めていかがでしたか?
常田:
当時、2010年代前半は世界各地のクラブシーンでビートミュージックが盛り上がってきている時期でした。新しい音やカルチャーが次々と作られていく中で、特にジャズやヒップホップをベースにしたLAのミュージシャンたちにけっこう影響を受けましたね。リアルタイムに音楽の進化を体感したことで、自分もこういうことがしたいというアーティストとしてのスタンスも見えてきて、日本のアーティストとしてどうすればいいんだろうみたいなことを考える日々でした。
“食わず嫌いをしない”ことから生まれた幅広い音楽性

――そうした試行錯誤があったからこそ、常田さんのジャンルを超えた音楽づくりにつながっているのでしょうか。
常田:
当時は、いろんな情報をとりあえず飲み込んで、体の中に残ったものを大事にするという作業をひたすら繰り返していました。飲み込むというのは、食わず嫌いをしないということです。別に好きじゃないけど何かあると感じたら1回食べてみる。その中で「このジャンル、この人たちにはこういう良さがある。この部分は好きではないけど理解はできる」みたいなことを確かめる作業ですね。
―常田さんが手がける楽曲を昔から知っている人にとって、「King Gnu」の『白日』などは、かなりポップで大衆向けの印象があります。何かねらいがあったんでしょうか?
常田:
たくさんの情報を吸収している時期にJ-POPにも触れていたので、それがKing Gnuの活動にもつながっています。僕たちは本来ヒットチャートを賑わせるようなシーンの人間ではないから、日本の音楽業界がすごく客観的に見えたんです。試行錯誤する中で、自分の知らない景色を見たいと思って、そういうポップな表現もしてみたくなったという感じです。ただ、J-POPで成功することが、音楽家としての成熟や進化を意味するかと言えばそれは違うと思うので、これが正解だとは思っていません。
――一方で音楽業界の真ん中にいて、売れるものも作ってほしいという周囲からの期待と、自分が本当にやりたい音楽との間で悩むことはありませんか?
常田:
もちろん悩むことも多いです。自分が価値があると思うものと世の中のニーズは必ずしもリンクしないというのは子どものころから染みついていることなんです。文化祭で何か演奏したときの反応を見れば一目瞭然で、流行の曲を演奏したらお客さんはすごく沸くのに、自分がかっこいいと思うものを演奏してもぽかんとされるみたいな。それでも、僕は音楽ってコミュニケーションだと思っているんです。自分の芯があって行くべき道はありながらも、それ以外を排除する必要はない。ちゃんとコミュニケーションをとればそこで得るものは絶対にあると思うので、あまり視野を狭めないように意識しています。
“多数決”に縛られない自由な音楽づくりへ

――常田さんは、King Gnuと同時にmillennium parade やPERIMETRONなど、複数のプロジェクトで活動されていますが、それはどうしてですか?
常田:
1個の箱で全部をやろうとするとすごく中途半端なものができてしまうというか、どちらにも振り切れないものになってしまう。それが気持ち悪くて、しっかり活動を分け始めたんです。アーティストは多数決をとる作業じゃないのに、大勢の意見に引っ張られてしまうことがよくあるんです。だから自分を強く持っていないと、どんどん多数決の作業になってしまう。例えば、音楽をしっかり勉強した身からすると10人中 9人がいいと思うものを作ろうと思えば作れるんですよ。ただ、最近は10人いたら10人とコミュニケーションがとりたいという性質の作品を作ることもありますし、10人いたら誰も理解できないようなものだって作る意味があると思って、腹をくくるようになりました。自由自在に飛び回りたいという気持ちになっています。
――常田さんは同世代のクリエイターの仲間と一緒に仕事をすることが多いと思いますが意識していることはありますか?
常田:
仲間と仕事をする上では、ポジティブな面がある一方で、甘えが生じるなどネガティブな面もあるので、お互いに仲間であることの意味や強みをちゃんと意識しなきゃいけないと思っています。それによって、この仲間でしか作れない作品や仕事ができるし、思いもよらないレベルに到達できるんじゃないでしょうか。
過去の芸術の文脈に敬意を払い「納得できる作品づくり」を

――最後に、常田さんがアーティストとして一番大切にしたいことと、最終的な目標を教えてください。
常田:
一番大切にしたいことは、自分が今まで積み上げてきた芸術の文脈、音楽の文脈にちゃんと敬意を払うことです。自分のやることは、そういう文脈の上に構築されているので、自分が納得できるかどうかをいちばん大事にしています。だから、アーティストとしての目標も納得できる作品を作り続けることです。人間として目標は、自分の葬式で愛する人たちが自分の死を悲しんで弔ってくれることでしょうか。
――ありがとうございました。NHKスペシャルで放送されるテーマ音楽、楽しみにしています。

鬼才音楽家・常田大希の創作現場に長期密着したドキュメンタリー番組。
人気ロックバンド「King Gnu」(キング・ヌー)のメンバーとして作詞作曲を担い、若者たちの熱狂を集めている常田。その彼が純粋に創造性を追求するために結成したプロジェクトがある。それが「millennium parade」(ミレニアム・パレード)だ。
多彩な才能が集結するこのチームを率い、今回、NHKスペシャル「2030 未来への分岐点」のテーマ曲制作を担当。オーケストラと現代の音楽を常田にしかできないバランスで融合させた楽曲で挑んだ。
そこには“ミレニアム”=1000年後にも残る作品を生み出したいという壮大な“夢”が込められていた。