
国内外のミニシアター関係者が集結 “コロナ禍”を語る「全国コミュニティシネマ会議」
今月16日、「全国コミュニティシネマ会議」が開かれました。
国内外のミニシアターや映画館、映画を上映する団体などの情報交換やディスカッションの場として、1996年から毎年開催されてきたこのイベント。今年のテーマは「コロナ禍とミニシアター」。全国の映画関係者が報告したミニシアターの置かれた現状、そして新型コロナの影響を機に起きた変化を報告しました。新型コロナの影響で かつてないほどの打撃を受けた映画界。報告された内容をリポートします。
(取材:クローズアップ現代プラス ディレクター 板橋俊輔)
全国のミニシアターが近況を報告

ミニシアターの全国団体であるコミュニティシネマセンターが毎年開催し、20年以上の歴史を持つ「全国コミュニティシネマ会議」。今年は新型コロナの影響もあり、会場となった渋谷のライブホールには限られた人数だけが参加し、多くの人はオンラインで参加しました。参加者はオンラインの参加者も合わせて500人。ミニシアターや映画祭などの上映関係者や制作・配給者を中心に、学生なども参加しました。

イベントの冒頭では、今年集計した全国のミニシアターへのアンケートの結果が発表されました。約7割の映画館で観客動員数が3~5割近く減ったことや、国からの支援をどれだけ受けたかなど…この1年、ミニシアターが置かれた“苦境”がデータによって語られました。
アンケートの自由記述の中には、民間有志によるミニシアター支援のクラウドファンディングへの感謝や、行政による支援の少なさを疑問視する声、劇場スタッフの雇用を打ち止めにせざるをえなかったという声も寄せられたと言います。
コロナ禍のミニシアター経営 資金繰りや感染対策は?

半日にわたり行われるプログラムのメインイベントは、国内の映画館や映画上映者による現状の報告です。今年は北海道から沖縄まで、21の映画館や団体が登壇しました。 発表の中で多かったのは、新型コロナの影響による「資金繰り」と「感染対策」の取り組み。
以前の記事でお伝えしたように、ミニシアターの経営は新型コロナの影響を受ける前から、決して余裕があるわけではありません。また、新型コロナの影響で休館を余儀なくされても、保証期間が切れる上映機材への設備投資など、資金繰りが必要な所も少なくありません。
多くのミニシアターが観客動員数を前年より落とす中、どのように資金を確保したのか。いくつかの報告事例をご紹介します。
劇場応援Tシャツの販売元町映画館(神戸)
一番人数が落ち込んだ時には、1日10名程度の観客しか来なかったという元町映画館。 目下の運転資金を確保するため、関西のミニシアター13館で連携して「劇場応援Tシャツ」を制作しました。販売に際して映画関係者に応援のコメントを寄せてもらうなど認知を広げ、「映画館には行けないけど、ミニシアターの応援をしたい」と思う人たちから注文が殺到。Tシャツ販売と同時に寄付も5000口集まるなど大きなうねりとなり、最終的に1館あたり約280万円の支援につながったと言います。

映画館独自のクラウドファンディングシネモンド(金沢)
映画館独自でクラウドファンディングを立ち上げた例も報告されました。金沢市のミニシアター「シネモンド」では、経済産業省や文化庁など国や自治体、そして金融機関からの特別貸付などを受けながら、独自のクラウドファンディングを始めました。きっかけとなったのは感染者が拡大した4月、開館して22年で初の休館を迎えたことでした。休館が続くと閉館にもつながりかねない中、“映画館の暗闇”をなくさないための支援を呼びかけました。
結果として860万円の支援を受けて劇場は存続、運営を支えるスタッフにもこれまで通りの給料を支払うことができたといいます。

そして、報告の中で取り上げられたもう1つのトピックが「感染対策」です。今では当たり前になった入場前のアルコールによる消毒や検温以外にも、映画館によってさまざまな工夫を凝らしていることが紹介されました。
例えば、換気の良さをアピールするという事例も。映画館や劇場などの施設は「興行場法」という法律が適用されます。施設運営のために都道府県の条例で定める換気基準などに従うことなどが定められており、新鮮な外気を供給することなどが義務づけられています。こうした厳しい規定のもと運営されている映画館だからこそ、その換気の良さをアピールしようというのです。
また、スタッフとのやりとりや混雑を減らすため、最新の発券機を導入する事例も報告されました。横浜市の映画館では、文化庁の支援事業を活用して約100万円の初期費用をかけて、キャッシュレス決済やオンラインでのチケット予約と発券が行える機材をリース。劇場に足を再び運んでもらうため、苦しい資金繰りの中でも新しい機材を導入する例が紹介されました。
ロックダウンによる映画館閉館、バーチャルシネマ… 海外の映画業界はいま

イベントの中ではアメリカ、フランス、そして韓国のアートシネマ(芸術映画)界の現状も報告されました。
アートシネマの劇場が集まる、アメリカ・ニューヨーク。新型コロナの影響は今も続いており、いまだに閉館が続く映画館が多い中、“バーチャルシネマ”と呼ばれるオンラインでの配信が進んだと言います。
ただオンラインで配信していつでも見られるようにするのではなく、映画館のように決まった時間にしか見られないようなユニークなオンライン上の視聴体験を提供する団体や、これまで劇場では上映する機会がなかったという短編の作品をオンラインでなら配信できると踏み切った団体など、新型コロナをきっかけに新しい試みに挑戦する所もあると言います。
一方、映画館のスクリーン数が日本の1.7倍、約6000あるという“映画大国”・フランス。2度にわたるロックダウンによって映画館の再開と閉館が繰り返され、今もまた閉館を余儀なくされている厳しい状況が報告されました。フランス文化の発信をする機関「アンスティチュ・フランセ日本」で映画を担当する坂本安美さんによれば、4月には、映画業界の著名人200人が声をあげて公開状を発表。マクロン大統領に窮状を直接訴えるなどして、具体的な対策を要求しました。ロックダウンが解除された後も客足がなかなか戻らず、現場の危機感は強いと言います。

韓国でも、観客数・売り上げの減少が顕著でした。少ない映画館で観客数は50%減、多いところで約90%、前年に比べて落ち込んでいると言います。韓国では、国からいくつかの支援が行われ、映画館での鑑賞が6000ウォン(約560円)割引きで見られるようになったほか、感染防止対策を進めるため検温カメラなども映画館に導入されたと言います。
海外の現状を聞くと、日本のミニシアターと同じく、決して事態は予断を許さないことがわかりました。会場にいた映画関係者も、各国の発表を聞きながら厳しい表情を浮かべていたのが印象的でした。
コロナで再確認したミニシアターのあり方 街中に映画館がある意味とは

ミニシアター界は、このまま先行きが見えないままなのか――
イベントが始まる前に感じていた思いとは裏腹に、各ミニシアターの報告は決して後ろ向きで終わるものではありませんでした。登壇したミニシアターの館長の多くは、報告の中で「新型コロナを機にミニシアターのあり方を改めて考え直すことになった」と話していました。
神戸にある「元町映画館」支配人の林未来さんは、ミニシアターが映画を「商品」として扱う場ではなく、「文化」を守る場だということを、突きつけられたと言います。そのとき、文化としてミニシアターがある場合、街の文化施設としてどう根付くか、また文化だからこそ自然と守られていく姿を目指していく必要があると語りました。そのため、林さんたちの映画館では「街に映画館は必要なのか」というテーマでトークイベントを開催するなど、街に住む人とともに映画館をどうしていくかを考えていこうとしています。
また、金沢の「シネモンド」代表の土肥悦子さんは、コロナ禍のミニシアターに支援を寄せてくれた人たちが、なぜ支援をしてくれたのかを考えたと言います。支援をしてくれた人の全員が全員、コロナの前からミニシアターに足しげく通っていたわけではありません。ただ、今回支援しようと思ってくれたのは、映画館で過ごした経験があったからだと土肥さんは考えています。映画館の暗闇の中で作品を見たこと――その体験が、危機に陥ったミニシアターへの思いにつながったと言うのです。土肥さんはこのような体験を子どもの時から体験してほしいと、いま“ミニシアターツアー”を企画しています。子どもと俳優のワークショップなど、映画館で過ごした時間や体験を心に残してほしいと言います。
ことしは新型コロナの影響により、一時は全国コミュニティシネマ会議の開催が危ぶまれていました。しかし、イベントを主催した一般社団法人コミュニティシネマセンターはこうした事態だからこそ、お互いの意見や報告を共有する場が大切だと言います。
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コミュニティシネマセンター 事務局長 岩崎ゆう子さん
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「映画上映の関係者の気持ちも、不安を抱えながらも、少しは先のことを考えられるぐらいに落ち着いてきたところで『やはり、コミュニティシネマ会議の開催し、上映者同志が話し合える場をつくりたい。上映者の現在を、上映者自身の言葉で伝える場をつくりたい』と考えるようになりました。コロナの感染者増が続き、また、不安が高まっている時期の開催となってしまいましたが、全国の上映者が集まり、ミニシアター支援を続けこられた、ミニシアターを大切に思ってくださる方々と共に、コミュニティシネマ会議を開催することができて、本当によかったと思います」
劇場版「鬼滅の刃」が社会現象になるほどの大ヒットを記録する映画業界。しかし、イベントを通じて、映画業界全体、特にミニシアターの置かれている現状はまだ決して楽観視できるものではないと感じました。一方で、新型コロナを機にミニシアターのことを見つめ直すきっかけとなった人が多かったのがとても印象的でした。“文化の場”としてのミニシアター、そのあり方の模索は新型コロナを機に加速しているように思いました。
あなたの身近で起こっている文化・芸術にまつわる課題について、教えてください。
現場で生まれた声を取材し、少しでも多くの人に届けます。
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