
”誤情報”や”デマ”で家庭崩壊 「関係を元に戻したい」悩むあなたへ
「家族や友人が、新型コロナについて根拠の不確かな情報を信じ込んでしまい、周囲との分断が起きている・・」。いま臨床心理士などの元には、こうした悩みの相談が多く寄せられるようになってきています。それまで親しくしていた人が、コロナやワクチンなど特定の話題になると言動が“先鋭化”し、トラブルになったケースも少なくありません。大切な人との関係を元に戻すために、何ができるのでしょうか。
(12月13日放送「おはよう日本」から)
新型コロナワクチンの最新情報はこちら
厚生労働省が注意を促す誤情報一覧はこちら※NHKのサイトを離れます
「私の家族も…」 『当事者の会』に参加者希望者が次々と

社員、主婦、学生・・・オンラインミーティングに参加した20人ほどの人たち。
月に1回程度集まって、画面越しに互いの悩みを打ち明けています。
年齢も住む場所もバラバラですが、共通しているのはみな、家族や親戚が新型コロナに関するデマや誤った情報を信じてしまっていることです。
それぞれの声に耳を傾けると、様々な苦悩の声が聞こえてきました。
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参加した男性
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「妻が『コロナはウソだ、ワクチンを打つと2年後に死ぬ』などの情報を信じ、小学生の子どもとデモ活動に参加しています。コロナの話をすると口論になるので、家での会話はほとんどありません。」
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参加した女性
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「両親とも陰謀論を信じ込み、その影響で私がストレス性の胃腸炎に1ヶ月に2回なってしまいました。政治家などの権威のある人が言った事は“全部ウソ”という受け止め方をするんです。我慢できなくなり、私が実家を出てひとり暮らしをすることになりました。」

この『当事者の会』を主催しているのは、会社員のぺんたんさん(ブログネーム)です。自分の母親が「ワクチンは殺人兵器」などといった科学的根拠のない主張を繰り返すようになり、説得しようとしても聞く耳を持たず、悩み続けてきました。
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ぺんたんさん
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「母がよく分からないサイトのリンクや、出所不明な動画などを周囲に送るようになりました。拡散しないでくれと強めに言ってしまった事があり、それで母が非常に怒りまして・・・ ほぼ絶縁状態が続いています。」
「新たな社会問題では・・・」 悩みを話せず苦しむ人たち

当初ぺんたんさんは、母親が誤情報を信じ込んでしまったことを、他人に打ち明けることができませんでした。
しかし自分だけで抱え込むことができなくなり、今年5月、このことをブログに書き込み、ツイッターにも投稿しました。
すると「私も同じ経験をした」「誰にも相談できなった」などの共感するメッセージが次々に届いたのです。

ぺんたんさんがオンライン上で悩みを打ち明け合う「当事者の会」を立ち上げたところ、メンバーが急速に広がっていきました。
これまでに寄せられた相談は100件以上。「母親が誤情報を信じワクチンを打たせてもらえない」という17歳の高校生や、「誤情報がきっかけで両親が離婚した」という人からの相談もあったといいます。

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ぺんたんさん
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「公的な相談窓口がない中で、周囲に悩みを打ち明けられずに苦しんでいる人は少なくないと感じます。中には強い正義感を持って、身近な人に誤った情報を強要してくる人もいます。これは新しい社会問題ではないかと正直肌で感じました。ただ、私たち家族はどのような対応をすればいいのか、明確な答えは見いだせていません。」
調査では『誤情報を信じやすい人』が全体の12%

家族間でのトラブルを引き起こす誤った情報。 それを信じやすい人には何か特徴があるのでしょうか。
社会心理学が専門の筑波大学・原田隆之教授は、インターネット上で千人を対象に、新型コロナワクチンの誤情報について調査を実施。ネットなどで出回っていた6つの情報について、どの程度信じているかを質問しました。

調査の結果、原田教授によると『誤情報を信じやすい人』は全体のおよそ12%に上ることがわかりました。年代別では40代以下が比較的高い割合を占めていました。

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筑波大学 原田隆之教授
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「40代以下で割合が多いのは、SNSを使い慣れた世代であるからと推測されます。ごく少数の人の考えであっても、SNSで拡散すると、多くの人がそう考えているように錯覚する。それらが誤情報の拡散に拍車をかけているというのは、間違いないと思います。」
特徴は『政府への信頼感低い』『YouTube』『不安』…
さらに、原田教授は、誤情報を信じやすい人の特徴についても詳しく調査しました。
その結果
・政府への信頼感が低い人
・情報源としてYouTubeを用いる頻度が高い人
・日常への不安が強い人
ほど、その傾向が高いことが分かったといいます。
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筑波大学 原田隆之教授
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「一般的に政府、専門家、メディアなどに対する反感や不信感がベースにある人も多いと思います。そして「不安」も大きな要因の一つと考えられます。
コロナ禍で先が見えず、やっと落ち着いたと思ったら、また新しい変異株が出てきて不安が断続的に押し寄せてくる。そうした状況で、自分を安心させてくれるような誤った情報を信じることで、不安を鎮めている人も一定の数いるのだと思います。」

また原田教授によると「反科学的な態度が強い人」「疑似科学的なものへの信奉度が高い人」「専門家への信頼感が低い人」も誤情報を信じやすい傾向が高かったといいます。
会社でのストレスがきっかけで 誤情報を信じた女性

実際に「不安」が原因で、誤情報を信じ込んでしまったという人に出会いました。
30代の主婦・アカリさん(仮名)は、会社の上司から「今までの経験潰してやる」などと心ない言葉を浴びせられ、ストレスから体調を崩すようになりました。気分が不安定の中、よりどころとなったのが、ネットで見つけた健康情報を共有するサークルでした。
そこで「体調がよくなる」という機器や食品を勧められ、計400万円分以上も購入してしまったと言います。
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誤情報を信じていた 主婦・アカリさん(仮名)
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「占いとかスピリチュアルとかにすがりました。あなたは価値があるんだよって優しい言葉で言ってくれるし、とても高揚感というか、自尊心をくすぐられたというか。何か自分を肯定したいっていう思いで。」
そのサークルでは新型コロナの感染拡大以降、ワクチンに関する根拠のない情報が盛んにやりとりされるようになりました。
「ワクチンで女性は不妊になる」
「接種した人の近くにいくだけで被ばくする」
こうした誤情報を紹介する動画やブログを、『グループLINE』や『Facebook』など内輪だけのSNSで共有し合っていたといいます。
アカリさんもそれを信じ込み、家族や知人などに広めるようになりました。

夫は「否定しなかった」
その一方でアカリさんは、サークルで購入した食品をいくら摂取してもなかなか体調が回復しないことなどから、次第に疑問を持つようになりました。
そしてサークル以外の情報に触れるうち、ワクチンについての「誤情報を信じていたこと」に気付き、サークルを離れることを決めました。
結果的に誤情報から抜け出すことができたアカリさん。
その間アカリさんの家族は、どのように本人と接していたのでしょうか。
交渉の末、夫のコウジさん(仮名)が取材に応じてくれました。

「当時、旦那さんはどのような対応を取っていたのですか?」
「誤情報を聞き流す事もできないですし、拒絶反応をしても、妻が人格を否定された気持ちになると困るので、とりあえず受け入れるという意味で、 あまり否定はしないようにしていました 。また、夫婦で同じものを見ていたいという気持ちはあったので、一緒にサークルのセミナーにも行きました。でも、私はあまり信じていなかったので、一歩引いて見ていましたね。」
「たぶん夫に否定されていたら、逆に、熱量が大きくなっていたと思います。『気付いて!』の熱量が。こんな分からない人とは一緒にいれない・・とか。」

「アカリさんは、旦那さんの言葉で救われたことはありますか?」
「サークルを抜けるかどうか悩んでいた時に夫からこう言われたのを憶えています。『結婚したのは2人の時間を楽しみたかったから。お金も時間も限られているのに、そんなことしている場合じゃないよ』。それを聞いて『ハッ」と思いました。」
「それに近いことは言ったと思います。一緒にサークルに参加してみて、分かり合えない人たちのために時間を割くのがもったいないと思ったんです。(参加している人たちは)新しい誤情報が出てきたらそのたびに飛びついて、それが否定されたら、また次に飛びついて、という感じでした。妻から話を聞いているだけだと『あり得ない世界だ』と簡単に否定していましたが、その違和感を実際に共有できたのが大きかったかもしれません。」
誤情報から抜け出して数ヶ月。
アカリさんは今、昔の友人と再会するなど、人間関係を再構築しようとしています。
今回の取材を受けることで、自分の体験を記録しておきたいと話していました。
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誤情報を信じていた 主婦・アカリさん(仮名)
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「誤情報を広めてしまい、本当に申し訳ないと思ってます。後悔ですね。胸を裂かれるような気持ちというか。なんて自分はばかなんだろうって。1秒でも早く抜け出したほうが幸せには近いと思います。その場所には幸せはないです。」
家族の対応 まずは「否定せずに」 困ったら専門家へ相談
もし身近な人が誤情報を信じてしまったらどう接すればいいのか。
ワクチンの誤情報を調査した筑波大学の原田隆之教授は、「相手を否定せずに、同意できるところは同意してコミュニケーションを続けていくことが大切」と指摘します。

実際には、個人では対応が難しいことも少なくありません。その場合は、抱え込まず専門家に相談することも大切です。
同様の相談については、日本臨床心理士会などが開いている「新型コロナこころの健康相談電話」でも受け付けています。
