
【みたらし加奈さん】「匿名だからこそ傷つく」ひぼう中傷と若者の価値観
ネット上のひぼう中傷にあったらどうしたらいいのか――
SNSで匿名の人から攻撃的な書き込みをされ、傷ついた経験のある人は少なくないと思いますが、10代・20代の若い世代は、上の世代にくらべ「より傷つきやすい」傾向があるそうです。デジタルネイティブならではの感覚について、臨床心理士のみたらし加奈さんに聞きました。
(フェイク・バスターズ「ひぼう中傷 被害を減らすには」取材班)

1993年生まれ 臨床心理士 NPO法人mimosas理事
SNSを通して 精神疾患やメンタルケアの認知を広める活動を行っている
大学院修了後は 総合病院の精神科にて勤務
10代~20代の心に重い影響 ネットのひぼう中傷
――みたらしさんが普段カウンセリングされている10代や20代の人たちからの、ネット上のひぼう中傷についての相談には、どんな特徴がありますか?
最初から「ネットのひぼう中傷に遭いました」と言ってくる人は少なくて、眠れないとか、食べられないとか、気分が落ち込む、といった症状を抱えていて、よくよく聞いてみるとネット上の人間関係やコミュニケーションが原因のようだということがよくあります。
ひぼう中傷というものには大きな破壊力があるのに、なぜか当事者以外から見ると“小さなこと”として処理されてしまうケースがありますよね。ひぼう中傷について誰かに打ち明けたとしても、「気にしなければいいじゃん」「無視すればいいよ」といった反応をされてしまう方も多いのではないでしょうか。当事者のほうも、そういう社会的な認識を知っているので、「ネットの言葉なのにこんなことで落ち込む自分が悪い」と思ってしまいがちです。自分で抱え込んで、救いを求められないままになっている人が多いと感じます。
匿名でも同じくらい辛い デジタルネイティブのアイデンティティー
――10代、20代はデジタルネイティブなので、ネット上の不特定多数の人からのひぼう中傷はスルーできるのかなと思っていましたが?
今の時代では匿名のネットユーザーが世論を変えたり、大きな影響力を持つ場面も多いですよね。だからこそデジタルネイティブ世代の中には、匿名と実名の影響力の差がないように感じている方も多いため、「匿名で寄せられたことば」こそ、すごく強く感じてしまうこともあるのです。
そして、そういった“ネット上のアイデンティティー”への認識を、上の世代と共有できないことが悩みになるケースもあります。上の世代の中には「実名のほうがインパクトが強い」と思っていらっしゃる方も多いので、親や先生などに相談すると「匿名でしか投稿できない人のことなんて気にしなくていいよ」と言われてしまったりすることも…。
私たちカウンセリングをする側も、その世代間ギャップを認識しながら、苦しんでいる当事者の置かれた状況を理解するように努力しています。

自分の輪の外からアンチがやってくる
――みたらしさんご自身は、普段ひぼう中傷とどう向き合っていますか?
私はふだんから「精神疾患は特別なことではなく、自分や身近な人、誰でもなる可能性がある。」ということを伝えたいと思って、ネットでの発信を積極的に行っています。 有り難いことに、私の発信を支持してくれている方もいらっしゃって、普段のコメント欄は比較的平和なんです。そこまで酷い人格否定などの攻撃を受けたことはありません。ただ、特定のツイートがバズることによって、心ないコメントがくる時もあります。
例えば以前、「#伊藤詩織さんを支持します」というハッシュタグとともに、「性的同意のない性行為は、性暴力と一緒だ」と書いたときには、多くの反対意見やひぼう中傷のようなメッセージが寄せられました。その時には、「これを毎日のようにされてしまったら、本当にしんどいだろうな…」と思いましたね。
ひぼう中傷を見なくて済む設定をし 見ない習慣を付ける
――ご自身が実践している、ひぼう中傷から身を守るためのノウハウはありますか?
ツイッターの機能はいろいろ使っています。たとえばリアクションが一定数を超えたツイートについては、リプライが来ても自分のタイムラインに表示されないように「ミュート」をするようにしています。ツイートがある程度広がると、「攻撃のため」だけのリプライも増えてきます。そういった攻撃的なリプライは「対話」を目的としているものではないため、自分にとってのプラスはありません。
それから、ツイッターでは、メールアドレスを登録しなくてもアカウントが作れるのですが、メールアドレスと連携していないアカウントは「捨て垢」の場合が多く、そういったアカウントからのリプライについては、通知が来ないように設定しています。
――書かれていることが気になって見てしまうということはありませんか?
私はもう「見ないクセ」がつきました。でも、見てしまう心理は仕方ないんです。人間の初期設定として、未知の危機から自分の身を守るために、危機を敢えて把握しようとしてしまうという本能があると言われています。だからこそ、「自分の知らないところで悪く言われている」のをチェックしてしまうのは自然なことなのです。「自分の心が弱いから、気になって見てしまうんだ」と思う必要はありません。攻撃を見てしまったときは「これは私の本能なんだ」と思って、見ないように意識するほうが心理的安全性を保てるかもしれません。
痛みを受け入れて 相談してみて
――いまネット上のひぼう中傷や人間関係に苦しんでいる人へのメッセージはありますか?
先ほどお話しした「見ないクセをつけること」は1つの方法ですが、例えアンチコメントを見てしまったとしても、あなたが罪悪感を覚えたり、自分を責める必要は一切ありません。私はあなたの味方ですし、あなたが思っている以上に、あなたの味方は沢山います。どうか1人で抱え込まないでください。
もしネット上でのコミュニケーションで傷ついてしまった時は、痛みを感じないようにしたり、自分から切り離そうとしたりせず、しっかり受け入れてみてください。あなたが傷ついたり、痛みを感じることは恥ずかしいことではありません。あなたが傷ついていることを「私は傷ついている」と認識することこそが、セルフケアの第1歩だと考えています。もしそれができた時には無理のない範囲で、信頼できる身近な人や、専門機関に相談してみてください。相談機関には守秘義務があり、相談者の気持ちを楽にすることが一番の目的なので、安心して相談してみてほしいと思います。

8/20放送 「フェイク・バスターズ」番組ダイジェスト版
Vol.1 もしも身近な人がひぼう中傷を受けたら…
Vol.2 ひぼう中傷の被害者を救う 第三者がカギに!
Vol.3 ひぼう中傷をなくすために…プラットフォームの役割は?
「フェイク・バスターズ」
8月20日(木)夜10:00放送(総合テレビ)