
熱中症になったら…「アイスバス」「アイスタオル」重症化を防ぐ対策を解説
「暑すぎる。なんか熱中症っぽいな…」
そう感じたことがある人は少なくないかと思いますが、特に注意が必要なのが、スポーツや労働の最中などに起きる「労作性熱中症」です。対応が遅れると、重い障害を負ったり命を落としたりすることもあります。
一方で、アメリカでは「正しい対応ができれば100%救命できる」とする研究結果も。
どうすればいいか?最新の知見にもとづく、効果的で今すぐ取り入れられる対策を解説します。

2011年早稲田大学スポーツ科学部医科学科卒業後、米国の大学院や熱中症専門の研究機関(Korey Stringer Institute)等に所属。米国公認アスレティックトレーナー(ATC)取得。
専門はアスレティックトレーニング、環境運動生理学。
こんな症状が出たら注意!

「労作性熱中症」には、大きく4種類あります。
(1)熱失神:運動を止めた直後や長時間立っていたとき等に、血圧が急に下がりふらつく
(2)運動誘発性筋けいれん: 足がつってしまうような状態
(3)熱疲労:運動が継続できない状態(倦怠感、口の渇き、めまい、頭痛、いらだち)
(4)労作性熱射病: 命に関わる40.5℃を超える高体温、意識障害が起こることも
③は医療機関への受診が推奨。
④になるとすぐに体を冷やし、救急搬送が必要になります。
深部体温が40.5度を超えると、30分で臓器へのダメージが出始めます。医療従事者が不在の環境では深部体温の測定は困難であることから、意識障害などの症状が出た時点から30分以内に冷却をスタートして、一刻も早く深部体温を39度台に下げることが、何よりも重要です。
体を冷やす効果は「アイスバス(氷風呂)」が最大!

上記は、アメリカの研究者たちが発表した、冷却方法別に冷却効果を比較したグラフです。
日常的な熱中症対応としてよく行われる“氷のうを脇に挟む”といった方法は効果が少ない一方で、全身を氷水につける方法が最も冷却できると分かっています。水は空気よりも“熱伝導率”が高いため、日陰で扇風機に当たる方法などと比べ効果的に冷却できます。
ポイントを整理すると、なるべく早く全身を冷やすコツは…
「なるべく体の広い範囲を、なるべく冷たい水につける」

冷却効果が最大のアイスバスとは、どのようなものか?
熱中症対策としてアイスバスを備えている、帝京大学ラグビー部に実演して頂きました。
<手順とポイント>
■用意するのは、①空気で膨らませるタイプのプール ②水をひくホース ③大量の氷。
■水は事前にためておき、傷病者が出れば氷を入れてすぐに使えるよう準備する。

■傷病者が出たらメッシュタイプの担架に乗せ、そのままアイスバスに入れる。
■わきの下にタオルを挟み、顔まで沈み込まないようにする。
■傷病者を入れると体の周りから水温が上がるため、水をかき混ぜたり、氷を追加したりして冷たさを保つ。
■傷病者の様子や対応の経過はなるべく記録し、救急隊が到着したら情報共有を行う。
アイスバスは高い冷却効果がありますが、難しさもあります。
設備を整えるハードルに加え、体を冷やしすぎる“過冷却”のおそれもあるため、本来は「直腸温度計」を用いて深部体温を測りながら行うなど、専門性を持った人が行う必要があります。アメリカでは多くの高校でアイスバスの導入が進んでいますが、「アスレティックトレーナー」が学校に配置されていることも背景にあります。
すぐに実践でき、効果も高い「アイスタオル法」

アイスバスを準備するのが難しい場合も、今すぐ現場で実践でき、効果も高い方法が「アイスタオル法」です。
<手順とポイント>
■用意するのは ①薄手のタオル5~6枚 ②氷水をはったバケツやクーラーボックス。
■傷病者が出たら、冷水に浸したタオルを全身にかける。

■このとき、タオルはしぼりすぎない。“冷水を身体に移動するイメージ”で。
■1~2分でタオルがぬるくなるため、再度氷水につけて冷たくする。ほとんど絶え間なく交換しているイメージ。
■少なくとも10分以上、救急隊に引き渡すまで継続する。
■その際、何分続けたか、症状の推移も伝えられるとよい。
今回撮影に協力してくれた岩倉高校の生徒たちははじめてアイスタオル法を実践しましたが、教わってすぐに動くことができ、「どこの学校でもすぐに取り入れられる方法だと感じた」と話していました。
大事なのは予防 熱中症は“防げる事故”

熱中症になったらどう対応すればいいのかをみてきましたが、何よりも大事なのは“予防”です。
早稲田大学の細川准教授は、熱中症を引き起こすリスクとして、以下のようなものが挙げられるといいます。
■睡眠不足
■1時間を超える長時間の激しい運動
■罰走(罰として走らせる・トレーニングさせる)
■二部練習、過密日程
■不十分な休息時間
■不十分な暑熱順化(急に暑くなった時や休み明け、十分に暑さに慣れていない状態)
こうしたリスクを避けるために、基本的な熱中症対策に加えて、冷所での十分な休憩時間(目安:3時間以上)が設けられていない二部練習の禁止や、暑さ指数(WBGT)が31℃を超えるときの運動を原則禁止するなどのルールも必要になると指摘します。
外部環境によって引き起こされる熱中症は、そのリスクを減らしていけば防げる事故。正しい知識と、いざというときの備えを万全にして、スポーツを楽しみましょう。