
「窓から転落」「給食で窒息」「ゴールポストが転倒」… 繰り返される学校事故を防ぐには
“教室で友人と話していた際、窓が開いていると気づかずカーテンに寄りかかり、転落した”
“給食の煮物に入っていた、うずら卵をのどに詰まらせた”
“持久走中、300メートル走ったところで突然ふらつき、崩れるように転倒した”……
これは、あるデータベースに記された“学校事故”の一部です。
2005年度以降、学校管理下の事故で亡くなった子どもが1614人、何らかの障害を負った子どもが7115人、合わせて8729人が記載されています。
「子どもの事故に新しいものはない。同じことの繰り返しが起きている」
専門家が警鐘を鳴らす学校事故の共通点とは?どうすれば防ぐことができるのか?
注意すべきポイントや、すぐに実践できる事故防止策をまとめました。
(NHKスペシャル「学校事故」取材班)
“学校事故をほぼ網羅” 日本スポーツ振興センターのデータベース

学校でどのような事故が、どれほど起きているのか。今回私たちが手がかりとしたのは日本スポーツ振興センターが公開している学校事故のデータベースです。
日本スポーツ振興センターは、学校内や通学中などで子どもが事故にあった際に、医療費や見舞金を給付する制度を運営しています。
小学校・中学校・高校に通う子どもの99%が加入しており、給付の申請件数は年間100万件以上。データベースはその申請書類をもとに作られており、専門家は“学校事故をほぼ網羅している貴重なデータベース”だとしています。
「窓からの転落」注意してほしいのは“足場”と“カーテン”

公開されているのは、2005~2021年度の学校事故のデータです。その詳細を分析すると、毎年のように起きていたのが「窓からの転落事故」。30人が亡くなり、44人が障害を負っていました。
74件のデータの記述からは、窓際に置かれた棚など“足場になるもの”の存在が、事故の要因の1つになっていることが浮かび上がってきました。
<記述より>
本児童は、1.8mの高さにある窓の鍵を開けるため、廊下の窓際に置いてあった金属製の用具入れ(高さ90㎝)に乗って窓を開けた。降りるために振り返った際、バランスを崩して後ろ向きに転倒し、1階中庭に転落したものと思われる。(小学4年生・男子・死亡)
<記述より>
図書館で遊びをしていた。本児童は窓の下部にあった本棚に上がり、開いていた窓の窓枠に、室外を背に座るなどしていた直後に転落した。(小学1年生・女子・死亡)
たとえ転落防止の手すりなどが施されていても、足場になるものがあったことで転落したケースもありました。

また、“窓際のカーテン”も事故の要因になっている例が複数ありました。
<記述より>
鬼ごっこをしていて、本児童は窓際のストーブの上をカーテンに隠れて移動しようとした際、窓が開いていたことに気付かず仰向けの状態で3階ホールから中庭に転落した。(小学5年生・男子・障害)
<記述より>
休憩時間中、3階の教室でカーテンがかかった窓辺に座って友人と話していた際、窓が開いていることに気付かず寄りかかろうとして、そのまま中庭に転落した。(中学2年生・男子・死亡)

事故防止にこれだけは!専門家に聞いた3つのポイント
どうすれば転落事故を防げるのか?子どもの事故を研究してきた森山哲さんに対策のポイントを伺いました。

<窓からの転落事故を防ぐ 3つのポイント>
☑窓の下に“足場になるもの”を置かない
☑“遮光カーテン”などを使うときは“窓の開閉状況”に注意
☑窓には“手すり”や全開防止の“ストッパー”を 壊れていないか点検も

【足場になるものの危険性について】
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子どもの安全研究グループ(技術士) 森山哲さん
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日本の学校は、教室が校庭に面しているところが多いですよね。すると昼休みに、校庭で友達が運動していたら、身を乗り出して声をかける、手を振る、そんな光景は容易に想像がつくと思います。そんなときに、たとえ転落防止の手すりがついていても、窓の下にカラーボックスなどがあると、足をトントントンと乗せて、手すりの上にあがることができます。
ですからカラーボックスやキャビネット、物入れを窓際に置くのは絶対に避けていただきたいことです。
手すりについても、十分高ければ乗り越えることが難しくなるため、1.4mの高さに設置することが望ましいと思います。
【カーテンの危険性について】
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森山哲さん
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最近の学校では、プロジェクターやテレビを見やすくするため、カーテンを閉めて授業をするケースがあります。特に最近は遮光カーテン、つまり向こう側が透けて見えず、どうなっているかわからないものが増えています。カーテンに寄りかかって、開いていることに気づかずに落下する事故がありますので、“うちの教室はそうだ”という人は特に気をつけてください。
子どもは大人が想像もしない行動をとるからこそ、専門家とも連携して、危険の芽を事前に摘み取る必要があるという森山さん。
“子どもは大人を小さくしたものではない”“子どもの特性を踏まえた対策をとってほしい”と強調していました。
設計段階から転落防止に取り組む自治体も
自治体をあげて窓からの転落事故の防止に取り組んでいるのが、大阪・堺市です。
堺市では2011年、当時小学4年生だった男の子が、廊下の窓を開けようと窓際にあった用具入れにのぼり、転落して亡くなるという事故が起きました。
市は事故の直後、市内の公立校を緊急点検し、窓際にあった用具入れや傘立てなど、足がかりになるものをすべて撤去しました。

さらに、市内で校舎を新築する場合は、設計段階から転落防止の対策を施してきました。
たとえば、廊下のロッカーなどは窓と反対側に置き、窓際には足場になるものを置かないようにしています。

ただ、音楽室などの特別教室では、楽器を収納するスペースなどが必要になります。
どうしても棚を据え付けることになる場合は、
☑落下防止用の柵を設置
☑窓が10センチ程度しか開かないようストッパーを付ける
などの対策を徹底しています。

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堺市教育委員会 学校施設課 飯田繁夫課長
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「事故当時、廊下に棚や傘立てがあることはある意味“当たり前の光景”だったので、まずはそれが足がかりになるという認識を持ちながら施設整備をしていかなければいけないと感じました。
特別教室ですと、理科室の流し台や図書室の書架などがどうしても壁際にくるような配置になりますので、転落防止柵やストッパーを付けるなど、二度と事故が起こらないよう設計しています」
“丸くてつるつる”に注意!「給食中の窒息事故」
データからは、ほかにも特徴的な事故が見えてきました。
そのひとつが、「給食中の窒息死」です。
<記述より>
教室での給食中、「鶏肉と野菜のうま煮」の中に入っていたうずら卵を食べ、咀嚼(そしゃく)なしに飲み込んだため喉に詰まらせた。(小学1年生・女子・死亡)

ミニトマトや白玉団子など、“丸くてつるつるした物”を食べる同様の事故で、7人が死亡していることがわかりました。
子どもの傷害予防の活動に取り組むNPO法人Safe Kids Japanは「ミニトマトや大粒のぶどうのようにつるつるした球形のものは、のどの奥にスルっとはまりこんで呼吸ができなくなることがある」と して、特に4歳ごろまでは以下の注意点を踏まえるよう呼びかけています。
☑つるつるした球形の食べ物は、縦に4つに切るなど小さく切って提供する
ちゃんと固定しよう!「ゴールポスト転倒事故」
また、サッカーやハンドボールなどの「ゴールポスト」の事故も、似た事例が並びました。
<記述より>
体育の授業中、サッカーをしていた。生徒がゴールポストにぶら下がったところ、ゴールポストが倒れこんできて、顎と首が挟まれた状態で下敷きになった。(高校3年生・男子・死亡)

ゴールポストが地面に固定されずに転倒する事故。
データベースには2人が死亡、10人が障害を負ったと記録されていました。
学校事故のデータベースを公開している日本スポーツ振興センターは、3つの注意点の徹底を呼びかけています。
☑ゴールにぶら下がらない・跳びつかない
☑強風などで転倒しないよう重りや杭(くい)で固定する
☑移動・設置の時は指導者が立ち会い、大きな声で声かけをする
取材後記
取材した複数の専門家が共通して語っていた「子どもの事故に新しい事故はない。どこかで起きたものの繰り返しだ」という言葉。
そこには、事故のパターンが分かっていながら防げないことへの歯がゆさがにじんでいました。
もう2度と同じような事故を繰り返さないために。
データから教訓を導きだし、確実に対策を行うことが求められているのだと感じました。