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全国の高校“校則データベース”を開発 現役高校生の描く未来とは

全国の高校1200校の校則を自力で集め、データベースとしてWEB上で公開している現役高校生がいます。

「校則に疑問を感じたとき、データをもとに話し合っていける社会にしたい」

プロジェクトを立ち上げたのは群馬県の公立高校に通う神谷航平さん(17)。情報公開請求の制度を活用して各自治体の教育委員会から校則を取り寄せ、志を同じくする現役の中高生とともに地道なデータベース化とホームページ制作を行っています。

今月、国が12年ぶりに改訂する生徒指導の手引き「生徒指導提要」の中でも“校則は学校のホームページ等に公開が適切”とされ、まさに時代を先取りする活動に取り組んできた神谷さん。高校生活を“校則データベース”にささげる理由とは?どんな理想の学校像を思い描いているのか?聞きました。

全国の高校の校則をデータベース化 “全国校則一覧”とは

( 神谷さんたちが制作したホームページ「全国校則一覧」 )

神谷さんが代表を務める学生団体Change of Perspectiveが運営するホームページ「全国校則一覧」。2022年9月現在、1200校あまりの高校の校則を公開しています。

学校名などで検索すると、その学校の校則を誰でも自由に閲覧可能です。
「ツーブロック」などのキーワードで検索すれば、何校が校則として掲載しているのかも調べられます。

(「ツーブロック」で検索すると1215校中132校が表示された)

神谷さんは現在も各教育委員会へ情報公開請求を続けており、今年度中に約3500ある全国すべての公立高校の校則を集め、ホームページ上で公開することを目指しています。

現役高校生がなぜ校則のデータベース化に取り組む?

(プロジェクトを立ち上げた群馬県の高校2年生 神谷航平さん)

自身を“ふつうの高校生”と語る神谷さん。校則に疑問を持つようになったのは、中学2年のとき「午後4時まで外出禁止(4時禁)」の校則で先生から注意を受けたことでした。

「私の中学校は、午後4時までは外出禁止だったんです。帰りのホームルームになると、“4時まで外出しないように”という校内放送が流れていました。なんで下校してから午後4時までは外で遊んじゃいけないのか?小学校のときはよかったのに……先生に聞いてみると“近所からクレームがくるのと、まわりの学校も同じように指導しているから”という返事で、疑問に思いました」

ほかにも「靴や靴下は白のみ」などのルールに違和感を持ち、生徒会に掛け合うと決めた神谷さん。やるならデータで客観的に分析したいと市内の校則を集めることにしました。

当時はまだ校則の収集方法を知らなかった神谷さんは、始めたばかりのツイッターにひと言つぶやきました。

「現役の中学生で、校則を変えるためにほかの学校の校則を集めたいです。どうすればよいでしょうか」

すると、返信で“情報公開請求”の存在を教えてくれる人がいました。

神谷航平さん

「さっそく調べてみると、できるじゃん!できるじゃん!という気持ちと、中学生ができるのかなという気持ちが半々でした」

地元の自治体の情報公開制度のホームページを見ると……
「公開を実施する機関」に“教育委員会”
「請求できる人」に“どなたでも請求できます” と記載がありました。

ホームページに掲載されていた“行政文書公開請求書”をダウンロードし担当課に送ると、数か月後、念願だった校則データを入手できたのです。

(中学3年のとき初めて手にした“行政文書開示決定通知書”)

結局このときは校則改正に至らなかったものの、“全国の高校の校則を集めてホームぺージに公開したら面白いんじゃないか”と今回のプロジェクトを発案しました。

中学生にとってみれば、志望する高校を選ぶ参考になるはず。
自分と同じように校則で悩む生徒がいれば、見直しを求めるときの武器にもなるのではないか。
高校進学ととともに“全国の高校の校則一覧をつくる”という目標を立てたのです。

ツイッターで仲間募集 校則に情熱を持つ生徒が集う

とはいえ実際の作業は膨大です。

開示請求の書類を送ったあとは担当課と直接電話でやりとりをして“どんな資料がいるのか”を説明したり、開示費用を振り込んだり(紙の場合、10円×枚数を請求される場合も)。
ようやく手に入れた校則は紙の束だったり、CD-Rに入ったPDFファイルだったりするため、それを文字データに直したり……

そこで再びツイッターの出番です。

このときは3人からメッセージがきて仲間に。
今では北は秋田県、南は大分県まで全国各地から11人の中学・高校・大学生が集まりました。

活動は完全にオンライン。実際に会ったことは一度もないそうです。
それでも、WEBに関心のある生徒がホームページを作り、データに強い生徒が“OCR”(画像データのテキスト部分をスキャンし文字データに変換する技術)で作業効率を高めるなどチームワークは抜群。
現在手元には2000件を超える校則が集まっており、公開作業を急いでいます。

(各教育委員会から提供を受けた校則の束)

“日本一校則を持っている高校生”が分析 現代の校則事情とは

高校生としては誰よりも校則をみてきたと自負する神谷さん。
“理不尽な校則”が問題視されて久しい現在は、“下着の色の指定”や“丸刈り”といった校則はほとんど見かけないといいます。

一方で「校則には地域性が表れる」という気づきもありました。

神谷航平さん

「例えば香川県だと、ほかの県ではあまり見かけない“靴は白色かローファー”という校則が多くの学校でみられました。千葉県では免許を取得する際、学校の許可証がないと教習所に行ってはならないという校則も多くの学校で記載があります。“げた禁止”なんていうのもあるんです。昔からある学校なのかなと想像しながら校則を調べていくと、地域性がかいま見えておもしろいなと感じています」

( 「下駄」で検索すると、1215校中81校でヒットした )

ただ、校則として生徒手帳等に記載があっても実際には運用されていないケースや、明文化されていなくても実態として存在するルールも学校にはあります。細かなルールは毎年のように変更されることも珍しくありません。神谷さんは“このホームページに掲載されている校則はあくまで一部というつもりで参考にしてほしい”と話していました。

校則改革に挑む高校生に“武器を与えたい”

自身は“いま通っている高校の校則に不満はない”という神谷さん。
活動の目的は、校則を変えたいという生徒たちに「武器を与えること」だといいます。

「校則を変えたいと思う人は、かつての自分と同じように、ほかの学校がどうなっているか気になると思うんですよね。でも実は、そこが一番調べるのが大変だったりします。このサイトがあれば、データに基づいて議論することができます。

あとは、高校に入学してからの“ギャップ”もなくせます。あらかじめ志望校の校則が分かっていれば、入学後に先生と衝突することも避けられると思うんです。これって生徒も学校も大きなメリットのはずです。

校則そのものがあるべきかどうかという議論については、僕の考えは、法律や電車のマナーと同じように学校内にあるべきものだと思います。サッカーだってルールがなければ成立しません。誰もが納得できるルールであることが大事だと考えています」

神谷さんは今、団体をNPO法人にすべく手続きを進めています。

開示請求の過程ではひとつの自治体につき数千円~1万円ほどの費用がかかり、ホームページのドメイン取得やコピー機の費用も高校生には大きな負担で、寄付を募りながら運営を続ける仕組みをつくるためです。
最終的には、自分が高校を卒業しても誰かが引き継げる形にしていきたいと考えています。

生徒指導提要の改訂 “校則はWEBで公開”の時代にできること

今月、文部科学省は12年ぶりに生徒指導の手引きとなる「生徒指導提要」を改訂し、特に校則について大きく見直しました。“校則は学校のホームページ等に公開が適切”とされ、今後は各地で校則のオープン化が進むとみられます。

そんな時代だからこそ“校則データベース”はより力を発揮すると神谷さんは考えています。

神谷航平さん

「僕たちの強みは、いくつもの学校の校則にすぐアクセスできて比較できることです。これからはデータベースを生かして、大学の先生方との“研究”もしたいと思ってて。例えば○○県はこういう傾向がありましたとか、□□という校則はこういう地域に多いですとか。そういう調査や議論から、次の時代の校則を考えていきたいなと思います」

2時間弱に及んだ取材、最後に言いそびれたことはないか聞くと、神谷さんはこう話してくれました。

「校則は悪者みたいになっていますが、本来は子どもを守るためにあるものだと思うんですよね。ただ、ヘンだなと思うものもやっぱりある。だから、大人目線や子ども目線を交えながら、話し合いながら変えていくのが一番いいと思います」

冷静な対話を実現するには、客観的な事実がかかせません。
“全国すべての高校の校則をデータベース化する”という壮大なプロジェクトに突き進む神谷さん。思い描く学校像を実現できるか、大人の側も問われていると感じました。

担当 藤田Dの
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この記事の執筆者

報道局 社会番組部 ディレクター
藤田 盛資

2011年入局、金沢局と首都圏局を経て現職。
「教員の働き方」や「校則改革」など学校現場を取材。

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