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全校生徒を巻き込め!500人を前に語ったことば| “校則が厳しい学校”の改革日記③

生徒主体で校則を見直す。

いま全国で広がりつつある取り組みですが、いざ実行に移すと簡単にはいきません。
一部の生徒だけで決めていないか?少数派の意見は見過ごしていないか?先生と合意できるか?……

校則はすべての生徒・先生に関わるもの。
校則見直しに取り組む足利清風高校のメンバーたちは「全校を巻き込んだ活動にしたい」と、終業式の時間を借りて呼びかけることにしました。
500人を超える全校生徒を前に、自らのことばで。

のちの活動で大きな意味を持つことになる、一夏の挑戦の記録です。

“校則が厳しい学校”の改革日記は、NHKのディレクターがある高校の校則見直し活動にボランティアでお手伝いしながら伝えていく企画です。これまでの記事は↓
① 発足!ルールメイキング委員会
② 「意外と難しい…」 生徒と教師の”対話”

校則見直しの活動、全然知られていない……?

「下着の色は白かベージュ」「ツーブロック禁止」など“厳しすぎる”という校則を見直すため、2021年春に発足した栃木県立足利清風高校・ルールメイキング委員会。

これまでの“校則は先生が決めて、生徒は従うだけ”という仕組みから脱却し、“生徒が主体となって校則を見直す”ことを目指している。

ただ、活動を初めて1か月が過ぎたころ、メンバーはある課題に直面していた。

「自分たちの存在、学校であまり知られていない……?」

同級生に聞いても「知らない」「なんかやってるみたいだね」と薄い反応。
ルールメイキング委員会に参加する先生たちが、げた箱の前に掲示物を出して活動をアピールするも、あまり見られていない様子。

(昇降口前に設置された掲示板)

「私たちが校則を見直しても、一部の生徒で決めたことだと先生たちに認めてもらえないんじゃないか?もし校則を変えられても、このままでは多くの生徒にとって“押しつけられた校則”のままなんじゃないか?」

プロジェクトを、全校生徒と教員を巻き込んだものにしていく。当面の目標が定まった。

(学校とオンラインでつなぎ活動)

学校で一斉周知を図るとなると、手段はそんなに多くない。

プリントを作って各教室で配る。昼休みに校内放送を行う。教室にあるテレビで映像を流す……

「直接自分たちのことばで伝えないと、当事者意識を持ってもらえない」

熟考のすえ、1か月後に行われる「終業式」の時間を借りて、直接語りかけると決めた。

全校生徒を巻き込む“キャッチコピー”は?

「みんなの前で発表するなら、体育館にでっかく映し出すキャッチコピーを作りたい」

舞台が決まると、アイデアが出始める。

自分たちがこの活動にかける思いをひと言に込めるとどうなるか、書き出すことにした。

“過ごしやすい学校に”
“チャレンジ宣言”
“変える”
“変えられる”
“変えられないと思ってない?”

「みんな、どうせ校則は変わらないだろうと思ってる。そのイメージを変えたい」

ことばの端々から校則を変えることが生徒たちにとって大きな挑戦であると伝わってくる。

“委員長”こと3年の内田君の番がきた。

「自分たちは3年生だから、これから校則を見直しても自分たちには関係ないけど、これから入ってくる後輩たちには過ごしやすい学校であってほしい。“つなげる”みたいな」

変えて、つなげる。

校則を変えるだけで終わらず、その先も生徒の手で守り継いでいく。そんな思いを表現したキャッチコピーが仕上がった。

キャッチコピーを最初におき、流れ案も考える。

(1)活動の概要
(2)変えたいという思い
(3)新たなメンバーの募集
(4)みんなで変えよう、という呼びかけ

多くの生徒に少しでも当事者意識を持ってもらいたいと、プレゼンに共感したら最後に拍手を求めるアイデアも入れ込んだ。

メンバーそれぞれ担当を持ち、当日までに自らのことばを考え、発表の練習に打ち込む日々が続いた。

「ひざが震える」「頭が真っ白」500人の聴衆を前に発表

7月20日、1学期の終業式。

校長先生のあいさつ。
部活動で上位大会に出場する生徒の壮行会。
夏休みの過ごし方の諸注意。

滞りなく式典は進行し、出番が近づく。体育館の片隅にメンバーが集まる。

「続いて、ルールメイキング委員会からお知らせがあります」

ついに出番。いつもと違う終業式の流れに、会場も少しざわめく。

マイクを握り、語りだす。

私たちルールメイキング委員会は、生徒や先生方の意見を聞き、保護者や関係者と対話を重ね、より良い校則をつくっていきたいと考えています。

この活動で大切にしたいことは、より多くの意見を取り入れること。誰もが納得する理由を考えること。多数派だけでなく少数派の意見も尊重する、ということです。

1年の“さな”さん。“どうせ校則は変えられない”という諦めムードを変えたいと語っていた。

最初は先生と話し合うのが難しかったのですが、今では先生とたくさん対話することができています。そして、対話を重ねるごとに、校則見直しをやっていいんだ!やれる!変えられる!と強く思うようになりました!

そしてラスト、拍手を呼びかける。反応があるか一番心配していた場面だ。

最後に、ルールメイキング宣言に賛同してくれる人は拍手を!

呼びかけると、驚くほどすぐに、大きな拍手が沸き起こった。
先生が作っていた進行メモのすみっこには(拍手が小さかったときは手伝う)と書かれていたが、取り越し苦労だったようだ。

大成功だった。

(先生のメモ。心配はいらなかったようだ)

ついに集まった“全校生徒”からの声

放課後集まってきた生徒たち。
ひと仕事終えた安心感からか、素直の気持ちを教えてくれた。

(3年の“委員長”)

「緊張していてまったく覚えていない。一生懸命、言うことは決まっているんですけど、それを頭の中で、ずっとシミュレーションしていて……」

(2年の“はり”)

「すごい緊張していたんですけど、最後の“拍手をお願いします”のとき、(拍手が)時間差でくるかなと思ったら、みんなすぐに拍手をしてくれてうれしかった。発表が終わって教室に戻ったとき、そういう活動があるんだと言われて、みんなに少しでも知ってもらえたかなと思ったので、これからもっと活動していくなかで協力してもらえたらいいなと思いました」

(1年の“まーしー”)

「みんなに伝わってほしいと、少しでも伝わってくれたらいいなと思ったし、みんなが疑問に思っている校則とかを少しでも深く考えてほしいなということを思いました」

(1年の“さな”)

「私が言ったセリフのなかに“変えられる”というのがあって、それがみんなの心に届いて、少しでも“清風の校則を変えられるんだ”と生徒ひとりひとりの思いが変わってくれればなって。前に昇降口の掲示板の前で“どうせ変わらないんじゃないの”と言っているのを何人か見たので、その思いが変わってもらえればいいなと思いました」

安どの表情の中には、前よりも頼りがいのある、自分たちへの自信もみえた。

“生徒たちの成長を見届けたい”、そんな思いもあり始めたお手伝い。

こんなにも誇らしい姿に立ち会えて、感無量だった。

実はこの日、終業式のあとホームルームの時間を10分もらい、全校生徒アンケートを書いてもらっていた。

523枚にも及ぶ、生徒ひとりひとりの校則への意見。
より多くの意見を聞き、少数派の声もすくいあげて校則見直しを実現しようというチームにとって、貴重な貴重な“声の束”だ。

さっそく読み込むと、
「納得がいかない校則がいくつもある」「生徒手帳の内容と実際の指導が異なる」「あまりにも制限がありすぎて刑務所のようだ」などの強い意見がいくつも出てきた。

同時に「今のままでも問題ない」という生徒が何人もいたことや「今のルールがある理由を知れたら納得できるかもしれない」など、新たな気づきとなる意見もあった。

2学期からは、どの校則を見直すか決め、どういう内容に変えるか、情報を集めながら考えていくことになる。方針を決めるとき、先生たちに提案するとき、“全校生徒の意見”が大きな後ろ盾になるはずだ。

何かを変えたいと呼びかける。
関わるすべての人から意見を集める。
それを元に誰もが納得するルールを考え、もういちど問いかけ、合意を得る。

いま足利清風高校・ルールメイキング委員会が行っていることは、まさに“民主主義”そのもののように感じる。そばでみていると大変で面倒な作業にも思えるが、このプロセスを踏むからこそ、あの“拍手”が生まれ、学校に通うみんなの本音を知ることができたのだと知った。

この取り組みから、どんな学校に、生徒になっていくのか。
2学期からは「校則見直しに向けた調査活動」「改正案の作成」「職員会議でのプレゼン」と、さらに取り組みは広がっていく。引き続きぜひご覧ください。

担当 藤田Dの
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この記事の執筆者

報道局 社会番組部 ディレクター
藤田 盛資

2011年入局、金沢局と首都圏局を経て現職。
「教員の働き方」や「校則改革」など学校現場を取材。

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