
「意外と難しい…」 生徒と教師の”対話”| “校則が厳しい学校”の改革日記②
生徒と教師の「対話」を通じて、誰もが納得できる校則を考える。
これは足利清風高校・ルールメイキング委員会が大切にしている心構えのひとつです。
これまでは“厳しい校則で指導する教師”と“それに従う生徒”という明確な上下関係があり、たとえ納得できない校則があったとしても対話は生まれず、互いに苦しんできたという反省があるからです。
とはいえ、いざ「対話をしよう」といっても、実際はなかなか難しい…。
その過程は、お手伝いで参加する33歳の私自身にとっても、職場や家庭でのふるまいを反省したくなる、気づきの多いものでした。
これまでの「改革日記」
“校則が厳しい学校”の改革日記① 発足!ルールメイキング委員会
“自由に意見を言い合おう!” ってなかなか難しい

“厳しすぎる”という校則を生徒主体で見直していこうと、2021年6月に発足した栃木県立足利清風高校・ルールメイキング委員会。
この日は「活動するうえで、大切にしたいこと」を考えることになっていた。
これから1年間活動するにあたり、迷いや悩みが生じても立ち返ることのできる指針を作ろうというのだ。
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猿橋宣彦先生:
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「大切にしたいことを決めよう。先生からは、これだけです。じゃあ始めましょう!」
ルールメイキング委員会に教員として参加している、猿橋先生の元気な号令でスタートしたこの日の活動。
……しかし、肝心の生徒同士の話し合いが、なかなか始まらない。
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猿橋先生:
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「きょうは誰がリーダーシップを発揮してくれるかな?」「自由に何でも意見を言っていいんだよ!」
活動をサポートするコーディネーターの私は、この日リモートでの参加。
画面の向こうの先生たちの声かけから、ハラハラした様子が伝わってくる。

左上:NPO法人「カタリバ」職員・古野香織さん 右上:筆者 右下:筑波大学特任研究員・久保園梓さん
とはいえ、生徒の立場を思えば無理もない。
1年生4人、2年生2人、3年生6人と学年はバラバラ。
ルールメイキング委員会を立ち上げた小瀧智美先生(※小瀧先生について詳しくは「改革日記①」に掲載)が、もともと「風紀委員会」を務めていた生徒たちに声をかけ集まっており、まだお互いをよく知らない。
しかも、従来の校内活動にはない生徒任せの進め方に、戸惑いもあったはずだ。
“何を言うのが正解…?何をするのが正解…?”
そんな空気が漂っていた。
生徒たちの様子を見守っていた猿橋先生が、ひと言添えた。
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猿橋先生:
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「じゃあ、まずは隣の人と話してみようか」
「思ったことを付箋に書いて、1人ずつ貼っていこうか」
緊張感が少し和らぐ。
きっかけを得た生徒の中で、話し合いが始まった。
わずかな工夫でこうも場の雰囲気が変わるのかと驚かされた。
対話を実現するための“ルール”を

実は生徒同士の対話がうまく進むよう、ある取り組みが事前に行われていた。
“チームビルディング”だ。
A4の白紙に、名前と“自分に由来するキーワード”を書いて自己紹介。
先輩・後輩関係なく、あだ名で呼び合う。
さらには、実りある対話を実現するための独自ルールも作っていた。

1.人の話を聞く時は相手のほうを見て静かに最後まで聞く
2.話を否定・批判・ばかにしない
3.自分の意見を言う
4.いい意味で先輩後輩なし!
思わず、私もふだんの自分を振り返ってしまった。
当たり前のようで怠りがちな、大切な姿勢ばかりだった。
生徒たちは、「対話」を実現するためにこうしたルールが必要だと自分たちで考えていた。
こうした土台があったからこそ、きっかけをつかんでからの対話がスムーズに始まったのかもしれない。
“対話をデザインする”ルールメイキング・ハンドブック

小瀧先生が最初に“チームビルディング”を行おうと思ったきっかけが、このプロジェクトを支援する認定NPO法人「カタリバ」が作った『ルールメイキング・ハンドブック2021』だ。
教育研究者やワークショップデザイナーたちが知恵を出し合い、学校現場での実践を経て作り上げた1冊。この取り組みの目的は何か、どんなステップで活動を進めるとよいか、それぞれのフェーズで具体的にどんな取り組みを行うとよいか、事細かに書かれている。“校則の見直し”という前例のない取り組みに挑む学校現場にとって、少しでも助けになればという思いが込められている。
※『ルールメイキング・ハンドブック2021』は、認定NPO法人「カタリバ」の「みんなのルールメイキングプロジェクト」のパートナー校の登録をした学校に、無償で配布される。

ハンドブックで対話を生み出す仕掛けを考えてきたのが、ワークショップデザイナーの古瀬正也さん(33)。大学時代に“対話”に興味を持ったことをきっかけにワークショップの設計やファシリテーションを専門に行う仕事を立ち上げ、500回以上のワークショップなどを手がけてきた。
豊かな対話を生み出すためには、“場が始まる最初の動き=チェックイン”が大事だと古瀬さんは語る。
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ワークショップデザイナー 古瀬正也さん:
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「あまり関係性ができていない状態で対話を始めると“どこまで話して良いんだろうか”という雰囲気になりがちです。より良い対話の場にするには、“ここまで話して良いんだ”と思える安心感を、最初に作ることが大切です」
そのうえで古瀬さんが大事にしているのが、最初に「1人1声」発すること。
一般的な自己紹介でもよいし、人柄がにじむような、何らかのお題を与える形式でもよい。コロナ禍で主流となったオンラインミーティングならば、家にある「お気に入りのもの」を画面で紹介する形式は、毎回盛り上がるそうだ。
全員が声を発することで、“その人がその場にいる”という感覚を共有し、ひとりひとりが主体的に参加するようになる。実際に私も古瀬さんのワークショップに参加したことがあるが、チェックイン以降、自分の意見を話すことに抵抗がなくなる感覚があった。
組織の中で自分の考えを誰でも安心して話せる場づくりは、最近では「心理的安全性」という概念でも注目されている。学校ではどうしても“指導する教師と生徒”という上下関係になりがちだからこそ、意識的にこうした雰囲気を作ることは大切だと感じた。
“対話とは、それぞれの考えを見つめ合うこと”

古瀬さんが対話の場をデザインするうえで大事にしていることはほかにもある。
・まずは、誰の意見も聞かずに、1人で考える時間を持つこと
・その上で、ひとりひとりが自分の考えを“その場に置く”イメージで話していくこと
・それぞれの考えが変わっていくことを、よしとすること
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古瀬さん:
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「最初から『みんなで話し合いましょう』という方法もありますが、どうしてもほかの人の意見に引きずられたり、場の雰囲気で自分の考えを話せなかったりすることもあります。だから私は『いったん周りは気にせずに、現時点での考えをまとめてください』と促すこともあります。そうすることで『ほかの人はどう考えているんだろう』という関心も高まりますよね。
そのうえで、対話の場にそれぞれの考えを“置いていく”。付箋に書いてひとりずつ貼っていくと、より視覚的になります。それを“みんなでみる”。それぞれの意見の共通点や違いを認識できるようになります。『なんでそう考えたの?』と意見の背後にあるものに目を向けられるようになれば、とてもよい対話になっていると思います。
もうひとつ大事なのは、意見を求めるときに“現時点の考えでいい”と強調することです。対話を重ね、ほかの人の考えを聞いていくうちに、自分の考えが変わっていくことは当然ありますし、それこそが対話をする意味だとも思います」
古瀬さんは「対話」という言葉を、こう定義している。
対話とは、1人ひとりが率直な意見を出し合い、多様な<声>を聴き合い続けることで、自己理解や他者理解が深まり、共通了解や新しいアイデアが生まれるコミュニケーションである。
教師と生徒で「校則」の捉え方は大きく異なることが多い。だからこそ、対話を通じてその違いを理解することが、見直す上では欠かせない。
校則に限らず、“分断の時代”とも言われる現代で対話を重ねる大切さを考えさせられた。
“教師と生徒” 立場を超えた対話の先に…

少し話がそれたが、6月9日の活動に戻る。
生徒と腹を割って対話をしたいと、先生たちは率先して自らの思いを伝えようとしていた。
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須永泰枝 先生:
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「先生と生徒の信頼関係がないと意見が言えないと思います。“どうせ意見を言っても聞き入れてもらえない”から“言えば変わるかも”になるよう、対話を大事にしたいです」
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小瀧智美 先生:
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「今までは生徒指導部長ということで、みんなとの溝がすごくあった。でもこの委員会は対等にいきたい。みんなと対話をしてみたい。“今日疲れた!”というくらい話し合いたい」
先生たちの気持ちを受け止めた生徒たちは、次第に自分の考えを示すようになった。 足利清風高校の「活動するうえで、大切にしたいこと」は、3つの柱に絞りこまれていった。
・より多くの意見を取り入れること
・誰もが納得する理由を考えること
・多数派だけでなく、少数派の意見も尊重すること
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生徒:
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「全員満場一致は難しいけど、できるだけみんなが良いなと思う意見をみつけることができたらいい」
「女子でもズボンをはきたい人、男子でもスカートをはきたい人など、少数派の意見も大事にしたい」
できあがった3つの 柱はどれも、民主主義の原点のようなものばかりだった。
“校則見直し”という活動は、民主主義を学ぶことでもある――
この取り組みの意義深さ、学びの大きさを感じた。
“大切にしたいこと”について意見が出そろった最後、1年生の石山茶那(さな)さんが新たな考えを話し始めてくれた。
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石山茶那さん:
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「誰もが納得する理由を考えるには、生徒や先生が今の校則について知ることが大切だと思います」
すかさず、NPO職員の古野香織さんが「どうしてそう思ったの?」と問う。しばらく考え込んだ茶那さん。必死に自分の考えを言葉にしようとしていた。

1分ほどたった。
誰も口は挟まない。一緒に考える。不思議と緊張感はなかった。
このチームにとって、この時間は必要なものだと皆が理解していた。
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石山茶那さん:
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「みんな、校則について意見があると思うんですけど、その校則が作られたのには何か事件やトラブルがあったのかもしれない。 それなら自分たちもそれを理解して、それを起こさないようにしないと、校則は変えられないんじゃないかと思いました」
自分の言葉の意味を伝え、みんなで共有する。対話が実践された瞬間だった。
せわしない日常に追われていると、相手の言葉の真意を聞くこと、自分の言葉の意味を伝えること、どれもおろそかにしがちだ。相手が話しやすい環境を作ることも容易ではない。 今回の活動から学んだ「対話的な姿勢」は、社会をより深く理解し伝えていく取材者として、あるいは会社や家庭など、誰かとともに生きていくうえで大切な心構えだと感じた。
次回の校則改革日記は……“変えてつなげろ!清風ルールメイキング宣言”

校則を変えるには多くの人の意見が必要。
だけど、そもそも自分たちの活動や存在は知られていないのでは?
それでは意見は集まらないのでは?
危機感を持った生徒たちは、思い切って終業式の日に壇上に立ち、全校生徒に呼びかけることに。
「足がガクガク震える・・・」「頭が真っ白・・・」
大緊張の生徒たち。それに触発されて不安げな先生たち。果たして……?
記事は近日公開予定です。
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