
校則 先生たちの本音
理不尽な校則や指導、いわゆるブラック校則に対する声が多く寄せられる中で、私たち取材班が本音を知りたいと考えていたのが先生たちです。
匿名の座談会という一定の条件のもとで取材に応じてくれた現役の高校教師たちが語った校則問題とは…。
(ネットワーク報道部 校則問題取材班)
入試まっただ中の先月(2月)はじめ。東京・渋谷のNHK放送センターに各地の高校に勤務する20~60代までの男性・女性教師5人が集まりました。

管理職もいれば、教師になってまだ数年という若い先生もいます。
校則は必要です。でも…
先生たちにさっそく質問を投げかけました。
『そもそも校則は必要か?』
○か×で尋ねました。
すると、全員が「○」と回答。

(B先生)
「やっぱり校則がなかったら、学校の中が無秩序になってしまう」
(C校長)
「学校は集団生活の場。守らなくてはいけない校則は絶対ある」
「校則は生徒を守るためのものでもある」との考え方を示してくれた先生もいます」
(E教頭)
「派手な格好をしてくる生徒がいると、それがいいということで校内に伝染してしまう。ある程度のところで校則を守らせないと、落ち着いた学習環境を補償できなくなる」
学校にとってメリットを挙げてくれたのは北海道の公立高校に勤務するA先生。就職を目指す生徒にとっては、規律を守れることが企業へのアピールにもなるというのです。
(A先生)
「校則を守ることは学校のイメージを守ること。学校のイメージがだめになった瞬間に、地域のどこからも相手にされなくなる。だから子どもたちにしっかり校則を教えないといけない」
説明できない!悩める先生も
うーん。どれももっともな意見。
けれどもこの数年、校則や指導によって精神的・肉体的苦痛を訴える声が徐々に目立つようになり、去年8月には、改善を求める6万人の署名が文部科学省に提出される動きもありました。
生徒や学校生活のための校則なのに、どうしてこんな声が各地であがるんでしょうか?
いわゆるブラック校則の問題が指摘されていることを踏まえて話を聞いてみると、先生自身も違和感や疑問を感じることがあるそうです。

(D先生)
「うちの学校では、男子ツーブロックがだめなのだが、なぜだめか聞かれてもわからない…」
少し戸惑いながらも話してくれたのは生徒たちと年齢が近い20代のD先生。 生徒指導を担当しています。
校則について生徒を納得させられるだけの説明がなかなかできないと本音をのぞかせました。
(D先生)
「髪を結ぶ位置がなぜ耳より上にあげてはいけないのかと女子生徒が言ったことがあるが、基準やだめな理由がよくわからない」
校則の必要性を認めつつも、なくしていくのがいいと考えているそうです。同じ女性のB先生も生徒指導のかたわら、本音では校則に違和感を覚えるといいます。
(B先生)
「スカートの丈はひざ丈の位置と決まっているのに、厳しく指導していない一方で 頭髪には厳しい。不思議だなと思いながらすごしている」
かつて、髪型が校則に違反したと指導した生徒から「なぜだめなのか?」と質問され「校則で決まっているから」としか答えられなかったB先生。生徒の問いに答えられなかった当時の苦しい思いを明かしてくれました。
(B先生)
「生徒は納得しなかったので、つらかった。校則は生徒を守るためのものなのに、その逆をいっていると思う」
言うは易し 行うは難し
座談会は後半に入り、初対面の先生たちも少しずつ打ち解けた雰囲気となり、議論が熱を帯びてきました。

校則の根拠や存在意義をうまく説明できないといった声が相次ぎ、議論は理不尽な校則は見直すべきという流れに…。
(E教頭)
「わからないようなルールは変えたほうがいい」
(C校長)
「現状とかけ離れている校則は考え直したほうがいい」
ただ、実際には“言うは易く行うは難し”。
先生たちの本音とは裏腹に現状では校則を変えることは簡単ではないようです。
C校長は、保護者からのさまざまな要望に応えながら判断を迫られる難しさを教えてくれました。
(C校長)
「校則が厳しすぎるという親と反対にもう少し厳しくやってという親がいる。うまくバランスをとっていかないといけない」
さらに、業務の多様化で先生自身の忙しさが以前と比べて増していると指摘する人も。
(E教頭)
「従来の授業や部活動などに加え近ごろは交通安全や情報教育など、○○教育というものが増えている。生徒との時間が取れなくなってくるので、信頼関係もうまく築けない。だから、校則の見直しもうまく進まないと思う」
さらに子どもたちの教育は家庭と両輪で進めていくものなのに、それがなくなっていることも原因の一つと指摘しました。
(E教頭)
「服装指導は家庭でやっていればいいと思うが、それを全部学校に委ねてくるので、ルールを細かく決めたほうが楽になる。だから、『校則問題』も起きてくる」
みずから声を上げられる力を
先生たちの本音に対し、「必要性を感じているなら変えればいいじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、一筋縄ではいかないようです。
議論の最終版、先生たちからは校則を巡る問題に注目が集まる今こそ、教師も立ち止まって 考えるよい機会にしようという意見が上がりました。

(C校長)
「学校のルールを見直す好機なのではないかと思う。実際に、女子生徒の制服にズボンを導入したり、ポロシャツをOKにしたりしてきましたから」
生徒からも声を上げて欲しい、というD先生の話にはみなさんうなずいていました。
(D先生)
「生徒から校則見直しの声があがって、確かにと思ったものには、応援します」
(E教頭)
「ただ『校則が嫌だから変えてくれ』というのは、議論ではないし、無責任。具体例をあげながら、こう変えてほしいと、話を持ってきてほしい」
これまでの取材で紹介したように女子生徒の黒タイツ着用を認めてもらおうと、生徒が声をあげてみずからアンケートをしたり保護者やOBを巻き込んで議論したりした末に校則を変えたという岐阜県の公立高校のケースもあります。
生徒自身が校則をどう変えたいのか、なぜ変えたいのかをよく考えることが大切というE教頭の意見もわかります。
SNSの普及でより意見を広く伝えやすくなっているからこそ、子どもたちには進んで声を上げて欲しいとの激励もありました。

(A先生)
「これは違うとか、もっとよくしていこうと思った時に、声をあげてアクションを起こす力は絶対に必要だと思う。言われた事にただ従うのではなく、行動を起こせるような人材を育てていくのも自分の役目だと思います」
約2時間にわたって白熱した議論が展開された座談会。ご紹介したのはその一部ですが、参加してくれた先生たちは生徒や保護者、社会と向き合って悩みながら校則のあり方を考えていることがわかりました。
あなたの身近な学校で校則に理不尽さや疑問を感じているなら、先生がどのように考えているか率直に聞いてみることが、問題を解決する第一歩となるのではないでしょうか。