
授業中にトイレに行けない…校則に込められた意味とは
みなさんは学校のルールに理不尽さを感じたことはありますか?滋賀県の高校では、授業に集中してもらうという理由で、「トイレに行くと罰則を課す」という生理現象に対するペナルティーが 相次いで明らかになり、問題となりました。
なぜこんなルールが設けられていたのか、現場を取材しました。
(大津放送局記者 松本裕樹 / 大阪放送局記者 大久保彩捺)
“テスト中にトイレ”で1割減点

去年10月、滋賀県の県立高校で定期テスト中にトイレで席を立つと、「点数を1割減点する」という規則を設けていたことが明らかになりました。
試験に集中してもらうことが目的で、通知表の評価には影響しないよう1割の減点にとどめていたということですが、外部からの指摘を受けて、「生徒にトイレの我慢を強いることになり、人権上の配慮を欠いていた」としてこの高校は、ルールを廃止しました。
“欠席扱い”になる学校も
滋賀県内ではその後、彦根市にある私立高校でも同じ問題が明らかになりました。 この高校では校則で、定期テストの開始後25分が経過する前にトイレに行くと、 「欠席扱い」にしていました。
こちらも試験に集中してもらうことが目的で、補修や課題レポートを提出すれば 単位は取得できるという配慮はしていたものの、批判を受けてルールを廃止しました。
同様のルール、ほかの地域では
滋賀県の問題を受けて、大阪府教育庁は、同じようなケースがないか150の府立高校を対象に調査を行いました。
この結果、生徒がトイレなどで退出した場合は教室への入室を認めず、試験を終了させていた学校が4校あることがわかりました。4校では原則、退出する前の解答で採点を行い、体調不良などの理由がある場合は前回の試験の結果などを踏まえた見込みの点数をつけているということです。これについて学校側は、試験中に退出する生徒が続出しないよう、指導の一環として行っているなどと説明しているということです。
また、試験は受けさせるものの、トイレから戻ってきた後の解答については、学期末や年度末の成績を決める際の参考点にすると答えた学校が42校に上りました。一方、残りの104校は、試験を受けさせた上で、ほかの生徒と同様の採点を行っているということです。
また、神戸市では、5つの市立高校が、生徒がトイレなどで教室を退出した時点で 解答を終了したものとみなし、このうち一部の高校では教室に戻らせず、別室で待機させる対応をとっているということです。
行政側は
滋賀県教育委員会などでは、去年10月に各高校に対し、校則などの校内の決まりごとについて、人権への配慮を欠いたものがないか点検するよう文書や口頭で通達を出し、これまでのところ、ほかの高校では問題は見つかっていないということです。
また、大阪府教育庁は、これまで成績の付け方で著しく不利益な扱いを受けた生徒はいないということですが、試験を終了させていた4校については、生徒の意思や体調に配慮した対応を行うよう指導することにしています。

大阪府教育庁高等学校課教務グループの香月孝治(かつき・こうじ)首席指導主事は
「学校としては、決してトイレを我慢させようと 思っているわけではない。
各校が生徒一人ひとりの状況に応じて対応しているので、違いがあるのだと思う」
と話しています。
そのうえで、
「トイレを我慢しなければならないという思いを生徒が持つようなことがあってはならないので、そうではないということをきちんと生徒に伝えるとともに、ルールの中に盛り込む必要があるかどうか、これを機会に見直しを求めることにしている。少なくともトイレを我慢してまで試験を受け続ける生徒がいないよう指導していきたい」
と話しています。

学校教育に詳しい、大阪教育大学の島﨑英夫(しまざき・ひでお)教授は、
「暗記に偏っているところが多いからこそ、トイレに行ったりすることが問題になるのかもしれない。自分たちの学校に、あるいは、目の前の子どもたちにどんな試験をしたらよいのかをぜひ考え、子どもたちと一緒に変えていけばいいのではないか。この問題をきっかけに、試験のあり方を見直す時期にきているのではないか」
と話しています。
ルールは何のために
そもそも学校の決まりはどうやって決められるものなのか。文部科学省は、「校則」については「児童生徒が健全な学校生活を営み、より良く成長・発達していくため、各学校の責任と判断の下にそれぞれ定められる一定の決まり」と定義しています。校則のように明文化されていない決まりも含め、具体的な中身は各学校に任されています。
ただ、いったん決められると見直されることは少ないようで、トイレのルールを廃止した県立高校では、ルールができた経緯について、教員は誰も把握しておらず、なぜテストに集中させるためにトイレを我慢させなければならないのか疑問を感じながら「なんとなく」運用されてきたということです。
学校側には言い分も

一方、校則の意味を明確に話してくれた高校もあります。「テストでのトイレ」についてのルールを廃止した私立高校です。この高校では、実は「授業中のトイレ」については、 同じルールを継続しています。理由は「学級崩壊」を防ぐため。授業に集中できず途中で外に出て行ってしまう生徒が、少なからずいることから、少しでも集中する癖をつけてもらおうと、最低限50分の授業の半分は教室にいてほしいと25分の区切りを設けているということです。
大学受験を考えていない生徒にとって国語や数学などの通常の授業は、苦痛を感じるという意見もあるといいます。
高校では、調理師や保育士などの仕事に直結する体験型の授業も取り入れていて、こうした授業だと生徒は50分間真剣に聞きます。生徒と向き合いながら試行錯誤を続けているといいます。
「卒業後、社会に出れば、集団行動や集中するといった当たり前のルールが前提となる。そのときに困らないよう、あえて校則で縛ることで社会性を身につけてもらいたい」(私立校長)
学校の決まり 絶えず見直しを
私自身、水泳に明け暮れていた中学生のころ、プールの塩素で色素が抜けてしまい茶色くなった髪を、黒く染めるよう指導を受け、理不尽に感じた経験があります。
取材を通して、学校でのさまざまな決まりは何のためにあるのか、学校の実情に合わせて絶えず見直されていくことが大事だと感じました。