
新型コロナ 拡散する“医療デマ” 「フェイク・バスターズ」ダイジェスト②
新型コロナの感染拡大とともに起きた情報爆発=インフォデミック。新しいウイルスに直面する中で、科学的根拠の不確かな情報が多数拡散した。命や健康にもかかわる”医療デマ”。信頼できる情報を見極めるにはどうすればいいのか。
『フェイクを見分けるのが難しくなっている』
新型コロナウイルスを巡って拡散している“医療デマ”。
東京・千代田区にあるベンチャー企業では、AIを使って24時間SNSをチェック。投稿を分析し、企業や自治体に情報提供をしている。
新型ウイルスの発生当初から拡散しているのが『治療法に関するフェイク情報』だという。
「新型ウイルスには花こう岩が効く」
「26度~27度のお湯でウイルスは死滅する」
「深く息を吸ったまま10秒我慢できれば、感染していない」
いずれも、WHOなどの公的機関や複数の専門家が「根拠がない」と否定しているものの、拡散が続いている。
さらにいま、日を追うごとに『フェイクを見分けるのが難しくなっている』という。

その一つが日本赤十字を名乗るチェーンメール。「日赤総合病院」の医師が医療崩壊の危険性を訴えているという書き込みだ。
医療現場がひっ迫していることは事実だが、この病院は実在せず、日本赤十字社も投稿との関係を否定している。
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Spectee 村上建治郎CEO
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ちょうど“ロックダウン”の話が出た前後ぐらいで、デマの質がすごく変わりました。『とある政治家の情報筋によると』のような形で、人々の不安をあおるようなデマがすごく増えてきた。

フェイク情報と戦うSNSユーザー
デマやフェイク情報が拡散する中、一般のSNSユーザーの間で独自にファクトチェックを行う動きが広がっている。
2人の子どもがいる主婦・みどり(仮名)。以前からSNSには不確かな医療情報が溢れていると感じてきた。
新型ウイルスについて公的機関などの発表を確認し、それと異なる内容の10以上の投稿に対し、訂正のコメントを書き込んできた。


中でも大きな反響をよんだものがある。
知り合いから回ってきた「新型ウイルスにはアルコール消毒が効かない」というフェイク情報。
みどりは「アルコールは有効だ」とする厚生労働省のホームページを画面撮影し、ツイートの返信欄に貼り付けた。
この投稿は21万回以上閲覧され、その後、元のツイートは削除された。

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みどり
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専門的知識はなくても、医療従事者でなくても、しっかりした情報を調べて、“草の根”で誰かが訂正しなければいけないと思って。
みどりは医療関係の仕事をした経験はない。デマやフェイクを訂正する際、必ず行っていることが2つあるという。
①厚生労働省など公的機関の情報をそのまま紹介すること
②投稿者を過度に批判しないこと
あくまで『根拠が確かな情報』を伝えることに徹している。
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みどり:
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誰しも勘違いはあることなので、いきなり『デマです』とは言わないようにしています。『デマ』と言われると、心理的にやっぱり反発心が出てきてしまう。ですので『公的機関はこういうふうに広報しています。あなたの勘違いじゃないですか』と疑問を投げかける形で、リプライ(返信)するようにしています。
今回、同じようにファクトチェックをしているSNSユーザーおよそ30人を取材したところ、その多くが『インフォデミックへの危機感から活動を始めた』と答えてた。
どうすれば信頼できる医療情報を見極めることができるのか。専門家たちがが議論した。
情報を受け取るとき 個人が気をつけることは?

宇野 常寛さん(評論家)
インターネット社会への鋭い批判で知られる。
山本 健人さん(医師)
「外科医けいゆう」のペンネームで、SNSなどでわかりやすい医療情報を発信
小木曽 健さん(ITリテラシー専門家)
全国の学校や企業をまわり、ネットの炎上対策などについて講演
平 和博さん(メディア研究者)
桜美林大学教授 メディア・ジャーナリズムの研究が専門
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宇野 常寛さん(評論家)
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僕だけかもしれないですけど、みんなツイッター見過ぎじゃないですかね。
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山本 健人さん(医師)
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ツイッターなどのSNSでは医療に関するデマが拡散することも多いのですが、リプライ欄を見ると、専門家がデマを否定していることが簡単にわかることもよくあります。リツイートして拡散しようと思ったときに、まずリプライ欄を見れば「これデマじゃないかな?」と疑うことができます。
今回に限らず、さまざまな情報に対して当てはまるんですが、僕たちが作った「だしいりたまご」という情報の見極め方のポイントがあるので、ぜひみなさんに覚えて欲しいです。

『専門家の最大公約数』を探そう
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小木曽 建さん(ITリテラシー専門家)
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中学生や高校生が私に連絡をしてきて、新型ウイルスについて「どういう情報を信じたらいいんですか」と聞いてくるんです。それに対する私の答えは「それを私に聞く時点で間違っている。いま専門家が答えを探しているんだから」。
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山本 健人さん
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実際そうだと思います。ただ人間ですからヒューマンエラーがあるので、当然(専門家でも)誤ることがあります。だからこそ専門家個人の意見ではなく、多くの専門家の意見が一致している部分=コンセンサスを見つけることが、とても重要になります。
そして「多数の専門家の最大公約数」とも言えるのが、WHOや厚生労働省など公的機関が発表している情報です。
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宇野 常寛さん
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「だしいりたまご」を鉄の掟にしたいですね。ただ、そもそもツイッター見なきゃいいんじゃないかと思うんですけどね (笑)
インフォデミックで改めて問われたのが『メディアの役割』だ。
つづいては、ネット上のデマがきっかけでトイレットペーパーが店頭から消えた問題を題材に、考えていく。
番組ダイジェスト③「トイレットペーパー問題が意味するもの」