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ルポ 食料品の値上がり 忍び寄る健康への影響

相次ぐ物価高騰が家計を圧迫しています。ことし5月の消費者物価指数は、去年の同じ月より4.3%上昇し、約42年ぶりの高水準となり、1月から値上げが決まった品目は3万品目を超える見込みです。

一方で、その“しわ寄せ”を大きく受けている人たちがいます。生活困窮者や介護事業者、そして、持病のある人たちです。なんとか食費や電気代を節約しようとする中で、健康に影響が出たり、事業継続に支障が出たりしているのです。

物価高の陰で、いま起きている現実とは-。

(クローズアップ現代 取材班)

生活に困る人たちに忍び寄る“健康への影響”

山梨県南アルプス市にあるフードバンク山梨は、寄付で募った食料を生活に困る人たちに無償で提供しています。配るのはレトルトカレーや缶詰などの食料品、マスクや洗剤などの日用品です。

フードバンク山梨では、急速な物価高騰を受けて、ことし3月に「緊急食料支援」を実施し、その影響についてアンケートを行いました。すると、95%が「節約のために食費を削っている」(回答数97のうち)と答え、49%が「食事の回数を減らすことはある」(回答数98のうち)と回答したのです。

(フードバンク山梨が実施したアンケート)

さらに、63%が「食事の内容に変化がある」(回答数98のうち)と答え、68世帯が「おかずが減った」、31世帯が「炭水化物だけの食事が増えた」と答えました。食費にかけられる金額は33%が「月3万円未満」(回答数87のうち)とし、回答者の平均世帯人数の3人にあてはめると1人あたりの食費は1日333円以下でした。

理事長の米山けい子さんは「食事が、量的にも質的にも、非常に悪い状況の方が増えている。食べるものがないという方もかなりいる。健康に影響が出る人も増えてくるのではないか」といいます。

(フードバンク山梨 理事長 米山けい子さん)

実際、どれだけ健康への影響が広がっているのか。先月、米山さんは「緊急食料支援」の現場で、利用者に聞き取り調査を行いました。すると、食費の節約で栄養が偏り、すでに健康への弊害が出ている人が少なくありませんでした。特に、深刻な影響が出ていたのはシングルマザーたちでした。

1人の子を育てる女性

「カレーの肉を減らしたり、じゃがいもでかさ増しをしたりしている。肉は、これまで1パックを2回使っていたのを3回にしている」

3人の子を育てる女性

「おなかを満たすことを重視して、量は減らさず、質を落としている。肉なしの麻婆豆腐、ご飯と肉を混ぜたハンバーグなどを作っている」

さらに、実際に体調を崩している人もいました。

4人の子を育てる女性

「子どもたちの食事を確保するため、昼ご飯などを減らしていて、かなり体重が落ちた。偏頭痛があったり、栄養不足で爪が欠けてしまったりする」

2人の子どもを育てる女性

「子どもがスポーツをしていてよく食べるので、自分の食事は簡単に済ませてしまう。貧血になり、医師に相談したら“食べないとだめだ”といわれた」

(聞き取りの様子)

物価高が直撃することしの夏休み。米山さんは「学校給食で栄養バランスのとれた食事をとっていた子どもにとって、非常に厳しい夏になる。おなかを満たすための食事で、偏った栄養バランスになり、子どもたちの発達にも影響を及ぼすのではないかと危惧している」といいます。

高齢者の生活や命を守る現場が危うい

高齢者の生活や命を守る「介護施設・事業所」も危機に瀕しています。介護報酬をもとにして経営をしているため、収入が上がりづらい一方、物価高によるコストが増え続けているのです。

ことし3月、「全国介護事業者協議会」「介護人材政策研究会」「日本在宅介護協会」の3団体が、特別養護老人ホームやデイサービス、訪問介護事業所など、1277の施設・事業所にアンケート調査を行いました。

すると、今後の事業継続について、約3割の施設・事業所が「事業の廃止や倒産の危機に直面している」、「数年で事業の廃止や倒産に至る可能性がある」と回答。

(アンケート結果より)

さらに、コスト増への対応については、9割以上が「節電や物品の節約等」を行っていると答え、半数近くが「預貯金等の取り崩し」、3割近くが「昇給や賞与支給の減額/見送り等」と回答しました。
実際に、調査に答えた施設や事業者はどのような状況なのか-


都内の定員29名の「小規模多機能事業所」は、利益を減らしながら、苦しい経営を強いられています。電気代は値上げ前と比べると約20%上昇し、利用者の昼食の原価は上がり続けているといいます。施設の食事を任されている管理栄養士は「卵が高いので、あまり使えない。豆腐などの安い食材にしている。ささみなどが増えているが、できるだけ柔らかく調理している」と食材費を抑える工夫をしているといいます。

施設の社長は「節約できないコストについては利益幅を減らして対応している。介護施設は高齢者のQOL(生活の質)や命を守る役割を担っているため、質は下げられない。いまはなんとかなっているが、今後はかなり大変になってくる」といいます。

神奈川県にある定員90名の「特別養護老人ホーム」 では、持ち出しや人件費削減で対応しているといいます。施設長は「電気代は去年の1.5倍。朝昼晩の食事は給食会社にお願いをしているが、物価高を受けて契約金額は30万円も上がった。給食会社からの値上げ要求を断ると契約を打ち切られる可能性もあるので飲まざるを得ない。その分、従業員の冬のボーナスを約1.2ヶ月分から約0.8ヶ月分に減らすなど、人件費の節減などで補っている 」と話します。

他にも、都内の「特別養護老人ホーム」 の社長は「利益をほぼゼロにしている。給食会社への委託費も月40万円上がり、電気代も増加した。このままでは人件費に予算を回せない」といいます。

東京と広島に「特別養護老人ホーム」などの事業所を持つ施設の社長は「東京の事業所では水道光熱費が約2倍になり、赤字が続いている。広島の事業所では、施設のエアコン設置や修繕工事などの設備投資を断念した」といいます。さらに、「サービス付き高齢者向け住宅」 を全国で展開するグループの役員は「食事は栄養を補う給食的な位置づけでほぼ原価で提供していた。食材費が上がっている中で、このままではもう限界だ」といいます。

調査をした団体の一つ「全国介護事業者協議会」の山越圭祐事務局長は「ほとんどの施設は節約をしながらギリギリの運営を続けている。このまま続くと、食事の量を減らすなど利用者にかかるコストを下げたり、職員の新規採用にも影響が出かねない。ただでさえ人が集まらない介護業界なので、さらに人材不足になる。こうした状況が続けば、高齢者のセーフティーネットも危機的状況になる」といいます。

持病を持つ人々にとっては「命の危険」につながる現実も明らかに

取材を進めると、食費節約が、持病を持つ人たちにとって深刻なリスクにつながる現実も見えてきました。大阪市城東区にある「やすだクリニック」。糖尿病の専門医、安田浩一朗医師は、物価高の影響で、患者の体に異変が起きていると感じています。

(糖尿病専門医 安田浩一朗医師)

先月、安田医師は、去年5月から安定的に通う患者の「ヘモグロビンA1c」と呼ばれる糖尿病の指標を調べました。一般的に6.4%以上だと糖尿病の疑いがあり、数値が増加していくほど「悪化」しています。患者337名の1年間を、前半(去年5月から11月の半年間)と後半(去年11月からことし5月までの半年間)に分けて傾向をみると、前半で「悪化(0.1%以上増加)」した人は「45.2%」、でしたが、物価高が急速に進んだ後半で「悪化(0.1%増加)」した人は「52.2%」と、増えていたのです。

さらに、調べを進めると、驚くべきことが分かりました。「アルブミン」と呼ばれる血中のたんぱく質の値が減少していたのです。アルブミンは一般的に4.0g/dlが標準値で、下がれば下がるほど“たんぱく質が減っている”ということになります。安田医師が調べたところ、この1年間で「0.1」下がった人は60人。「0.2以上」下がっていた人は「142人」にのぼっていました。

安田医師は「アルブミンは非常に重要なたんぱく質なので、あまり変動しないはず。この短期間の1年の間で明らかに下がるということは普通考えにくい。血中のたんぱく質の量に大きく影響するほかの疾患(腎症3期以上)の方は除いているデータなので、別の疾患による影響ではなく、たんぱく質がうまく摂取できていない可能性がある」といいます。

さらに、34名の患者に詳しく聞き取りを行うと、商品の“内容量”が減ることで、“知らぬ間”に摂取するたんぱく質も減ってしまう恐れがあることもわかりました。

48歳・男性

「コンビニのツナサラダのツナが減っていると感じる」

55歳・女性

「サラダの上のたんぱく源になる具材が減っている。野菜も内容によって減ってる。」

聞き取りの結果、「肉類が減った」と答えたのは7名。「卵が減った」と答えたのは9名。「魚が減った」と答えたのは5名。たんぱく質が減っている患者が少なくないことが分かりました。

(安田医師による聞き取りメモ)

安田医師は「炭水化物が増えて、たんぱく質が減る食事になっている可能性がある。このまま血中のアルブミンが下がると、筋肉が痩せていったり、感染症が悪化しやすくなったりすることにつながってしまう。ボディーブローがどんどん効いて、いつか倒れてしまう可能性がある。糖尿病の患者や高齢者では、寿命そのものも少し短くなる恐れもある」と危機感を強めています。

取材を通して

物価高による「食費節約」が進む中で明らかになってきた“健康への影響”。取材を通して感じたのは、経済的にも社会的にも、 “弱い立場に置かれている人たち”が、真っ先にしわ寄せを受けてしまうという現実でした。

明日の食べ物にも困るシングルマザー。年金生活で食事を切り詰めている独居高齢者。親からの援助を得られず、奨学金で暮らす大学生。その誰もが、“上手に節約をする”ということだけでは、乗り切れない苦境に直面していました。

物価高への対応は社会のセーフティーネットをどう整えていくのかという議論と不可分です。個人の健康を確保することは、“将来への投資”でもあり、ひいては“社会の活力”にもつながります。食費節約による影響は、決して“個人のやりくりの問題”ではなく、“社会の未来につながる問題”なのではないでしょうか。

みんなのコメント(5件)

体験談
かに
40代 男性
2023年7月29日
ここ最近は、同じものでもPB系の商品を選んだり、値引きシールが貼ってあるものを選んで買ったりすることが増えてきました。一人暮らしをしていた時(コロナ禍前)も記事にある内容とだいたい同じで、カレーの具などを減らしたり、短時間で調理できる食品を備蓄したりで、比較的値段が安くて手軽に食べられる食品を買うことも多かったです。
原材料価格の高騰や物流費の問題というのは理解できなくもないけど、人々の命を守ることも少しは考えてほしいなぁと思うのですが…。
感想
年寄りの冷や水
70歳以上 男性
2023年7月26日
この様なルポが単発に終わらず継続して調査、報道してこそ社会へインパクトを与える事ができる。半年、一年間隔で報道して下さい
感想
URI
40代 女性
2023年7月23日
SNSを通して、この番組を知りました。
まだ、番組のアーカイブは見ておりませんが、関係する3つの記事は読ませて頂きました。
そして、この記事の「取材を通して」に書いてあることに『まさにその通り』と思いました。
栄養が足りているか、節約レシピも大切ですが、個人の努力ではどうにもならないということ、行政ひいては政治家の皆さんに、国民のことを考えた政治をしてほしいと感じました。
感想
ハリォテ
40代 男性
2023年7月20日
何事もバランスが大事なんだなぁ
提言
アヒル
女性
2023年7月20日
子どもに十分食べさせるために、親の食料を減らしている、節約している家庭の取材がありましたが、方向性が違うように思います。パンは米より高いと思うし、ウインナーやカット野菜も高い!このお金で、玄米ご飯、納豆や豆腐、ひき肉、旬の野菜に変えたら、もっとお腹いっぱいに食べられると思いましたが…また、モヤシよりじゃがいもやにんじんの方も腹持ちがいいと思います。一度、安売りのときに買えば長く持つ野菜ですし…不思議に思いました。