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“聖マリ”コロナ病棟は医療従事者の「燃え尽き症候群」をどう防いだのか

新型コロナウイルスの感染症上の位置づけが「5類」に移行され、 WHOもコロナ緊急事態制限の終息宣言を発出、社会は落ち着きを取り戻しつつあります。

コロナ禍に、医療現場で問題視されていたことの一つが、強い使命感や責任感で仕事に取り組んだ人に起きる「バーンアウト(燃え尽き症候群)」です。強いストレスや恐怖に苛(さいな)まれ、医療現場を離れた人もいます。

そうした中、新型コロナの重症患者の治療にあたってきた聖マリアンナ医科大学病院・救命救急センターでは、160人あまりいるスタッフから離職者が一人も出ていません。センター長の藤谷茂樹医師に、医療従事者のバーンアウトをどう防ぐか、現場での取り組みを聞きました。

離職スタッフがいなかったことは誇り

聖マリアンナ医科大学病院 藤谷茂樹医師
聖マリアンナ医科大学病院 藤谷茂樹医師
藤谷医師

「コロナ禍において当大学病院は、国内トップレベルで重症患者を受け入れてきましたが、バーンアウトで離職したスタッフがいませんでした。我々自身も驚いて いますし、チーム医療が成熟した証として、誇りにも思っています。


当初は一度感染すると死に至る可能性も高い中で、医療従事者という責任感に支えられ、私たちは現場に立ち続けてきました。一方で、ECMO等の治療を尽くしても、亡くなる患者を目の当たりにして、『逃げたい』と思った医療従事者が数多くいたのも事実でした」

藤谷医師は、コロナ禍の約3年間を振り返り、「バーンアウト」の防止策について、2つの重要な期間があったといいます。

第1の期間が、2020年春からから秋にかけて の期間です。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で集団感染が発生。国内でも感染が拡大し、藤谷医師の病院でも、その後多くの入院患者が亡くなりました。初期の新型コロナは未知の感染症であり、治療法も確立されておらず、ワクチンなどもない状況でした。

第2の期間は2021年夏の第5波、デルタ株の出現です。感染力が強いデルタ株によって、若い世代の重症患者が急増。人工呼吸器やECMOの治療が必要になり、重症病棟はコロナ患者で埋め尽くされました。

最前線に立つスタッフたちへのケア

藤谷医師
藤谷医師たちは主にコロナ重症者の治療にあたった
藤谷医師

「第1の期間では、まず指示命令系統の統一化を図り、誤情報が流れないようにしました。また、効率的な指示が出せるよう、医療用のSNSアプリを用い、午前と午後の2回、災害対策会議を開催。その会議で決まった内容を関係者に一斉に流すようにしました。


指示命令系統を強固にするために、病院の上層部は土日も含めて休みを返上して対応しましたが、一般の職員に関しては、時間外労働が多くならないように、勤務時間はしっかりとコントロールするようにしました。さらに、恐怖心を和らげるために、遠隔画像システムを用い、医療従事者が患者に接する時間をできるだけ短くしました」

モニターで病室の様子を確認
モニターで常に病室の様子を確認

このほかにも、藤谷医師たちはスタッフへのケアとして、さまざまな取り組みを行いました。

【主な取り組み】
・積極的にコロナ診療に関わるスタッフには、インセンティブを与える
・外出はおろか病院内の食堂にも行くことが難しいため、勤務中の食事として弁当を提供
・自宅へ帰ることに抵抗があるスタッフには、ホテルもしくは宿泊施設を提供
・子どもの通っている学校が閉鎖されたスタッフのために、児童の「一時あずかり」を病院で実施
・コロナ診療に携わる全職員対象にアンケート調査を実施
・精神科によるカウンセリングの導入
・バーンアウトする前に、先手を打って配置、勤務先の変更を行う

医療従事者本人も感染 どう乗り越えたのか

第2の期間(第5波)になると、医療従事者本人の感染や、院内でのクラスターが発生。この時期は爆発的な患者増が起こり、一般病院のみではクラスターの対応ができなくなりました。

藤谷医師

「救急外来でも、一般病院から発熱患者のたらい回しが起こったため、当院での災害時対応レベルを、5段階のうち『レベル1』から『レベル5』の最大レベルに引き上げました。一般診療の一部で受け入れ制限をしながら、全職員がコロナ対応の支援をする体制をとりました。


これについては事前に、患者が増えた時にどのような対応策を取るかシミュレーションをしていました。なので、自動的に災害時対応レベルを引き上げて院内での支援体制を構築したことで、スムーズに移行をすることができました」

藤谷医師は、コロナ禍でのバーンアウト対策ができた要因として、次のような組織作りがあったといいます。

 ・予期せぬ事態に対して、組織図を明確にする
⇒・指揮命令系統が明確になる
⇒・災害時においても、落ち着いて対応策を講じられる
⇒・スタッフのストレスの度合いを低減することができた
治療に当たる藤谷医師とスタッフ
治療に当たる藤谷医師とスタッフ
藤谷医師

「人間は、通常(ルーティン)でないことや、予期せぬことが起きた場合、大なり小なりストレスがかかってしまいますし、人によっては過度な負担となってしまうことがあります。アンケート調査など、個別の対応策が取れたことが良かったと思います。


加えて、自分ひとりだけ業務負担が多くなっているという状況を避けるため、業務の均一化を図ることも重要でした」

医療界の「働き方改革」でコロナ禍の対応が生きる

医療界では、2024年度に「働き方改革」が施行される予定で、いままさに大きな変革期を迎えています。

そうした中で、スタッフ一人ひとりのストレスを把握し適切なケアを行った、コロナ禍での「バーンアウト対策」が、今後に生きると藤谷医師は考えています。

藤谷医師

「医療従事者は、働くステージにより、勤務内容が異なります。研修をしている医療従事者は、教育の質が上がると必然的にかかるストレスも上がります。その際、過度のストレスとならないようにし、効率よく医療技術が身につけられるよう環境を整えなければなりません。また、ストレスへの耐性には個人差があるので、そのストレス度合いを定期的に認識する必要があります。


次の研修終了後の段階として、研修期間を終了すると、ルーティンの業務が多くなる一方で、仕事量、時間との調整、役割に応じた業務内容によるストレスがかかるようになってきます。できるだけ、新たな業務を日常のルーティンに落とし込み、効率性を上げることで、ストレス軽減に導くことができると思います」

聖マリアンナ医科大学病院
聖マリアンナ医科大学病院

【取材後記】

5月末の朝9時過ぎ、藤谷医師の姿は、ICUにありました。
「どうだった?あの後、まだ話していたの?」
「疲れている?休まないとダメだよ」
などと、スタッフに声をかけていました。顔つきや声のトーンなどを確認して、その人の体調やモチベーションを探るのが目的だと言います。

1月から新病院に移行したことでICUも広くなり、スタッフに声をかけるのも大変だと笑っていましたが、そのひと汗がバーンアウトを防ぐ一助になっていたのだと改めて思いました。

この記事の執筆者

報道局 社会番組部 チーフディレクター
松井 大倫

1993年入局。2020年4月から聖マリアンナ医科大学病院コロナ重症者病棟の取材を続けている。

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