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新型コロナとの闘いで得た“教訓” 未知のポストパンデミックに何を備えるか

マスク着用の義務化が解除され、第2類感染症から第5類感染症への変更も間近に迫ってきています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、世界中に甚大な被害を引き起こすことになりましたが、3年の時を経て、私たちに多くの“教訓”を残しました。

いま医療界は、2024年度に施行される“働き方改革”、高度医療の導入、地域格差の是正といった変革期を迎えています。また、コロナ禍で深刻な状態に陥った離島に代表されるように、集中治療が困難な地域での医療をどうすればいいのか、遠隔医療の重要性も指摘されています。

聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター長の藤谷茂樹医師に、ポストパンデミックに何を備えておくべきか話を聞きました。

来年度から始まる医師の働き方改革 治療現場はどうなる?

病院の勤務医の長時間労働が深刻化する中で、残業時間などを制限する「医師の働き方改革」が来年4月から始まります。時間外労働の上限水準は、救急医療や専門研修など、医療現場の実情にあわせ複数設けられています。
過労死などを防ぐためには必要不可欠な取り組みですが、医療体制が維持できるのかなどの課題も指摘されています。

聖マリアンナ医科大学病院 藤谷茂樹医師

医師の働き方改革の時間外労働の上限制限が2024年度より開始となります。救急医療や集中治療等に携わる医師は、年1860時間以下(月155時間、1日換算で5.2時間の時間外勤務)の水準になる施設が多くなるとみています。

実は医療現場では、診療・教育・研究の分野で、労働時間の線引きがはっきりできていないため、実働時間がさらに長くなってしまう問題点があり、そこにメスを入れるための制度でもあります。また救急・集中治療領域では、マンパワー不足がいまでも問題となっているため、いかに効率を上げて診療ができるかということが重要な点になります。

そこで、いま注目されているのが「遠隔診療」です。

現在日本では、人口10万人当たりのICUベッド数は地域により大きく異なり、標準的なICU管理が提供できない地域もたくさんあります。対してアメリカでは、2000年に遠隔集中治療に関する論文が報告されていて、その後、遠隔集中治療がアメリカ国内で急速に普及、2020年の報告では、約50%の医療施設が何らかの形で遠隔診療を利用しています。

新型コロナでは遠隔診療が大活躍

新型コロナ患者の治療を3年にわたって行っている聖マリアンナ医科大学病院では、この「遠隔診療」を導入してきました。
関連病院にいる患者の状態、人工呼吸器や輸液ポンプの状態などを、ネット経由でモニターに鮮明に映し出すことで、現場にいなくともベッドサイドにいる医師や看護師に治療の指示を伝えてきました。
医師が個人防護具を着用しながら患者の容体をみることは、体力的に厳しく、マスクを着用する時間も限られています。さらに人手不足も重なったため、「必然的にこのような遠隔診療を取り入れざるを得なかった」と藤谷医師は振り返ります。

「遠隔治療の壁」とは

藤谷医師らが所属するNPO法人「集中治療コラボレーションネットワーク(ICON)」では、日本集中治療医学会と協力して、「遠隔ICU」の普及に努めています。
そのうえで、藤谷医師は「超えないといけないハードル」として、以下のような項目をあげました。

遠隔診療 実現への課題
1.個人情報の漏えいなどセキュリティー上の懸念
2.支援施設と被支援施設における円滑なコミュニケーションや責任の所在
3.初期投資や維持費及び費用対効果の検証

こうした課題に取り組むとともに、「遠隔ICU・遠隔診療」の需要が高い、離島などの医療過疎地域でどのようにシステムを導入するか、藤谷医師らは模索を続けています。

藤谷医師

離島などの医療過疎地域での、遠隔ICUを含めた遠隔診療の需要は高く、北海道や沖縄へ訪問して、遠隔診療の重要性についても説明をする機会がありました。

北海道では大学病院を訪問して、病院内での患者の急変の発生を未然に防ぐための、「院内急変対応システム」について説明しました。その一つが、全入院患者のバイタルサイン(血圧、心拍数、呼吸数、酸素化、体温)のスコア化により、急変を予知することができ、早期に患者管理をすることができるシステムです。

この院内急変対応システムを応用して重症患者を管理し、被支援施設のその他の患者情報やビデオ動画と合わせて情報が入手できれば、遠隔診療が成立することになります。

沖縄県でも3病院を訪問し、「院内急変対応システム」と「遠隔重症患者モニタリング」の必要性や具体的なシステム運用についても説明しました。

カギを握るのは「診療看護師・特定看護師」

藤谷医師が、遠隔治療で重要な役割を担うとしているのが、医師サイドにたった診療を、一定の制限で行うことのできる「診療看護師」や、医師の指示を待たなくても、特定の医療行為を行うことができる「特定看護師」です。

藤谷医師

遠隔診療を地域や離島で成功させるためには、「診療看護師」や「特定看護師」の活用が重要になります。ただ、現時点で資格認定に関しての問題点が解決されておらず、各施設で、まちまちの運用がなされていて、標準的な活用が模索されています。

今後、遠隔診療を成功させるために、「診療看護師」や「特定看護師」にこの領域に参加していただければと思っています。

取材後記

聖マリアンナ医科大学病院救命救急センターのコロナ重症者病棟を取材し続けて3年。毎回、「波」が現れるとセンターの空気がキュッと締まったような感じになります。
いまはというと、コロナによる重症者の数は「0」が続き、集中治療が必要な患者さんたちが大勢、入院されていました。以前は、こうした患者さんたちの入院制限があったため、通常の治療ができなかったと言います。
藤谷医師は、次のパンデミックに備えて、遠隔治療を必要とする地域を精力的に回っています。働き方改革やマンパワー不足といった難題を少しでも克服する手として、協力してくれる病院や施設を増やしていくのが狙いです。
コロナが第5類感染症になるとはいえ、医療が抱える問題はなくなりません。いま、この時間を大切にしたいと、時間を見つけると全国を飛び回る藤谷医師の姿が印象的でした。

担当 松井 大倫の
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この記事の執筆者

報道局 社会番組部 チーフディレクター
松井 大倫

1993年入局。2020年4月から聖マリアンナ医科大学病院コロナ重症者病棟の取材を続けている。

みんなのコメント(1件)

感想
Mario
50代 男性
2023年4月15日
働き方改革が開始がまじかに迫る中でのコロナパンデミックで、一気に本邦の医療に内在される問題点が顕在化されました。医療現場も本気で解決に動き出さざるを得なくなったのは、良きことと捉えたいです。ITを用いた医療と医師のタスクシフトは必須と思いますので、藤谷先生の活動には賛同しますし、大きなエールを送ります!