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"新型コロナ後遺症"「ブレインフォグ」とは 症状とrTMS治療

新型コロナウイルス感染症の“後遺症”。
その症状として知られているのが、脳の中に霧がかかったようになる症状、「ブレインフォグ」です。しかし、その訴えは患者によってさまざまで、具体的にどのような状態を指すのかといった説明は難しいと医師は言います。
継続取材をしてきた聖マリアンナ医科大学病院では、いまも「ブレインフォグ」の症状で自身の変調を訴える患者が後を絶ちません。後遺症患者の治療最前線にいる、同病院の佐々木信幸医師に話を伺いました。

NHKスペシャル「新型コロナ病棟 いのちを見つめた900日」

2022年10月1日放送の内容をまとめた記事はこちらから

「ブレインフォグ」に基準はない

そもそも、「ブレインフォグ」を定義する明確な基準はありません
考えがまとまらない(思考力低下)、気分があがらない(抑うつ症状)、思いだせない(記憶障害)といったさまざまな要素を合わせたものと考えられています。
多くの“コロナ後遺症”患者を治療してきた聖マリアンナ医科大学病院では、患者の認知機能をより詳細に調べるためにさまざまな検査を実施しています。

聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師
聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師
・「WAIS-Ⅳ検査」-青年および成人の知能を測定するための検査。全検査IQ(FSIQ)、言語理解指標(VCI)、知覚推理指標(PRI)、ワーキングメモリー指標(WMI)、処理速度指標(PSI)の得点を算出する 。

・「脳血流SPECT検査」-ごく微量の放射性物質を含む薬を体内に投与し、その薬剤の分布などから、部位別に脳の血流量を評価する検査。MRIやCTではとらえられない早期の脳血流障害や脳の機能評価、認知症の診断などにも使われる。

「ブレインフォグ」とひとくくりにするのではなく、各患者の症状をより具体的に把握した上で、個々の患者に最も適切と思われる治療を提供しようとしています。

“後遺症”患者の多くが視覚に異常を訴える

“コロナ後遺症”とみられる患者を多く診察してきた佐々木医師。その中でわかってきたのが、患者の訴える具体的な症状のうち、「視覚の異常」が比較的多いということです。これも「ブレインフォグ」に含まれる症状の一種だと思われます。
目が悪くなった気がする、周りが暗く見える、テレビやスマホを見ていると気持ち悪くなる、文章を読むのが困難・・・。こうした異常を訴えるものの、通常の眼科の検査や、CTやMRIで脳を調べても、異常がみられない患者が多いといいます。
そこで佐々木医師たちは、視覚を司る脳の部位をより詳しく診るため、「脳血流SPECT検査」を行っています。

聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師

「『脳血流SPEC検査』をしてみると、その症状を説明できるような所見を見いだせる場合があります。当科を受診した視覚に関する訴えのある患者の多くで、視覚に携わる後頭葉の血流低下が認められています(下図1)」

ブレインフォグ患者の脳血流低下部位の画像
画像提供 聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師
佐々木医師

「我々が目にした情報は、まず後頭葉に入ります。ただしあくまでも後頭葉は基本的に “見るだけ”であり、“見たものが何であるか”、“見た結果どうすべきか”、というようなより高い次元の解析は前頭葉など、脳の別の場所で行われます。
後頭葉が認識する視覚情報に混乱が生じていたり、後頭葉からの情報伝達に障害があったりすると、前頭葉での解析が困難になり、非常に疲弊するのです。
そのような患者に対し、我々は『rTMS(注)』を用いて視覚情報の『入力側』の後頭葉や『解析側』の前頭葉を活性化し、一定の改善効果を得ています」

「rTMS」治療の様子
※注 「rTMS」とは
頭の上から特殊な磁場を照射し、狙った脳内の局所の神経の働きを変化させる技術。聖マリアンナ医科大学病院では、これまでに数百人の“コロナ後遺症”患者に「rTMS」治療を続けています。
これまで私たちの記事でも継続的に取材してきました。

回復したと思いきや 新たな症状が・・・

今回の取材で佐々木医師が語ったのは、こうした視覚情報の異常は、けん怠感などの症状が改善し、“後遺症”から社会復帰した後に気づくことがあるということです。

佐々木医師の治療を受けている40代の女性患者

ある40代の女性は、去年2月に新型コロナウイルスに感染。自宅療養で発熱やせきは改善しました。しかしその後、記憶力や思考力の低下を伴う強いけん怠感と「ブレインフォグ」が続き、去年5月に聖マリアンナ医科大学病院を受診。「脳血流SPECT検査」や「WAIS-Ⅳ検査」の結果、症状に関わっているとみられるのは、左後頭頭頂葉と前頭葉だと判断されました。その2箇所を「rTMS」で活性化させる治療を10回実施したのち、症状は改善し、無事に職場復帰を果たしました。

しかしこれで終わりとはなりませんでした。

佐々木医師

「12月の診察で経過を伺うと、新たに『文字がわからない、書けない』といった症状があることに気づいた、と報告を受けました。けん怠感などが顕著であったころは、そもそも本を読んだり文字を書いたりといった行為自体ほとんどできていなかったため、その問題点に本人は気づいていなかったのです。
女性が実際に書いた文字では(下図2)、アルファベットやカタカナなど直線的かつ単純な文字は比較的書きやすいものの、ひらがなや漢字は著しく困難であり、漢字では“へん”や“つくり”などの構成の混乱も見られました」

女性患者のrTMS治療前の文字
画像提供 聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師
佐々木医師

「これはまるで、脳卒中や脳外傷後に認められる高次脳機能障害のひとつ、『失書』に該当するような、重度な所見でした」

佐々木医師によると、文字を書くという行為は左頭頂葉下後部にある「角回」という部位が重要な働きを担っているといいます。「角回」は大脳の領域のひとつで、言語や認知などの処理に関わっているとされています。
この「角回」を中心に、文字のイメージを空間的に作り上げ、それを手の動きへと転送、さらに自分がいま書いている文字を視覚的に判断しフィードバックする、という脳の活動によって、「文字を書く」という行為は行われるといいます。

rTMSを受ける40代女性患者
佐々木医師

「『角回』で文字の形を作り上げる過程は最重要と考えられたため、新たに『角回』を活性化させる『rTMS』治療を追加で行いました。
すると驚くべきことに、たった1回の治療の直後から、文字を書くことが容易となったのです。漢字に混乱は少々残るものの、自分で誤りに気づき、正しく書けるようになっています(下図3)。この機能改善がしっかり定着することを目指して、現在も治療を継続しているところです」

女性患者のrTMS治療後の文字
画像提供 聖マリアンナ医科大学病院 佐々木信幸医師

取材後記 ひとりひとりの患者の症状に寄り添う

私が取材している方々のなかにも、「文字が読めない、書けない」といった視覚の異常を訴える“後遺症”患者がおり、その症状に苦しむ、切実な声を聞いてきました。

40代の男性は、1クール10回の「rTMS」治療の3クール目、通算で28回目の治療を受けていました。看板や交通標識が読めなかったというこの男性は、一時は治療の効果で読めるようになったものの、いまは再び視覚に異常をきたし、文字や看板、人の顔までもが、「油絵のようにボヤっとにじんで見えるようになっている」と嘆いています。
また20代の女性は、文字が読めなくなったことに加え、ひどいけん怠感のため介護の仕事を退職することを余儀なくされ、母親に付き添われて治療を受けていました。

佐々木信幸医師

新型コロナの“後遺症”に伴う「ブレインフォグ」は、その症状の多彩さゆえに、ともすれば“なんでもあり”のモヤモヤや、ストレス過多などと勘違いされやすいと言われています。しかし、あくまでも個々の患者にとっては重い症状であり、その症状には何らかの医学的理由があるはずです。
佐々木医師は「脳機能の知見にも不十分な点は少なくないのが現状ですが、我々は患者の症状の正体をしっかり見極めた上で、最も適切と考えられる治療を選択したい」と力強く話していました。

この記事の執筆者

報道局 社会番組部 チーフディレクター
松井 大倫

1993年入局。2020年4月から聖マリアンナ医科大学病院コロナ重症者病棟の取材を続けている。

みんなのコメント(3件)

体験談
キュウ
50代 男性
2023年9月24日
私の妻は、コロナワクチン接種後、この記事と全く同じ症状になりました。残念ながら2022年10月2日、不詳の内因死で亡くなりました。脳にダメージが有るのなら、死亡の危険が有る事を、ワクチン接種でも同じ症状が出る事を他の医師の方々にも周知していただければと思います。
質問
コロナ後遺症はしんどい
2023年3月7日
この、治療に入る前の検査は健康保険適用なのでしょうか。聖マリのコロナ後遺症の治療は全額負担と聞いていますが、検査の段階の費用負担はどうなのか知りたいです。
感想
ぴいたん
2023年3月7日
それでも聖マリに行ける方は幸せかと思います。地方には後遺症外来もrTMSもありません。一体どうすればいいのでしょうか。

担当 松井ディレクターの
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