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「後遺症の大きな波もやってくる」 新型コロナ“第7波”に医師は…

新型コロナ第7波による感染急拡大が続くなか、医療機関では今、コロナ後遺症の大きな波が押し寄せようとしています。聖マリアンナ医科大学病院に開設された“後遺症専門外来”。働き盛りの世代だけではなく、10代の若者も治療を受けに来ています。後遺症になる原因も根本的な治療法もまだ解明されていない中、どのように治していけばいいのか、病院も、そして患者も戸惑っています。

同病院リハビリテーション科では患者の脳の血流を調べ、低下している場合、磁気を当てて脳を刺激する治療を行っています。これまでに約8割の患者に何らかの改善があったことが報告されています。多くの後遺症患者に治療を施している佐々木信幸医師に話を聞きました。

※2022年8月4日クローズアップ現代HPに公開した記事を再掲載します。

NHKスペシャル「新型コロナ病棟 いのちを見つめた900日」

10月1日(土) 22:00~22:50 放送 [総合]
※NHKプラスで見逃し配信を10月8日までご覧いただけます

「“第7波”による感染急拡大 後遺症患者も急増」

おととし4月から長期取材を続けている、聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター(川崎市)では、爆発的に増える患者に加えて、いま大きな課題になっているのが“コロナ後遺症”患者の急増です。

箸が鉄アレイのように重く感じ、家事もままならなくなったシングルマザー。文字や看板が理解できなくなり休職を余儀なくされたサラリーマン。部活動を活発に行っていた中学生は寝込みがちになり、歩くのもやっとの状態に。こうした後遺症の患者たちは取材で接したごく一部です。ほとんどがコロナは軽症だったにもかかわらず、重いけん怠感や慢性疲労症候群を伴った後遺症に悩まされ続けています。

同病院の佐々木医師によると、「オミクロン株は感染・増殖部位として肺よりも鼻咽腔が主戦場であり、咽頭痛や鼻汁などいわゆる風邪に近い症状を示す場合が多い」とのことです。

ただの風邪と思いきや、コロナに罹患、そして長引く後遺症と負の連鎖が続いています。

「後遺症急増 社会生活にも大きな影響」

聖マリアンナ医科大学病院リハビリ科 佐々木信幸医師
佐々木医師

「今後のCOVID-19感染後遺症の増加について危惧しています。一般的に治癒と認められた後も、非常に強い疲労感や自発性の低下、ブレインフォグ(brain fog)に総称されるような様々な認知機能障害、起立不耐症、睡眠障害、嗅覚異常などの後遺症が比較的高確率で発生し、長期間続くことが明らかにされています。そしてこの後遺症の発生は、圧倒的に軽症者に多いです。

まだ第7波は始まったばかりなので、『BA-5』でも同様の傾向かどうかは不明ですが、少なくともこれまでのオミクロン株感染後遺症患者のほとんどは、感染急性期において軽症でした。この事実を考えれば『軽症だから規制緩和』という路線にも大きなリスクが潜在しています。この後遺症は数ヶ月〜数年に渡り持続するため、経済活動や社会生活に悪影響を及ぼしてしまうのです」

「気のせいではなく、異常な所見あっての症状」

佐々木医師

「COVID-19感染後遺症では、非常に強い疲労感を訴え、新しいことを覚えられない、言葉を思い出せない、文字情報が頭に入ってこない、やる気がしないなどの認知機能障害が生じるため、休学や休職を余儀なくされたり、場合によっては退学や退職に追い込まれたりします。

障害が他人の目に見えにくいからこそ、『体調を崩したのだからしばらく調子が悪くても当然だ』、『気のせいだ』と、まだまだ世間からの理解も低く、不遇な対応を受けやすいのが現状です。まだまだこれらの症状についての詳細は不明ですが、検査をしてみると症状を説明可能な根拠があります。例えば『脳血流シンチグラム(脳の血流の変化)』ではほとんどの患者で明らかな異常所見が現れます。

現在、COVID-19感染後遺症における慢性疲労とブレインフォグに総称される認知機能障害に対し、脳の特定の部位に磁気刺激を与える『反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)』を用いた治療的介入を行なっています。治療的介入前後で症状は緩和し、あわせて客観的な異常所見も改善する場合が多いため、やはり気のせいなどではなく、理由があってこその症状であると考えられます」

「後遺症は過去のパンデミックでも」

佐々木医師

「もちろんこのような後遺症は、COVID-19に限りません。1918年のスペイン風邪では生存者の約4割に慢性的な倦怠感、嗜眠、集中力低下が認められました。2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)では約3割、2012年の中東呼吸器症候群(MERS)では約2割の患者に同様の症状が認められました。おそらくはウイルス感染を契機とした、『筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群』の一種であり、パンデミックではない普段の風邪や季節性インフルエンザ感染後にも、一定の割合でこのような患者は発生していたはずです。

問題なのは、これが世界同時多発的に発生する点。そしてこれまでのパンデミックとは比較にならないほどの規模、前代未聞のパンデミックであるという点です」

「医療の側も後遺症の波に備える」

佐々木医師

「この後遺症への対応の大前提は、やはりまず感染しないことです。感染しても軽症だからと軽視せず、可能な範囲の注意を怠ってはいけません。そして医療者側も急性期の治療のみならず、これから訪れることが確定している巨大なCOVID-19感染後遺症の波に備え、より適切な治療を模索、確立していかなければならないと思います」

取材後記「いまだ周囲から理解されないコロナ後遺症の苦しみ」

コロナ重症者の取材と並行して、後遺症患者の取材も一昨年から行っています。

未だに後遺症について周囲から理解されず
「いつまで休んでいるの?コロナはとっくに終わったよね」
「会社にはいつ戻れる?仕事たまっているんだが」

といった言葉で傷ついた人たちは少なくありません。

一見、ふだん通りに見える人であっても、ちょっとしたことができなくなってしまい自分のふがいなさを責めている後遺症の患者たち。会社勤めの方は傷病手当をもらえますが、フリーランスの方には保障がないのが現実です。治療費もばかになりません。例えば佐々木医師が行っている「rTMS」は自由診療のため1回5500円かかります。基本は10回が1セットですが10回で改善しない方もいます。

「コロナは感染しても軽症だからと軽視せず、可能な範囲の注意を怠ってはいけない」と話す佐々木医師の言葉が重く感じました。

NHKスペシャル「新型コロナ病棟 いのちを見つめた900日」

10月1日(土) 22:00~22:50 放送 [総合]
※NHKプラスで見逃し配信を10月8日までご覧いただけます

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担当 松井ディレクターの
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この記事の執筆者

報道局 社会番組部 チーフディレクター
松井 大倫

1993年入局。2020年4月から聖マリアンナ医科大学病院コロナ重症者病棟の取材を続けている。

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