
男性の性被害② 子どもへの性暴力やレイプドラッグの事例【vol.29】
性的虐待、レイプドラッグ… 寄せられる悲痛な声
「男性の性被害」第2回は、「クローズアップ現代+ 性暴力を考える」に寄せられた体験を紹介します。被害に遭った男性たちに詳しく話を聞くと、「男性が被害に遭うわけがない」という世間の偏見や、「男は自分で問題を解決すべき」といった考えから、つらさを ひとりで抱え込んでしまう人が少なくないことが分かりました。
(報道局社会番組部ディレクター 神津善之・竹前麻里子)
男性の性被害① 職場で上司からセクハラに 男性たちの苦悩
男性の性被害③ 被害に遭った男性のみなさん そばにいるみなさんへ
小学生のときに見知らぬ男から…

この投稿を寄せてくれたヒロシさん(仮名・40代男性)。被害に遭ったのは、小学4年生の夏休み。電車でのある出来事がきっかけだったと言います。
「友達とプールに遊びに行った帰りに乗っていた電車で、見知らぬ男から、おしりを触られる「痴漢」の被害に遭ったんです。そのときはびっくりして逃げたのですが、降りた駅の駐輪場で、その痴漢をした男を見かけました。“探偵ごっこ”くらいの気持ちで、男の住んでいる場所と名前を突き止めようと、あとをつけていったところ、家の前で男に見つかってしまい、腕をつかまれて家に連れ込まれました。」

部屋に入るなり服を脱がされ、自分が何をされているのか飲み込めないまま、肛門性交をさせられました。ヒロシさんは痛くて泣き叫んだことはぼんやりと覚えているものの詳細な記憶はなく、いまもはっきりと思い出すのは、その部屋の天井やカーテンなどの情景だと言います。
被害後、この出来事を誰かに話すことはできませんでした。
「その男から『これは悪いこと、誰かに話したら君も捕まるぞ』と脅されました。当時、性に対する知識がなかったので自分が何をされたのかも分からず、男の言葉を信じてしまい、絶対に言ってはいけないと思いました」
被害を誰にも打ち明けられない・・・
成長するにつれ、自分がされたことは性的虐待だったと分かりましたが、男性から被害を受けたことを「恥」と思い、両親を含め、誰にも相談することができませんでした。家族とは物心ついたころから、あまり関係が良くなかったため、どうせ話しても「信じてもらえない」というあきらめがあったと言います。そして、つらい過去の記憶をこれまでずっと ひとりで抱え込んできました。
長年、恐怖心や孤独感にさいなまれ、フラッシュバックなどにも悩まされてきました。いまは結婚していますが、性的なものを「汚い」と感じてしまい、パートナーと性的な関係は持てずにいます。カウンセリングを受けたこともありますが、診療に前向きになることができず、自分で解決するしかないと考えていると言います。
「男性から被害を受けたというと軽蔑されるのではないかと思ってしまう。社会人になってからは、『自分が弱いから つけこまれてしまった』、『自分自身が強くならないといけない』と考えるようになりました。」
被害については、「墓場まで持っていくつもり」だったというヒロシさん。今回、私たちに話をしてくれた理由を尋ねると、こう答えてくれました。
「男性被害者の状況を発信してもらうことで、男性も性暴力の被害に遭っているという事実を知ってもらいたい。当事者が語ることで、少しでも男性の性被害について理解が浸透し、男性被害者が助けを求めやすい社会になっていってくれればと思っています。」
女性からレイプされたという男性も
レイプドラッグを飲み物に入れられ、女性に性行為を強要されたという男性も投稿を寄せてくれました。

テツヤさんは20代の頃、居酒屋で知り合った女性から、「以前つきあっていた男性に暴力を振るわれている。いつまた男性がアパートにやって来るか分からない。アパートの鍵が壊れてしまって怖いので、鍵を直してもらえないか」という電話を受けました。女性のアパートに駆けつけたテツヤさんは、出されたコーヒーを飲んだあと、急激な眠気に襲われたと言います。
「意識がもうろうとして、今にも寝てしまいそうだったのですが、肩を抱えられれば歩けるという状態でした。『クローズアップ現代+』のレイプドラッグの回※で紹介されていた被害者の女性と、まさに同じような状態でした。」
(※放送内容はこちらから「気づかないうちに被害者に…広がるレイプドラッグ」)
今も頭に焼き付いているのは、ロープで手を縛られて、胸にたばこを押しつけられて性行為を強要された光景です。
「タバコを胸に押しつけられて、『次は目を焼くぞ』と脅されたので、言いなりになるしかありませんでした。」

翌朝、テツヤさんは目が覚めると、女性の目を盗んでロープをほどき、室内に散らばっていた服をなんとか身につけて、女性のアパートから逃げ出しました。そして、近所の人に助けを求めました。その後、警察が駆けつけましたが、被害届を出すことはできなかったと言います。
「担当の捜査員が女性だったので、どんな被害を受けたのか言い出せなくなってしまったんです。また、もし飲まされた薬が覚せい剤だったら、自分も捕まるのではないかという恐怖もありました。薬も、『私が自分で服用した』と女性が虚偽の証言をすれば、警察はその話を信じるかもしれませんし。」
テツヤさんはその後、PTSDに悩まされ続けました。夜眠れなくなり、職場でも、加害者と似た女性の声を聞くと、被害に遭った時のことを思い出し、仕事に集中できなくなりました。当時、務めていた会社を辞めざるを得ず、職を転々としたと言います。自殺未遂をしたこともありました。しかし被害に遭ったことを、医師などの専門家に相談することはできませんでした。自殺未遂をした時に入院した病院で、治療のために薬を飲むことを強要され、被害の記憶がよみがえったつらい経験があったからです。

“被害者は医師などのプロを頼って”
テツヤさんは、うつ病などの治療のため、10年ほど前から精神科のクリニックに通院しています。通い始めた当初は、カウンセラーには性被害に遭ったことを隠していました。被害を初めて打ち明けることができたのは、今年に入ってから。被害から20年以上がたっていました。その日、カウンセリング室の外から聞こえてきた女性の声に、テツヤさんはビクッと震えました。その様子を見ていた なじみのカウンセラーから、「どうしたの?何か隠していることはない?」と問われ、テツヤさんは被害を打ち明けたのです。そして現在、本格的なPTSDの治療に取り組んでいます。
治療を始めて数か月経つと、公共の場で女性の声が聞こえてきても、「あれは加害者の声ではない」と客観的に考えられるようになってきたと言います。
取材の終わりに、「他の男性被害者の方々に伝えたいことはありますか?」と尋ねると、テツヤさんは次のように語ってくれました。
「性被害を、自分や家族だけで抱え込まず、医師などのプロを頼ってほしいです。PTSDや精神の病気は専門家の支えが必要です。精神科などに行くことに抵抗があったら、家から離れた病院に通ってもいいと思います。僕のようにひとりきりで20年も抱え込まず、誰かに打ち明けることで一歩を踏み出してほしいと伝えたいです。」
投稿を寄せてくれた男性たちの被害を受けた時期や状況はさまざまです。「まさか、そんなことが…」というような性暴力が実際に男性たちの身に起きています。今回、お話を伺う中で、男性が被害について誰かに話すのはとても難しいということも感じました。性暴力について そもそも話しづらい社会であることに加えて、「男性が被害に遭うなんて信じてもらえないのではないか」、「男なんだから自分で解決しないといけないのではないか」など男性特有の話しづらさがあるためです。どうしたら男性たちが被害を抱え込まずに済むようになるのか。私たちひとりひとりの受けとめ方が問われているのだと思います。
※今回、イメージイラストは漫画家の菊池真理子さんに担当していただきました。(菊池さんの主な著書:『酔うと化け物になる父がつらい』『毒親サバイバル』)
国の調査では、男性被害者の70%が誰にも相談できていません。私たちは、埋もれがちな男性の被害について継続取材し、どんな被害が起きているのか、相談するうえでどんな壁があるのか、苦しむ人を減らすために何ができるのか、伝えたいと考えています。あなたの経験や思いを、下に「コメントする」か、ご意見募集ページから お寄せください。匿名で投稿いただけます。
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