おもわく。
おもわく。

中国史上、最も安定した治世の一つを築いたといわれる、唐の第二代皇帝・李世民。「貞観の治」と呼ばれる善政をしいた李世民と彼を補佐した重臣たちとの間で交わされた問答をもとに編纂されたのが「貞観政要」です。明治天皇や徳川家康が、ここから帝王学を学んだともいわれる名著です。「貞観政要」を現代の視点から読み解くことで、理想のリーダーや組織のあり方、困難な人生を生き抜く方法などを学んでいきます。
「貞観政要」が卓越したリーダー論、組織論といわれるのはなぜか? その秘密は、李世民の政治に対する真摯な姿勢にあります。彼は、自分の殺害を計画した人物さえ、その能力を認めて側近に取り立てました。また、臣下たちの忌憚のない厳しい諫言にもよく耳を傾け、自らの政治方針を常にチェックし、改善を続けていきました。全十巻四十篇からなる李世民の言行録ともいえる「貞観政要」には、こうした彼の姿勢や日々の苦闘によって培われた、生きた知恵が豊富に盛り込まれているのです。

ベンチャー系生命保険会社の創業者・出口治明さんは、「貞観政要」がビジネスや組織運営、生き方などにおける最良の「ケーススタディ」になると指摘します。この本を読めば、リーダーと部下の関係はどうあるべきか、理想のリーダーになるためには何をなすべきか、困難に直面したときどう振る舞えばよいのかを予行演習することができるというのです。出口さん自身、自ら企業を立ち上げ、軌道に乗せ、そして退職して有終の美を飾るまで、常にこの本に叱られ続けてきたといいます。

 番組では、出口治明さんを指南役に招き「貞観政要」をわかりやすく解説。様々な言葉を現代につなげて読み解きながら、そこに込められた【リーダー論】【組織論】【人材育成論】【生き方論】などを深く学んでいきます。

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第1回 優れたリーダーの条件

【放送時間】
2020年1月6日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2020年1月8日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2020年1月8日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
出口治明…立命館アジア太平洋大学学長。ライフネット生命創業者
【朗読とお芝居】
渡辺徹(俳優)、小松利昌(俳優)
【語り】
目黒泉

「世界最高のリーダー論」の一つともいわれる「貞観政要」。この著作では、リーダーの器はどう論じられているのか? 意外にも「何もしないのが理想のリーダーだ」と記されている。真のリーダーは、プライドや見栄などで自らの器をいっぱいにするのではなく、むしろそれらを上手に捨て器を空にすることで、部下の諫言に耳を傾け、新しい価値観を吸収し、自らを律することができるのだという。その上で、適材適所さえ心がけていきさえすれば、人も世も自然にそのリーダーに従うようになるという。第一回は、「貞観政要」の執筆背景や皇帝・李世民の人となりもつまびらかにしつつ、理想のリーダーのあり方を考えていく。

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第2回 判断の座標軸をもて

【放送時間】
2020年1月13日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2020年1月15日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2020年1月15日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
出口治明…立命館アジア太平洋大学学長。ライフネット生命創業者
【朗読とお芝居】
渡辺徹(俳優)、小松利昌(俳優)
【語り】
目黒泉

「判断をする上でいかにきちんとした基準をもてるか?」 これはリーダーの最も大切な条件の一つである。李世民は、「三つの鏡」のたとえを使って巧みにその判断基準を説いていく。「銅の鏡」は、部下が自然についてくる「いい表情」をしているか? 「歴史の鏡」は、過去の経験に照らして将来への備えができているか? 「人の鏡」は、部下たちの直言にきちんと耳を傾けているか? この三つが常に大切な座標軸になるという。さらに、短期的な利害ではなく、長期的に俯瞰してみる「時間軸」思考も大切だと説く。第二回は、人が生きていく上で、また組織運営の中で、どのような座標軸をもつことが大切かを考えていく。

名著、げすとこらむ。ゲスト講師:出口治明
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第3回 チームの力を鍛える

【放送時間】
2020年1月20日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2020年1月22日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2020年1月22日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
出口治明…立命館アジア太平洋大学学長。ライフネット生命創業者
【朗読とお芝居】
渡辺徹(俳優)、小松利昌(俳優)
【語り】
目黒泉

「チーム力をいかに鍛えるか?」 組織を軌道にのせ発展させていくための最も大事なポイントの一つである。チームの力を最大限に引き出すために何よりも大切なのは、「部下にまかせて待つこと」、そして「信用すること」。全てを自分でかかえこまず、部下を信用してまかせること。また、まかせた以上は途中で口を挟まず見守ること。そのときはじめて、部下やチームは最大限の力を発揮するという。またチームの各人が成長していくためには「適度な負荷」が必要だとも説かれる。第三回は、家族、会社、団体等々のチーム力を鍛えていくために必要な人材育成術について考えていく。

安部みちこのみちこ's EYE
アニメ職人たちの凄技アニメ職人たちの凄技
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第4回 組織をどう持続させるか

【放送時間】
2020年1月27日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2020年1月29日(水)午前5時30分~5時55分/Eテレ
2020年1月29日(水)午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
出口治明…立命館アジア太平洋大学学長。ライフネット生命創業者
【朗読とお芝居】
渡辺徹(俳優)、小松利昌(俳優)
【語り】
目黒泉

「創業」と「守成」ではどちらが大切かという李世民の問いに、重臣たちの意見が真っ二つに分かれる。「敵を打ち破る命がけの困難があるゆえに創業だ」という意見と「安定が油断を生み国を亡ぼすゆえに守成だ」という意見だ。双方の意見を評価しながらも、李世民は「今まさに安定期であるがゆえに守成こそおろそかにしないようにしよう」と呼びかける。難易度は同じだが人が陥りがちなのは「守成」の問題。そこで李世民やその重臣たちは「後継者選びの大切さ」「敵対勢力への寛容」など、組織が長期に持続するための要諦を具体的に説いていく。その上で人生の総仕上げを飾る「有終の美」の大切さも説かれる。第四回は、マネジメントの中でも最も難しいとされる、組織が長期的に持続・発展していくための条件や、人生の最終段階で有終の美を飾るにはどうすればよいかを考えていく。

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『貞観政要』 2020年1月
2019年12月25日発売
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こぼれ話。

真の教養とは?

出口治明さんと初めてお目にかかったのは、「別冊100分de名著 読書の学校」という書籍の企画で出口さんが桜修館中等教育学校で講義を行う……という話をお聞きしたことがきっかけでした。出口さんの著作は、『リーダーは歴史観をみがけ 時代を見とおす読書術』などを愛読しており、一度お話をお聞きしてみたかったので、これは大きなチャンスでした。講義前の短い時間にもかかわらず、快く、初対面の私のぶしつけな質問に答えていただいたのをよく覚えています。

このときの講義は「西遊記」について。題材から勝手に「中高生向けに物語の面白さを軽妙に伝える講義だろう」くらいに、失礼ながら高を括っていたのですが、とんでもない! 「西遊記」が生まれた背景から話が始まったのですが、いきなり地球的な規模の気候変動、文明史的なレベルでの諸民族の興亡などなど、想像を超える壮大で巨視的な話からスタートし、一気に魅了されました。しかも、十代の若者たちにも十分にわかるレベルにかみ砕きながら、やがてこの物語のエッセンスを「仲間と生きることの大切さ」「旅が自分たちにもたらす豊かさ」といった、この時期の若者たちの生き方に直接に響くような話題に巧みにつないでいく。その話術にひたすら圧倒されました。聴き終わったあとに、まだ取り上げる名著を決めていないにもかからず、「出口さんを100分de名著の講師にぜひ迎えたい」という思いに駆り立てられたのです。

その後、二度にわたって、出口さんが学長をされている立命館アジア太平洋大学も訪ねました。驚かされたのは、私のほうでセレクトしたいくつかの歴史書の候補に対して、「何でもできますので、一番おやりになりたいものにお決めください」と笑顔でおっしゃられたこと。論点案も即座にその場で出されます。その教養の幅広さには舌を巻きましたが、私の方は、かえって迷い始めました。「どれでもできるとおっしゃられるが、今、出口さんに語ってもらうのに一番いい名著は何だろう」。出口さんの著作やインタビュー記事をもう一度洗いざらい読み直してみようと決意し、かなりの数を読み漁りました。

そこに繰り返し出てくる一冊の本がありました。今回取り上げた「貞観政要」です。名前だけは知ってはいたものの、恥ずかしながら読んだこともないし、内容も全く知りませんでした。気になったのは、出口さんが「私はこの本に今も叱られ続けています」とおっしゃっていた一言。ベンチャー系生命保険会社を創業し、見事に軌道に乗せた経営者が「今も叱られ続けている?」 いったいどんな書物なのだろうと興味を惹かれました。

最初に読んだのは抄訳版だったのですが、出口さんがおっしゃる意味がよくわかりました。こんな古い時代に、今にも通じるようなリーダー論、組織論が展開されている。もちろんそのままではわかりくいところも多々あるが、出口さんに解説してもらえば、企業で働く人、政界や官界で働く人、いやそればかりではなく、地域のコミュニティや家族の場でも生かされる豊かな知恵を、現代人にも応用できる形で読み解いていただけるのではないか? そんな直観が脳裏をよぎりました。番組をご覧いただいた皆さんは、出口さんの解説がまさに上記のように、現代人にとって知恵の宝庫になっていたと感じてくださっているのではないでしょうか?

私自身、出口さんに解説をいただいてから、実際にプロデューサーの仕事をする上で、すでにいくつかのアイデアを実際に使わせていただいています。それを一つひとつ紹介していくと紙面も足りないので、特に心に残ったポイントをご紹介したいと思います。

何といっても、太宗・李世民の言行録の中で印象的だったのは、自分の殺害を計画した人物さえ、その能力を認めて側近に取り立てたことでした。また、臣下たちの忌憚のない厳しい諫言にもよく耳を傾け、自らの政治方針を常にチェックし、改善を続けていくという李世民の真摯な姿勢も。更に、「真に偉大なリーダーは決して嘘をつかない。だから民衆に深い信頼を得ることができる」といったエピソードも出てきます。

組織をよくしようとあえて苦言をしてくれる部下を、敵対勢力とレッテル貼りして、仕事を奪って干してしまうリーダー、嘘の上に嘘を塗り重ねて消費者の信頼をいっぺんに失ってしまう企業の不祥事などなど、今の世の中には、「貞観政要」に描かれた李世民とは正反対の事例に数多く出くわします。その意味で、「貞観政要」に現代人が学ぶべきところは、本当にたくさんあるのではないでしょうか?

出口さんは、「貞観政要」がビジネスや組織運営、生き方などにおける最良の「ケーススタディ」になると指摘します。この本を読めば、リーダーと部下の関係はどうあるべきか、理想のリーダーになるためには何をなすべきか、困難に直面したときどう振る舞えばよいのかを予行演習することができるといいます。真の教養とは、ものをたくさん知っているということなどではなく、このように現場に活かしていくものではないでしょうか?

私も、出口さんに倣って、「貞観政要」を机上の片隅に常に置いておき、困難に直面したときにはまず開いてみようと、今、思っています。古典の教養の活かし方……それが今回私が出口さんから学んだ一番大切なことかもしれません。

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